宮守の神域   作:銀一色

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今回から佐賀編です。
姉妹の次はリザべ組か……たまげたなあ……


第160話 佐賀編 ① ライバル

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白水哩宅

視点:神の視点

 

(いよいよ明日、小瀬川が私のところにくる……)

 

 白水哩は自分の家で携帯を持ちながら、少しばかり顔を赤らめる。今日は中学校二年生の一学期最後の日。そして明日から夏休みに突入するのであった。その夏休み初日に、あの意中の人である小瀬川白望が来ると知った白水哩は、喜びと緊張が入り混じった何とも言えない気持ちに耽っていた。

 小瀬川白望が中学生になってから全国各地を転々としているのは他の所謂ライバル達から教えられて知っている。それを聞いたときは小瀬川白望が来たというライバル達の事をひどく羨んだものだ。しかし、今度は違う。今度は白水哩の番であった。先週辺りから小瀬川白望から「夏休み予定空いてる?」と聞かれ、とうとう今日「明日そっちに行くね」というメールが来たのであった。白水哩は佐賀で、小瀬川白望は岩手。東北と九州という超遠距離の関係だが、遂に明日小瀬川白望と会うことができるのだ。電話越しでの声でなく、メール越しの文章ではなく、生の。生の小瀬川白望と会う事ができる。白水哩は非常に明日が楽しみで仕方がなかった。

 

「ぶちょー?何ばしとっとー?」

 

 そんな携帯を持ちながらニヤついている白水哩に向かって、白水哩と同じ生立ヶ里中学に通っている、後輩でありパートナーである鶴田姫子が声をかけてきた。いきなり声をかけられた白水哩はびっくりして携帯を落としそうになりながらも、鶴田姫子に向かってこう言う。

 

「ど、どうした?姫子」

 

「ぶちょーってたまに携帯持ちながらニヤついてますよね……」

 

「そ、そうか?」

 

「あの"小瀬川白望"がこっちに来るんでしょたい?ぶちょーの目ば見れば分かるとばい……」

 

 鶴田姫子が若干ジト目になりながら白水哩に向かってそう言う。因みに鶴田姫子が白水哩の事を「ぶちょー」と呼んでいる理由は簡単で、白水哩はまだ二年生でありながらも部長に抜擢されているからだ。それほど白水哩は強かったのだ。

 まだ鶴田姫子は麻雀部に入って、白水哩と出会って三ヶ月程度しか経ってないが、その短い期間でも鶴田姫子は白水哩が強いという事は十分と思い知らされたし、心から尊敬している。

 そして、鶴田姫子は密かに白水哩に想いを寄せていた。だからこの短い期間の中で、鶴田姫子は白水哩に必死にアプローチを続けていた。その甲斐あってか、こうして家に呼ばれたり何処かへ出掛けるまでの仲になり、今では白水哩のパートナーになることができた。

 だからこそ、鶴田姫子は気に食わなかった。小瀬川白望という存在を。今も尚鶴田姫子に咎められた白水哩は顔を赤くしている。その赤く染まっている顔、それが悔しくて悔しくてしょうがなかった。顔を赤く染めている原因が自分でなく、小瀬川白望であると分かっているから。

 

(部長がニヤつくときはいっつも決まって"小瀬川白望"とメールばやり取りしとっとき……)

 

(それにいっつもその"小瀬川白望"の事ば話すときは嬉しそうにしとっと……)

 

 小瀬川白望が白水哩とどんな関係なのかは分からない。もしかしたら自分より長い付き合いかもしれない。だがそうだとしても、だ。例えどれほど長い付き合いだとしても、どれほど白水哩と仲が良かったとしても、自分と白水哩との絆に勝るものはない。そう信じている。

 しかし、白水哩が鶴田姫子にその"小瀬川白望"の事を話すときはいつも嬉しそうに話すのだ。だから気に食わなかった。自分にもなかなか見せない表情を"小瀬川白望"の事を話しているときに見せるなど。

 

(明日、どっちが部長に相応しいか決めるばい……!)

