宮守の神域   作:銀一色

201 / 473
鹿児島編です。
そして麻雀回終わりです。


第189話 鹿児島編 ⑮ 魅入られたよう

-------------------------------

視点:神の視点

東四局 親:薄墨初美 ドラ{④}

 

 

 

小瀬川白望 38500

石戸霞   37900

神代小薪  ー7500

薄墨初美  31100

 

 

(まあ……狙い撃つためにも『絶一門』が薄れる終盤までにはとりあえず聴牌しておかないとね……)

 

 小瀬川白望は焦りを感じている石戸霞の事を見ながら、そんな事を心の中で呟く。できる事ならば、『絶一門』が薄れ、縛られている一色が自分に手牌に来るようになるまでに単騎待ちで聴牌をしておきたいところだ。そうすれば手を崩さずとも、簡単に待ちを変更でき、石戸霞の読みをさせ辛くする事も可能である。故に小瀬川白望は単騎待ちで聴牌をする事を目標とした。

 

 

 

(……別に構わないわ。『絶一門』の支配が切れる前に和了れば、振り込みの危険が生じる前に逃げ切れる……)

 

 そして一方の石戸霞は、『絶一門』の支配が切れる終盤に狙い撃つというなら、終盤になる前にカタをつければいいという単純だが確実な方法で小瀬川白望から逃げ切る姿勢で挑む。

 しかし、この時石戸霞は誤解していた。何も、終盤でなければ石戸霞は絶対に振り込まないというわけではない。いや、相手に行かなくさせた色の牌であれば国士無双もないため100%有り得ないのだが、石戸霞はその一色だけでなく、字牌も引いてしまうのだ。

 つまり、字牌の単騎待ちを小瀬川白望が選んでいれば、石戸霞が振り込む可能性も十分にあり得るという事。無論、その確率は低い。しかし、小瀬川白望がそうしてこない保証などどこにもない。というか、むしろ『絶一門』の支配が切れるまではそうなっている確率は高いであろう。そうなれば、石戸霞は易々に字牌を切れなくなってしまう。

 

(卓上に二枚見えていたとしても、まだ安全じゃないわね……地獄待ちの可能性だってあるわけだし……)

 

 実際はその考えこそが石戸霞、自分自身をを縛り追い込むものであるのだが、そんな事に今焦っている石戸霞が気付くわけもなく、字牌を切らずに手牌で持っておく。つまり当初考えていた序盤のうちにカタをつけるという案を妥協したのである。終盤になって小瀬川白望が待ちを字牌から解放された一色に変えてから石戸霞が和了に向かおうとしても、そこを小瀬川白望に狙い撃たれるのが目に見えている。そう、この時点でこの局、石戸霞の勝ちはなくなったのである。まだ四巡も経っていないこの時点で、だ。

 もし小瀬川が張っていたら、もし小瀬川白望が字牌単騎であったら。そんな石戸霞の思考、陥っている心理状況こそ、小瀬川白望の狙いであった。そうして石戸霞の進行を止め、縛り付け、勝負から降ろす。石戸霞は小瀬川白望の狙い通りに動いているのだ。

 

 

 

 そして石戸霞は勝負から降りたので和了どころか聴牌までも遠くなっていき、結局石戸霞が当初避けなければと思っていたはずの終盤にまで局は縺れ込んでしまっていた。また、一方の小瀬川白望は当然のように単騎待ちで聴牌しており、縛られている萬子がくればいつでも石戸霞を狙い撃つ態勢に入っていた。

 

 

(……三萬か)

 

 局もあと5、6回のツモで終わる十二巡目に小瀬川白望はこの局最初の萬子、{三}をツモってくる。当然、小瀬川白望は{三}単騎待ちにして、もともと待ちであった牌を横に曲げて1000点棒を投げる。

 

 

「リーチッ……!」

 

 

 そうしてすぐさま石戸霞のツモ番となる。しかし石戸霞はこれまで切ろうとも切れずに手牌に残されている字牌を切って回避する。しかしその字牌回避も二、三巡が関の山。十五巡目には手牌全てが萬子だけとなっているのにも関わらずノーテンという珍しい事が起こっていた。

 

(何を切れば……)

 

 そしてここにきて『絶一門』のデメリットに石戸霞は苦しまされていた。通常単騎待ちというのは、筋や壁などが通用しない故に、相手から情報を得るためには河に捨てられている牌、つまり安牌しかなかった。けれども、それが絶対当たらないという唯一にして絶対の情報であった。

 しかし、小瀬川白望の萬子が行かないように場を支配しているため、当然河には萬子が無い。それに対して自分の手牌は萬子オンリー。十中八九小瀬川白望が萬子の単騎待ちであるというのにこの状況はもはや絶望と言っても過言ではなかった。

 単にに言ってしまえば、萬子九種の内一種だけが当たり牌なのだから、適当に切っても九分の八で回避する事ができる。が、裏を返すと九分の一で当たってしまうということだ。

 しかし、石戸霞にはこの状況を打破する事は出来ない。結局石戸霞はこの九分の一の賭けに出なくてはならなかった。

 ……普通、こういう時人間が考えるのは対子や暗刻となっている牌から切っていくという事だ。そうすれば一度の危険で二回、ないしは三回の安全が買える。そして流局まで後三巡。つまり暗刻が通ればこの局は小瀬川白望に振らずに済むという事だ。

 

 

石戸霞

打{三}

 

 

 

 

「……ロン」

 

 

 

 しかし、石戸霞は振り込んでしまった。安全に逃げてしまったからバチが当たったのか。それとも小瀬川白望の策略だったのか、石戸霞が振り込むという事が運命づけられていたのか、それは石戸霞には分からないことだった。

 吸い寄せられるように切ってしまったのだ。何か違和感を感じるわけでもなく、自然に、これが最善手だと思い込んでいたのだ。まるで、何かに魅入られたように。

 

 

小瀬川白望:手牌

{三①②③④赤⑤⑥⑦⑧⑨222}

 

 

「リーチ一通ドラ2……裏無し。満貫」

 

 

 

 

-------------------------------

視点:小瀬川白望

 

 

「じゃあ……私の親だね」

 

 私は霞に向かってそう言い、山を崩そうとしたがそこである事に気付いた。

 

「すー……すー……」

 

 それは小薪がぐっすりと寝てしまっていた事だった。目を閉じている事から、恐らく神様を降ろしている時の眠りではなく、ただ寝ているだけというのがなんとなく分かった。そしてそんな予感は的中していたようで、霞も「あらあら……対局の途中に寝るなんて……」と呟いた。

 

「白望ちゃん、どうしますかー?」

 

「うーん……まあ小薪も寝ちゃった事だし、これで終わりにしよっか……よっと」

 

 私はそう言って寝ている小薪を両手で持ち上げる。そういえば姫様っていう身分なのに一般人の私が気軽に手を触れていいのか一瞬頭に過ぎったが、初美と霞が何も言ってこない事を見ると、私の杞憂だったようだ。

 

(……やけに軽いな)

 

 私は小薪が異様に軽い事を心の中で呟いていると、初美が「姫様を抱えて、大丈夫ですかー?」と聞いてきたが私は「全然大丈夫」と返し、初美の案内の元、小薪の寝室らしき部屋へと向かった。

 

 




次回も鹿児島編。
後二話くらいで合計200話……ここまで続いたのも皆様の応援や励ましのお陰であります……感謝。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。