宮守の神域   作:銀一色

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今回から東京編です。


第198話 東京編 ① メグ

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視点:神の視点

 

 

「メグ。いい加減それを食うのを止めたらどうだ?」

 

 辻垣内智葉は自身の部屋でカップラーメンを啜る高身長のアメリカ人……メグことメガン・ダヴァンにそう言った。メガン・ダヴァンは麺を啜りながら「いやあシカシ……これは止められないでスヨ。ニッポンジンの最先端技術の結晶デス」と言う。いくらアメリカ人とはいえ、礼儀がなっていないメガン・ダヴァンを辻垣内智葉は呆れたような表情で「まあ……出会えてよかったな。たかがカップラーメンだけども」と言う。

 そう言われたメガン・ダヴァンは麺を食べ終え、スープをグイッと飲み物感覚で飲み干すと、立ち上がって辻垣内智葉に向かってこう言った。

 

「……サトハのお陰でスヨ。初めてのニッポン、しかも一人旅で道に迷っているという絶体絶命のジョウキョウのワタシを助けてくれて、その上このカップラーメンという世紀の大発明とワタシを引き合わせてくれたのデスカラ。感謝しきれまセン」

 

「そうか……それは良かったな」

 

 辻垣内智葉は微笑みながら、近くのソファーへと凭れこむ。そして辻垣内智葉は、ニヤけながらメガン・ダヴァンに向かってこう言った。

 

「しかし……そうは言うが、メグ。お前が私と麻雀をする前はあんな大口を叩いていたじゃないか。『日本人に負ける事はない』って」

 

「……それは仕方ないデス。サトハは規格外過ぎるんでスヨ!まさかワタシのデュエル(決闘)を破ってくるなンテ……」

 

「ああ、アレの事か。なかなか楽しめたぞ」

 

「デモ……」

 

「でも?」

 

 

「まだワタシは智葉以外のニッポンジンに負ける気はないでスヨ?これでも、アメリカではかなりの打ち手ですからネ!!」

 

 メガン・ダヴァンは胸を張ってそう言う。その口ぶりから見るに、メガン・ダヴァンは相当な打ち手であるという事が伺える。しかし、辻垣内智葉はそんなメガン・ダヴァンを見てある人物を思い浮かべていた。己の想い人でありながら、自身の絶対的壁でもある小瀬川白望の事を。

 

(規格外……か。シロの事を指す言葉と言っても過言ではないな)

 

 

 そう、メガン・ダヴァンは辻垣内智葉の事を規格外と評したが、辻垣内智葉にとっての規格外は小瀬川白望であった。確かに、辻垣内智葉自身宮永照や、愛宕洋榎など何年に一度の人材とも言っても差し支えない強敵と闘ってきたが、その中でも小瀬川白望が群を抜いて異彩、規格外であるのだ。

 そしてそんな小瀬川白望だが、明日からとうとう辻垣内智葉のいる東京へとやってくる。今まで辻垣内智葉は全国各地へと飛び回って、その度に新たなライバルが増えていくショックで悩まされていたが、今回は違う。小瀬川白望を送る側ではなく、訪問される側となったのだ。冬休みが始まる前から計画は立てていたのだが、その時点から辻垣内智葉は明日の事が楽しみで、そして嬉しくてしょうがなかったのだ。やっと、やっと小瀬川白望が自分の元へ来てくれる。それが辻垣内智葉のあらゆるものに対してのモチベーションへと変換されていた。

 そんな事を考えていると、メガン・ダヴァンが不審に思ったのか「……考え事でスカ?」と辻垣内智葉に向かって言う。不意を突かれた辻垣内智葉は少しびっくりしながらも、「ま、まあな……」と返答する。そして辻垣内智葉はメガン・ダヴァンに「メグは明後日に帰るんだっけか?」と質問する。

 

「イエス。まあ高校になってニッポンに留学する事になるかもしれないという事での訪日ですからネ。下見程度なのデ、そんなに長居はしまセン」

 

「そうか……明日は何か用事とかあるのか?」

 

「下見とはいっても、ただニッポンに来ただけなノデそんなプランは存在しないデス。それが何カ?」

 

「いや……お前に合わせたい奴がいてな」

 

「ホウ……もしかして雀士ですか?」

 

 メガン・ダヴァンは目をギラつかせて辻垣内智葉に向かってそう言う。その目は獲物を狩る時の獣のような獰猛な目つきをしていた。が、辻垣内智葉は内心で(明日はその余裕がいつまで持つか……見ものだな)と思ったが、あえて口には出さずに「まあな」と答える。

