宮守の神域   作:銀一色

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十七歩を強引に終わらせてナイン編に行きます。


第151話 奈良編 ⑭ たった1.3%

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視点:小瀬川白望

 

 

(……悪くはないよ。やえ)

 

 私は山を崩しながらそんな事を心の中でやえに向かって言う。私が悪くはないと評したのは、やえの先ほどの読みである。やえは最後の一牌を打つ時、自分の捨て牌候補の全てが私の和了牌ではないかと推測した。結局流局したが、実はやえの読みは的を得ていたのだ。

 どういう事かというと、本当は私はやえが最後に打った牌の{4}で和了れていたのだった。もっというと、あの時私はやえの読み通り{369、47}の五面待ちであった。

 しかし、私は和了ろうとはしなかった。わざと和了らない事によって、私はやえに"自身の読みが当たっている"ということの確信を与えさせなかった。完全に情報を与えずにこの局を流した。確かに点棒を奪うことができなかったが、やえに確信を与えなかったと考えれば安いものだ。

 真実を知っている者は選べるのだ。知らない者に正直に教えることもできるし、それとは正反対の嘘を教えることもできる。今私がやったように何も教えないこともできる。情報戦という見地から見れば私はこの時点で既にやえに圧勝していた。

 

 

(さあ……そろそろ終わらせようか、やえ)

 

 

 私の宣言通り、次の局で私は大三元{西}待ちををやえに直撃させてこの十七歩を終了させた。テーブルに突っ伏しているやえを見ると、少し大人気がなかったかなとも思ったが、勝負をする以上手を抜く気はないため、仕方ない事であろう。私はやえの頭を撫でて、「じゃあ……"ナイン"、やろうか」と声をかけた。するとやえは突っ伏していた体を起こして、「次は負けない……!」と言った。

 そのやえの言葉を聞いた私は思わず笑みをこぼしてしまった。なるほど、負けない……か。例え次のナインでやえが負けなかったとしても、それはあくまでも勝敗という観点から見ただけの話であって、決して私を上回るものではないのだが。

 

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視点:小走やえ

 

 

 

「先攻と後攻、どっちがいい?」

 

 

 私と白望の手元に残された一筒から九筒までの数牌以外の牌を全て片付けて、白望は私に向かってそう言ってきた。私にはまだこの"ナイン"で先攻と後攻のどちらを選んだ方が優位に立てるのかはまだ分からない。そもそも先攻と後攻で優劣がつくかすら分からないが、とりあえず私は後攻の方を選んだ。

 まあ今まで大袈裟に言ってきたが今のはあくまでも最初の一回目にどっちが先に牌を出すかを決めただけであって、一回ごとに先に牌を出す順番は変わるので、やはり優劣はつかないと思っていいだろう。

 

「これで……」

 

 そんな事を考えていると、白望が手牌の中から牌を一枚伏せたまま切った。随分と切るまでの時間が短い。最初はこっちの出方を伺っているだけなのか、それともこっちが何を考えるかを既に予測しているのか。そこのところは分からないが、考えても結論には至らないだろう。

 

(さあ……この九牌の中から何を切るか……)

 

 私は手牌の九牌を見渡し、何を切るかを思案する。しかし、まだ手牌が制限されていない今、いくらこのゲームが心理戦といっても相手の出す手を読み切る事は不可能だ。

 

(ならば……準最強の八筒で……!)

 

 それならば、と私は{⑧}に手をかける。{⑨}と{⑧}以外なら全ての牌に勝てるこの{⑧}。これはあくまで私の偏見だが、こういう勝負では最初に最弱でもなく、最強でもない中間より強目の牌を選んでくる人間が多い。この勝負なら{⑥⑦}辺りか。白望がその例に漏れないとは思えないが、仮に様子見であった場合その確率は高い。

 故に私は{⑧}を伏せた状態のまま切る。そうして私と白望の目が会うと、言葉も交わさずに私と白望はお互いが切った牌に手をかけ、同時に牌を開いた。

 

「……引き分け、だね」

 

 私が白望の切った牌を確認する前にそう白望が言う。驚いた私が白望の切った牌を見ると、確かの白望は{⑧}を切っていた。引き分け……中間より強目の{⑥⑦}を期待していた私は少し残念に思う。

 

(いや……逆に考えれば、白望の{⑧}を殺したという事じゃないか!)

