お相手はあの方です。
対局中に刀を振り回すあの方です。
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豊音との出会いから少し日が経ち、今世の中はシルバーウィークなるものに直面している。
私はこの休日は家で休むと決めていたが、
【休日を使って旅にでもでるか。】
という赤木さんからの一言によって私は今東京へと旅に出かけている。
【東京にはお前と同じくらい年の雀士がぞろぞろいるだろ】という赤木さんの謎の推察。何だその適当さは。
しかし他の誰でも無い赤木さんの言うことだ。当たるに決まっているだろうという希望が今の私のモチベーションだ。
思ったが私が今まで対局してきた人って赤木さんと出会ってからは赤木さんと矢木だけだ。
私と同じくらいの年の人達の現状を知るのにも良い機会だろう。
新幹線に乗って東京を目指す。
やはり新幹線は速い。あっという間に東京に行く事ができる。
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東京についた私と赤木さんは取り敢えず雀荘に行くことにした。
いくら東京と雖も麻雀ブームには逆らえないらしく、私のような小学生も入れる事ができるし、大人たちも子供を歓迎してくれる。
しかし、真昼間な事もあって雀荘にいるのは二十代以上が大半を占めている。
お目当の私と同年代の子もいなさそうだが、とにかく雀荘で打つことにした。
しばらく経って誰も来なければ次の雀荘に…と完全にハシゴする気だった。
「やっぱり都会は熱いなあ…」
そう呟き三軒目の雀荘へ向かう。
今までの成績は全戦全勝。最初の方は「お嬢さん強いね〜」と大人の風格を出していたおじさん達も次第に余裕が無くなり、挙げ句の果てには3対1になるが、アマチュアの素人如きに負ける訳もなく余裕の1位。
そして三軒目の雀荘に入る。
中の空気は一軒目、二軒目とは明らかに違う張り詰めた空気だった。
それもその筈、ちょうど私と同じくらいの年の少女が無双していたからである。
それだけならまだいいが、異様なのは大人達の表情。
まるで金でも賭けてると言わんばかりの表情だ。というより、どう考えても賭けている。
それに加え少女の隣には黒服が立っている。ボディーガードとはまた違うような感じの黒服が2人ほどいた。
その一見異様な光景に私は恐れもせず少女の対面に座る。
「…お前、今の状況が分かってるのか?」
少女が口を開く。完全に私が場違いなのは知っている。知った上で座っている。
「そりゃそうでしょ…私はお金全然持ってないけど、それでも私と打ってくれる…?」
と私が挑発気味に言って五百円玉を少女の元に投げる。その瞬間黒服たちが身構える。
それをその少女は片手で制し、
「面白いな、お前。名前を聞かせてもらおうか。」
「小瀬川白望」
「小瀬川白望…良い名前だな。私は辻垣内智葉。さっさと始めるか。」
本来なら金がある奴としか打たんがな、お前は特別だと智葉と名乗る少女が言う。
その目付きは矢木と同じかそれ以上の殺気を帯びていた。
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視点:小瀬川白望
東一局 親:黒服A ドラ:{西}
小瀬川 25000
黒服A 25000
辻垣内 25000
黒服B 25000
智葉との闘牌。上家と下家は他の大人達は意気消沈していたので代わりに黒服が入った。
智葉が「3人で協力とかは無いから安心しろ。あくまでも私とお前のサシ勝負だ」と言う。
…別に3対1でも構わないが、と喉まで出てきていたが言ったら黒服に殺されそうなので止めておいた。
東一局。私はラス親。相手の素性が分からない状況でのラス親は正に理想的だ。
早くも自分の好調な流れを予知する。
小瀬川:配牌
{一萬七萬八萬三筒三筒四筒七筒七筒八筒七索南南中}
オタ風の南の対子が目立つが、それを除けば中々な配牌だ。
普通に手を進めていく事もできるし、手が寄れば七対子、果ては四暗刻まで届く融通の利く配牌だ。
肝心な対面の智葉だが、あまり良い配牌では無いらしい。ドスを効かせた目で配牌を睨む。
そして私の第一ツモ。
小瀬川:手牌
{一萬七萬八萬三筒三筒四筒七筒七筒八筒七索南南中} ツモ{六索}
