ネリー!
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視点:神の視点
「よし、準備できたか?シロ、メグ」
辻垣内智葉が小瀬川白望とメガン・ダヴァンに向かって言う。それに対して二人は頷くと、辻垣内智葉は玄関のドアを開けた。これから三人は、またも麻雀を打ちに行くために出発する。しかし、今回は小瀬川白望の提案によって雀荘で打つということになった。
その提案に二人は断るわけもなく、それに賛成し、現在に至る。辻垣内智葉の先導によって、小瀬川白望とメガン・ダヴァンの二人は近くに存在する雀荘にやってきた。
「ん……ここって」
中に入った小瀬川白望は、あることに気づいたようで、辻垣内智葉の方を向いてそう言った。それを聞いた辻垣内智葉は、どこか顔を赤らめて「……初めて、私がシロと打った雀荘だ」と呟いた。メガン・ダヴァンはそんな辻垣内智葉を見て若干ニヤニヤしながら「ホウ……ここがでスカ」と言って雀荘を見渡す。
「まあ……昔の思い出に浸るのもそこまでにして、メグ、智葉。……打とうか」
そして小瀬川白望が雀卓を前にして椅子に座り、辻垣内智葉とメガン・ダヴァンに向かって言う。辻垣内智葉は「そうだな……やるか」と言って座り、メガン・ダヴァンは「リベンジでスヨ!」と意気込んだ。
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視点:神の視点
「メグ、大丈夫か?」
三人が麻雀を打っているうちに日はすっかり暮れてしまったようで、ほとんど夜道と言っても過言ではない道を三人は歩いていた。
メガン・ダヴァンはクタクタに疲れきったようで、フラフラとした足取りで小瀬川白望と辻垣内智葉についていく。
「だ、大丈夫ですヨ……ただ……」
「ただ?」
「もう……地獄待ちはカンベンでス……」
メガン・ダヴァンは虚ろな目でそんなことを呟く。なにが起こったのかといえば、ただ単純に小瀬川白望が地獄待ちやら単騎待ちをメガン・ダヴァンに直撃させまくったのだが、それがどうやらメガン・ダヴァンにはトラウマレベルで心に刻まれてしまったようだ。
「大丈夫……メグ。裸単騎じゃないだけまだマシな方だよ」
小瀬川白望はそんなメガン・ダヴァンに向かってもはや励ましになっていない励ましの言葉をかける。確かに、小瀬川白望は赤木しげるという更に格上と闘っているためまだマシな方だと思えるかもしれないが、メガン・ダヴァンのような常人からしてみればあれだけでもトラウマになってもおかしくなかったほどであった。というか実際にトラウマになっている。
「シロさんより上がいる……恐ろしいデス。考えたくもありまセン……」
メガン・ダヴァンがそう言いながら周りを見ていると、路地裏で蹲っている女の子を見つける。暗い夜道ということもあって識別することは難しいはずなのだが、視力には自信があるのか、メガン・ダヴァンは確信して路地裏の方へと歩く。それに気付いた小瀬川白望と辻垣内智葉は、「……メグ?」と言いながらメガン・ダヴァンの後をついて行った。
「……!!」
「アッ……!」
そしてメガン・ダヴァンはその女の子のところへ行こうとしたが、相手にメガン・ダヴァンの存在を確認されてしまい、反対側に向かって走り出してしまった。メガン・ダヴァンも相手が走り出したと同時に走り出し、相手のことを追いかける。
(……こんな時間帯にあんな路地裏で蹲っているなんテ……ワケアリのようですネ……)
一見、家出をしている女の子のようにも見えるが、メガン・ダヴァンはそれはないと確信していた。あの逃げ方といい、何者から隠れるようにして蹲っていたあの感じからしてみても、何かがある。そうメガン・ダヴァンは確信していたのだ。そして何よりも、その子が日本人ではなかったからである。
(何があったのかは分かりまセンケド……話を聞くだけでも助けにはナルんじゃないでしょうカ……)
そう思いながら、メガン・ダヴァンはその女の子の後をついていく。最初こそその女の子との距離はあったものの、次第にその距離も縮まっていき、最終的にメガン・ダヴァンがその女の子のことを捕まえた。
「……!」
その女の子はメガン・ダヴァンの言っていた通り日本人ではなく、メガン・ダヴァンが彼女のことを捕まえると、彼女はメガン・ダヴァンでも分からないような言語で抵抗を始める。
(……英語、ではありませんネ。ロシア語……でもナイ?)
