蛇足回です。(多分)
設定がいつにも増してガバガバです。
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視点:小瀬川白望
矢木との激闘から一夜明け、私は学校に行っている。
昨日の疲れが残っているが、今日は重大なイベントがある。
そう、宇夫方葵とのデートである。
隣の席の優等生からの警告を受けて、私はもうガクブル状態だった。
刺されるってなんだ。比喩表現ならいいが、物理的だったら私は死ぬじゃないか。
赤木さんに言っても
【女の考えている事は分からねえな…女と触れ合った事なんて数える位しかねえしな。】
案の定である。麻雀というか博打一筋の赤木さんに思春期の乙女の心情など分かるはずもない。
いっそ時間でも止まってくれと願ってもその願いが通じる訳も無く、無情に時間は過ぎ去っていく。
そして最後の授業が終わり、クラスメイトたちが帰る用意をし始める。
担任も所謂「帰りの会」が始まるのを待っている。
自分もランドセルを持ってきて帰宅の用意をしようとしたが、いかんせん教室の空気がおかしい。
私がランドセルまでの道のりを歩いていると、クラスメイトからの同情と哀れみの目が突き刺さってくる。なんだと言うのだ。
と私は疑問に思ったが、その疑問はすぐに解決する。大声で私の名を呼ぶ声。こりゃあ同情もしたくなるわ。
「何…」
私は振り向いてその大声を発する人物に返答する。その人物は勿論宇夫方葵。
「小瀬川さん!約束覚えているよね!放課後、一緒に出掛けましょ!」
目がマジだ。狂気に取り憑かれたみたいに私を揺さぶるな。そして顔を近づけるな。近い近い。
そして気のせいだろうか、クラスメイト達は私達に視線を向けてはくれなくなった。
どれだけヤバイんだこいつは。
「分かった。分かったから…揺さぶらないで…」
宇夫方さんはハッとしたのかすぐに止めてくれた。本当に何なんだこの人は。
そして担任は見て見ぬフリである。このクソ教師が。
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放課後
「さようなら」
この声と同時に私は宇夫方さんに腕を掴まれ学校を出た(引っ張られながら)
その時の宇夫方さんの足の速さは異常だった。小学六年生が出す速さではない。ただでさえ私を引っ張りながらなのに。
何て言ったっけ…オリンピックで三連覇したジャマイカの人は…ああ、ボルトか。
多分ボルトといい勝負をするんじゃないかな。
そんな下らない事を考えている内に既に校門を出て、宇夫方さんは止まっていた。
そういえば何処か出掛けるとか言ったがどこに行くんだろうか。
「宇夫方さん…」
「キャァーー!」と宇夫方さんは叫ぶ。名前を呼んだだけだろうに。
しばらくして宇夫方さんは落ち着きを取り戻してきた。本題に移ろう。
「これからどこ行くの…?」
対する宇夫方さんは自信満々に言う。
「山よ」
「…は?」
つい言葉にしてしまった。山、山だと?
何を言ってんだ宇夫方さん?
