宮守の神域   作:銀一色

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鹿児島編です。


第188話 鹿児島編 ⑭ 絶一門の穴

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視点:神の視点

東三局 親:神代小薪 ドラ{二}

 

小瀬川白望 44500

石戸霞   13900

神代小薪   4500

薄墨初美  37100

 

 

 

(ん……)

 

 

 石戸霞が『恐ろしいもの』をその身に降ろし、石戸霞本人以外を強制的に『絶一門』状態にさせ、取り除かれた一色を石戸霞へと集まる支配をする。小瀬川白望も石戸霞が何らかの行動をしたという事までは見抜き、自身の配牌を注意深く観察しながら取っていった。

 

(これは……果たして偶然って言ってもいいのだろうか……)

 

 そして小瀬川白望が配牌を取り終えると、手牌からある事に気づいた。そう、小瀬川白望の手牌には筒子が一枚足りとも存在していなかった。いや、確かに偶然として片付けてもなんらおかしくない話である。しかし、小瀬川白望はどうにもこの筒子だけがないこの状況が引っかかっていた。偶然でなく、意図的な感じがしてならなかった。無論、この違和感が小瀬川白望の勘違いで、石戸霞の能力はまた別のものであるという事も十分に考えられる。

 

(まあ……これは攻めよりも一先ず「見」に徹した方がいいだろうなあ……)

 

 石戸霞の能力が果たしてこれなのかは不明だが、とにかく石戸霞がこの局で何かを仕掛けてきたという事は間違いない。今は取り敢えず石戸霞の能力を探った方が賢明であろう。

 

(流石ね……白望ちゃんに早速勘付かれちゃったわ……)

 

 そして一方の石戸霞は、配牌を開いただけで直ぐに『絶一門』状態である事に疑問を感じている小瀬川白望の事を素直に評価する。それと同時に、自分の能力を攻略されないかどうか少し焦ってもいた。薄墨初美の『裏鬼門』もそうだが、小瀬川白望は何か異常が起こると直ぐに察知し、全貌を暴かれてしまう。常人の数十倍のスピードで、だ。故にこの『絶一門』も、恐らく直ぐに全貌を暴かれて対策を講じられるであろう。

 

(……時間との勝負ね)

 

 石戸霞は全神経を集中させ、支配をより一層強くする。卓にはピリッとした空気が流れており、一触即発な状況であった。

 そして小瀬川白望が「見」に回っていた故か、珍しく場が膠着し、捨て牌が二段目に到達した。そして八巡目、石戸霞が牌を曲げた事によりようやく場が動き出した。

 

「リーチ」

 

石戸霞

打{横③}

 

石戸霞:手牌

{①①②④④⑤赤⑤⑥⑥⑧⑧⑨⑨}

 

 

 石戸霞の先制リーチ。無論これが小瀬川白望に当たる事はなく、リーチが通る。手牌は清一色七対子赤1の待ちは{②}単騎待ち。ツモれば倍満。一発がつく、若しくは裏ドラが乗れば三倍満。何方もつけば数え役満だってありえるといった超大物手であった。そしてリーチが通ったと同時に、石戸霞はある試みに挑戦した。

 

(……初美ちゃんと小薪ちゃんだけに支配を集中させて、白望ちゃんに筒子を掴ませる……!)

 

 そう、小瀬川白望と石戸霞には30000以上という膨大な量の点差がついている。これを小瀬川白望が『絶一門』のカラクリに気付く前に逆転するには、ツモでは足りない。役満だってあり得る手ではあるが、どう頑張っても一発と裏ドラが乗る、この二つの条件が同時に合わさるなど考えれなかった。何故なら石戸霞の支配は王牌には及んでいないからである。だからドラ表示牌も筒子ではなかったのだ。同じように裏ドラが筒子である確率も、全くないわけではないが支配など関係なしの通常の確率となってしまう。そして仮に一発がついて三倍満ツモとなってもギリギリ逆転に届かず、どうしても直撃が必要である。

 故に、『絶一門』の支配を薄墨初美と神代小薪を集中させる事により、小瀬川白望に対する支配を弱め、筒子を掴ませるという事を石戸霞は試みたのだ。

 石戸霞の降ろしている『恐ろしいもの』は、一度降ろすと狩宿巴にお祓いしてもらわなければ解除できない。だから場の支配を解除しようなんて事はできずに、神代小薪と薄墨初美に対しての支配力を大幅に上げる事で相対的に小瀬川白望に対しての支配力を弱めるというこんな遠回しの方法でしかできなかった。

 当然、この試みが成功するかどうかなんて分からない。何しろ初めての試みだ。気を抜けば支配力はいつも通りに戻ってしまうし、そもそもそんな事が可能なのかどうかすら分からない。仮に配牌時に既にツモる事のない運命が既に決定づけられていれば、そんな事をしても無意味なだけだが、そうではなく、ツモる毎に上書きするように運命を変えていくようなものであれば、やってみるだけ価値はある。