 

 そうして鶴田姫子は闘志を密かに燃やす。明日、小瀬川白望はこの佐賀県へ、今白水哩と鶴田姫子がいるこの白水哩の家へやってくる。どうやら鶴田姫子にとって憎き小瀬川白望はあろうことか白水哩の家に泊まるらしい。一応鶴田姫子も白水哩にお願いして泊まることとなっている。

 決着は明日。一歩も引けない戦いが始まる。そう思って闘志をギラつかせていた鶴田姫子であった。

 

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小瀬川白望宅

視点:神の視点

 

 

(……鶴田姫子さん、ねえ)

 

 小瀬川白望はまだ夕方にもなっていない昼間だというのに、ベッドの上で寝転んでいた。そうして小瀬川白望はふと鶴田姫子の名前を心の中で呟く。実際に会うのは初めてだが、鶴田姫子の事は小瀬川白望が二年生になってから白水哩に度々聞かされていた。

 鶴田姫子はどうやら一年生にして、あの白水哩も認めるほどの実力者のようだ。その事を知った小瀬川白望は、ますます佐賀県に行く事が楽しみとなっていた。

 しかも、その鶴田姫子は小瀬川白望と同じく明日、白水哩の家に泊まるらしい。

 

(……どれくらい強いんだろうか。まあ……面白くなりそうなのは間違い無さそう……)

 

 小瀬川白望は、ほぼ同時刻に鶴田姫子が自分に対して謎の闘志を燃やしている事も知らずに、そんな事を思っていた。

 

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視点:神の視点

 

 

「ぶちょー!」

 

「何だ?姫子」

 

 鶴田姫子は白水哩に抱きついて、白水哩の事を呼ぶ。抱きつかれた白水哩は携帯電話を近くに置いて、鶴田姫子の事を見た。

 

「部長、明日は頑張るとばい!絶対に勝つ!

 

「お、おう……そうか」

 

 白水哩は謎の鶴田姫子の宣言に戸惑いながらもそう返す。何が原因で躍起になっているのかは白水哩には分からなかったが、まあ恐らく小瀬川白望に勝つという事なのであろう。何故そんなに意気込むのかは分からなかったが。

 

(そいどんが……実際姫子が勝てるかと言われればそれは厳しい……)

 

 白水哩は鶴田姫子にああ返したものの、実際に小瀬川白望に勝てるかと言われれば白水哩は首を素直に縦に振ることはできない。確かに鶴田姫子の実力は白水哩が良く知っている。そしてかなりの強者という事も分かっている。

 だが、それでも尚あの小瀬川白望は規格外の強さなのだ。一昨年の全国大会、白水哩は小瀬川白望の一回戦から決勝まで全ての試合を見てきたが、小瀬川白望だけが一人ズバ抜けていたとしか言いようがない。明日、恐らく小瀬川白望と麻雀を打つとなったら鶴田姫子を入れた三麻となるであろうが、例え三麻であろうとも、白水哩には小瀬川白望が負けるというのは想像できなかった。

 だが、それでは駄目だ。確かに小瀬川白望は最強という言葉で評してもいいくらいの強さを誇る。だが、白水哩にとっての小瀬川白望は意中の人であり、そして目標である。その目標と闘うというのに、今から諦めるようではいけない。

 

(頑張ろう……姫子)

 

 そう白水哩は心の中で呟いた。

 

 

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視点:小瀬川白望

 

 

「おはよう……哩」

 

 そして翌日、私は生まれて初めての飛行機に乗って有明佐賀空港に到着した。到着した私が空港から出ると、恐らく姫子さんであろう人物と哩を発見した。そういえば全国大会の時は苗字で呼んでたっけという事を哩を呼んでから思い出したが、まあ別に問題はないだろう。

 

「よ、ようこそ……佐賀県へ。白望……」

 

 




次回も佐賀編。
因みにこの時点ではまだリザベーションは会得してません。

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