「山って、あの山でしょ?」
この上ない間抜けな質問だった。私はアホか。
「そうよ。丁度いいデートスポットを昨日の放課後を使って岩手中を探し回ったのよ。」
「…昨日の放課後で岩手を回ったの?」
「だって…小瀬川さんの為なんだから…」
モジモジするな。乙女のような振る舞いをするな。まず昨日の放課後だけで岩手を回れるほど岩手は小さくないだろ。北海道の次にデカいんだぞ岩手は。
「さ!バス乗るよ!そんな遠くもないから!」
宇夫方さんはウキウキでバス乗り場に歩いていく。まじか宇夫方さん…
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山
バスに乗ること約20分。そこから徒歩五分で山の麓へとついた。
宇夫方さん曰くここから山を少し登ったところに絶景ポイントがあるという。しかし
「ダルい…」
私が山登りなどできる訳がなく、早3分でノックダウンだ。
「もうちょっとで着くけど…休憩しよっか?」
と宇夫方さんは提案する。
無論、私はその案に賛成し、暫し休憩する事にした。
今や開発が進んで森林の減少が問題視されており、こういった場所に来るのは初めてだ。
何処もかしこも緑。一面緑。
自然が奏でるメロディーに包まれながら、こういうのもたまにはいいかもしれないと思った私であった。
…隣に宇夫方さんがいなければ私はこのまま寝ていただろう。
流石に宇夫方さんを置いて寝るわけにもいかないので、頑張って起きている。
宇夫方さんはやはり何処か外れているのか私の話になると目の煌めきが異様になる。
その事が休憩中の会話で分かった。
そうやって私たちが会話していると、何やら鼻歌が聞こえてくる。
「♪〜」
鼻歌はどんどん近づいてきて、私たちの方向に向かって来る。
「…ちょっと鼻歌の人を探してくる。」
「小瀬川さん大丈夫!?私もついていくよ?」
「大丈夫。大丈夫…すぐ戻るから待ってて」
そういって私は宇夫方さんを置いて捜索に入る。
綺麗な音だ。私はその鼻歌に見惚れながらもその音源を探す。
そして人影を見つけた。白いワンピースを着ている少女だった。
それだけなら別にどうって事もないが、問題はその身長である。
遠くから見ても170以上はあるその身長。その身長が異様さを引き立てた。
私はその異様さに戸惑いながらも、その少女に話しかける。
「誰…」
するとその少女は飛び上がって
「わ、わ…!お客さんだよー!」
と明らかに動揺を見せる。何だこの大きい小動物は。可愛い。
「わ、私は姉帯、豊音で、です。」
豊音。豊音と名乗るその少女はどうやら私のような小学生と話すのは珍しい事のようだ。
「小瀬川白望…よろしく。」
私も取り敢えず自己紹介する。こういう礼儀くらい私にも知っている。
「よ、よろしくだよー」
豊音さんが深くお辞儀をする。礼儀がしっかりとしている人だ。
「でもでも…珍しいねー。小瀬川さんは何の用があって来たのー?」
「友達(?)に連れられて来て…絶景があるとか言ってたから…」
その返答に対し豊音さんは首を傾げ
「そんな絶景ポイントは無かったような気がするけどー」
やはり宇夫方さんは嘘をついていたか。私と2人きりになりたいからといってあんな嘘をつくとは…
案外、「刺されるなよ」も本当だったのかもしれない。
私が頭を抱えていると、豊音さんが何かを思いついたらしく、
「この近くに私の住んでいる村があるけどー。小瀬川さんもそのお友達さんと一緒に来れるかなーとかとか…」
豊音さんナイス助け舟。勿論その案を受け入れ、宇夫方さんを連れて豊音さんの住む村へ行く。
しかし、豊音さんの向く方向は山の麓の反対方向。つまり豊音さんの村に行く為には山を登らなくてはならない。
私はダルさを堪え、豊音さんについていく事にした。
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村
(しんど…)
山を登って20分。ようやく辿り着いた。
豊音の村は高齢者が多く、豊音さんは数少ない若者の1人であった。
山を登る途中聞いたのだが、どうやら私達と同い年らしい。それであの身長は凄いな。てっきり年上かと思っていたので、ビックリした。
そして私と宇夫方さんは豊音の家で会話を楽しんでいた。やはり同い年と話した事が無いらしく、しどろもどろだったが、今では普通に話し合っている。
そして夕方になり、帰ろうとした時、豊音が泣いてしまった。
どうやら私たちと別れるのが寂しかったらしい。
そこで私は豊音と携帯番号とメールアドレスを交換した。そうすると豊音は喜んだ。可愛い奴め。
そんな事もあったが、無事帰ってこれた。今日は濃い1日だった。宇夫方さんに巻き込まれた形だったが、こうして友達も増えた。豊音にメールを返信して、私は眠りにつく。
【…ククク。やっぱり年頃の女ってのは分かんねえな。】
…赤木さんには多分一生分からないだろうから、分かろうとしなくても大丈夫だろう。
豊音は高校編になるまであまり出番は少ない設定ですが、書きたい衝動を抑えられませんでした。