宮守の神域   作:銀一色

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佐賀編です。
文字数低下が著しいですね……


第163話 佐賀編 ④ 狩る側と狩られる側

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視点:神の視点

東二局 親:小瀬川白望 ドラ{④}

 

小瀬川白望 33000

白水哩   25000

鶴田姫子  17000

 

 

 前局、小瀬川白望に三暗刻対々和という珍しい手に振り込んだ鶴田姫子は、心の中で未だに小瀬川白望の手に対して疑問を抱いていた。

 

(……どぎゃん思考ばすればあぎゃん手になる?)

 

 正直な話、それは小瀬川白望にしか分かるはずがなく、考えても答えは出ないのだが、それでも鶴田姫子にとっては難解なものであった。ただでさえ出会った時にあんな威圧を受けているというのに、こんな訳のわからない事をされては溜まったものではない。そうしていつしか鶴田姫子の疑念は、恐怖へと変わっていった。今目の前にいる小瀬川白望は、只者ではないという事を力づくで理解させられた感じがしてならなかった。会う前までは威勢良く叩き潰すだの絶対に勝ってやるなどと思っていた鶴田姫子だが、その威勢も完全に掻き消され、自分は潰す側ではなく、潰される側。狩るものではなく狩られるものであるという事を察した。今の鶴田姫子だからこそ理解できる。自分の愛して止まない白水哩が勝てなかった訳が。

 

(部長……)

 

 そうして鶴田姫子は白水哩の事を見る。いつも通りの平静を保っているかのようにも見えたが、しっかりと彼女の額には汗が噴き出ていた。あの白水哩がこんなにも焦っている姿を見るのも、鶴田姫子は初めてのことだった。絶対的エースであり、自身の目標としていた白水哩が、先ほどの一局だけでこんな状態になる。ますます小瀬川白望という存在の恐ろしさを痛感する。

 

(しかも次は小瀬川さんの親……)

 

 そう、次局……というよりこの局の親はタイミングが悪いことに小瀬川白望。白水哩でさえ小瀬川白望を止めれるかどうかは怪しい。恐らくこのままであれば小瀬川白望が永遠に連荘を続けて終了するであろう。

 

(私が和了らんと……)

 

 気持ちのリセット、とまでは行かずとも鶴田姫子は自分をわずかながらではあるが鼓舞し、配牌を開いていく。

 しかし、配牌を開いた鶴田姫子の顔は晴れない。前局に引き続きさほど良い配牌ではないというのが伺える。鶴田姫子はチラリと小瀬川白望の表情を見ようと小瀬川白望の方に視線を逸らした。

 

(えっ……?)

 

 そうして小瀬川白望の方を見た鶴田姫子は驚愕した。なんと小瀬川白望は点棒を取り出していたのだ。対局中に雀士が点棒を取り出すのは、点棒をやり取りする時か、リーチ宣言をする時かの二パターンである。今回のは後者だ。別にリーチ宣言そのものの行為が驚かれるものではない。ただ、そのスピードが尋常ではないほど疾いのだ。多分通常の人間よりも、何倍も。

 小瀬川白望は点棒を投げて、手牌を曲げて河へと放る。まさかのWリーチ。配牌の時点で聴牌していたという事は、天和だって有り得たという事だ。それほど、今の小瀬川白望の流れは良い。常人からしてみれば、それこそ何年かに一度。いや、それ以上の流れが小瀬川白望を後押ししている。

 

「リーチッ……!」

 

小瀬川白望

打{④}

 

 ドラ切りWリーチ。 もはやどれから驚けばいいのか分からないほど小瀬川白望がこの数秒の間にやった事は大きかったのだ。続いて白水哩のツモ番。白水哩はこの時非常に焦っていた。先ほどまでは表情には出していなかったが、今は一目で焦っていると分かるほど。この状況、何が白水哩にとって恐ろしいかというと、確実な安全牌がないという点だ。ただでさえ捨て牌を見ても全体像が見えない小瀬川白望の手牌にとって唯一の救いは安牌であった。しかし、今は安牌ゼロ。何も手がかりがないこの状況、捨て身で特攻できるほど白水哩は気持ち的に強くはない。

 しかし、今ここでやらねば誰がやるというのだ。小瀬川白望に闘わずしてこの勝負に勝てる訳がない。白水哩は目を閉じて深く息を吐いた。そして白水哩が目を開けたかと思うと、そのまま勢いで手牌にある{9}を切り飛ばした。

 

「……通し」

 

 小瀬川白望はそんな白水哩の方を向いて小さくそう呟いた。どうやら一発で振り込むというのは免れたらしい。そして次の鶴田姫子のツモ番も、意を決して打った{発}も小瀬川白望に通った。

 

(白望のツモ……!)

 

 そうして小瀬川白望のWリーチから一巡が経過し、小瀬川白望のツモ番へと移る。確かに白水哩と鶴田姫子は一発での振り込みは免れたが、ここでツモられてしまえば意味がない。Wリーチに一発ツモ。それだけで四飜が確定してしまう。雀頭に裏ドラが乗ればそれだけで跳満の6000オールとなる。注目の一瞬。小瀬川白望がツモ牌を盲牌すると、少しほどニヤリと笑った。ツモられたか、そう白水哩が思ったが、事態はここから急変する。

 

「……カン」

 

 

小瀬川白望:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {裏中中裏}

 

新ドラ表示牌

{発}

 

 

「「!!」」

 

 小瀬川白望の暗槓が炸裂する。しかも、それだけでなく新ドラが槓した{中}にモロ乗りという異常事態。一発はなかったものの、それを踏まえたとしてもこれで最低でもWリーチドラ4。跳満が確定してしまった。

 

「白望……」

 

 思わず、白水哩は小瀬川白望の名前を呼ぶ。流石小瀬川白望だという称賛の表情と、これはまずいという焦燥の表情が入り混じった複雑な表情で小瀬川白望の事を見る。

 対する小瀬川白望は白水哩の事を見てまたもやニヤリと笑った。まるで白水哩がどう対処してくるのかを楽しみにしているかのような感じで、白水哩に向かってこう言う。

 

「止めれるものなら、止めて見せてよ……哩」

 

 そう言って小瀬川白望は嶺上牌を切り飛ばす。未だツモる事ができていないのか、それとも意図して流れを捻じ曲げてツモらないようにしているのか。それは白水哩には分からないことであったが、白水哩は進むしかない。

 小瀬川白望という、難攻不落の要塞を落とすために。

 

 




次回も佐賀編。
明日はいつにも増して忙しい一日となりそうですが、頑張ります。
無理だったら活動報告で休載をお知らせしたいと思います。

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