「ワカリマシタ。取り敢えず、落ち着いて下サイ。ワタシはアナタには何もしまセン」
メガン・ダヴァンは取り敢えず日本語で話しかけてみると、彼女はびっくりとした表情で「……本当?」と日本語でメガン・ダヴァンに向かって言う。
「オヤ、その感じたとワタシより日本語が流暢デスネ」
対するメガン・ダヴァンも彼女が日本語で話せて、尚且つ自分よりも流暢に話せることに驚きながらも、彼女のことを落ち着かせる。そしてそこへメガン・ダヴァンのことを追いかけてきた小瀬川白望と辻垣内智葉も合流してきた。
「なんだ、メグ。お前の知り合いか?」
「イイエ……路地裏のところで蹲っていたモノでしたから、ちょっとワケアリのようだと思ったノデ……」
それを聞いた辻垣内智葉は「そうか……」とつぶやくと、女の子に向かって「……お前、日本語は話せるか?」と聞いた。すると彼女は「話せるよ……オトナから日本語を覚えさせられた」と言う。辻垣内智葉は「成る程な……」と言って、何かを悟る。
「……何があって日本まできた。金の問題か?……よければ、詳しく話してくれないか」
そう言われた彼女は少し言い淀んだが、辻垣内智葉に向かって「その通りだよ……故郷で借金が嵩んで、お金が足りないからこうして日本に出稼ぎに来たんだけど……ネリーの歳じゃあまともに相手してくれる所もないし……」と言う。辻垣内智葉は「借金か……因みに、どれくらいだ?」と彼女に聞く。
「20万ラリだよ」
「……智葉、どのくらい?」
小瀬川白望が辻垣内智葉に向かって聞くと、「確か1ラリが50円程度だから……およそ1000万円ってとこだな……」と返す。小瀬川白望はそれを聞いて何かを考えているような仕草を取っていると、小瀬川白望は辻垣内智葉に向かってこんなことを聞いた。
「智葉。今日の夜から、智葉の家で何か賭博とかある?」
「賭博……確かウチの傘下が今日の夜に他の組と賭博麻雀をやるそうだが……ってまさか……」
「私がやろう。1000万……この子の代わりに稼いであげるよ」
「ほ、ホンキですか!?シロサン!?賭博デスヨ!?」
メガン・ダヴァンと辻垣内智葉が驚愕しながら小瀬川白望に向かって問い掛けるが、小瀬川白望は「大丈夫……もし負けたら私が全責任を負うから、智葉は心配しなくてもいいよ」と辻垣内智葉に言うが、辻垣内智葉は「いや、そういう問題じゃなくてな……!」と返す。
「……なんで、ネリーのためにそんな事ができるの?」
するとネリーと自称する女の子は小瀬川白望に向かって、そんな事を聞いた。小瀬川白望は眉一つ動かさずに、ネリーに向かってこう言った。
「簡単な事だよ。私がやろう、って思ったから……ただそれだけ」
「デモ、もしシロサンが負けてしまったら、その時ハ……!」
「……構わないよ、メグ」
「……エ?」
「その時はその時……指や腕だろうと、心臓だろうと……いくらでも切り出すよ」
「……死ぬ時は死ぬ時。ただ死ねばいい……」
この時ネリーには、目の前にいる小瀬川白望が自分を救ってくれるヒーローではなく、狂気に取り憑かれた狂人にしか見えなかったという。しかし、それも仕方のない事だろう。そんな事を平然と言える人間など、いるわけがないからだ。そんな小瀬川白望を辻垣内智葉が持つ、先ほど走る時に小瀬川白望に渡された御守りの中から赤木しげるはニヤリと笑ってみていた。
次回も東京編です。
因みに、ラリというのは実際にジョージア国で使われている通貨で、厳密には1ラリ=58円(wikipediaより)くらいなのですが、ここでは50円という設定にしました。