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視点:小瀬川白望
「"ナイン"と"十七歩"……?」
私の言葉を聞いたやえは頭の上にクエスチョンマークを浮かべたような表情をして私に問いかける。牌を使って説明した方がやりやすいので、私はやえに「麻雀牌……ある?」と言うと、やえは「わ、分かった」と言ってある一室へとやえは入り、数十秒してからやえは麻雀牌を持ってやってくる。
私はその麻雀牌をやえから受け取り、筒子の一筒から九筒の計九牌を二セット取り出した。
「まず"ナイン"は、トランプの『戦争』に近いものなんだけど……」
「厳密には似てるだけで違うんだけどね」と銘打ってからやえに説明を始める。簡単に言ってしまえば、お互いが選んだ一牌を伏せて、同時に開く。それでどちらの数字が大きいかで勝った負けたを決め、数字が大きかった者に自分が出した数字と相手の数字を得点として自分に加算される。ただし引き分けの場合は持ち越しというわけには行かず、そのままゼロとする。それを手牌が無くなるまで繰り返し、どちらが多く点数を取ることができたかを競うだけのゲーム。単純なように見えるが、勝敗は勝ち数ではなく得点数によって決めるため、実際はどれほど勝つかということよりも、どれほど大きい点数を狙えるかというゲームなのだ。これを頭のキレる者同士がやると普通に白熱したりする。
かくいう私も、赤木さんとたまにこの"ナイン"を打ったことはある。……まあ、私は何度もこの"ナイン"によって赤木さんに煮え湯を飲まされたのであまり良い思い出はないのだが、そんな事をいちいち気にしてたら気が持たない。
「まあ、"ナイン"はこんな感じなんだけど……」
やえに一通り上辺だけのルールを伝えると、やえは「なるほど……」と言ってテーブルの上に並べられた一筒から九筒をまじまじと見ていた。
「つまり、これはアレだな。一で九を殺せるかが鍵になってくるってやつだろう?」
「……御名答」
ルール"だけ"を説明しただけなのに、そこに気づくとは流石やえと言ったところであろう。……まあ、私はこのゲームを赤木さんとやる時はそんな事を思ってやってはおらず、他の事を目標としてやっているのだけど。
「じゃあ、次は十七歩なんだけど……」
やえに"ナイン"の説明を終えた私は次に"十七歩"の説明に移る。私は残りの牌を全部取り出して適当にかき混ぜ山を四つ作る。話は少し脱線するが、私はやけに山を作るのが早い。まあその理由ば"十七歩"に限らず、この動作は赤木さんと打っている時に何回もやった動作であるからなのだが。
そうして山を四つ作ると私は目の前にある山を一つ自分に引き寄せて、山を開く。
やえはこの動作を疑問そうに見ていたが、私の説明があるまでは黙って見ていた。
この"十七歩"というゲームは地雷ゲームという別称で呼ばれており、このゲームの最大の特徴としてあげられるのが両者とも聴牌した状態からスタートするという事だ。今開いた一山……つまり三十四牌の中から十三牌を手牌として抜き出すのだ。
そうして両者とも聴牌した状態になれば、先手から次々と手牌に使わなかった残りの二十一牌を選んで河へと置く。そうして和了牌が相手側から出れば、それでロン和了るというゲームだ。因みに十七巡してどちらとも和了ることができなければその局は流局扱いになる。原則としてツモという概念がないため、相手の捨て牌でロン和了るしかない。これが地雷ゲームと呼ばれる所以であったりする。
他にも三十四牌の中から自由に聴牌形を決める事ができるため、満貫縛りが設けられており、その満貫縛りには予め決めておいたドラが入っていても認められたりする。他にも既にリーチの一飜が付与されていたり、ドラを縛りを満たす条件として認めては良いが裏ドラは認めない。満貫切り上げである、振り聴アリ、暗槓や鳴きはなし、ノーテンリーチのチョンボはなしといったルールが存在しており、ただただ単純な地雷ゲームとはワケが違うという事も一つの特徴である事だろうか。
