宮守の神域   作:銀一色

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鹿児島編ラストです。
昨日は休載申し訳ありませんでした。
言い方が大袈裟に思われます(というか実際言われた)が、昨日は完全なる私のミスによって招いたことなので、謝罪というよりはその戒めとでも思って下さい。
一応毎日投稿と謳っているので、そこら辺はしっかりしたいですね。


第197話 鹿児島編最終回 さらば霧島神境

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視点:小瀬川白望

 

 

「うーん……ふぁ〜あ」

 

 目が醒めると、目の前には見知らぬ天井。一瞬ドキっとしたが、すぐに現状を理解して落ち着く。それにしても、昨日あれだけの事があったからかよく寝れた気がする。思わず昨日あった事を忘れて起きた瞬間にちょっとびっくりしてしまうほど、ぐっすりと眠る事ができた。

 

(……それはいいんだけど)

 

 

 私は視線を天井から部屋の四隅の方へと落とし、辺りを見渡す。奥の方の布団には初美と同じくらいの身長の女の子が二人寝ていた。そこまではまあいい。しかし、そこから視線をどんどん自分の手元へと寄せていくが、他の布団には誰も寝ていなかった。まさかと思って一気に視線を自分の周りへと落とすと、やはりと言っていいのかどうなのかは分からないが、皆が私の周りを取り囲むようにして固まっていた。別にそのこと自体には何の問題もない。しかし、こうやって密集されると夏ということもあってか、かなり暑苦しくなる。寝ている内は別に気にすることはなかったのだが、起きてからが暑さ地獄であった。

 皆がまだ寝ているということから、まだ起きる時間帯でもないのだろう。至福の二度寝に入りたいのは山々なのだが、いかんせん暑苦しくて二度寝できるような状態ではない。ならばここから出ればいいのだろうが、ここの構造を全く理解していない上に私は客という立場上、ここをうろうろ歩き回るわけにもいかない。どうしようもできない上に暑い、いつぞやのサウナを思い出すような暑苦しさであった。

 

(あっつ……)

 

 もはや二度寝とかそういうの関係なく、ただこの暑い状況をどうにかしたいと思った私は、取り敢えず定番の手で扇いで風を送ってみる。が、それでどうにかなるわけでもなく、其の場凌ぎにすらなりやしない。できる事なら服を脱いで涼しくなりたいが、生憎私は巫女服しか身につけていないため、実質私が今できる最も涼しい恰好であった。

 いくら皆が寝ているとはいえ、流石にこの状況で裸になる事もできず、結局はただただ皆が起きてくるのを待つのみとなった私は半ば自暴自棄になりながらも目を閉じる。しかし、体に伝わってくる熱気が私を夢へと導くわけがない。

 結局、皆が起きたのは朝の六時半。私がいつから起きていたのかは分からないが、少なくとも三十分以上は暑さに耐えながら起きていただろう。我ながら折角ぐっすりに寝れたというのに、これでプラマイゼロどころかマイナスになってしまった。

 

 

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視点:小瀬川白望

 

 

「……やっぱり、行くのね」

 

 朝食をいただいて、巫女服から普段着へと戻った私は部屋の中で自分の荷物を整理していた。そしてそのところに霞がやってきてそう言う。

 ……確かに、此処にもっといたいという気持ちが無いわけではない。いや、無いどころか寧ろあり過ぎて困る。なんだかんだ言いつつも、私も素直に言うともっといたいという気持ちはある。

 しかし、いつまでも此処にいるわけにもいかない。私には帰るべき場所がある。故に、私はここで首を縦に振り、肯定するしかなかった。

 

「……うん」

 

「また、来てくれる……いや、会えるわよね?」

 

 そう霞は悲しそうな表情をして私に向かって言う。岩手と鹿児島。佐賀にいる哩と姫子のように、また会うというのはかなり難しい。しかし、私はそれでも確信を持ってこう言った。

 

「……もちろん」

 

 そう霞言うと、タイミングよく巴が部屋にやってきて、「じゃあ、そろそろ帰りますよ」と言ってきた。私はゆっくり頷くと、霞と一緒に外へ出た。そしていよいよこの霧島神境ともお別れかといったところ、霞が私に向かってふとこんな事を言ってきた。

 

「……今度あなたが来た時には、十曽ちゃんと明星の事も紹介してあげるわ」

 

「ん……ああ、あの子たちね……」

 

「それと……」

 

 そう言って霞は私にメモ用紙を握らせる。何かと思って霞の方を見ると、霞は微笑みながら「これ……ちゃんと寄越しなさいね?」と言う。私が握らせられたメモ用紙の中身を見ると、そこにはアルファベットの羅列が五行ほどあった。おそらく、霞含めた五人のメールアドレスだろう。

 

「ありがとう……」

 

 私はそう言いながら霞と一緒に巴について行ってると、いつのまにか霧島神境ではなく、昨日私が入った山の中となっていた。

 いや、厳密に言えばそこが霧島神境ではないというのは私には分からないが、雰囲気的に霧島神境ではなく、鹿児島に戻ってきたという感じがした。

 そうして山を降り、見覚えのある所へ出ると、霞が私に向かって「とうとう、お別れね」と言った。

 

「二日にも満たないけど、楽しかったよ」

 

「そう言ってくれると嬉しいわ」

 

 そう言葉を交わし、私は霞と巴に背を向けて歩き始めた。

 

 

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視点:神の視点

 

 

「……」

 

 自分に背を向けて歩き始める小瀬川白望を見ながら、石戸霞は狩宿巴に向かってこんな事を呟いた。

 

「もし……もしもよ、シロが岩手の山で迷い込んで偶然霧島神境に来るなんてこと、あり得るかしら?」

 

「……確かに白望さんは私達よりも異常な存在ですけど、流石に白望さんだけでは無理でしょう」

 

「そう……よね」

 

 狩宿巴は石戸霞が何を思っているのかを心の中で察しながら、持ってきていたハンカチを石戸霞へと渡す。石戸霞はそれを受け取ると、小さな声で「……ありがとう」と言ってハンカチを使う。

 

(……全く、本当は私のために持ってきたものなんですけどね)

 

 

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「シロ……!」

 

 九州から戻ってきた小瀬川白望を待ち受けていた辻垣内智葉は、小瀬川白望の事を視認すると真っ先に飛んでくるようにして小瀬川白望の所へやってきた。

 

「何もされなかったか?」

 

「……大丈夫」

 

「本当か?なんなら私が叩っ斬ってくるぞ?」

 

「大丈夫だから……」

 

 長旅から帰ってきてクタクタの状態の小瀬川白望に詰め寄る辻垣内智葉を見て、小瀬川白望は(心配してくれるのは嬉しいんだけど……これはこれでダルいなあ)と思いながら辻垣内智葉の質問に答えていた。




鹿児島編は終わりで、次回から2年の冬編です。

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