宮守の神域   作:銀一色

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レジェンド戦です。


第146話 奈良編 ⑨ 過去を捨てろ

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視点:神の視点

東二局 親:新子憧 ドラ{西}

 

小瀬川白望 27700

高鴨穏乃  24300

赤土晴絵  23700

新子憧   24300

 

 

赤土晴絵:手牌

{二三四七八発発} {中中横中} {横白白白}

 

 

新子憧

打{九}

 

 

 (九萬……)

 

 

 新子憧が{九}を放つ。一応、赤土晴絵はこれで和了る事も出来る。ここで和了って、跳満というリードを広げる事も一つの手なのかもしれない。しかし、

 

 (……倒さない)

 

 赤土晴絵は、自身の手牌を倒そうとはしなかった。ここまでやっとの思いで来たというのに、ここで妥協してはいけない。そういった思いが赤土晴絵の頭の中を駆け巡ったからだ。

 しかし、そんな赤土晴絵の妥協なき判断が幸運にも功を奏したのか、直後高鴨穏乃が発声する。

 

 「ポンッ!」

 

高鴨穏乃:手牌

{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {九横九九}

 

 

 一見、この鳴きは赤土晴絵の和了牌を少なくするアンラッキーに見える。しかし、今の赤土晴絵にとってこの鳴きはむしろ僥倖。ラッキーと言わざるを得ない状況下にあった。

 

 (地獄待ち……!)

 

 そう、この鳴きによって{九}は三枚見えた。これが何を意味するかというと、この{九}でのシャボ待ちは消えたということだ。小瀬川白望もこちらの手が大三元が確定していない不完全な手であることは分かっているはずだ。となれば、赤土晴絵の手は{発}か何かのシャボ待ち……そう考える。

 そう考えれば、もし小瀬川白望の手が{九}が溢れ出るような形であったら、出るかもしれない。

 

 (……!)

 

 

八巡目

赤土晴絵:手牌

{二三四七八発発} {中中横中} {横白白白}

ツモ{八}

 

 そして八巡目、赤土晴絵は{八}をツモってくる。これもまた、赤土晴絵に有利な展開となってくるツモであった。

 

 (きた……!)

 

 無論赤土晴絵は{八}切り。そう、他者からしてみれば、少なくとも赤土晴絵に{八}はないという事の証明になる。何故なら、わざわざ大三元にまで手が伸びるシャボ待ちを捨ててまでの{六九}待ちなど、あり得ないからだ。そうなればいくら小瀬川白望と雖も、{九}が零れ落ちる可能性はある。

 

 (……前は、ここでシャボに切り替えた。そして、{発}じゃない方で刺した……)

 

 赤土晴絵はツモってきた{八}を見つめながら、昔の事を思い出す。今当然のようにツモ切ろうとしている赤土晴絵だが、実は赤土晴絵が小鍛冶健夜と打った時はここでシャボ待ちに移行していた。それで結果小鍛冶健夜は{発}ではない方の和了牌を放ち、見逃さず和了った。小鍛冶健夜も役満を狙うために見逃すと思って打っていたため、自分が振り込んだというよりも、赤土晴絵が大三元を捨ててでも和了ってきたことに驚いていた。

 しかし、いくら小鍛冶健夜でさえ振り込んだとは言え、それと同じ作戦が小瀬川白望に通用するとは到底思えない。一の矢、二の矢では到底足りない。故に三の矢、四の矢……それらが必要となってくるのだ。

 

赤土晴絵

打{八}

 

 (さあ……八萬が切られた……どうする)

 

 そうして赤土晴絵は{八}を河へと置く。あとは殴り合い、小瀬川白望が振り込むか、振り込まずに回避するかの勝負だ。それがこの局の全て。……少なくとも、赤土晴絵はそう考えていた。

 しかし、小瀬川白望は違った。まだ、小瀬川白望には切り札がある。まだその切り札を切れる状況は完成していないものの、切れば勝負の行方を左右させる絶対的切り札を。なにもこの局、赤土晴絵が一方的に仕掛けるといった局ではない。それを赤土晴絵は見誤っていた。

 

 

 (ふふ……)

 

 事が起こったのは赤土晴絵が{八}をツモ切った三巡後、小瀬川白望はツモってきた牌を盲牌して、少しばかり笑う。それを見た赤土晴絵は顔を顰めたが、小瀬川白望はそんな事など気にもせずに点棒を取り出す。

 

 「リーチ」

 

 そうしてリーチ棒を投げて、ツモってきた牌をそのまま曲げる。しかし、赤土晴絵の表情は驚愕に変わっていた。リーチ自体に対するものではない。いや、聴牌した事についての驚きは多少はあったものの、それよりも大きい驚きが赤土晴絵の目の前に現れた。

 赤土晴絵はひどく驚いた表情で、小瀬川白望が切ったリーチ宣言牌を見る。

 

 

小瀬川白望

打{発}

 

 {発}。まさかの{発}切りリーチ。{白と中}を既に鳴いて晒してある相手には絶対に切れない{発}を、小瀬川白望はいともあっさりと切り飛ばして見せたのだ。

 しかし、赤土晴絵が驚いていたのはそこではない。驚いているのは、小瀬川白望は既に赤土晴絵の待ちがシャボ待ちではなく、それを囮とした待ちであるという事に気付いているという点だ。確実に気付いている。そうでなければ、牌を切るしかないリーチなど、ましてや{発}切りなんて愚行できやしない。

 何故、気付くことができたのか。赤土晴絵はそこが分からなかった。どうしたら、シャボ待ちを囮とした待ちであるという発想に行き着いたのか。

 しかし、そんな事を考える暇など赤土晴絵にはなかった。ここでさらなる選択を強いられているからであった。

 それは、小瀬川白望が切った牌の{発}を鳴くか否か。しかし、ここで鳴かなくとも既に小瀬川白望に和了牌はどうかは分からないが、少なくともシャボ待ちではないという事は見抜かれている。

 それに、ここで鳴けば小瀬川白望の責任払いが確定する。そうなればツモでも直撃と同じという事になるし、待ちも容易に変える事ができる。

 

 (……鳴くしか、ない……!)

