宮守の神域   作:銀一色

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佐賀編です。
内容はタイトルの通りです。


第169話 佐賀編 ⑩ トイレ

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視点:鶴田姫子

 

「ご、ごちそうさまでした……」

 

 部長と白望さんが交互に私にチャーハンを「あーん」するという異様な事態が起こってから更に十数分後、私はようやく自分の分のチャーハンを食べ終えた。私はそう言って少しほど二人から顔をそらす。仕方ない事とはいえ、私も随分ととんでもない事をしてしまったものだ。今更ながらではあるが、自分の起こした行為について恥ずかしくなってくる。穴があったら入りたい気持ちとはまさにこの事を言うのだろう。

 

「じゃあ……哩、よろしく」

 

 隣に座っている白望さんはそんな私の事など気にもとめずに部長に向かってそう言う。……本当に天然誑しだなこの人は。そう思っていると部長は少し顔を赤らめながら、持っていたスプーンで白望さんのチャーハンを掬う。

 

「く……口開けて」

 

 部長がそう言うと、白望さんは素直に口を開ける。そうして部長は白望さんの口へスプーンを入れると、白望さんは口を閉じた。そういえば、あのスプーンは確か私が食べる時に使用していたスプーンではないか?そう思って白望さんのチャーハンが盛られている皿の近くを見ると、そこにはまだ誰にも使われていないスプーンが置いてあった。つまりこれが何を意味するかというと、

 

(これって間接キスなんそいぎ……)

 

 そう、いわゆる間接キスとやらだ。間接とはいえ、キスはキス。そう考えると、私の顔が更に赤くなるのが自分でもわかった。私がそうしている間も、部長は白望さんにどんどんチャーハンを食べさせている。普通に見てて羨ましい。私の右手が使えないから仕方ないとはいえ、これが俗に言う見せつけプレイというやつなのか。昨日までの私だったら絶対に白望さんの事を呪っていただろうが、今は違う。一体この羨みを何処にぶつければいいのか。そして間接キスという新たな重圧によって色々と心情がぐちゃぐちゃしている。なんとも言えない複雑な感じだ。

 

「美味しいよ。哩」

 

「あ、あり……がとう」

 

 そう考えていた矢先に白望さんが部長にそんな事を言う。クソっ、私も部長と白望さんの間に入りたい気持ちが強すぎる。そういった事を感じながら、その後は何事も無く昼食が終了する。

 

「ごちそうさま……」

 

「お粗末様ばい」

 

 そうして昼食を食べ終えた私は椅子から立ち上がり、ソファーへと座る。無論白望さんも一緒に。……というより、白望さんの方が先にソファーへ行こうとしていたのだが。

 そして部長は部長の分のチャーハンを食べ始め、私はテレビをつける。まだ昼時だからか、あまり私の気を惹きつける番組は始まっていなかった。他に何かやっていないのかと私はリモコンを操作していると、急に"アレ"が私にやってきた。

 

(……っ)

 

 私は下半身をもぞもぞさせながら"アレ"を抑えようとする。しかし、"アレ"は収まることが無く、どんどん進行してくる。白望さんにも気付かれたようで、白望さんは私に向かってこう言った。

 

「……姫子、大丈夫?」

 

「ちかーとばっかい……まずいばい」

 

 それを聞いた白望さんは「じゃあ、行こうか」と言って立ち上がる。私は「で、でも……」と言ったが白望さんは「大丈夫……何も見ないよ」と言う。白望さんはそれでいいのかもしれないが、する側はそう言われたとしてもそれどころではないのだが。しかし我慢するにもできないものなので、諦めて私も立ち上がり、トイレへと向かった。

 

 

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視点:鶴田姫子

 

 

 私の"アレ"をどうにかするべく、私と白望さんはトイレのドアの目の前までやってきた。まあ、"アレ"は単刀直入に言えば尿意なのだが。それでも白望さんのいるところで用を足すなど恥ずかしすぎるものだ。手錠の鎖が短いせいで白望さんも部屋内に入らないといけないし、トイレの部屋という狭い空間で二人きりという時点でも既に恥ずかしくてたまらなかった。私はドアを開け、中へと入る。そして便器に座り、スカートの下に穿いているパンツを下げる。一応白望さんは見ないと言っているが、恥ずかしいものは恥ずかしいのだ。当然動作はぎこちなくなる。

 

「……」

 

 ここでふと白望さんの方を見ると、白望さんは言った通り私の方を見ておらず、別の方向を見ていた。まあ当然の事なのだが。

 そうして私は用を足す。別に私のことを見ていない白望さんに気付かれるほど何か大きな恥ずかしい事が起こっているわけでもないのに、私にはどうしてもこれが羞恥プレイにしか感じられなくて仕方なかった。もうこんな思いはしたくないと思ったが、尿意はいつやってくるかは分からない。また私にやってくるかもしれないし、今度は白望さんにくるかもしれない。だからこれっきりという可能性は殆どないと言っていいのだ。

 

(白望さんのトイレ……)

 

 ここで私の思考が一瞬危ない方向に向くが、すぐに我を取り戻す。危ない危ない。私はそんなアブノーマルではない。至って普通、ノーマルである。それよりも何よりも、白望さんでそんな変な妄想をしようとした自分が情けなくて仕方ない。恥ずかしいを通り越して呆れてしまった。

 取り敢えず、私はトイレットペーパーで自分のアソコを拭き、トイレの水を流す。そしてパンツを上げて、白望さんに「もう大丈夫ばい」と告げ、外へと出た。ああ、これを後何度やるのだろうか。ただでさえお風呂という最強の関門があるというのに、こんな感じで大丈夫なのか。先行きを不安にさせる出来事であった。

 

(……あ)

 

 そうしてリビングへ戻ろうとした時、不意に白望さんの表情を見ると少しほど顔を赤くしていた。やはりいくら白望さんともいえども、恥ずかしいものは恥ずかしいのだろう。

 

(ということはそぎゃん見てもなかのに恥ずかしいと思える事ばしてる私って……)

 

 そう自分の中で勝手に解釈して、私はまた顔を赤くするのであった。




次回は恒例お風呂回。
そろそろ佐賀編も終わりですかね

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