宮守の神域   作:銀一色

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東京編です。


第206話 東京編 ⑨ 生への未練

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視点:神の視点

 

 

「うん……ああ、そうだ。……そうか、分かった。今から行こう」

 

「……どうだった?智葉」

 

 辻垣内智葉が電話を終え、携帯電話をしまうと小瀬川白望達に向かって「大丈夫らしい。相手側の組も良いそうだ」と報告する。それを聞いて微笑む小瀬川白望。しかし、メガン・ダヴァンとネリーはそれに対して少し疑問を抱いていた。

 

「いやシカシ……幾ら何でも10万ドルほどの大金、相手が賭けるなんて思えないのデスヨ……」

 

「そうだよ。ネリーのためにやってくれてるのは有難いけど、ネリーが相手だったら絶対にそんな賭けなんてしないよ」

 

 実際その通りで、いくら辻垣内智葉の頼みとはいえ、中学生の女の子相手に1000万も賭けることなどできるわけがない。だからこそ、二人は裏に何かがある。そう思ったのだ。とはいえ二人の言っている事はまさしく正論であり、的を得ている。が、

 

「構わない……どんな条件だろうと、やれるならやるまで……」

 

 小瀬川白望はそんな二人の不安を一蹴する。もともと、まともな条件でできるわけがないだろうと思っていた小瀬川白望にとって、そんな不安など瑣末なものであった。というか、ここでそんな事に怯えるような人間が、他人の借金を返すために自ら自分の破滅を賭けれるわけがないだろう。

 

「……だけど、これだけは約束してくれ、シロ」

 

 そんな小瀬川白望に、辻垣内智葉はある提案をしようとする。しかし、小瀬川白望はそんな辻垣内智葉の言葉を真っ向から否認した。辻垣内智葉が何かを言う前に、小瀬川白望は言いたい事が分かっていたのだろう。

 

「そんなもの、要らない。……例え智葉の頼み事だとしても、私には必要じゃない」

 

「だ、だけど……!」

 

 しかし辻垣内智葉とて、万が一の事が起こってしまえば親友、想い人を失ってしまう可能性だってあるのだ。このまま引き下がるわけにはいかないのだが、そんな辻垣内智葉の事を諭すように小瀬川白望は言う。

 

「負けても大丈夫……そんなの勝負じゃない。ただの茶番。無意味に死ぬ……それくらいでいい。そんな生への未練なんてぶら下げてちゃあ、それこそ真の意味で無意味。勝負を放棄し、自ら負けにいく行為……それに」

 

「……こんなチャンス滅多にない。……なのにそんな馬鹿馬鹿しい茶番で終わらせるなんて、私の心が満たされない……そんなの私が許さない……!」

 

「……っ!」

 

 

 思わず、辻垣内智葉は小瀬川白望から目を逸らしてしまう。小瀬川白望の気迫に気圧され、言葉に詰まってしまう。こうなった小瀬川白望は止められない。そう悟った辻垣内智葉は溜息をついて小瀬川白望に「分かった……わかったよ。シロに任せる」と言う。それを聞いた小瀬川白望は辻垣内智葉に向かって「ありがとう。智葉」と返した。

 

「……負けるなよ。シロ」

 

「常に勝つ気だよ。私は……」

 

 そうして四人は近くに黒服が運転してきた車の中に入り、辻垣内の組と他の組が賭博麻雀を行っているところに向かって出発している。辻垣内智葉とネリーとメガン・ダヴァンはソワソワして、気が気じゃない状態であったが、当の小瀬川白望は至って普通で、むしろリラックスしているようにも見えた。

 

(……いくら全責任を私が負うって言っても、場を提供してくれた智葉のところにも幾らか行くだろうし……そう考えれば2000万の賭け金……でも、それでも2000万か……)

 

 そして小瀬川白望は心の中で自分が勝負する麻雀の賭け金を簡単に計算する。確かに2000万という金額は正真正銘の大金だ。ちょっとやそこらで集まるような金の額ではない。しかし、どうしても師である赤木しげるが賭けていた金額と比較してしまう。赤木しげるが最初に麻雀を打った時でも賭け金は矢木圭次との10万勝負を除外すれば勝てば300万の勝負。それが最低額で、その後に倍プッシュによってその300万を全て賭け、600万を得た。

 その数日後の市川との闘いは800万を賭けた勝負で、数年後の浦部との闘いは3200万、鷲巣巌との勝負は赤木自身は金ではなく、血を賭けたが結果的に5億と隠し資金の1億、計6億を手に入れた。

 数字上だけ見れば浦部や鷲巣巌の相手はともかくとして、その前まではそうでもなさそうに見えるが、それはあくまでもその時代の価値での金額である。現在の貨幣価値に換算すれば大体当時の1円が現在の10円以上であるので、最初の勝負の300万も、実質3000万以上であるのだ。そう見れば、小瀬川白望が低いと思うのも仕方ないだろう。