浮き気味な{七索}が早速繋がる。良いツモだ。
私は{六索}を手中に収め、{中}を切る。
その後も好調なツモは続き、4巡目に聴牌する。ムダヅモ一回での聴牌だ。
小瀬川:手牌
{六萬七萬八萬三筒三筒四筒五筒七筒七筒六索七索南南} ツモ{七筒}
{三筒}を切れば{五索、八索}待ち。ツモも好調であるし、リーチをかければ一発ツモに裏ドラが期待できる良形。しかし、
(…違う。そういうベクトルの好調じゃない。)
そう。違うのだ。まるで一本道なのに違う道が隠されていて、そこが正解のルートの様な感じ…
「…ちょいタンマ。いいかな…?」
智葉に『読む』時間を確保するため了承を得ようとする。
彼女は別に気にもとめず
「良いだろう。時間をやろう」
と許可する。
『読む』こと実に25秒強。結論が出る。
私の勘は当たっていた。今の流れは…
(手を高く進める事のできる流れ…!)
ツモってきた{七筒}を切り、聴牌に取らない形になる。
そして次順、{六萬}をツモり、{七筒}を切る。
(この牌が予兆…爆弾に火をつける導火線…)
そう、この牌を機に私は牌をどんどん重ねていく。
次順
ツモ{四筒} 打{七筒}
さらに次順
ツモ{八萬} 打{南}
その後、{五筒}を重ね、{六索}も重ねて張り直す。
小瀬川:手牌
{六萬六萬七萬八萬八萬三筒三筒四筒四筒五筒五筒六索七索} ツモ{六索}
断么九二盃口を聴牌した私は{七索}を横に向け、千点棒を投げて立直を宣言。
その宣言に智葉が嫌な表情を露骨に顔に出す。そりゃあそうだ。私の捨て牌は張り直すまでに{七筒}の暗刻と{南}の対子を落としている。
そのおかげで捨て牌は情報を知る為の意味を成していない。
小瀬川:捨て牌
{中一萬八筒四萬七筒七筒}
{七筒南南横七索}
おまけに待ちは4巡目にツモ切った{四萬}の筋であり、尚且つどうしても意識は{七筒}暗刻{南}対子落としの後の唯一の索子{七索}周辺に向いてしまう。
我ながら相手を惑わす良い迷彩だと思う。
智葉が数秒考えるが、その迷彩に上手く騙され、一発で{七萬}打ち。
「ロン」
小瀬川:和了形
{六萬六萬七萬八萬八萬三筒三筒四筒四筒五筒五筒六索六索} ドラ{西} 裏ドラ{三筒}
「立直一発断么九二盃口ドラドラ。倍満」
智葉が驚いて思わず立ち上がる。偶然振り込んだのではない。意図的に{七萬}を切らせようとしていたと気付いたのであろう。
まあ、気付いたところで和了る前で無いと意味は無いのだが。
そういう点で言えば矢木は智葉より優れている。長年の経験というものだろうか。
「…お前を少々舐めていた。お前、相当な打ち手じゃないか。」
智葉が私に向かって言う。
「そうかい…まあ、ホラ、早く16000。払って。」
私が智葉に点棒をよこせと催促する。
智葉は「フン」と鼻で笑い、倍満分の点棒を私の元に投げ渡す。
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視点:辻垣内 智葉
東二局 親:辻垣内 ドラ{五筒}
小瀬川 41000
黒服A 25000
辻垣内 9000
黒服B 25000
困ったな。ただの馬鹿かと思ったがこの女、相当などころか化物の腕前じゃないか。
私より数段格上とかそういう次元にいない。あの和了だけじゃない。奴の気迫、威圧は正しく人間を超えている。
私が赤色の炎なら、奴は青色の炎…といったところか。
消えない炎だ。いや、消されるのは私の方か…
私よりも遥かに熱さが秘められている。私よりも酸素という圧倒的なナニカが奴にはある。
ふふ…面白いな。
ここの親を最も簡単に流されたら勝ち目は無い。それどころかこの局で決着がつく可能性も否定できない。
今はとにかく連荘で安全圏まで点棒を持ち直す事が先決だ。来いよ化物。人間の強さを見せてやる。
辻垣内:配牌
{三萬三萬四萬一筒五筒六筒九筒一索一索三索五索八索発中}
あれだけ意気込んだはいいが、やはり良くないな。ここまで計算済みか?化物。
取り敢えず発を切るか。この場で役牌が暗刻にはならんだろ。
打{発}
「カン」
小瀬川:手牌
{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {発発横発発}
1巡目で大明槓だと?何が目的…いや、待て。新ドラ…ッ!
