宮守の神域   作:銀一色

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鹿児島編です。


第181話 鹿児島編 ⑦ 本家と分家

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視点:小瀬川白望

 

「あっ、霞ちゃんと白望さん。もう終わったんですね」

 

 あれから数分後、ようやく初美さんが全てを打ち明け、霞さんの巫女さんだとは思えないほど洗練された関節技がようやく終わった。そして私は霞さんと初美さんに連れられて、ある和室へと連れてこられた。そしてその和室には、小薪さんが座布団に座っていた。

 小薪さんが私たちを視認するとそう言い、それと同時に私と霞さんの間から初美さんが飛び出て小薪さんに抱きつく。小薪さんはいきなりのことで少しほど驚きながらも初美さんを抱擁する。

 

「ど、どうしたんですか……初美ちゃん」

 

「姫様……霞ちゃんが酷いんですよー」

 

 初美さんが小薪さんに向かって言う様は年の離れた姉妹、もしくは親子のように見えるが、そう思っていると隣にいる霞さんが「……あれでも初美ちゃんは私と同じ中学二年生。そして小薪ちゃんは中学一年生。……つまり初美ちゃんの方が一つ年上なのよ」と私に向かって囁いた。私は少しばかり驚きながら初美さんの事を見る。本当に自分と同い年だとは思えない身長だが、胡桃と同じような感じだと思えばなんら不思議なことでもなかった。

 そしてもう一つ驚きなのが、隣にいる霞さんも私と同い年であるという事。どう考えても中学二年生には見えないが、ここでこの事を霞さんに言ったらどうなるか分かったものではない。流石に関節技を決められるのは御免だ。

 

「姫様っていうのは何か関係があるの……」

 

 そんな霞さんに向かって気になった事を一つ聞いてみた。それはさっき初美さんが小薪さんの事を姫様と呼んでいた点。普通あだ名だとしても、年下の事を姫様だとは呼ばない。何らかの理由があるのだろうと聞いたところ、小薪さんは本家で、他の皆は分家らしい。あんまり私には本家とか分家とかは馴染みのない話だが、そういう神社とかでは結構重要だったりするのかな。

 というか、本家と分家という事は皆血が繋がっているという事なのか。それもそれで凄い話だと思っていると、初美さんを抱擁していた小薪さんが「あっ、ところで白望さん!」と私に向かってそう言った。

 

「何……」

 

「白望さんって、麻雀とか打たれるんですか?」

 

「まあ……」

 

 私がそう返すと、小薪さんは目を輝かせて「じゃあ、今ちょうど四人いる事ですし、麻雀でもやりませんか?」と私たちに向かってそういった。

 

「小薪ちゃんがそう言うなら、やりましょうか」

 

「予めに言っておきますが姫様、手加減はしませんよー?」

 

 小薪さんに抱擁されていた初美さんが立ち上がり、小薪さんの手を握って別の部屋へ移動を始める。その後をついていく形で私と霞さんが並んで歩く。そして歩いている途中、霞さんが私に向かって前にいる二人に聞こえるか聞こえないかの微妙な声量でこう言った。

 

「白望ちゃん」

 

「……何、霞さん」

 

「さっきの赤木さんの只者ならぬ気配と、あなたが自分の身体の中に宿してる闇を見ても分かったけど、あなた……麻雀はかなりの腕前じゃないかしら?それも、トッププロを凌ぐほどの相当強い部類……」

 

 よく私は強いと言われたりするが、目標が赤木さんである以上、正直今の自分が強いかどうかなど分からない。客観的から見ればそうなのかもしれないが、私からして見ればまだまだ道半ばでしかないのだ。だからこそ、こういう事を言われるとどう返したら良いのか分からないのだ。そう返答に困っている私が答えずに黙っていると、霞さんは少しほど微笑み、「まあ、実際に打ってみないと分からないわね」と言った後、続けて独り言のようにこう言った。

 

「少し前に、小薪ちゃんに麻雀のルールを教えたらハマっちゃってね……」

 

「頑張り屋さんなんだけど、小薪ちゃんあんまり強くないのよね……むしろ弱いくらい」

 

「……手加減しろって事?」

 

 私が霞さんに向かってそう言う。正直な話、手加減するという事はあまり好きではない。常に自分の全てを使って相手と全力で闘う。それが私が求めている、赤木さんが嘗て求めていた『本当の勝負』であり、相手にとっての礼儀であるからだ。残念だが、私はその要求は飲めない……そういう旨を伝えようとしたら、霞さんがまたもや微笑して私にこう言ってきた。

 

「いいえ。むしろ……本気でいかなきゃ潰されるわよ。特にあなたのような強者であれば、小薪ちゃんが猛威を振るうと思うわ」

 

「……どういう事?」

 

 私が霞さんに向かってそう聞くと、霞さんは「まあ、対局が始まってからのお楽しみね。小薪ちゃん次第なところもあるし……」と若干有耶無耶にされたが、とりあえず小薪さんには何かあるという事なのだろう。私はそれを頭の片隅に置いておく事にした。

 そして霞さんが思い出したかのように「ああ、そうだ」と言って私に耳打ちをする。

 

「そういえば、初美ちゃんには気をつけなさいよ。特に『裏鬼門』には」

 

「……ふーん」

 

 警告のようなものを霞さんに言われたが、生憎私には警戒しろと言われたところで関係のない事だ。私は如何なる時でも警戒を怠るような事なんてしない。常に最大規模の警戒をしている。そういう意味で、気をつけろという警告は心配後無用といった感じであった。私は少しばかり皮肉っぽく霞さんに向けて「警告どうも……霞さん」と言った。

 

「……随分と余裕みたいね」

 

 すると私が言った事を皮肉だと察したのか、霞さんは私に向かってそういった。私はあえて何も言わずに黙っていると、霞さんは私に向かってこう言った。

 

「あと、さん付けじゃなくて、呼び捨てで大丈夫よ。私だけじゃなくて、小薪ちゃんや他の皆も」

 

「……そう?」

 

「小薪ちゃんの事を皆が姫様って呼ぶのは昔からだから慣れてるから別にいいんだけど……基本みんなあんまり堅苦しいのは嫌なのよね……」

 

 姫様と呼ばれている小薪さんまで呼び捨てにするのは如何なものかと思ったが、まあそう言われてしまえば従うしかない。

 

「じゃあ呼び捨てで呼ぶ事にするよ……霞」

 

 私は霞に向かってそう言うと、聞こえていたのか小薪さんと初美さんが私のところまでやってきて私に向かってこう言った。

 

「霞ちゃんだけ呼び捨てで呼ばれるなんてズルいですよー」

 

「わ、私の事もそういう感じで呼んで下さい!」

 

「分かったよ……初美、小薪」

 

 そうして会話が終わり、私たちは全自動雀卓のある一室へとやってきた。そして部屋に着いた私たちはまず席決めと親決めを行った。すると北家スタートの初美が、「東一から北家ですよー!」と半ば興奮しながらそう言っていた。

 私は何があったのかは分からなかったが、これが霞の言っていた『裏鬼門』なのか。実際そうなのかは分からなかったが、兎にも角にも東一局が始まった。




次回は麻雀回。
初美ちゃんの裏鬼門……果たしてどうなるのか。

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