-------------------------------
視点:神の視点
東一局三本場 親:小瀬川白望 ドラ{白}
小瀬川白望 55600
石戸霞 22200
神代小薪 18000
薄墨初美 4200
(まさか……神様を降ろした小薪ちゃんよりも早く和了るなんて……)
(神様が降りている状態の姫様でさえも先に和了れないなんて……このままじゃ点棒がマイナスになってしまいますよー!)
神代小薪の先制リーチをものともせず、見事神代小薪に競り勝った小瀬川白望の和了を見て二人は驚愕する。神代小薪に降りてくる神様の力には若干の個体差がある。まあ……一番弱い神様も常人には考えられないほどの強さで、石戸霞も薄墨初美もまともにやれば確実に勝てないだろう。だからこそ、小瀬川白望が神代小薪よりも早く和了った事に対してひどく驚いていたのだ。そして今神代小薪に降りている神様は、その中でもトップクラスの力を誇る神様。神代小薪に降りてくる神様を全種類見た事のある二人だからこそそれは分かる。しかし、そのトップクラスの神様の力であっても、小瀬川白望の連荘を止めることはできなかったのだ。
(いったい……あなたには何が見えているの……?)
石戸霞はただ真っ直ぐ中央で回転するサイコロを見つめている小瀬川白望の事を見る。彼女には何が見えているのか。一般人には見えないモノと日々接している彼女が、初めて他人に何が見えているのか気になった瞬間であった。
「三本場……」
小瀬川白望はそう呟き、配牌を取っていく。突然の言葉により思わず石戸霞はビクッとなる。そして少し戸惑いながらも、石戸霞も配牌を取っていく。確かに今まで石戸霞は一回も振り込んでいないため二位ではあるが、逆に和了ってもいない。このままではツモで点棒が削れる一方だ。
(だけど……まだ早いわね。今は守備に徹していた方が無難かしら……今攻めに転じても、小薪ちゃんと白望ちゃんに板挟みに合うだけね……)
しかしまだ石戸霞は動かなかった。それも当然のことで、客観的から見ても今ここで石戸霞が攻めれば、呆気なく小瀬川白望か神代小薪に跳ね除けられて終わりだ。それを石戸霞は重々承知していた。それに加えて攻めは石戸霞にとっての苦手部分にあたる。故に石戸霞はかなり慎重になっていたが、その慎重さが功を奏した。
(う〜……私が北家でこんな醜態を晒すなんて……)
そして一方の薄墨初美は、自分の十八番である『裏鬼門』で和了るどころか、発動さえもさせてもらえないこの状況に焦りを感じていた。しかし、この東一局三本場の二巡目。盲牌をした小瀬川白望が少しほど薄墨初美の事を見ると、手牌から河へ{東}を置いた。
(……えっ?)
「ポ、ポンですよー!」
薄墨初美:手牌
{四四②③⑥⑨17北北発} {東東横東}
打{発}
ようやく薄墨初美が{東}を鳴くことができたが、薄墨初美は困惑していた。さっき小瀬川白望は確実に薄墨初美の『裏鬼門』の正体を見抜いていた。なのに何故小瀬川白望はここにきて{東}を切ったのだろうか。まさか小瀬川白望のミスとも思えない。
(それとも……何かあるんですかー?)
(……)
疑問そうに小瀬川白望の事を見るが、当然ながら返答は帰ってはこない。何を考えているのかすら分からない無表情を貫いている小瀬川白望は、鳴きによってツモ番が変わり、またしても自身のツモ番となったため山から牌をツモってくると、盲牌をした後そのままツモ切りした。
その牌はまさかの{北}。そう、絶対に切られることが無いであろう牌が、よもや二枚も切られたのだ。
(この人……まさか)
薄墨初美はその小瀬川白望の打牌からある事に察する。あの明らかなる薄墨初美を支援するような打ち筋……そう、これは小瀬川白望による薄墨初美への間接的差し込みであった。そしてその意図を汲み取った薄墨初美はニヤッと笑って鳴きの宣言をする。
「……ポンッ!」
薄墨初美:手牌
{四四②③⑥⑨17} {北北横北} {東東横東}
打{1}
(さあ……『裏鬼門』ですよー!!)