ドラ表示牌{四筒四筒} ドラ{五筒五筒}
そういう事か。奴は筒子の染め手に向かうだろう。。仮に{五筒}が1枚でもあるなら発、混一色、ドラドラ。私を殺す満貫手か。
対子、暗刻だったら筒子以外も危険牌だが…
それは無いな。上家の黒服が新ドラを見た時自分の手牌に目を落とした。少なくとも1枚は潰されているのは確実だ。
ツモ牌{六索}
兎にも角にも、奴が聴牌する前に余りそうな{一筒、九筒}はさっさと切らねばな。
打{一筒}
さて、ここから聴牌まで持っていけるか?
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智葉:手牌
{三萬三萬四萬八萬八萬五筒六筒一索二索三索四索五索六索} ツモ{七筒}
ふう…何とか聴牌に持っていけたな。
待ちは{二萬-五萬}待ち。奴から丁度溢れそうな萬子待ちだ。
小瀬川:手牌
{裏裏裏裏裏裏裏} {三筒三筒横三筒} {発発横発発}
小瀬川:捨て牌
{一萬中九索三索北七索}
{六索八萬八筒五萬}
丁度さっき奴は{五萬}を切った。しかしまだ山には残っているし、流石の奴も前順に切った牌を止めるのは容易ではなかろう。
「リーチ」打{三萬}
奴もそろそろ聴牌してそうな気配だが、こちらとて引くわけにもいかんな。こうなったら殴り合いだ。
(捻り潰す…)
私のリーチ宣言を気にもとめず奴がツモる。その時、奴は微笑んだ。この時、奴の微笑みの意味がわからなかったが、数秒後、その意図が分かる。
「カン」
小瀬川:手牌
{裏裏裏裏裏裏裏} {三筒横三筒三筒三筒}{発発横発発}
加カン。そして捲られる新ドラ。どうせ{五筒}が新ドラになると思っていた私はその牌を見て驚愕する。
ドラ表示牌
{四筒四筒五萬}
ドラ
{五筒五筒六萬}
「は?」
{六萬}。{五筒}ではない。よりにもよって{六萬}。何故、萬子が新ドラに。奴の読み違い?それとも嶺上自摸?いや、奴は牌を切った。嶺上開花ではない。
上家の黒服が動揺しながらもツモ切りをする。
そして私のツモ。この時ようやくあの笑みを理解した。
{六萬}
嗚呼。成る程、全部奴の手の内か。
{六萬}を叩きつける。それとほぼ同時に倒される奴の手。
小瀬川:和了形
{六萬二筒二筒二筒東東東}
{三筒横三筒三筒三筒}{発発横発発}
「ロン。東、発、対々和、ドラドラ。」
勝てなかった…いや、勝負にすらなっていなかった。これが小瀬川白望か。これが化物か。
私は暫し卓を眺めていた。こんなにも強い奴がいるとは思わなかった。自分は最上位の方に位置すると思ったが、その上がいるということを知った。思い知らされた。
…いい経験だった。
はい。智葉との対局終わりです。
一応差し馬相手がトンだら終わりにしました。
私の精神が持たないのが主な原因です。