恒例のあれです。
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視点:小瀬川白望
「……やっぱり巫女服を着ても美しいわね」
「そりゃあどうも……」
巫女姿となった私は霞にそんな事を言われるが、正直嬉しいとかそういう感じでは無かった。とりあえず私はそれを受け流し、今自分はどうしてこうなったのかを頭の中で一生懸命考えていた。もはや一時期私を味覚的に半殺しにされかけた憎きつぶつぶドリアンジュースなどとうの昔に忘れていた。もしかしたら、そこが私がこうなった原因だったのかもしれない……
まあ、そのお陰で私も神様だの『絶一門』だの『裏鬼門』だの、面白いものと戦えたのだから一概にこの状況が全て悪いとは言えないのだが、今の状況がとてつもなくダルいのはどう足掻いても変える事はできない。高い代償だったなあと私は自分の中で勝手に損得勘定をしていると、後ろの襖が開いた音が聞こえた。私は振り返って後ろの方を見ると、そこにはいかにも眠そうな表情をした巴と、半分寝ている春がいた。そして巴は私がいることを確認すると、少し慌てながらも私に向かってこう言った。
「な、なんで巫女服を着ているんですか!?」
「ああ、それは私が着させたのよ。あとそれと今日、白望ちゃん此処に泊まっていく事になったから。別に構わないわよね?」
「それは良いですけど……どうしてそんな急に……」
巴は半ば呆れたような表情で霞に言う。そして私の方を向くと、申し訳なさそうに「ウチの霞さんが突然すみませんね……」と言った。その言い方を見ると、恐らく私が霞に巻き込まれたというのを察してくれたのだろう。この人も色々と苦労人なんだなあと此方も色々と察し、軽く会釈する。そして霞が巴に向かってこんな事を聞いた。
「十曽ちゃんと明星はまだ部屋で寝てるのかしら?」
「まだ寝てますよ。あの調子だと明日まで起きないでしょうね」
まだ他にもこの霧島神境にも巫女さんがいるのかな、そんな事を思いながら二人の会話を聞いて考えていると、巴は「じゃあ、私は夕食作ってきますよ。霞さん、はるるを頼みます」と言って部屋から出て行った。そうして部屋には霞と私と春の三人のみとなったが、霞がいきなり私の腕を掴むと私に向かってこう言った。
「夕飯ができるまで時間あるでしょうし……私たちは先にお風呂入っておきましょう?」
「え……いや、あの……」
「春ちゃんはどうする?」
「私は夜御飯できるまで寝てる……後で巴と一緒に入るから」
春がそう言うと、「それは残念ね……じゃあ、二人で行きましょうか」と言って私の腕を引っ張る。残念とは言っているものの、その表情は確実に喜んでいた。そんなに二人がいいなら何故わざわざ春を誘ったのか。そういった疑問はあるものの、霞は私の事を引っ張ってお風呂場まで連れていかれる。私はとりあえずこのダルくなるであろう未来を予測して、どうにかしようと「初美が入ってるんじゃないの……?」と聞いたが、霞は「此処のお風呂ってかなり広いから、大丈夫よ」と返された。その場凌ぎですらも認められる事ができなかった私は心の中で諦める。どう考えてもダルくなる未来しか見えないが、もう逃げ場がない以上抗おうとするのは無意味だろう。
「ここよ」
そう言って霞は立ち止まる。恐らくここがお風呂場の入り口なのだろうが、私にはどう見ても銭湯……いや、旅館やホテルにある温泉の入り口にしか見えなかった。確かにこの霧島神境は途轍もなく広いところだという事は分かっていたが、まさかお風呂場がこんなに広いとは思ってもいなかった。
「中はもっと広いわよ。露天風呂もあるし……」
正直に言ってとても嬉しいのだが、霞にこの後何をされるのかと思うともうそれどころでは無かった。私は若干憂鬱になりながらも、霞の後をついていく。そして脱衣所らしきところまできた私は、巫女服を脱ぎ始める。霞はそんな私をまじまじと見ているお陰で正直着替えずらいのだが、まだ「着替えさせてあげるわ」みたいな事を言われないだけマシなのか、それとも私の感覚が狂っているのかは分からないが、まだマシな部類だ。
「ありのままのあなたも綺麗ね……」
もう私の裸を見るのも三回目で、何を今更褒めているのかとも思ったが、とりあえず私は霞の目を見て「霞の方が綺麗だよ……」と返す。だが、そう言われた霞は顔を真っ赤にして「そ、そんな事ないわよ……」と言って下を向いてしまった。
「まあ……先に中に入ってるよ」
私はそんな霞を放っておいて、とりあえず浴室に入る。しかしそこはどう見ても旅館やホテルにある温泉であり、こんなところに毎日入っているのかと考えると少し羨ましく思う。
「わっ!し、白望ちゃん!?」
そんな事を考えていると、先に湯船に浸かっていた初美が驚いたようにして私の事を見る。まあ、入っている時にいきなり他人に来られたらそりゃあ驚くか。
「あー……もしかして霞ちゃんに無理矢理連れてこさせられたんですねー?」
「まあ、そんな感じです……」
「気をつけて下さいねー……霞ちゃんは何をしでかすか分からないですからねー……」
できることならそれをもっと早く耳にしたかったが、初美が悪いわけではないから何とも言えない。そんな事を考えていたら、背後から「初美ちゃん……?」という声が聞こえてきた。振り向くとそこには全裸の霞が立っていて、その顔は笑っているがどう見ても怒っている。
「明日覚えておきなさいね……」
「か、勘弁ですよー!」
そんな二人のやり取りを横目に、私は頭を洗い始める。あの二人の間に入ってもただダルくなるだけだ。ここは放っておいた方が賢明だろう。
「白望ちゃん、私が手伝ってあげましょうか?」
しかし直ぐに霞は私のところへやってきて、そんな事を聞いてくる。ここで断っても無駄だろうと思った私は「じゃあやって……」と言ってシャンプーの入ったボトルを手渡す。
(別にこういうのは慣れてるんだけどなあ……)
こういうのは初めてではないため、そういうのが嫌だというわけではないのだが、どうも私にはこれがダルく感じてしまう。主導権を握られている、と言うのだろうか。そんな気がしてならなかった。
(まあ……霞が楽しそうだし、仕方ないか……)
だが、それで霞が良いというのなら仕方ないか。そう考えるようにした。むしろそうでないとやっていけない。
(……岩手に帰ったらゆっくり寝よう)
これまでの疲労、そしてこれからの疲労を予測して、例えこの温泉のような風呂に入って疲れが取れたとしても、この後もまだまだ疲れそうだなあと悟った私は、岩手に帰ったらゆっくりと寝る。そんな事を決心した瞬間であった。
次回も鹿児島編。
思ったんですけど、この鹿児島編異様に長いですね……