宮守の神域   作:銀一色

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佐賀編最終回です。
後半結構展開急ですがそこはご了承ください。


第174話 佐賀編最終回 煽情

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視点:鶴田姫子

 

「うー……」

 

 私は鼻血を止めるべく鼻にティッシュを詰め、バスタオルに身を包み、脱衣室の今もなお涼しい風を人々に提供してくれる扇風機の近くにある椅子に座りながら、私と交代するようにして中に入っていった部長と、その部長の身体を洗う手伝いをしている白望さんを遠くから見つめていた。

 

(まさか白望さんの胸に顔が行くだなんて……)

 

 私はさっきの白望さんの胸の感触を思い出しながら、そんな事を心の中で呟く。別に、故意でやったわけではない。いや、やってみたいという気が全くなかったわけではないが、さっきのは完全な事故だ。

 俗に言うこれが「ぱふぱふ」というやつなのだな。いや、だめだ。これ以上あの事を思い出してしまえば、それこそ鼻血が止まらなくなってしまう。それで出血多量で死亡とか笑い話にすらならない。取り敢えずクールダウンすべきだ。そう心の中で自己暗示し、回る扇風機の羽根をただボーッと眺める。さっきで変な想像はもうやめたため、部長が身体を洗い終える頃には止まってそうだ。そんな事を考えながら、脱衣室で一人孤独にボーッとしている私であった。

 

 

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視点:白水哩

 

 

「背中、洗おうか?」

 

 頭を洗い終えた私は、後ろで立っている白望にそんな事を言われた。そう言われた私は少しほど逡巡し、少しばかり考え始める。

 もちろんやってほしい気はある。というより、やってもらいたい気持ちが十割というほど。

 しかし、私が危惧しているのは私がまた興奮して鼻血を出さないかということと、私の理性を抑えられるかということだ。さっき鼻血が治ったからといって、また鼻血が出ないという保証はないし、今もなお私の目の前にある鏡に反射して裸体の白望がはっきりと見える。当然、立っているため上半身から下半身全てが丸見えだ。だから私は今も鏡を絶対に見ないようにしている。それに、昨日の風呂での一件でさえ、私の理性が失われかけたのだ。次私の理性が吹っ飛ぶかも分からない今、変にボディータッチをさせない方が両者の身の為ではないか。そんな気がしてならなかった。多分今、白望が誘っているわけではなくとも、私の理性を揺さぶるような事をもししてきたら、私は白望を襲ってしまうであろう。それほどまでに、今の私は危険で、不安定な状態なのだ。一種の興奮状態、とでも言うのだろうか。ともかく、今は白望に自分の身体を触らせない方がいい。それが今できる最善策だ。

 

「……哩?」

 

 しかし、そう分かっていても、だ。私はどうしても白望に触れられたい。洗ってほしい。その欲望が抑えきれなかった。暴走、とまではいかなくとも、すでに歯止めが効かない状況にあるのは一目瞭然であった。そういう状態であるというのは理解しているというのに、分かっていても私は断ることはできなかった。

 考える時間が少しほど長かったため白望に少しほど心配されたが、私は自分の欲望に囚われているある意味での狂気の目付きを隠すように、鏡から見ても分からないように私は顔を少しずらして、そして目付きを普通の目付きに戻してから白望に向かって「じゃあ、お願い」と微笑んでそう言った。

 そうして、白望はボディーソープを泡立てて私の背中に触れる。既にシャワーによって温められているはずの私の身体だが、それでも白望の手の温もりははっきりと私の背中に伝わってきた。今、白望は私のために一生懸命自分の背中を洗ってくれている。そう考えると、またも自分の黒い部分が湧き上がってくるかもしれないので、私は少し冷静になるため深呼吸をする。今ここで理性が吹っ飛んでしまえば大変な事になる。何よりこの空間は私と白望だけの空間ではない。他にも客は何人かはいるし、そして姫子もいる。今暴走する事の危険性を再確認して、私は心を落ち着かせる。そしてそんな事を考えていると、白望はシャワーヘッドを持って私の背中を流していた。どうやら変な事を考えているうちに終わっていたらしい。

 

「背中、洗ったよ」

 

 そう言って白望は姫子のいる脱衣室へと向かった。姫子もそろそろ鼻血が治った頃であろう。姫子と白望……私の愛して止まない二人と一緒にお風呂に入れるなど、本当に夢のようだ。もっとこの時間が続けばいいのに、何て事を考えていると姫子と白望が戻ってきた。そして私たちは風呂へと入る。

 

「気持ちいい……」

 

 白望がぐったりとしながら、そんな事を呟く。私も激しく同感だ。やはり自分の家で入るのとではまた違った気持ちよさがある。特に昨日頭しか洗う事のできなかった白望と姫子は尚更のことであろう。

 先ほど冷静になった、とは言ってもまだまだ私は欲望に忠実なようで、今から脱衣室へ戻って着替えるまでの間私の視線が捉えていたのは白望と姫子の裸の姿であった。白望は人を扇情するたわわに実った胸。姫子は白望に比べれば劣るものの、それでも人を欲情させるには十分に魅力のある身体であった。私はそんな二人を見ながら、ここは天国か、それとも楽園か。そんな言葉を何度呟いたことか。

 そして銭湯から出てきた私たちを待っていたのは、別れの時。

 

「……もう、行くのか」

 

 私は目の前にいる白望にそう問いかける。すると白望は真っ直ぐな瞳で、「うん」と答えた。白望の目には、はっきりとした意志があっ。それが言葉と目だけでも十分に伝わってくる。

 そして隣にいる姫子は、白望とメールアドレスを交換する事を申し出た。そうして交換している最中、姫子がどこかうずうずして緊張しているのが確認できた。私はそんな姫子を見て少しばかり笑う。……懐かしい。私も白望とメールアドレスを交換する時は緊張したものだ。まあ、一度それを忘れかけて焦って戻ってきたというポンコツな話はあるが。

 そんな昔の事を考えていると、既にメールアドレスは交換し終えていた。私と姫子は白望に向かって、またこの佐賀に来い。そう告げて白望とは反対方向の道を進んだ。

 次、また白望と会えるのはいつになるのかは分からない。だけど、この二日間は、多分忘れる事のない日になるであろう。そう思える二日間であった。

 

 




次回は恐らく鹿児島編となります。

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