宮守の神域   作:銀一色

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佐賀編です。
文章量は多いが雑な事には変わり無い。


第166話 佐賀編 ⑦ 繋がる

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視点:小瀬川白望

 

 

「結局、一回も勝てなかった……」

 

 最後の対局が終わり、私が立ち上がると対局終了時に雀卓に突っ伏した姫子が突っ伏したままそう呟く。それを聞いた哩は笑ってから、姫子に「そりゃあ、あの白望ばい。勝てる方がおかしか」と言って姫子の頭を撫でた。撫でられていた姫子は涙目になりながらも起き上がって「ぶ、部長ー!」と言って哩に抱きつく。そして抱きつかれた哩は姫子に向かってこう言う。

 

「白望ば何度も相手にして、そぎゃんに元気なら上出来ばい。泣く必要なんてなか……」

 

「だって……だって……部長は私より白望さんの方が好いとるんでしょ?」

 

 そう姫子に言い放たれた私と哩は噴き出す。びっくりした。姫子が突然何を言ったかと思えば、哩が私の事を好き……?思わず咳き込んでしまった。

 

「そぎゃん事なかよ……私は姫子も大事だと思ってっと」

 

 私が何か言おうとする前に哩が姫子に向かってそう言う。しかし、姫子は聞く耳を持たずに哩から離れて、哩に向かって「嘘だ!私がさっき言った時部長は満更でもなか表情ばしてた!部長の嘘つき!」と言って部屋を出て行ってしまった。私と哩が呆然と姫子が出て行ったドアの方を見ていると、哩が咳払いをしたあと、私に向かってこう言ってきた。

 

「あー……悪いな、白望。姫子がヤキモチ妬いとるみたいで……」

 

「いや、大丈夫。……姫子が何処に行ったか見当つく?」

 

「……多分、寝室ばい」

 

 私は「分かった」と言って部屋のドアを開ける。哩は「私も行った方がよかか?」と私に向かって言ったが私は「うーん……多分、私一人で十分だと思う」と哩に向かって言う。哩は「……分かった。麻雀牌、片付けておくばい」と言って卓上にある麻雀牌を片付け始めた。私はそんな哩を置いて寝室の方へと向かう。

 そうして私は寝室のドアの前まで来ると、私はドアをノックしてから扉を開ける。扉を開けた向こうには、明かりのついていない暗い部屋の中で蹲っている姫子がいた。

 私は「姫子」と言って蹲る姫子へと近づく。私に呼ばれた姫子は少しほど驚きながら私の方を見た。何か言いたそうな表情をしていたが、私は姫子の近くまで近寄り、蹲る姫子の顔の位置と私の顔の位置が一直線上になるように屈んで姫子にこう言った。

 

「後輩想いの先輩で、よかったね」

 

「え?」

 

 姫子は突然の私の話にびっくりして目を丸くして私の事を見ていたが、私は気にせず話を続ける。

 

「私がこの佐賀県に来る前から、姫子の事は哩から聞かされてた」

 

「それが……」

 

「メールをやり取りしている最中でも、電話をしている最中でも……とにかく哩が中学二年生になってから私と話す時は必ずと言って良いほど、哩は姫子の事を話題に挙げていた」

 

「それも、その時の哩はいつも嬉しそうに話すんだ。……姫子から見た私と哩の関係がどう見えたのかは分からないけど、少なくとも哩は姫子の事を大事に思ってるよ」

 

 そう私が言うと、姫子は再び顔を埋めて下を向く。私は直ぐに姫子が涙を流している事に気づき、姫子の事を抱き締めた。

 

 

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視点:鶴田姫子

 

 

(何で……何でこの人は私にこぎゃんと事……)

 

 私が涙を流している時、白望さんに抱き締められた。私の白望さんに対する敵対心が、完全に一方的な嫉妬であると気付かされた今だからこそ分かる。何で白望さんはそんな一方的な嫉妬をぶつけられていたと言うのに、その私にこんな事をしているのだろう。変な恨みを持たれていたというのに、どうしてこの人は私に優しくできるのだろう。

 そして、どうして私はこの状況を心地良く思っているのだろう。誤解(?)が解けたとはいえ、ほんの数秒前までは目の敵にしていた白望さんを、どうして私は受け入れてしまっているのだろう。そもそも私には部長という存在がいるというのに。どうして、どうして、どうして……何もかも、分からない。分からない事だらけであった。

