宮守の神域   作:銀一色

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東京編です。
麻雀回は前回で終わりでした……


第204話 東京編 ⑦ 意味

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視点:小瀬川白望

 

 

「いやあ……小瀬川サン、強すぎデス……」

 

 

 あれからかなりの回数半荘をして、心身ともに疲れ切っている様子のダヴァンさんは卓に突っ伏しながら私に向かってそんな事を言ってくる。私は「ダヴァンさんだって日本で十分通用するくらいの強さはあるよ……」と返したが、ダヴァンさんは立ち上がって「ノーデス!世の中には小瀬川サンとまではいかずとも、ワタシより強い雀士は沢山いまス!」と私に言った。

 

(まあ……ダヴァンさんも確かに強かったけど、それ以上に凄かったのが……)

 

「メグ、そろそろ片付けるからそこをどけてくれ」

 

「リョーカイデス」

 

(智葉……全国大会の時からかなり強くなってるし、読みも鋭くなってる……明らかに二年前より……)

 

 私はそんな智葉を見ていると、視線に気付いたのか智葉はびっくりして「シロ……どうした?」と私に向かって言ってくる。面と向かって「強くなったね」というのもなんかアレだし、まあ心の中に留めて置いたままでいいかな……そんな事を心の中で考えながら、「いや、なんでもないよ」と返す。

 

「……そうか。まあ、私はここの部屋を掃除するから、二人は別室に移動してくれ。鈴木、頼んだぞ」

 

 智葉に指令を出された鈴木さんは、「了解です。お嬢」と言って私とダヴァンさんに「では、ついてきて下さい」と言って廊下へ出る。智葉の家に来るのは初めてというわけではないが、未だにこの家の全貌は知らないため、ありがたい配慮であった。そして私とダヴァンさんが鈴木さんの後について行っている途中、ダヴァンさんは私にこんな事を聞いてきた。

 

「小瀬川サンは……何のために打っているんでスカ?」

 

「……どうしたの、突然」

 

「イヤア……どうしたらそんなに強くなれるのカ、知りたかったノデ……」

 

「……目標にしている人がいるんだ」

 

「ホウ、あれほどのウデマエが有りながらも、まだ上がいるというのでスカ……」

 

「私はその人を超えるために麻雀をしてるけど……あの人が何で麻雀を打ってるか、知りたい?」

 

 それを聞いたダヴァンさんは、「是非とも聞きたいデス」と言って右手を上げる。実際、私もなんで赤木さんが麻雀を打ってるのか詳しく聞いたことはなかったため私の想像になるが、まあ間違ってはいないだろう。

 

「あの人にとって……麻雀、というか博打は生きるという事そのものだった」

 

「それは……ナゼ?」

 

「何でだろうね……なんでかは分からないけど、あの人は自分の命を賭けて闘う事を強く求めていた。周りの人から、死にたがってたって思われても仕方のないほど……博打を楽しんでいた。俗に言うギャンブラーってやつだね。……多分、潔いんだよ。誰よりも」

 

「死にたいっていうノニ、潔いんですカ?」

 

「うん……誰よりも潔いから、簡単に自分の命を賭けられるんだよ……死人が何も欲しがらないように、あの人もまた、何も欲しがらない……たとえ自分の命だとしても、欲しがる意味はない……」

 

「ただ……あの人が求めていたのは、自分と同格の人間と闘う事……純粋な命の削り合い、それだけだった……結局、それが叶ったのかは分からないけどね」

 

「そうでしタカ……デモ、あまりにも偏った話ですネ……ワタシは死んでもいい、なんて事は思いもしませんでシタ」

 

 

「……まあ、あの人は誰にも理解されなかった人だからね。仕方ない……だけど、私は理解する。してみせるよ。あの人を……」

 

「互いに頑張りまショウ。()()さん」

 

 

「だね……頑張ろう。メグ」

 

 そうして私とメグは手を握り合い、鈴木さんについていく。その時の鈴木さんの表情がかなり焦っていたような気もしたが、まあ気のせいであろう。多分。

 

(……そういえば、赤木さんは初めて麻雀を打ったのが13歳の時って聞いたけど……その前は何をやってたんだろう……親とか、いなかったのかな……)

 

 そして私はメグにそんな事を言ったからか、ふと赤木さんの過去について気になってきていた。赤木さんの生い立ち……赤木さんからは聞かされたことはなかったけど、いったいどういった幼少期を過ごせばあんな風になるんだろうか……

 

(きっと親も、あんな感じなのかな……)

 

 赤木さん曰く「友はいた」とは言っていたが、家族がいるとかそういうのは一度も聞いたことがなかった。聞きたい気持ちはあるが、そんなに昔の事なんてアルツハイマーでなくとも忘れてしまっているだろう。もし覚えていたとしても、多分教えてくれることはないだろうが。

 

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視点:小瀬川白望

 

 

「……随分と仲良くなったようじゃないか?シロ、メグ」

 

 私とメグが鈴木さんに連れてこられた部屋で談笑していると、智葉がそんな事を私とメグに向かっていってきた。

 

「イヤア……シロさんと話していると、ワタシも井の中の蛙であるという事を知らされましたよ……」

 

「まあ、なんとなくそんな感じはしていたよ……」

 

 智葉が溜息をつきながら、部屋に置いてあるソファーに腰掛ける。何のことだかは分からなかったが、まあ触れないでおこう。

 

「……そうして智葉が張り詰めたような表情をしてるとさ、初めてあった時の事を思い出すよ。最初に私に向かって言ったこと、覚えてる?」

 

 そしてふと今の智葉の表情が私が初めて雀荘で智葉と会った時の表情に似ていたため、私がそんな事を言ってみると、智葉は吹き出して「む、昔の事は関係ないだろう!」と私に向かって言う。メグはそのことに関してとても気になったようで、「シロさん、ワタシもサトハの小さい頃の話、聞きたいデス」と私に言う。

 

「二年以上前の話なんだけどね……」

 

「やめろー!!」

 

 智葉は顔を真っ赤にしながら私のことを抑えようとする。が、洗いざらい全てメグに伝えたため、智葉の健闘は虚しく散った。

 

「ホウ……サトハにもトゲトゲしていた時期があったんですネ……」

 

「……うるさい」

 

 若干拗ねてしまった智葉を見ながら、私は少し微笑む。そして「拗ねてる智葉も可愛いよね」と言うと、智葉はさらに顔を赤くしてフリーズしてしまった。




次回も東京編。
ダヴァンさんの次に攻略するのはお金にうるさい人になる予定です。

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