 

 

 「ポン!」

 

赤土晴絵:手牌

{二三四七八} {発横発発} {中中横中} {横白白白}

 

 赤土晴絵は、自身の手中にある{発}を二枚晒して宣言する。小瀬川白望の河の中から{発}を抜き取って、卓の右端へと晒す。そして先ほど赤土晴絵は{八}を切っているので、ここは{八}切りしかない。

 そうして赤土晴絵が{八}を河に置いた瞬間、小瀬川白望が手牌を倒した。

 

 (えっ……?)

 

 

 「ロン」

 

小瀬川白望:和了形

{三三四四五赤五七九赤⑤⑥⑦88}

 

 

 「リーチ一盃口ドラ2……満貫」

 

 

 赤土晴絵の待ち牌であった{九}を使って、尚且つ赤土晴絵が{発}を鳴けば溢れる牌の{八}待ち。赤土晴絵は、これが決して偶然でないと言い切れる自信があった。

 その理由は、小瀬川白望が{発}を切る二巡前からの捨て牌にある。小瀬川白望は二巡前に{7}を捨て、しかも一巡前には{8}を捨てている。あの和了形から推測するに、小瀬川白望は二巡前

 

{三三四四五赤五赤⑤⑥⑦7888}

 

こんな形で聴牌していたはずだ。そこから{九}を引いて、それが和了牌だと悟った小瀬川白望は手中に収め、次巡に{七}をツモって{九}とくっつけたのだろう。

 二巡前には聴牌していたのにその時点ではリーチをかけなかった理由は、おそらく小瀬川白望は分かっていたのだろう。いずれ自分が赤土晴絵の和了牌を引かされるという事に。

 そして{発}をツモ切るとともにリーチをかけてプレッシャーを与え、じっくり考える時間を奪う。つまり、小瀬川白望は赤土晴絵の作戦、策をずっと前から見抜いていたのだろう。少なくとも、赤土晴絵が聴牌した時には。

 

 (……なんて麻雀だ)

 

 赤土晴絵は呆然としたまま小瀬川白望の和了形を見つめていた。足りない。何もかも足りなすぎる。

 そんな事を考えていたら、小瀬川白望は立ち上がってこう言った。

 

 「……終わり。これ以上やっても無意味……」

 

 この場にいる全員がその言葉に驚くが、小瀬川白望は気にも介さずに赤土晴絵に向かってこう言った。

 

 「赤土さん……」

 

 「……なんだ」

 

 「……あなたはどうも過去に固執している。何があったかは流石に分からないけど……でも、少なくとも過去に捉われているままのあなたじゃあ、私には勝てない」

 

 赤土晴絵はドキッ、とする。小瀬川白望に話していないはずの過去に触れられて驚いている。しかし小瀬川白望は気にせずこう続ける。

 

 「人は成功を積みすぎると次第に成功に捉われ、死んだように生きる事になる……私の知り合いの"友"がそうだった。だけど、私は逆もまた同じとも考えている。失敗に捉われ続けても駄目……ということ。現に今、赤土さんは死んでいる……」

 

 

 「だから……もう自分を許してあげなよ。赤土さん……過去を捨てて……」

 

 

 「……っ!!」

 

 

 気がつくと、赤土晴絵は涙を流していた。しかしすぐに拭ったため小瀬川白望以外の人間は気付かなかったが。そして赤土晴絵は震えた声で皆に向かってこう言った。

 

 

 「……今日は、もう終わりだ」

 

 

 いきなりの解散宣言に少し皆は驚いたが、すぐに皆何かを悟ってぞろぞろと退室していった。

 そして部屋には赤土晴絵一人となり、頭の中でさっきの事を思い返していた。

 

 (……さっきのは何だったんだ)

 

 赤土晴絵は、小瀬川白望が自分に話している最中、不思議なものを見た。人影、とでも言うのだろうか。人影らしきものが小瀬川白望の背後にいた。あの時は小瀬川白望が言っていたが、それと同時に、その人影も小瀬川白望と同じ事を言っているような不思議な体験をした。

 結局考えても仕方ないため、赤土晴絵は思考を終了させる。そして携帯電話を取り出して、自分の携帯電話の中にあるカレンダーを確認しながらこう心の中で呟いた。

 

 

 (過去を捨てる……か。小瀬川には申し訳ないが、私にはそんな事はできそうにないかな……)

 

 (でも、乗り越えることならできる……私は過去を捨てずに、乗り越える……!!)

 

 

 この後日赤土晴絵は茨城県に向かったのだが、これはまた別の話。




なんか無理矢理感凄いけどレジェンド戦は終わり!
次回から王者さん編ですかねー

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