 

(でも……もうちかーとばっかいだけこのままでもひやかそいぎろか……なんて)

 

「……ん」

 

 そんな事を考えていると、白望さんは何かに気づいたようで私を抱きしめていた手を解いた。そう思っていた直後に解かれた私は少しほどムッとしたが、白望さんは気にせず私の後方にある私のバッグを指差してこう言う。

 

「……なんかバッグの中から出てるけど、あのバッグってもしかして姫子のバッグ?」

 

 そう言って白望さんは私の後方にあるバッグへと向かう。まずい、確か私のバッグの中にはもし白望さんが部長に何かしようとした時用に手錠を持ってきているのだった。別にもうそんな心配は必要なくなったのだが、この状況で白望さんに見られるのは非常にまずい。いや、まだバッグの中から出ているのが手錠とはまだ決まったわけではないが、もし手錠だったら目も当てられない。

 そう思って振り返ってバッグの中から出ているものを確認しようとすると、そこには手錠が置いてあった。部屋の電気がついていないが故に視認するのは難しいが、私の持ち物の中であれほど丸い物は手錠しかない。

 

「見え辛いなあ……」

 

 そう言って白望さんが手錠に手をかけようとした時、私は咄嗟に手錠に向かってダイブした。一瞬躊躇してしまったため既に白望さんは手錠を手に持って「何だこれ?」といった風に見つめている。だが、部屋が暗いためまだ手錠とはバレていない。バレてない事を祈る。そう思って手錠へ飛びつこうとするが、

 

(あっ……)

 

 運が悪い事に、私は飛びつこうとした瞬間、足を滑らせてしまった。足を滑らせた私はノンストップで白望さんの元へと飛んでいく。白望さんも咄嗟に避けれるはずがなく、そのまま衝突してしまった。そして衝突した白望さんは床に尻餅をついてしまい、私は白望さんの上に乗っかる形で倒れる。

 

「いてて……」

 

 そう言って白望さんは起き上がろうとするが、運がいい事に手錠は手の平から無くなっていた。しかし近くには手錠の鎖が見えている。という事はまだ近くにあるという事。急いで捜索しようと立ち上がるが、右手だけ異様に動かなかった。いや、動く事には動くのだが、ある一定の距離以上からは全く動けなかった。私は思いっきり右手を引っ張ると、それと同時に白望さんの手が引っ張られた。

 

(えっ……?)

 

 暫く思考が停止したが、直ぐに私は自分の右手……厳密に言うと右手首から下の部分を見る。するとそこには、私の探していた手錠があった。ただし、私の右手首から下にかけられていた状態で。そうして白望さんの左手首から下を見ると、予想していた通り手錠がかけられていた。そう、もしかしなくても私と白望さんは手錠を通じて繋がれてしまったのだ。よもや、あの衝突が原因で。有り得ない話だが、実際になっているのだから何も言えない。

 

「……何これ、手錠?」

 

 白望さんは疑問そうに白望さん自身にかけられている手錠を見て、私の方を向いた。私は戸惑いながら「えっ、いや……その、あの……」と言い訳を考える。

 その瞬間、私の中で光明が見える。そうだ、この手錠を外せばいいという事に。流石にどんな手錠であろうとも、鍵がない手錠など存在しない。それに私はこの手錠の鍵のありかを知っている。が、

 

(鍵は確か私の机の中……)

 

 そう、ここは部長の家。私の家ではない。あろう事か、私は手錠の鍵を持ってきてはいなかった。再びどうしようか悩んでいる最中、廊下の方から階段を上がってくる音が聞こえた。今この部長の家のいるのは私と白望さんを除けば部長のみ。部長にこんな姿を見られれば、確実に私は危ない人間と認定されてしまう。それに何より自分が持ってきた手錠に自分でかかるという事自体が恥ずかしい。

 

「どうしたら……」

 

 私は白望さんに何か良い案を出してくれないかと思い懇願する。いや、鍵が無い時点でもうどうしようも無いのだが、白望さんならどうにかしてくれるかもしれない。そんな根拠の無い淡い期待を寄せたが、白望さんはただ一言私に向かってこう言った。

 

「……ダルい」




次回も佐賀編。
果たして手錠で繋がれた二人の運命は……?

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