智葉の次はあの人と会います。
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視点:小瀬川白望
「はあ…」
智葉との対局が終了して脱力しながら椅子にもたれこむ。
智葉が立ち上がって雀卓を見つめている。
「なあ。」
と智葉が一言。
「…なに」
「…どうして、わざわざ大明槓したんだ?1打目から。」
何故。何故かと言われると説明しなければいけないが、この状況だと説明するまで帰してくれなさそうだなあ。
「…新ドラが{五筒}になると思ったから。」
「というと?」
智葉が興味深く聞いてくる。
「新ドラが{五筒}になって、しかも{五筒}が少なくとも2枚は見えてるなら、だいたい私の手を予測しやすくなるでしょ。」
「もし2枚持っているならわざわざ大明槓してまでドラを乗せる必要もない。それこそメンホン発ドラドラのダマで十分。現に智葉は、新ドラがでてから私の手を混一色だと断定したでしょ?」
「残る可能性は0枚か1枚かだけど、智葉は『ドラを乗せる為の槓』っていう前提で考えているから、0枚ってことはない。そう考える。
つまり私の手は鳴き混一色発ドラドラの満貫…
そう思わせる。満貫だから振ってもトバない。だから智葉はリーチした。でしょ?」
「…ああ。」
智葉が驚愕した表情になる。
(こいつ、さっきのでこれだけの事を考えていたのか…)
「強いて言うなら、槓に意味を持たせた。智葉は『私の槓がただの運否天賦な槓じゃない』っていう肥大化した私を利用したってこと。」
「【『鳴く』ってのは、自分の手を進めたり、新ドラを乗せて高くするだけじゃない…
相手を止めたり、迷わせたり…そっちの方が本来の『鳴く』だと考えている。】」
「!」
一瞬、智葉が信じられないものを見たような表情をする。
(…なんだ?奴が一瞬、他の誰かに…見え…た?)
「分かった?」
私がびっくりしている智葉に問う。
「あ、ああ。」
智葉が納得したように呟く。
ならもうここに用は無いだろう。智葉と打てた事だけで既に満足した。
そして私が場代を払い、雀荘を去ろうとした時、
「待て。」
と、智葉が引き留めて私の目の前まで来て、私が打つ前に出した500円玉ともう一つの500円玉、そしてメモ用紙を私に握らせた。
「勝ち分の1000円だ。…それでこっちが私のメールアドレス。ここの近くの人間じゃないんだろ?」
「…ありがと」
500円玉とメモ用紙をポケットに入れ、今度こそ雀荘を後にした。
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視点:辻垣内智葉
「…ありがと」
奴が雀荘から出て行った。その瞬間、どっと疲れが出てきた。
「…ふう」
それにしても、あいつ。メールちゃんと寄越すかな…
(…にしても、綺麗だったな…あいつ。…ん?)
は?『綺麗だった』?私が、あいつを、綺麗だと思った?は?
これはもしや…
(…そんなわけないだろう)
どんだけ私は疲れてんだか…
そりゃそうだ。あいつは女で、私も女だ。
第一、同性愛など馬鹿馬鹿しい。
それに…
「…お嬢?」
黒服が私に尋ねてくる。
その瞬間我に帰り、恥ずかしくなってその黒服の脛を思いっきり蹴ってやった。
(ないだろ、あんな女…ないよな?)
