宮守の神域   作:銀一色

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佐賀編です。
因みに佐賀弁は変換サイトを利用している部分があるので、正確ではないです。


第161話 佐賀編 ② 宣戦布告

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視点:鶴田姫子

 

 

「どうしたの……哩。顔、赤いよ?」

 

(き、気安く私の部長の名前ば呼ぶな〜!)

 

 これがあの小瀬川白望。はっきり言って、私の目から見た小瀬川白望は常々聞かされている『恐ろしく強い小瀬川白望』には到底見えない。それどころかどこかぼんやりとした表情をしており、小瀬川白望の事を評価している部長には悪いが本当に部長に小学生の頃勝てたのかと疑いたくなるほどだ。

 この小瀬川白望のどこを部長は良く思っているのか。そこが私には分からなかった。しかし、実際に私の横にいる部長は顔を赤らめて小瀬川白望の事を見ている。

 

(一体アレの何がひやかんだか……)

 

 そう思っていると、小瀬川白望が"私の"部長の近くまで近寄る。私の中での緊張が高まる一方で、部長の顔はどんどん赤くなっていく。

 

「熱でもあるんじゃ……」

 

 すると、近くまで寄った小瀬川白望はそう言って部長の前髪を掻き上げ、額に手を当てた。なんという事だ。私は小瀬川白望のまさかの行動にびっくりしすぎて少し時が止まってしまった。

 

「な、なおんしゃれん!大丈夫……!大丈夫……」

 

 部長はそう言っているが、一向に額に当たっている小瀬川白望の手を跳ね除けようとはしなかった。

 

(わ、"私の"部長のおでこば触るなんて……)

 

 日常的に部長にベットリしている私でさえ、部長の首から上のゾーンは触れた事はない。畏れ多くてなかなかできない難題を、この小瀬川白望は最も容易くやってのけた。狙ってやっているのか、それともただの天然なのかは分からないが、どちらにせよ強敵だというのには変わりなかった。

 

「ぶ、部長!」

 

 私は咳払いをしてから部長の事を呼ぶ。それを聞いた部長は我に返り、小瀬川白望は部長の額にある手を退けて、私の事を見る。未だに部長の顔は真っ赤だが、それを差し置いて小瀬川白望は私の近くまで寄ってくる。

 思わず身構えた私だったが、小瀬川白望は手を差し出して私に向かってこう言った。

 

「鶴田……姫子さんだよね?」

 

「は、はい……そうですけど」

 

「私は小瀬川白望。……どう呼んでも構わないから。宜しく」

 

「……鶴田姫子。宜しく、小瀬川さん」

 

 私は渋々自己紹介をして小瀬川さんの手を握った。部長が少し羨ましそうな表情をしているのが横目で見えたが、気のせいという事にしておこう。そうして私は深呼吸をしてから、小瀬川さんに向かって指をさしてこう宣言した。

 

「絶対に勝つ……!覚悟!」

 

「……よく分かんないけど、麻雀でって事?」

 

 小瀬川さんは首を傾げながらそう言う。勿論麻雀でも負ける気などなし。だがそれ以上に恋の勝負も負けられないのだ。小瀬川さんに気があるのかは分からないが、悔しいが断言しよう。部長は確実に小瀬川さんに気がある。だからこそ、麻雀で叩きのめして部長の気を私の方に持ってくるという作戦だ。

 そんな事を私が考えていると、小瀬川さんは微笑してから私に耳元でこう囁いた。

 

「まあ……別に構わないけど」

 

 

 

 

「殺す気で行くよ」

 

 

「ーーッ!?」

 

 そう小瀬川さんに耳打ちされてから、私は息が荒くなり、そして心臓の鼓動が速くなっているのが確認できた。足は震え、体が動かない。なんだというのだ、この感覚は。さっきはこんな威圧感は感じなかった。別人……いや、人ですらない。そんな得体の知れない何かの片鱗に触れたような気がして、少しほど私は硬直した。そして私がようやく動けるようになったのは、部長に声をかけられてからであった。

 

「ん、大丈夫か?姫子」

 

 私は息を整えてから、部長に心配をかけないように平静を装って部長に返答する。

 

「だ、大丈夫ですなたぁー。部長、行きしゅうか。」

 

 そう言って震える足を強引に動かして、私と部長と小瀬川さんの三人で部長の家へと向かった。

 

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視点:小瀬川白望

 

(うーん……ちょっとやりすぎちゃったかな)

 

 個人的にはさっきのはほんの挨拶程度だと思ってやったものであったが、どうやら結構ダメージは大きかったようだ。哩には上手く平静を装っているが、私にはバレバレである。

 まあ、宣戦布告された以上私も全力を持って闘う事には変わりない。そもそも哩がいる時点で、本気を出す事は決まっているのだが。

 

(そういえば、三麻……やった事ないな)

 

 そういったところで、私はまだ三麻というものをやった事がないという事に気づく。ルールは大体は把握しているが、実際にやった事はなかった。大抵赤木さんと打つか若しくは雀荘で四人打ちをするかなので、三麻はした事がなかった。

 まあ、ルールを把握しているのであまり大きい支障はなさそうだが。ハンデにすらならない些細な事であった。

 

「……ここばい。白望」

 

 哩がそう言って玄関のドアを開ける。私は「お邪魔します……」と言って哩の家に上がり込む。普通に広くて、中々快適そうな家だ。そうして哩の部屋らしきところに連れられた私と姫子は、哩が麻雀牌を持ってくるのを待つ。

 

「お待たせ。姫子、しろ……ッ!?」

 

 数十秒後、麻雀牌を持ってきた哩が部屋に入ろうとした瞬間、哩がコケそうになった。私は運良く哩に近い位置にいたため、瞬間的に立ち上がって哩の体を受け止める。麻雀牌が散乱する事もなく、哩も転ぶ事なく無事に事は済んだ。

 

「……大丈夫?」

 

「あ、あり、ありがとう……」

 

 哩は顔を赤くしながら私の腕に体を預けている。姫子が「部長、大丈夫やろか!?」と言うと、哩は体勢を立て直して「お、おう。大丈夫だ」と言い、麻雀牌を取り出す。

 

 

「始めようか。哩、姫子」

 

 私がそう言うと、哩と姫子の二人の表情は一変し、一気に真剣な表情となった。そうして萬子の二萬から八萬を取って、三人一斉に山を作り始めた。

 




次回から麻雀編です。
だから今回の字数の少なさも仕方ない……仕方ない……(涙目)

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