宮守の神域   作:銀一色

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レジェンド戦です。


第143話 奈良編 ⑥ 中間の姿勢

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視点:神の視点

東一局 親:赤土晴絵 ドラ{2}

 

小瀬川白望 25000

高鴨穏乃  25000

赤土晴絵  25000

新子憧   25000

 

 

小瀬川白望:手牌

{二③③13469西北北} {横八七九}

 

 

 小瀬川白望の鳴きによって早くも一巡目から場が動く展開となったこの東一局。凡庸で、尚且つ打点どころか聴牌して和了れるかどうかすら怪しい手だというのに、小瀬川白望は自らその選択肢を潰していく。ここから小瀬川白望が和了るには、{西}を重ねるかもしくはチャンタに向かう他ない。言い換えるならば、今の小瀬川白望の鳴きは愚行。そうとしか言い表せなかった。しかし、この行為がただ単なる愚行ではない事は、小瀬川白望が一番よく知っている。無意味に変なことをするほど、小瀬川白望は木偶ではない。

 

 (……一巡目から八萬鳴き?)

 

 そしてその鳴きを見て、当然ながら赤土晴絵は疑問に思う。何故、一巡目から鳴いて仕掛ける必要があったのか。もしや、自分の手牌の中に役牌対子があり、ただ単に行けばスピード勝負では勝てないと踏んだのだろう、と赤土は解釈する。しかし、今の鳴きで有り得る手の形はだいたい絞れた。恐らくはバカ混かチャンタ手。速さを重視するならばその二択が筆頭であろう。

 

 (……となれば、迂闊に萬子や幺九牌は切れない……な)

 

 そう心の中で決心し、赤土晴絵は自分の手牌に視線を落とす。

 

 (とは言っても……)

 

赤土晴絵:手牌

{四七八④赤⑤⑦⑧1225中中}

 

 萬子と幺九牌は切らない。そう決心はしたものの、実際問題この手牌で進めていくうちに切られる定めの萬子と幺九牌の数は少ない。{1}は{2}が対子ではあるが、待ちの時に変則待ちに使える可能性もあるし、{中}はそもそも論外。となれば若干浮き気味の{四}くらいだが、それも{二三四五六}のいずれかをツモってくることができれば溢れる事はないだろう。

 一見して、赤土晴絵の今の状況は盤石。そうとしか言い表せない好調ぶりだ。内心、この好調が罠ではないかと赤土晴絵が思ってしまうほど、上手くことが進んでいる。

 そして次巡、そんな赤土晴絵を後押しするかのように、

 

 (……きた)

 

赤土晴絵:手牌

{四七八④赤⑤⑦⑧1225中中}

ツモ{四}

 

 あっさりと唯一の懸念材料であった{四}がくっつく。最も簡単に。まるで、赤土晴絵の要求に応じて牌が引き寄せられているかのように。

 

打{5}

 

 (ツキが回ってきたのか?)

 

 赤土晴絵の中での不安が、徐々に期待へと高まっていく。己が好調を目の当たりにして、本当にこれが罠であるかと疑問を抱きつつある。

 

 

小瀬川白望:手牌

{二③③13469西北北} {横八七九}

ツモ{北}

 

 その一方で、小瀬川白望の調子はあまり振るわない。{北}が暗刻になりはしたものの、結局{北}はオタ風。好調……とは言い難いであろう。手自体は着々と進んでいるためそこまで不調とも呼べぬが、赤土晴絵と比べれば雲泥の差である。

 しかし、赤土晴絵の好調には既に小瀬川白望は勘付いていた。これは小瀬川白望の経験則だが、麻雀のツキというものはどうやら強大なものに立ち向かう者に対して大きな味方をするようだ。かつて幾度となく小瀬川白望の相手に好調な風が吹き、その度に乗り越えてきた小瀬川白望だから分かる。今の赤土晴絵の好調は、まさにそれだ。

 故に、小瀬川白望は別に今の状況に何の驚きも示さない。むしろ、それに備えた布石を打っているほど。

 

 (私があとやる事はたった一瞬のみ……()()()()()()()()()()()()が、勝負の分かれ目……)

 

 

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 三巡が過ぎ、赤土晴絵の手牌は既に聴牌直前の一向聴となった。

 

赤土晴絵:手牌

{四四七八九③④赤⑤122中中}

 

