宮守の神域   作:銀一色

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鹿児島編です。


第176話 鹿児島編 ② つぶつぶ

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視点:小瀬川白望

 

(どっかに自動販売機とかないかなあ……)

 

 私が鹿児島に入ってから歩を進めること数分。私は周囲を見渡しながら、どこかに自動販売機がないかを探しながら道を歩いていた。さっき赤木さんが何かを感じ取っていた事についても気になるが、とにかく今は熱中症予防。水分補給が先決であると判断した。

 

(あ……あった)

 

 そう考えていた矢先、私の目に自動販売機らしき赤く塗られた直方体が留まる。私はその直方体に向かって一直線で向かい、それと同時に財布を取り出す。そして自動販売機の目の前まできた私は、その自動販売機が売っている飲み物の異常さに気付いた。

 

(つぶつぶドリアンジュース……?)

 

 そう、自動販売機の中にさも当然の様に鎮座している『つぶつぶドリアンジュース』と表記された缶ジュース。ドリアンのジュースなど聞いた事もない。そもそも、果たしてこのジュースに需要があるのかどうかと問いかけたいほど、意味不明な飲み物であった。

 無論、他はいたって普通の飲み物類が置いてある。有名どころのやつもあるし、私は少しほど苦手だがコーヒーなども置いてある。まあだからこそこの『つぶつぶドリアンジュース』がひときわ目立つ違和感を放っているのだが。

 当然、ここは普通の飲み物を買ったほうが良いだろう。あくまで水分補給がメインとはいえ、飲み慣れている物の方が良いに決まっている。ここで無理に冒険する必要はない。しかし、私はどうしてもその例の『つぶつぶドリアンジュース』が気になって気になって仕方がなかった。

 

(……)

 

 結局、私はその『つぶつぶドリアンジュース』と普通のい◯はすを購入した。本当に好奇心というものは恐ろしすぎる。飲めたものではなかったらどうすればいいのかとしっかりと考える前に自分の体が動いてしまっていたのだ。嵩張るものの、あそこでい◯はすを買ったのは英断であっただろう。もし飲めなかったら私は干からびていたところだった。

 

【……人の事言えた義理じゃねえが、ちゃんと飲めよ】

 

 そんな私を見て赤木さんはそう呟いた。赤木さんは生前ふぐちりやら豪華な料理を少ししか食べてないのに食べ終わったというほどの気紛れであり、食べ物を粗末にしていると言われても仕方のないほどの事をやってのけた事のある人だが、そんな赤木さんに言われてしまえば、もうおしまいであろう。それほど私はさっき愚かな事をしたという事だ。確かにこれで飲めませんでしたでは擁護できないであろう。そもそも水分補給が目的なのにどうしてそんな危険な冒険に出てしまったのか今になって疑問に思う。

 私はそんな自分の愚かさを呪いながら、右手にある『つぶつぶドリアンジュース』を恨めしく睨みつけたあと、歩き始めた。

 

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視点:石戸霞

 

 

「それにしても……本当にこんな探し方でいいんですかー?」

 

 外に出て数分が経とうとしていた時、初美ちゃんはそんな事を私に向かって言ってくる。確かに、この探し方ではラチがあかないものだが、前例がない以上こうして探し回る事しかできないだろう。

 その事を初美ちゃんに伝えると、初美ちゃんは少し渋々とした表情で「まだ課題も残っているというのに……ちゃちゃっと終わらせるですよー」と言った。

 初美ちゃんはあの時感じなかったから分からないのも仕方ない事だが、あの時感じたのは確実に小蒔ちゃんが降ろしてくる九面よりも恐ろしい何か。いや、そもそも全く別の存在であるから一概に上位かどうかは実際に相対しないと分からないが、恐ろしさでは確実にあれのほうが上であった。しかも、たまに小蒔ちゃんが降ろしてくる『恐ろしいもの』よりも。

 

「でも……確実にこの鹿児島内のどこかにはいるはず……」

 

「地道に探すしかない……」

 