 

(この一巡だけだけれど……正直キツイわね……)

 

 だが、石戸霞のリーチからまだ神代小薪がツモ牌をツモっただけまでの僅かな時間であるというのに、石戸霞は相当疲れていた。要は小瀬川白望のツモ番まで頑張ればいいのだが、それでも尋常でないほどの精神力を削がれていった。一巡だけならどうにかなりそうだが、二巡以上続ければいつ倒れてもおかしくないほどの膨大な疲労であった。

 

 そして、薄墨初美が打牌を終えると、とうとう小瀬川白望のツモ番へと回る。小瀬川白望は山からツモ牌を取ろうと手を伸ばす。そうして小瀬川白望はツモ牌を掴んだ瞬間、石戸霞は集中の糸を切る。だが、ここからが勝負なのだ。果たして上手くいったのか。そしてまだ小瀬川白望が核心に至ってないか。それらが問題であった。

 しかし、小瀬川白望は石戸霞が考える数多の可能性を全て裏切る形で、手牌から四牌を倒して宣言する。

 

「カンッ……」

 

 

小瀬川白望:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {裏四四裏}

 

 

 

(カ……カン……?)

 

 石戸霞は驚いたような表情をしながら、小瀬川白望が晒した四枚の{四}を凝視する。カン。まさかの暗槓。驚きながらも石戸霞は槓ドラ表示牌を捲ろうとしている小瀬川白望の手を追っていた。

 そして小瀬川白望は人差し指一本で槓ドラ表示牌を捲る。その牌は{9}。それを見た小瀬川白望は微笑して、石戸霞に向かってこう言った。

 

「やっぱりね……」

 

「霞のこの『絶一門』。今ので全部分かった」

 

 槓ドラ表示牌を捲っただけで、自分の能力をほぼ全て網羅されている事に石戸霞は驚きを隠せていなかったが、小瀬川白望の対面に座る神代小薪が「ど、どういう事でしょうか……?」と小瀬川白望に聞く。薄墨初美も「何がなんだか分からないですよー」と小瀬川白望に言う。小瀬川白望は石戸霞の方を見て「……霞、教えていいの?」と聞くが、石戸霞は「……勿論よ。あなたがどこまで正確に理解できたのかも確認したいからね」と返す。

 

「……まず、霞のこの支配には穴がある」

 

「……穴、ですかー」

 

「数牌は一色につき三十六枚。霞はその一色三十六枚を自分のものだけに独占する事ができる。まあ独占じゃなくて厳密には相手から一色を縛って間接的に自分に集めているはずだけど。……だけど、単純に考えて霞は字牌も引くのに、その三十六枚を全て使い切る事はできない。せいぜい、配牌の十三枚とツモの約十七枚。その内今霞が切った字牌の数、四枚……局全体で見れば七……いや、八か。となると霞が独占できる牌は二十二枚……」

 

「となるとその余った牌はどこに行くのか……普通に考えれば王牌に行くのかもしれない。でもそれだと今のドラ表示牌で矛盾が生じる。残っている十四枚が全て王牌に行けば、ドラ表示牌は筒子になってるはずだからね……つまり、王牌には支配が及んでいない……正確に言えば王牌にまでその一色を追いやる事ができない……」

 

「王牌に無いとすれば、残っている牌は必然的に私たちがツモる牌……それも山の最後の辺り。だからこの『絶一門』は完全な支配ではない……故に、一見霞からの振り込みは字牌以外は有り得ないと思われていたこの『絶一門』だけど、流局寸前では可能になりうる……」

 

 そう言って小瀬川白望は嶺上牌をツモり、「まあ王牌に支配が及んでいないとはいえ……元々王牌に筒子がある場合もあるわけだけど」と言って嶺上牌をツモ切りする。その牌は{④}であった。

 

「……見事だわ。満点よ」

 

 石戸霞はそう呟き、山からツモってくる。正直、ここまで正確に見破ってくるとは思ってもいなかった。そして、小瀬川白望の流局寸前云々の話は、恐らく次局にお前から直撃を取るという宣戦布告だろう。石戸霞がツモ牌を見ると、それは{②}であり、結局小瀬川白望が振らずとも石戸霞は和了れたわけだが、喜びどころかさっきの小瀬川白望の言葉に対する恐怖しか感じられなかった。石戸霞は恐る恐る手牌を倒して、宣言する。

 

 

「ツ……ツモ。リーヅモ清一色七対子赤1……三倍満」

 

 それを聞いた小瀬川白望は点棒を石戸霞へと渡し、「さあ……東四局。やろうか」と言い放った。




次回も鹿児島編。
絶一門の能力について、ノリと物事をすぐに忘れやすいスッカスカの記憶容量だけで書いたので若干の原作との違いとかあっても気にしないで下さい……

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