宮守の神域   作:銀一色

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鹿児島編です。



第184話 鹿児島編 ⑩ 二度寝

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視点:神の視点

東一局一本場 親:小瀬川白望 ドラ{七}

 

小瀬川白望 43000

石戸霞   25000

神代小薪  25000

薄墨初美  7000

 

 

 

(寝てたって……さっきまで寝てたとは思えなかったけど)

 

 前局跳満を薄墨初美から打ち取った小瀬川白望は配牌を取りながら対面にいる神代小薪を見る。思えないと言っていた小瀬川白望だったが、確かに小瀬川白望は今の神代小薪はさっきまでの神代小薪とは何かが違うという事を感じていた。うまくは言い表せぬが、さっきまでの神代小薪の方が威圧感やら力が凄まじかった。それが、神代小薪が寝ていたと言った途端それが消え去ったのだ。どういう事かはまだ小瀬川白望にも分からない。

 しかし、神代小薪に対しての疑問はこれが初めてではなかった。

 

(小薪が初美に東を鳴かせた後から途端に小薪に力、威圧感が加わった……まるで、何かを宿したかのように……)

 

 そう、神代小薪が早々に薄墨初美が所望していた{東}を切って薄墨初美に大明槓された後から神代小薪は力を得ていた。そしてその得た力が、さっき丁度雲散霧消したのだ。

 恐らく、神代小薪は本当に何かの力を借りているのだろう。そう小瀬川白望は考察する。巫女という職業を考慮すれば力を借りているのは恐らく神様の類いであろう。

 小瀬川白望は少し俯向くようにして表情を隠す。そして、ニイッと口角を吊り上げた。

 

(神様が相手……面白い)

 

 言うなれば、神代小薪と闘うという事は神様と闘うという事になる。『神域』を目指している小瀬川白望にとって神様と対等、それ以上になる事は避けて通れぬ道。そういった意味でも、小瀬川白望は嬉しくてたまらなかった。半年前に小走やえとの"ナイン"で感じた赤木しげるとの差。赤木しげるには遅くとも進めとは言われた。そして小瀬川白望はその通り焦らず、確実に一歩を重ねてきた。果たしてこの半年で自分は赤木しげるを越えたかどうかではなく、どれだけその差を埋められたか。それを確かめる丁度いい機会だ。

 そして小瀬川白望が嬉しいと感じたのは、他にも理由がある。というか、そちらの方が大きいのかもしれない。それはただ単純に強敵と戦える事ができるということだ。博徒の性、とでも言うのだろう。勝負をするということ自体が楽しくて仕方なかった。

 

(さあ……いこうか)

 

 

 

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「リーチ」

 

 

小瀬川白望:捨て牌

{中①中⑨六横5}

 

 

小瀬川白望:手牌

{一二三四四赤⑤⑥⑦22279}

 

 

 小瀬川白望はああ意気込んだものの、残念ながら今は未だ神代小薪には神は降りてきていない。つまり、普通の神代小薪であった。そして石戸霞が小瀬川白望に言っていた通り、確かに素の状態の神代小薪は完全な初心者で、お世辞にも強いとは言えなかった。

 小瀬川白望の聴牌は、リーチ赤1の{5}切り嵌{8}待ちという単純な筋引っ掛けであったが、それでも神代小薪を打ち取るには十分すぎるトラップであった。神代小薪はこの親リーに対してオリたというのに初っ端からリーチ宣言牌の{5}の筋、{2}を切り飛ばすなど、一歩間違えば振り込んでしまうような不安要素でいっぱいであった。

 一応、その後はツモってきた安牌に一度場は凌いだものの、その次の巡にあっさりと神代小薪は{8}を切ってしまう。

 

「ロン」

 

 

小瀬川白望:手牌

{一二三四四赤⑤⑥⑦22279}

 

 

「リーチ赤1……裏無し。3900」

 

 

 

「ああっ!振り込んでしまいました霞ちゃん……」

 

「あらあら……やっぱりまだ小薪ちゃんは経験が浅いようね……」

 

 神代小薪が少し泣き目になりながら石戸霞に助けを求めるようにして話しかけるが、その横で今にでも泣きそうになっている薄墨初美がいた。前局だけならず、二度までも自身の必殺技を発動さえさせてもらえなかった薄墨初美の精神的ダメージは甚大なものだった。

 

(は、早すぎですよー……片方すら暗槓させてもらえないなんて……)

 

 そんな傷心の薄墨初美の気持ちを読み取ったのか、石戸霞が少しほどサディスティックな笑みを浮かべて薄墨初美に向かってこう言った。

 

「一応言っておくけど、この対局にトビはないわよ。しっかり半荘やりきってもらうからね……初美ちゃん?」

 

「ぐぬぬ……まだ点棒が減ってないからといって……」

 

「小薪ちゃんもこの半荘、トビはないけどできるだけ失点を抑えるようにして頑張りなさいね?」

 

 そう石戸霞が神代小薪に向かって言うが、なかなか神代小薪から返答が返ってこなかった。石戸霞と薄墨初美は疑問に思って神代小薪の顔を伺おうとすると、突然神代小薪から強烈なエネルギー、熱量が放たれる。石戸霞や薄墨初美はもちろん、小瀬川白望も今神代小薪に何が起こっているのかを理解した。

 

(まさか……白望ちゃんのさっきの直撃が、小薪ちゃんが従える神様に刺激を与えたのかしら……?)

 

(やっ……やっぱりもう二度寝ですかー!?)

 

(なるほど……これが)

 

 

 神代小薪は何も言わずに牌を穴へと入れ始める。気迫、威圧……それら全てがさっきの神代小薪とは段違いであった。しかも、まだこれが片鱗だと言わんばかりに神代小薪は真っ直ぐに小瀬川白望を見つめる。見つめられた小瀬川白望は、フフッと笑ってから、サイコロを振る。東一局二本場が始まった。

 

 

(おお……配牌の時点で東が四枚あるんですよー)

 

 東一局二本場の薄墨初美の配牌は良く、『裏鬼門』に必要な{東}四枚と{北}四枚のうち{東}が揃っていたのだ。

 いくら神代小薪が神様を降ろしているとはいえ、『裏鬼門』を真っ向から封殺することは容易ではない。故に神様が相手であったとしても、まだ薄墨初美にも勝てるチャンスはあったのであった。

 

 

 

 しかし、

 

 

「カン……」

 

 

神代小薪:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {裏西西裏}

 

 

「へっ?」

 

 

ドラ表示牌

{南南}

 

 

(んなっ……!?)

 

 それは一瞬、一瞬の夢であった。一巡目の神代小薪の{西}暗槓によって全て打ち砕かれた。そう、{西}が潰されてしまえば『裏鬼門』もクソもない。しかも、それだけではない。薄墨初美の『裏鬼門』を潰すだけにとどまらず、その上で更に槓ドラを乗せたのだ。もともとドラが{西}であった事も合わせると、神代小薪はたった一巡で八飜を得たのだ。

 

(……面白い)

 

 小瀬川白望は神代小薪を見ながら、心の中でそう呟く。確かに、常識を逸した運だ。ただ単純に運を競い合えば、恐らく苦戦を強いられることであろう。しかし、小瀬川白望に負ける気など毛頭なかった。

 

 




次回も鹿児島編!
とうとう直接対決です。
因みに、姫様に降りている神様は原作の二回戦の時とは違い、最強クラス(という設定)です。

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