今日からある程度はモヤモヤした気持ちで過ごす事になりそうだ。
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視点:小瀬川白望
雀荘を出た私は、現在時刻を確認した。
12時36分。丁度昼ご飯の時間だ。
今から家に帰って遅い昼ご飯を食べるより、この辺で外食した方が良いだろう。
東京の街を徘徊する事5分。ファミレスを見つけた為、そこで食べる事にした。
〜〜
席に座り、お手頃なハンバーグセットを頼む。
水を飲んで昼食を待っていると、反対側の席に見知らぬ私と同年代の少女が座ろうとしていた。
あれ、もしかして元々座ってたのかな。と思った私は口まで持って行った水を持って他の席に座ろうとその席を後にしよう立った時、その少女も立ち上がった。
(何この人…面倒な人に遭遇しちゃったなぁ…)
試しに一つ奥の席へ移動すると、その少女の私に合わせて並行移動する。お前は図形問題の点Pか。
この少女から距離をとるのを諦めた私は、その少女に質問する。
「…なんか用?」
すると少女は答える。
「特に何も。」
「はあ…?」
「強いて言うなら、私と同じ境遇の人かと思ったから。」
「同じ?」
「こんな昼間に小学生が独りでファミレスに来るなんてそうそういないから…」
何だ。そういう事か。つまりは両親が連休も働いてて、昼食を作るのが面倒になったタチか。
…いや待て、流石にどっちも働く何て事はないだろ。…何やらワケありな予感。
「…いや、私は岩手から来たから…」
「独りで?」
「まあ、そんなところ。」
「そう…」
悲しそうな声で反応し、彼女が頼んだのだろうか、さっき届いたデラックスパフェなる物を食している。雰囲気ぶっ壊しだ。
「…なんか悩んでるなら、相談。乗るよ。」
「…え?」
「そういう事私に聞くって事は、何かあなたにあったって事でしょ。1人で思い詰められんのもダルいから。」
「…ない。」
彼女がパフェを頬張りながら否定する。嗚呼、意固地な人だ。
「…あんまり1人で抱えてもダルいだけ。」
「ない…!」
彼女のスプーンを持つ手が震える。やはり何かあるな。
だが彼女が話しそうな気配はない。
…仕方ない。
「…!???」
私は彼女に抱きつき、耳元で囁く。
「そう意固地になんないで。私も辛い…」
そういうと彼女は涙を流し、私の胸の中で泣き崩れた。
…全く、こういう役は白馬の王子様で十分だというのに。
〜〜
彼女の境遇はこうだ。
彼女は元々長野に住んでいて、妹がいたという。
そして彼女と妹と母親と父親で家族麻雀を行っていたらしい。
そこでは主にお小遣いやお年玉を賭けて麻雀をしていたようだ。
しかし、妹は勝ちすぎてしまうと家族に嫌われる。負けすぎてもお小遣いが根こそぎ無くなる。と考えたのだろう。
そこで編み出したのが『プラマイゼロ』という点数調整。勝ってもいなく、負けてもいない唯一の道。
…まあ、自分だけ考えれば最高な方法だが、やられる側はたまったもんじゃない。
現にそれが原因で家族に亀裂が入り、結果姉妹同士で仲直りする前に別居という形になった。
という事らしい。
別居して母親と2人で生活しているから、母親が休日も働いているのも頷ける。
そりゃあ辛いだろう。楽しむ為のものによって家族間に亀裂が入るなど。
「…大変そうだね。気安く聞いた私が悪かった。」
しかし彼女はいいや、私こそ話に付き合わせてゴメン。と言う。
「それよりも、どう思う?」
「プラマイゼロ?」
彼女がコクリと頷く。
「…私は(赤木さんに比べて)人に教えるほど麻雀は上手くないから…なんとも言えない。」
「そうだよね…まず、プラマイゼロなんて出来る方がおかしいよね。」
「うん。(意識しなきゃ)まず無理だよ。でも、妹さんも悪気があってやった訳じゃないって事は事実なんだから。
確かに、私もやられたら良い気持ちにはならないけど…だからって妹さんだけが悪者じゃないでしょ。妹さんに気付かせてやりなよ。今は厳しいかと思う。けど、何年後になってもいい。妹さんに気付かせてあげて、『あの時は怒ってゴメン』って謝りな。」
「…わかった。」
彼女は深く頷いて立ち上がる。いつの間にかパフェの容器は空っぽになっていた。
「ありがとう…私、もう帰るから。」
「…そう。」
彼女がレジの所まで行こうとして、足を止めて私の方を向く。
「…名前、教えて。」
別に拒否する理由もなく
「…小瀬川白望」
と答える。
「わかった。小瀬川さん。私は宮永照。会う事はもう無いかもしれないけど、お元気で。」
と言い、今度こそレジへ向かった。
そうして数分後に届いたハンバーグセットを平らげ、東京を後にした。
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小瀬川宅
「あーー」
長旅から帰宅した私はすぐにベットに転がり込む。
本当に今日は疲れた。
【…どうだったか?今日の旅は…】
「疲れた。」
と答えると、赤木さんはハハハと笑い、
【だが…慢心するなよ。お前にはまだまだ先がある。そこで、慢心して、止まる事が一番ダメだ。】
「…分かってる。でも取り敢えず今日は寝させて」
また赤木さんは笑い、【そうかい】と言う。
私はその言葉の数十秒後に寝た。
…あ、智葉にメールしてないや。
まあいっか。
〜〜
視点:辻垣内智葉
「…あいつからメールが来ない」
くそっ、これでは寝れんじゃないか…!!!
事件です。次回の構想が全く決まってません。
次回は明日投稿できない可能性があります。
…というより私は毎日投稿って言ってないから、いいんです(逆ギレ)
-追記-
次回の構想を練りました。
次は大阪に行かせます。愛宕姉妹と会う『予定』です(変更ありかも)