宮守の神域   作:銀一色

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王者編です。


第153話 奈良編 ⑯ 遅くてもいい

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視点:小瀬川白望

 

 

「え……?」

 

 私は赤木さんの言葉を聞いて目を見開く。『ズレている』……?はっきり言って、赤木さんの言っている意味がわからなかった。何がズレているのか、私には分からない。

 そんな驚きを隠せていない私を無視して、赤木さんは続ける。

 

【……お前、最近やたらと躍起になってないか】

 

「躍起……」

 

【確かに、今のお前では俺にはまだ及ばない。……だが、それはあくまでも()()()()()()というだけの事……お前にはまだ伸び代がある。だから今の時点で俺の境地に達していなくとも、その事に対して一々顔を青くしたり、赤くしたり……そんな必要なんてないのさ。お前にはまだ時間がある。気楽に考えればいい】

 

「で、でも……」

 

【事実なのだからしょうがない。お前はさっき、自分で言っていたな。『勝ちに捉われているんじゃないか』って。確かに俺はその事に対して否定したが、実はお前の今の状態も似たようなもんだ】

 

【……苦しくないか?この際はっきり言ってやろう。お前は今、目標に向かって我武者羅に進もうとばかり考えているせいで、逆に自分の足を止めている……!おかしい話だろ?だが、全て事実だ。……別に焦らずともいいのさ。どんなに遠回りの道を歩いたって、どんなに失敗したって、どんなに俗に言う『まとも』な道から外れたって……構わないんだ。全くもって構わない】

 

【止まるな……!どんなに遅くたって構わない。目標に執着するのも構わない。だが、その目標への執着が焦りを生み、思い煩い止まってしまうこ。これが一番まずい……!……だから歩け、白望。立ち止まる事なく、歩ききってみろ。俺という、『神域』という名の道……!】

 

 私の心が震えているのを感じた。立ち止まるな、前へ進め。確かに、私は赤木さんに追いつく事だけを考えていた。そこまでは全然問題なかった。だが、私はその目標に固執するあまり、焦っていたのだ。

 ……やはり、まだまだ赤木さんには敵わない。私の気づかない心の揺れを、赤木さんは的確に指摘してくれる。私の最大の敵でありながら、最高の師匠だ。

 

「……ありがとう。赤木さん」

 

 そう赤木さんに感謝のお礼を言う。もし、赤木さんに言われなければ、私の時間はずっと止まったままだっただろう。思い返すとひどい本末転倒な事をしていたが、それに気付かなかった自分が少しばかり情けないとも思った。

 そう思っていると、赤木さんは笑いを堪えるように【フフ……】と声を発した。そして赤木さんは私に向かってこう言う。

 

【それにしても、白望……フフ、お前……焦りすぎだ。俺を越えることを目標としているのに、その方法を俺に聞いてどうする……それじゃあお前だけの力で俺を越えた事の証明にはならないだろ……ククク……】

 

「……それは聞かなかったことにして」

 

 

 私は顔を赤くしながら、赤木さんに向かって言う。今思えば的外れすぎて呆れてくるくらいの事を聞いたものだ。いや、その事は既に私は気付いている。赤木さんも私が気付いた事を知っている。だからこそわざと赤木さんは言ってきたのだろう。赤木さんに茶化された私は少しばかり怒りながら、やえの家へと戻った。

 

 

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視点:小走やえ

 

 

「……やえ?」

 

 ガチャ、という音が玄関の方から聞こえてきたと思えば、それに続いて白望の声が聞こえてきた。私はすぐさま玄関の方へと向かうと、そこには外の寒さのせいか、少しほど顔を赤らめた白望が立っていた。いくら昼間とはいえ、冬の外は寒い。私はすぐに白望を中に入れ、炬燵の中へと移動させた。

 

「……それで、大丈夫なのか。白望」

 

 炬燵に入って温まっている白望に、私はそんな事を言った。それに対して白望は「うん……心配かけてごめん」と答えた。

 