 

 だがすぐに私は思考を逆転させる。そうだ。私が強気の{⑧}を打っていなかったら、私は白望の{⑧}でやられていた。確かに{⑨}で白望の{⑧}を殺すという理想的な展開とはならなかったが、それでも十分僥倖。

 半ば強引な思考の反転をした私は、次に何を切るかを考える。{⑧}がなくなった以上、{⑨}を除く最強は{⑦}。できる事なら{⑨}で白望の{⑦}に勝ちたいところだ。しかし準最強の{⑧}を切った次の巡にまたもや準最強の{⑦}を切ってくるだろうか。白望が{⑦}を切ってくるという事は、私が{⑤⑥}辺りを切ってくると読んでいるという事だ。こういう時普通なら私は一度{②③④}辺りで様子を見ようとする。

 白望がこちらの考えを読んでくると仮定して考えれば、白望はきっと{⑤}を切ってくるはずだ。ならば私はそれを一番理想的な形で殺す、{⑥}。{⑥}を切った。

 

「さあ、今度は白望の番……!?」

 

 私は白望に今度は白望の番であるという事を伝えようとしたが、それは白望の思わぬ行動によって遮られてしまう。

 なんと白望は、私が切った直後に間髪入れずに切ってきたのだ。ノータイムで。私は自分が考えていた時は白望の事をよく見ていなかっただけで、まだ断定はできないが、本当に考えて打っているのか分からなくなってきた。いや、白望なら私が切ったと同時に思考を働かせほぼノータイムで切る牌を選んだり、私が考えている最中に白望も考えていたりしてそうだが、それでも少しの淀みもなくあんなノータイムで切る事など可能だろうか。

 

(白望は……何を切ったんだ)

 

 私はおそるおそる自分の切った{⑥}を裏返そうと手をかける。しかし私の目線には自分の切った{⑥}の存在などなく、私の目には白望が切った牌しか見えてなかった。

 そうして、私と白望は同時に牌をひっくり返す。それとほぼ同時に白望が切った牌を見て、私は驚愕する。

 

(……六筒)

 

 そう、白望は{⑥}を切っていたのだ。またもや引き分け。この二連続引き分けという異様な事態を目の当たりにして、私はある事に気づく。

 

(もしかして……引き分けになったのは偶然じゃなくて、わざと……?)

 

 信じられない話だが、そう仮定すればある程度辻褄が合ってしまうのだ。二連続引き分けなんて、本気で勝とうと思っている状態の白望がそんな失態を犯すわけがない。様子見、という事でも説明ができそうだが、わざわざ二回も様子を見る必要はない。そもそも、白望なら様子見をしなくとも大丈夫だとは思うが。

 もし、今の二連続引き分けが白望が狙って起こった事だとしたら、白望が目指しているのは、真の意味での引き分け。点数が全て同じで、勝ちもなく、負けもないという事を狙っている。

 だが、それがどんなに無謀であるかという事も私は知っている。今の二連続引き分けの時点でも、単純計算で9×8で72分の1の確率。たったの1.3%である。7回の時点で点数が同じであれば引き分けが決まるとはいえ、仮にそこまで全て引き分けとするならおよそ18万分の1。どう足掻いても不可能だ。

 しかし、今目の前にいる白望ならできるのかもしれない。そんな期待が持てる。だが、皮肉な事に白望と闘っているのは白望に期待を寄せる私。もちろん白望がそんな不可能を可能とする瞬間は見たい。だが、それは私の完全敗北を意味する。勝負する以上、本気でいかねばならない。私はそんな決意を抱いて、またもやほぼノータイムで牌を切った白望を見た。




次回もナイン編!果たしてシロは18万分の1(あくまでやえ目線からであって、シロが真に目指しているのは36万分の1)を引き当てる事ができるのか……!?

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