宮守の神域   作:銀一色

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松実編です。


第156話 奈良編 ⑲ 寝込み

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視点:小瀬川白望

 

 

「玄、そろそろ上がろうか」

 

 玄と手を繋ぎながら無言で温泉に浸かる事十数分。そろそろ逆上せそうになってきた私は玄の方を向いてそう言う。それを聞いた玄は私に微笑みながら、「了解です。シロさん」と私の胸ではなく、ちゃんと私の顔を見てそういった。

 そして私と玄は手を繋いだまま温泉から上がり、脱衣所へと戻った。

 

 

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視点:小瀬川白望

 

 

「あ、宥」

 

 温泉から上がってきた私と玄は、脱衣所で着替えて浴衣姿になった。そんな私は玄に連れられて私の部屋へと戻ろうと「松実館」の廊下を歩いている最中、またもや宥と遭遇した。宥は私と玄の事を見つけると、私に向かって「シロちゃん、温泉……気持ち良かった?」と聞いてきた。

 

「まあ……気持ち良かったよ」

 

 私は宥にそう返すと、宥は笑顔で「それは良かった……」と言うと、すぐに忙しそうに廊下を歩いて行った。

 そして私の部屋に戻ってきた私。玄は私をこの部屋に連れてきてくれた後に、「私もお姉ちゃんの手伝い、行ってきます!」と言って何処かへ行ってしまった。

 そうして一人で部屋で寛いでいた私は、さっき温泉に入っていた間に来ていたメールを返信していると、赤木さんにこんなことを言われた。

 

 

【……いつか刺されてもしらねえぞ】

 

「どういう事……?」

 

 結局赤木さんには【さあな。自分で考えろ】と言ってはぐらかされたが、どういう意味なのかは全然分からなかった。刺される?誰に……?そんな疑問を残しながらも、私は早めに寝る事にした。

 

 

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視点:神の視点

 

 

「うう……寒い……」

 

 旅館の手伝いを終えた松実宥は、自分の部屋へと続く廊下を歩きながら、そんな事を呟いていた。現在時刻は夜の11時。極度の寒がりな松実宥でなくとも、暖房のついていない廊下は寒く感じる。それが松実宥なら尚更の事であった。

 彼女は寒さで体を震わせながら、どんどん廊下を歩いていく。風呂にでも入ろうかとも彼女は考えたが、生憎松実宥の部屋とは反対方向に位置する。今から引き返していくほど体温的にも余裕はないので、結局自分の部屋へと行こうとした。

 しかし、ある部屋の前で松実宥の足が止まった。松実宥はその部屋の襖を見つめながら、確かここは小瀬川白望が泊まっている部屋ではなかったかを思い出す。

 

(……シロちゃん)

 

 気がつくと松実宥は小瀬川白望がいる部屋の襖をそっと開けていた。襖を開けた松実宥は部屋へと入り、部屋を見渡した。すると松実宥は小瀬川白望が既に寝ている事に気がついた。

 松実宥は寝ている小瀬川白望の近くまで行くと、松実宥は小瀬川白望の頬をそっと触った。白銀に輝く小瀬川白望の髪が放つ冷たい印象とはまるで正反対に、小瀬川白望の頬は暖かい。松実宥はそんな暖かい小瀬川白望の頬を触るのを止めたかと思えば、そっと寝ている小瀬川白望の隣に入ろうとした。

 

(玄ちゃんには悪いけど……ごめんね。私もシロちゃんと一緒にいたいんだ)

 

 松実宥は自身の妹である松実玄に心の中でそう言いながら、小瀬川白望が寝ている布団の中に入る。

 そう、松実宥は簡単に言えば小瀬川白望に一目惚れしてしまっていたのだ。本人にはまだ気付けてはいないが、松実宥の今の小瀬川白望に対する感情は愛そのものであった。

 しかし、松実宥は知っている。松実玄が小瀬川白望の事を好きであるという事も。松実玄の事を赤ん坊の頃からずっと見てきている松実宥に、それを見抜くのは容易かった。だからこそ松実宥は今の自分の感情に気づいていなかった。いや、気付いてはいけなかった。さっき松実宥はまだ気付けてはいないと言ったが、それには語弊がある。松実宥は気付いているのに、自分で否定していたのだ。まさか松実宥自身もこうなるとは思ってもいなかった。妹が好意を寄せている人物の事を、好きになるなど。

 だが、松実宥は心の中で羨んでいた。自身の妹の事を。さっき松実宥が小瀬川白望と松実玄が一緒に温泉に入ると聞いた時も、あの時は手伝いがあると言って誤魔化したが、本当はそんなに忙しくはなかった。別に松実宥が抜けたとしても、そんなに困るような状況ではなかった。しかし、松実宥はあの時こう思った。小瀬川白望が自分の事ではなく、妹の方を優先するのではないか、と。無論、これは松実宥の勝手な想像であり、松実宥自身も小瀬川白望はそんな事をしないということは重々承知している。しかし、それでも尚松実宥は劣等感を感じられずにはいなかった。

 だからこそ、今こうして松実宥は誰にも分からぬよう小瀬川白望に思いを馳せていた。確かに妹には悪いとは思っている。しかし、自分の感情には逆らえなかったのだ。

 

(シロちゃん……あったかい)

 

 松実宥は横にいる小瀬川白望の事をそっと抱きしめ、体を触れ合わせる。会って初めて握手した時はあったかくはなかったはずなのに、何故今は暖かく感じるのだろうか、と松実宥は自分で疑問に思う。ただ単に小瀬川白望が布団によって温められた、というわけではない。しかし松実宥は結論が出ぬまま、暫しの間小瀬川白望の体を堪能していた。

 そしてそろそろ終わりにしようかと松実宥が布団から出ようとした瞬間、小瀬川白望が松実宥の事を抱き返してきた。

 

「シ……シロちゃん?」

 

 思わず松実宥は小瀬川白望の事を呼ぶが、小瀬川白望からの返答はない。そう、これは小瀬川白望が無意識的にやっている事だった。

 しまった、と松実宥は焦り始める。こんな状態で小瀬川白望や松実玄に見つかってしまえば、自分の小瀬川白望に対する好意がバレてしまう。松実宥は必死に脱出を試みるが、思ったより強い小瀬川白望の力によって脱出しようにもできなかった。

 

(ど、どうしよう……)

 

 松実宥はパニックに陥る。松実宥は、いつも松実玄と同じ部屋で寝ている。松実玄は先に部屋に戻っているが、寝ているかそれとも自分の事を待っているかどうかは分からない。もし後者だとしたら、きっと松実玄は中々部屋に戻ってこない自分の事を探しにくるだろう。それだけはまずい。いや、小瀬川白望にこの状態で起きられるのも十分にまずいのだが、松実玄に見つかるのはその何倍もまずい事であった。

 しかも、例え前者だとしてもこの状態のまま夜が明ければさっき言ったような事が起こりかねない。どちらの場合でもチェックメイトであった。

 しかし、松実宥には今この現状を打破する事ができない。運良く小瀬川白望が自分を抱きしめる腕が解けるのを、待つ事しかできなかった。

 

 

(シロちゃん……早く解いて……)

 

 しかしそんな松実宥の懇願は天には届かず、皮肉にも松実宥が心の底で望んでいたこの背徳的な状態が続く事となった。




宥ちゃんの夜這……ゲフンゲフン。
さあ宥ちゃんはどうなってしまうのか……

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