「全く……もう私に、あんな表情を見せるなよ」

 

「……うん」

 

「……白望があんな表情になると、わっ、私まで心配してしまうからな」

 

「やえ……」

 

 我ながら結構恥ずかしい事を言ったものだ。私が目線を逸らしていると、白望は炬燵から出て私の元へときた。

 

「っ、!?」

 

 すると、白望は私に向かって抱きついてきた。さっきとは違った困惑が頭の中を埋め尽くす。

 

「し、白望?」

 

「……ありがとう。やえ」

 

 そう言って一層白望の私を抱きしめる手に力がこもった。私は頭に血が上っていくのを感じた。しかも白望は私の腰のあたりを抱きしめているため、しきりに白望の胸が自分の体に当たっているのが感触でわかった。

 確かにこの展開は私にとっても嬉しい展開だ。しかし、それ以上に私は恥ずかしさでたまらなかった。私は白望に向かって「……白望?」と声をかけるが、一向に離そうとはしない。

 

「ごめん……やえ、ちょっと……」

 

 それに加えて、白望は自身の下半身を私の腰のあたりを抱きしめたまま炬燵の中へと入れた。説明はしにくいが、簡単に言うと白望は私の事を半ば抱き枕みたいに抱いて炬燵に入っている。

 

「ちょ、白望?」

 

「こうしてるとダルくないから……少しだけ……」

 

 そう言って白望は両目を閉じた。私は白望の事を起こそうとするが、時既に遅し。白望は夢の世界へと誘われていた。

 

(こっ、こんな状況どうしろっていうんだ!)

 

 私もこのまま寝ようかとも一瞬考えたが、こんな状況で寝れるわけがない。

 結局、私は白望が起きるまで悶々と過ごす事となった。

 

 

 

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視点:小瀬川白望

 

 

「……じゃあね。やえ」

 

「ああ、白望……」

 

 いつの間にか寝ていた私は、起き上がって寝ている間ずっと抱きしめていたままだったやえに謝罪をしてから、私はやえの家を出ることにした。

 今もやえの顔は真っ赤だが、炬燵に入りすぎて逆上せてしまったのだろうか。そんな心配をしながら、荷物を持ってやえの家の玄関で私はやえに挨拶をする。

 

 

「か、貸し一だからな!白望!」

 

 やえは私に向かってそう言う。貸し……何のことかはわからないが、恐らく"ナイン"後の事件の事だろう。確かに何も事情を話さずに家に出て申し訳なかったとは思う。

 私はその事をやえに伝えると、やえは一層顔を赤くしながら「その事じゃない!」と言った。……じゃあ一体何だというのだ。

 私はそんな事を疑問に思いながらも、「またね」とやえに向かって言い、玄関のドアを開けた。

 

 

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視点:小瀬川白望

 

 

(あれ、確かそういえば……)

 

 私はやえの家から出てから、智葉が予約してくれている宿泊場所へと向かっている最中、ふとこんな事を思い出した。

 確かこの奈良で泊まる場所は、近くに智葉の傘下(?)が経営している宿泊施設がないため、普通の一般の旅館に泊まる事になっていたはずだ。それは別にどうでもいい事だ。前にも同じような事があったから、初めての事ではない。

 私が気にかかっているのは宿泊する旅館の名前。薄っすらとしか覚えてなかったが、確か今日泊まる場所は「松実館」というものではなかったか。

 私は今朝出会った私の胸をしきりに気にしてくる女の子の事を頭に浮かべながらその「松実館」へと向かっていると、「松実館」に入ろうとする女の子を見つけた。その女の子は私の事を見つけると、進行方向を変えて私の元へとやってきた。

 

「おや、ナイスなおもちをお持ちのシロさんではありませんか!」

 

 その人物は、今朝出会った松実玄であった。

 

 




まさかの松実編です。
シロと松実姉妹が書きたかったんです。

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