 隣にいる巴ちゃんと春ちゃんは渋々と歩く初美ちゃんに向かってそういう。そう、その何かがこの鹿児島内のどこかにいるという事は揺るぎのない事実なのだ。地道ではあるが、その何かがどういったものかすら分からないため下手に放っておくのも危険である。

 

「いざとなったら……御祓も考えなくちゃいけないわね」

 

 私は巴ちゃんの方を向いてそう言う。巴ちゃんも、それを聞いて静かに頷いた。相手が霊的な存在であれば、御祓して成仏してもらうしか他ない。まだ中学生の若造があの強大な何かをちゃんと御祓できるかどうかは不安であったが、そうだとしてもやるしかなかった。それが、私たち巫女の役目なのだから。

 

「あっ……」

 

 そう考えていた矢先、小蒔ちゃんが声を上げて遠くの方を指差していた。私たちはその指の先を見ると、そこにはベンチで座って……いや、どちらかといえばグダッとしており、いつ倒れてもおかしくないようなそんな不安定な座り方をしていた白髪の女の子がいた。もしやあの例の何かを発見したのかと少し緊張の糸を張り巡らせていた私は緊張を緩和して一息つく。他の皆も少しばかりほっとしたような表情をしていた。

 

「姫様……私たちの目的はあくまでも霞ちゃん達が感じた『何か』を見つける事ですよー」

 

「そうですけど……人の助けになる事も巫女の役目ではないでしょうか?」

 

 小蒔ちゃんはそう言ってベンチに座っている白髪の女の子の方へと向かう。私たちはやれやれといった感じで小蒔ちゃんの後を追った。

 

 

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視点:小瀬川白望

 

 

(あ、ベンチ……)

 

 今からちょうど数分前、私が歩いていた最中でちょうど見つけたベンチに座り、私はそこで水分補給を取ろうとしたのだ。

 無論、例に『つぶつぶドリアンジュース』はまだ私の右手の中に存在している。いつまでも持っておくのも嵩張るので、私は意を決してその『つぶつぶドリアンジュース』を飲もうと試みたのであった。……思えばこれが既に間違った選択だったのかもしれない。

 そうして私は缶の『つぶつぶドリアンジュース』を開ける。缶に入っている以上見た目で危ないかどうかの識別は難しい。というか、缶でなくても見ただけで識別は不可能であろうが。

 視覚での識別は不可能となれば、私が次に危険かどうかの識別を行ったのは嗅覚。私は恐る恐る中身の臭いを嗅ぐ。

 

(うわっ……)

 

 私の知識の中でドリアンというものは恐ろしく臭いがするというものであったが、どうやらその知識は間違ってなかったらしい。これでも薄くした方なのかどうかはわからないが、そんな長く嗅いでいられるような臭いではなかった。思わず私は手に持っている缶を自分の鼻から遠ざける。

 

(これを……飲むのか)

 

 私の缶を持つ手が震える。こんなもの、一口でも既にやばそうなのに、全部飲むとなればそれこそ命に関わる問題だ。バラエティー番組で青汁を飲まされる人の気持ち……いや、それ以上の苦しみを知った瞬間であった。

 しかし、開けてしまった以上飲まないという事は許されない。例え命に関わる事だとしても、自分のやってしまった事は自分でどうにかする。自分の意思を曲げる事はできなかった。

 

(……南無三)

 

 そうして私は意を決して缶の中身を口の中に入れる。その結果どうなったかは言うまでもない。当然全部飲みきれるわけもなく、まだ半分は残っているであろう缶を自分の隣のところへ置き、口直しと言わんばかりにい◯はすをまるで砂漠にいる旅人が水を意地でも飲もうとするかのごとく口に含む。しかし、ダメージはいくらい◯はすでも消せなかったようで、死んだような目をして私は缶を少しばかり揺らす。まだまだ質量感のある缶を見ながら、少しばかりいつにも増してグッタリとする私であった。




つぶつぶドリアンジュースェ……
苦しむシロがただ書きたかっただけです。悔いはない(開き直り)

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