半分小瀬川白望のお陰で発動できたと言っても過言ではないが、何はともあれ発動できたのだ。薄墨初美は自身に集まる"何か"を感じながら、やっと発動できたという安堵の溜息をつく。
(これこれ、これですよー……)
そして薄墨初美はまたしてもツモ番となった小瀬川白望を見る。小瀬川白望はツモ牌を手牌へと取り入れると、手牌から{四}を切った。これは薄墨初美が対子としている{四}。当然この{四}は薄墨初美を鳴かせるために切ったもので、薄墨初美もその期待に応えるように宣言する。
「ポン!」
薄墨初美:手牌
{②③⑥⑨7} {四四横四} {北北横北} {東東横東}
(流石ですよー。さて……)
小瀬川白望からのラストパスを受け取った薄墨初美は、自信に満ち溢れた表情をしながら次のツモ番を待ち望む。いくら神様を降ろしている神代小薪であろうとも、一度発動させた『裏鬼門』を封殺する事はできない。薄墨初美は後は五巡後に小四喜を和了るだけであった。
(これで、発動したって事でいいのかな……)
小瀬川白望は自信に満ち溢れている薄墨初美を見てハアと溜息をつく。本来ならばこの局も和了る気でいたのだが、二巡目に引いた牌が{中}であったのだ。何故{中}を引いたから鳴かせに行ったのかというと、何を隠そうその{中}が神代小薪の和了牌であったからである。
神代小薪:手牌
{一一一八八白白白発発発中中}
この時の神代小薪は{八、中}のシャボ待ちの高め四暗刻大三元を聴牌していた。あのまま小瀬川白望が切っていたら、大三元……役満の振り込みとなっていたのだ。
だから小瀬川白望は急遽薄墨初美に和了ってもらうべく、聴牌時に切る予定であった{東}を切り、通常ならばツモる必要のない{北}をツモりにいったのだ。いくら小瀬川白望が最後の{中}を握り潰した、流れを失っているといっても、流局まで四暗刻となる片方の{八}をツモらないとは考えにくい。よって薄墨初美に和了らせる事にしたのだ。
『裏鬼門』を完璧に理解していないため小瀬川白望もこれで発動できたかどうか疑問であったが、薄墨初美の表情を見る限り発動したのだろう。ここから薄墨初美がどれほどの速度で和了ってくるかはわからないが、少なくとも流れを失った神代小薪よりは早い。
(……小四喜だろうなあ)
そして小瀬川白望は薄墨初美の手を予想する。ツモられてしまえば神代小薪の四暗刻と同じ被害だが、神代小薪に流れを渡さないのに加えて、これで『裏鬼門』の全貌を知れると考えれば、16000など安い支出にすぎなかった。むしろ、神代小薪に和了らせない上に薄墨初美の情報を得られる絶好の機会であった。
そして五巡後、小瀬川白望の予想通り薄墨初美は{西}を卓に叩きつけて宣言する。
「ツモッ!8000、16000ですよー」
薄墨初美:手牌
{南南西西} {四四横四} {北北横北} {東東横東}
ツモ{西}
(……そろそろかしらね)
小瀬川白望の策略が無事成功したものの、これで小瀬川白望の親が流れることとなった。石戸霞はそろそろ頃合いであると予測する。恐らく後二、三巡もせずに神代小薪の神様はいなくなるであろう。そこで一気に攻めに転じる。そう石戸霞は目論んでいた。
(この16000点で得た物は大きい……後はこの情報的、状況的優位を上手く利用する事に徹する……)
そして16000点分を薄墨初美に渡す小瀬川白望はそう思っていた。あの小四喜でかなり差が詰まったものの、それはあくまでも点棒だけの話。小瀬川白望の優位は揺るぎないものだ。
小瀬川白望が親である魔の東一局もとうとう終わり、ようやく東二局へと場は移行する事となった。
次回も鹿児島編です。
これでもまだ東一局が終わっただけという……