 {四、2、3、中}。これらのどれかをツモってくる事ができれば聴牌する事が可能だ。この東一局が始まってからまだ四、五巡しか経ってないというのに、もう聴牌間近だ。

 そしてこの時には赤土晴絵は己が自身が好調であるということを徐々に確信し始めている。流石にここまで上手くいけばいくら慎重になってもこれは確信し始めても仕方ないであろう。

 しかし、そんな状態の変化を見逃さないのが小瀬川白望だ。小瀬川白望は、赤土晴絵の些細な表情の変化を感じ取って、タイミングを伺っていた。対局が始まってから小瀬川白望が構えていた一本の矢……それを放つタイミングを。そして今が最も良いタイミング。

 人間が何か勝負をする時の姿勢には、細かく分ける事はできるが大きく分けて攻めの姿勢と守りの姿勢、この二種類に分けられる。守りの姿勢は言わば消極的な姿勢。さっきで言う自分の好調を罠とまで思ってしまう赤土晴絵の状態の事。攻めはその逆。どんな事があろうとも、自分の流れに身をまかせる状態の事を指す。今の赤土晴絵の状態は、言うなればその中間。攻めにも守りにも入れるどちらでもないし、どちらでもある姿勢。小瀬川白望は、この状態に赤土晴絵が陥る事を待っていたのだ。

 確かに、一見攻めにも守りにも入れるのだから隙はないのかもしれない。だが、違った考え方をすればそんな状態で攻めか守りの二択を強いられた時、確実に迷ってしまうということも考えられる。そして人が極限まで迷った時、人は思考を放棄して自分の主観……即ち理に頼ろうとする。それが小瀬川白望の狙い。

 赤土晴絵は、ただでさえトラウマを抱えている。そんな彼女が極限まで迷えば、自ずと守り……消極的な姿勢へと行ってしまうだろう。何人もの思考、理を見抜いてきた小瀬川白望がそう言うのだ。その結果どうなるかはまた別として、赤土晴絵が守りの姿勢に入るということに間違いはないであろう。

 

 そして次巡、新子憧がドラである{2}を放つ。些か危険な牌ではあったが、運が良いことにまだ誰も聴牌しておらず、この{2}が刺さるという事はない。

 しかし、小瀬川白望はこの{2}を待っていた。そう、今。長いこと構えたままであったその弓を、放つ時がやってきた。

 小瀬川白望は、自分の手牌から{13}を晒す。その瞬間赤土晴絵の思考が一瞬止まる。

 

 「チ「ポン!」……」

 

 すんでの差。すんでのところで赤土晴絵が小瀬川白望の発声を遮った。この時、赤土晴絵はこう感じた。『今のを鳴かれてしまえば、小瀬川白望の手が大きく進んでしまう』と。無論それに根拠はあまりなく、自分の長年の理によるものであった。赤土晴絵はとっさの判断によって小瀬川白望の進撃を止めた、と安堵する。

 

赤土晴絵:手牌

{四四七八九③④赤⑤1中中} {22横2}

 

 しかし、あの鳴きによって赤土晴絵の手は聴牌はできるものの片和了りという形になってしまった。{四}では和了れず、{中}でしか和了れなくなってしまう。そう、小瀬川白望はこれが狙いであった。このまま普通に手を進めていれば、赤土晴絵がツモっていただろう。しかし、こうなると話は別。片和了りという制約ができることで、赤土晴絵のチャンスを確実に削った。

 しかし、チャンスを削ったとはいったものの、実質的には赤土晴絵の手はもう死に体と言っても過言ではなかった。

 

小瀬川白望:手牌

{③③134北北北中中} {横八七九}

 

 何故なら、赤土晴絵が唯一和了れる{中}を小瀬川白望は二枚連続でツモって潰していたからであった。赤土晴絵があの時鳴いていなければ、例え{中}を潰したとしても意味はない。こうなることで始めて、{中}潰しが意味を成すのだ。

 赤土晴絵が良かれと思ってやった事が、全て裏目となってしまう。いや……裏目に誘導されてしまったのだ。

 そして、自分で首を絞めたものの依然赤土晴絵の好調は保ったままである。{中}はもうツモれない。ならば赤土晴絵がツモってくるのは必然的に、

 

 

 (な……)

 

 

ツモ{四}

 

 もう一つの和了牌。和了れない和了牌の{四}をツモってくるのは、至極当然の事だ。




次回もレジェンド戦。
今回結構雑感が否めないですね……

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