 

「……因みにそのオトモダチは、サトハと比べてどれ位ですカネ?」

 

 メガン・ダヴァンにそう聞かれた辻垣内智葉だが、真実を知らせるよりも、あえてここは隠したほうが面白くなりそうだ。そんな気がした辻垣内智葉は「さあな……最後に打ったのが随分と前の話だからな。今は知らん。……だが、見縊るなよ?」と言葉を濁してメガン・ダヴァンに言う。

 

「まあ……全力で叩き潰すだけデス。あらためてサトハにワタシの強さを教えてあげまスヨ」

 

「そうか……それは楽しみだ」

 

 

(……色々な意味でな。メグには悪いが、全力で叩き潰されてもらおう。日本人が甘く見られているのは私にとっても屈辱だしな)

 

 辻垣内智葉は内心でそう思いながら、携帯電話を取り出して小瀬川白望にメールを送る。その内容は、明日小瀬川白望にボコボコにしてほしい奴がいるという内容であった。それを文字にしている間、辻垣内智葉はずっと気になっていた事をメガン・ダヴァンに聞く。

 

 

「そういえば」

 

「どうかしましタ?」

 

「アメリカでも日本人が学校で英語を学ぶように、学校で日本語を学ぶ授業とか存在するのか?初の日本にしては日本語を流暢に話すものだから気になっていたんだ」

 

「学校……スクールで日本語を学べるようになるのは高校、大学からデスヨ。ジュニアハイスクールでは学びませンネ……地域によりけりなのかもしれませンガ」

 

「となると、独学なのか?」

 

「答えはノーでスネ。私の古くからの友人にニッポンで小さい頃から生活していた人がいて、それで習いまシタ」

 

「それにしてもかなり上手い日本語だな……日常生活では何の支障もないんじゃないか?」

 

 辻垣内智葉にそう言われたメガン・ダヴァンは照れながら「褒めてもらえるのは素直に嬉しいデスネ」と言う。そしてそれと同時に、辻垣内智葉は小瀬川白望へメールを送り終えた。

 

「さあ、明日も早い事だし、そろそろ寝るとするか」

 

 そして携帯電話をテーブルの上へと置くと、メガン・ダヴァンに向かってそう言った。それを聞いたメガン・ダヴァンは「早寝は三文の得と言いますシネ」と言う。辻垣内智葉はメガン・ダヴァンの間違った諺にずっこけながらも、メガン・ダヴァンの間違った諺を訂正する。

 

 

「……それは早起きだ」

 

 

「ありゃ、そうでしたっケ?それはソーリーです」

 

 

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「……『ボコボコにしてほしい奴がいる』。ねえ」

 

 

 中学二年生の冬休み、今度は関東を中心に回っていき、現在は千葉にいた小瀬川白望は先ほど届いた辻垣内智葉のメールを見ながらそう呟く。赤木しげるが【ククク……面白そうじゃねえか。あのヤーさんのお嬢さんが言うほどだから、お前もそれなりにに楽しめるんじゃねえか?】と小瀬川白望に言う。

 

「まあ……そう言われなくても、全力で潰すんだけどね。『分かったよ。言われなくても本気でやる』……っと」

 

 小瀬川白望は指先で携帯電話を操作しながら、文字に変換する。そうして返信が完了すると、携帯電話をポケットの中に入れて小瀬川白望は窓から見える夜景を見ながらこんな事を思った。

 

(……東京かあ。九州とか大阪とか、遠くのところに行く時経由するために訪れた事を除くと……最後に来たのはいつ以来なのかなあ……)

 

 思い返せば、全ては東京から始まったと言っても過言ではないかもしれない。赤木しげるに出会うきっかけになった赤木しげるの墓を見つけたのも東京。小瀬川白望が麻雀の修行のために初めて行った土地も東京。今や小瀬川白望の事を全面的にサポートしてくれる辻垣内智葉と出会ったのも東京。そして、全国大会があり、優勝したのも東京。

 そんな全ての始まりである地、東京に明日小瀬川白望は行く事になる。初めて赤木と出会った頃から、辻垣内智葉や宮永照と出会った頃から、全国大会の頃から……果たして自分はどれほど変わったのか。そんな事を考えながら、眠りにつく小瀬川白望であった。

 




次回も東京編。
ダヴァンさん逃げて、超逃げて(届かぬ思い)

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