「それで勝敗は……点棒でいいか」
「"いいか"って事は本来は点棒じゃないのか?」
やえが痛いところをついてくる。確かにこの"十七歩"、本来であれば点棒という概念は存在しない。そもそもこれは金を直接賭けたギャンブルであるのだから。まさかやえと金を賭けるという事もできないだろうし、ここだけは仕方なくオリジナルとは違って点棒をやりとりして勝敗を決める事にした。因みにこのゲームは一局精算なのだが、点棒をやりとりする故にそのルールも改正して、何局かやった後に勝負を決める事にした。
しかし点棒にしたことで本来のルールであった跳満なら賭け金を1.5倍に、倍満なら賭け金を2倍、三倍満なら賭け金を3倍、役満なら賭け金を4倍するといった面倒なルールよりも、普通にその和了ったときの点数分渡せばいいだけなので、ほんの少しだけ手間が省けた。
「じゃあ、どっちからやろうか?やえ」
"ナイン"と"十七歩"、二つの説明を終えた私はやえに問う。どちらを先にやろうかという事を。やえは少し考えた後、十七歩の方から先にやろうと言った。当然私は了承して、私とやえが向かい合わせになって、山を一度崩し、再度山を四つ作り直す。
「じゃあ、最初にドラを決めるね」
私はまずやえにそう言ってから、私とやえの目の前にない傍にある山から一牌をひっくり返した。ひっくり返した牌は{3}であり、ドラは{4}になった。
「まあ最初だし、本当は3分なんだけど5分間にしておくよ……」
「私もこの"十七歩"とやらに関してはまだまだニワカ。ありがたく頂戴しておくよ」
そういったやりとりを終えると、私はやえの家にあったアラームをセットする。そうしてセットして私がテーブルの上に置く。それが開始の合図となり、私とやえはほぼ同時にそれぞれの目の前にあった山を開き、自分の手牌を考える。
私は結構この"十七歩"も"ナイン"ではないにしろやった事があるので、普通に慣れていたりする。故に本来のルールである3分よりも早く手牌を完成させ、手牌十三牌を伏せた。
しばらくして時間ギリギリといったところでやえも手牌を決め終えたのか、手牌らしき十三牌を伏せて私の方を見た。
「じゃあ、先手は私が……」
そうして、私は第一打目を放とうとするべく、残った二十一牌の中から一牌を掴んで牌を横に曲げた。別にリーチしている前提のもと行うゲームなのでわざわざリーチと宣言する必要もないのだが、一応点棒も使っているのでそうしておこうと思っただけだ。
「リーチ」
そう宣言して私はリー棒を投げ入れた。
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視点:小走やえ
小瀬川白望:捨て牌
{横7}
(……字牌じゃない?)
私は白望が最初に打った{7}を見て、素直に疑問に思った。この"十七歩"というゲーム、私はあまり知らない。だが、話を聞いただけの情報量でも、最初の字牌連打はこの"十七歩"のテンプレ……揺るぎない鉄則であるはずだと思っていた。字牌暗刻があればそれだけで三巡は安全に凌げるし、そもそも字牌が和了牌になるという場合は国士無双か混一色くらいしかない。そう言った意味でもこの字牌連打は安全策かと思っていたが、白望の第一打目を見る限り違うのか。
それとも、ただ白望のあの山の中に字牌が無かっただけか。その可能性も考えられるが、考えても結論は出てこない。とりあえず自分の思う安全策、字牌連打に身を託すしかない……そういって私は暗刻になっている{北}を掴んで河へと放った。
その瞬間、白望が「ロン」と言って先ほど白望が自分で伏せていた手牌十三牌を私に見えるように倒した。
十七歩のルールですが、よく分からなかった場合は調べれば一発で出ます。それか実際にカイジの十七歩編を見てね!(投げやり)