 

(まあ、金額が全てじゃないし……っていうか、今時そんな8000万とか、3億2000万とか賭ける事なんてないだろうしな……)

 

(問題は金額じゃない……確かに緊張感という点では大事だけれど、私が楽しめればそんなのはどうでもいい……)

 

 そう、金額に関わらず"本当の勝負"を楽しむことができれば、小瀬川白望はそれでいいのだ。逆に金額が箆棒に高くとも、期待外れに終わるという可能性だってある。そういった点では、あまり当てにはならない。

 

「……着いたか」

 

 そう小瀬川白望が考えていると、辻垣内智葉がそう呟いた。気付いた時には既に車は停車しており、料亭らしきところの目の前にいた。小瀬川白望達は車から降りると、そこにいた黒服が四人に向かって話しかける。

 

「辻垣内のお嬢さんと、そのお友達ですね」

 

「ああ。そうだ。そっちの組長に合わせてくれ」

 

 辻垣内智葉が代表するようにその黒服に向かって言う。メガン・ダヴァンとネリーは相変わらず緊張して何も考えられなくなっているが、心に余裕がある小瀬川白望は、そんな辻垣内智葉と黒服を見てこう思ったそう。

 

(……どうして智葉は自分のところの黒服じゃないって分かったんだろう。確かにあの口振りから分かるかもしれないけど、智葉は言われる前から分かってたようだし……)

 

 半ばどうでもいい事を小瀬川白望は疑問に思いながらも、小瀬川白望はその黒服の後をいの一番についていく。それを追うように、他の三人はついていった。

 

 

 

「ここが、組長のいる部屋です」

 

 そう黒服が言うと、小瀬川白望は三人に向かって「ここからは私だけで行く。三人は待ってて」と言った。三人が何か返事をする前に、小瀬川白望は部屋の中の入っていった。するとそこにはいかにも和室、というような部屋であった。その部屋の中央には、組長と思われる人が座っていた。

 

「……君かね。後ろ盾を放棄して、単身だけで大金を賭けたいっていう少女は」

 

「……どうも」

 

 小瀬川白望はそう言って、テーブルを境にするように座布団の上に座る。組長はそんな小瀬川白望を、まじまじと見ていた。

 

「……幾ら賭けたい」

 

 そして組長が小瀬川白望に話の核を聞いてくる。小瀬川白望はそれを聞いて、「……2、ってとこかな」と答える。それを聞いた組長は少しほど笑って小瀬川白望にこう言った。

 

「成る程……2000万ね。ワシらは構わないよ。辻垣内のとこのお嬢さんから頼まれちゃ降りるわけにもいかない。この前の勝負で余分な金が浮いているからな。……だが、君はどうじゃ?」

 

「……」

 

「そりゃあいくら辻垣内のとこのお嬢さんのお友達だと言っても、2000万の賭けを無かったことにはできない……無論、代償を払って貰う」

 

「……当然。いちいち聞かれるのもダルいから、聞かないで貰って結構」

 

「ハハハ!まあ、後ろ盾を放棄した人間が、そんな事に怖気付くわけがなかったな!失敬失敬……」

 

「……じゃあ、交渉成立。ですね」

 

 そう言って小瀬川白望は立ち上がる。そんな小瀬川白望を見て、組長は忠告するようにこう言った。

 

「だが、お前……本気で死ぬぞ?」

 

「……」

 

「ああは言ったが、こっちもただ2000万差し出すわけにもいかなくてな。最初の辻垣内のとこのお嬢さんの要求からして、ただ者じゃないのは分かった。……だから、ワシは負けた時の代償を払わずに済ませる代わりに、利益も一切与えないという条件である代打ちを呼んでおいた」

 

「……脅し、ですか?」

 

「まあ、どうとでも受け取るがいい。しかし……後悔するなよ」

 

「しませんよ……そっくりそのままお返しします」

 

 そう言って小瀬川白望は部屋から出て行く。そして部屋に残った組長は煙草を吸いながら、こんな事を考えていた。

 

(全く……"あの子"もよく代打ちを頼んでくれたものだ。いくら祖父がワシのとこと知り合いで、代償無し、利益無しの条件、それに加えて情報漏洩は一切心配ないとはいえ……)

 

 

(……表の世界でプロ入りが注目視されている人間がこんな事に首を突っ込んでくれるとはね……)

 




次回も東京編。
代打ちに呼ばれた方はあの方です。
原作ではトッププロの人ですが、こんな事をして大丈夫なのか……?
まあ、色んな噂が飛び交う人ですし、大丈夫……かも?

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