宮守の神域   作:銀一色

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阿知賀編です。


第139話 奈良編 ② タオル

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視点:小瀬川白望

 

 

 

(阿知賀子供麻雀クラブ……?)

 

 

時刻は少し遡り、阿知賀女子学院の校舎内を散策していた私。一階はあまり変わったようなものや面白そうなものなど、私の目を引くものは無かった。まあ学校に、ましてや冬休みのこの時期になにかがある方がおかしいのだが。

しかし、そう思って二階に上がるとまず私が目にしたのは「阿知賀子供麻雀クラブ」と書かれた看板。その看板から少し上に目線を上げると、「麻雀部」と書かれた看板が天井から吊り下げられている。勝手な推測だが、麻雀部の練習が無い日に部室を借りて子供麻雀クラブをやっているのだろう。

 

(・・・寒い)

 

そんなことを考えていると、徐々に体が冷たくなっているのを感じた。外よりは比較的暖かい校舎内にきたことで忘れていたが私はさっきまで大雨に濡れていたのであった。このままこの状態でいれば、風邪を引いてしまう可能性もあるため、早めに濡れている体をタオルか何かで拭きたい。流石にまだこの奈良県と和歌山県を残した状態で風邪を引くのは非常にダルい事だ。「阿知賀子供麻雀クラブ」の方々にタオルを貸してくれるようお願いをしよう、と思いそのドアに手をかけるが、その瞬間ドアの向こうから何やらオーラを感じた。心から驚愕するほどのものではないにしろ、少なくともそこら辺にいる雀士が放つオーラではないのは確かだ。

 

(・・・)

 

「阿知賀子供麻雀クラブ」という名前から見て、子供達と指導者が和気藹々と麻雀を楽しんでいるような光景を勝手に想像していたのだが、どうやら違うのか。それとも、オーラを発している誰かがその和やかな雰囲気に乱入しているのか。

他にも色々な憶測が頭の中を駆け巡るが、考えていても答えは出るわけがない。それに憶測といってもそれはただの妄想レベルにしか過ぎない。しかも俄然体は冷たいままなので、ここで突っ立っていても何も進まないと悟った私は再びドアを開けようとする。

とりあえず、何がドアの向こう側に待ち受けてもいいように気迫をこめる。ダラけきっている私がいつになく超真剣な表情をしながらドアを開ける。

 

 

そしてドアを最大限まで開いた瞬間、ガッシャーン!!という音が響いた。しかし、私にとって落雷など瑣末な事では無かった。問題なのはあの変なオーラを発している人物。突然やってきた私に対して「何事だ」と言わんばかりに振り向く連中……「阿知賀子供麻雀クラブ」のメンバーを一通り見る。しかし、「阿知賀子供麻雀クラブ」の人たちは一人の大人の女性に、あとは約十人の女の子たち。どうやら、さっき私が最初に「阿知賀子供麻雀クラブ」という名を見て想像していた「子供達が和気藹々と麻雀を楽しむ光景」は強ち間違ってはいなかった。

ただ一人、指導者と思われる一人の大人の女性を除いて。

 

「・・・」

 

私はその大人の女性と目を合わせた。彼女は豪く真剣な表情をしていた。子供達はただただ不思議に私の事を見つめる中で、彼女だけが私の事を睨みつけていたのだ。何か変な誤解でも受けているのかは分からないが、穏やかな雰囲気ではないのは確かなことと、そしてあの変なオーラを放っていたのは彼女であるという事の両方を同時に悟った。

 

 

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視点:赤土晴絵

 

 

(彼女は一体何者なんだ……)

 

ドアを開けた雨に濡れている白髪の少女を、精一杯睨みつける。子供達が彼女の事を一斉に見たからなのかは分からないが、彼女は子供達の事を一人一人目で確認していった。

何をやっているのかは全く分からなかったが、彼女が私以外の全員を見終わった後、彼女は私と目を合わせてきた。私は思わず身構えてしまうが、彼女の瞳は綺麗であった。いきなり何を言っているのか、と思うかもしれないのだが、常人ではあり得ないほど彼女の瞳は限りなく純粋な瞳なのだ。一見虚ろな瞳であるはずなのに、どこか透き通っている。そんな瞳であった。

 

(・・・!?)

 

が、そんな瞳を見つめていると、突然彼女の背中から途轍もなく恐ろしい何かが垣間見えたような気がした。私はひどく驚きながらも幻覚かと思って目を擦るが、幻覚ではないらしい。上手くは言い表わせる事ができないのだが、彼女に引きずり込まれるような錯覚を受けた。言うなればブラックホール。

私は驚愕しながら彼女の方を見る。しかし、目は合わせない。自分の心が弱い故に見えてしまったものなのか、それとも彼女には本当に恐ろしい何かがいるのかは定かではないが、もう一度彼女と目を合わせたら確実に精神が壊される。そんな気がしてならなかった。

辺りに沈黙が訪れる。いや、たった数秒にも満たない時間ではあるが、少なくとも私にはとても長く感じた。

 

「赤土先生、タオル貸りますよ」

 

沈黙を破ったのは私の隣にいた松実玄だった。玄はあの子の異常さに気がついていないのか、何事も無かったかのようにあの子にタオルを貸そうとしていた。というか玄だけでなく、シズも憧、ここにいる私以外は至って普通の表情をしていた。

誰一人としてあの子の異常さに気が付いていない。いや、それとも自分がただ存在しない何かに怯えているだけなのか?少しほど考えてみたが、結論は出ない。とりあえず、あの子は玄達に任せよう。私は心を落ち着かせてから、卓にいる子供達の指導を再開することにした。

 

 

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視点:小瀬川白望

 

 

「タオル、使ってください」

 

大人の女性の横にいた女の子が、女性が手にしていたタオルを手に取り、私へと差し出す。私はそもそも濡れて冷えた体を拭くという名目で来たため、当然断ることなく「ありがとう」と言ってタオルを受け取った。濡れた服をどうにかしたいとも思ったが、ここで脱ぐこともできないので取り敢えず頭をタオルで拭いた。着替えはあるし、いざとなったらどこか別の教室を利用して着替えればいいかな。そんなことを考えていると、私にタオルを渡した女の子が私の胸を見ながら、手の指をいやらしい動きで動かしてこう言った。

 

「お姉ちゃんほどでは無いにしろ、あなたも素晴らしいモノをお持ちで……」

 

・・・胸を見て何を言っているんだと半ば呆れながら頭を拭いていると、その女の子を近くにいたもう一人の女の子がその女の子を止める。

 

「初対面の人に何言ってるの玄!?」

 

「ええ……だって……」

 

そうして彼女は私の方を向いて、私の胸を執拗に見る子と、近くにいるジャージの子を横一列に並ばせてこう言った。

 

「私は新子憧で、そこにいるジャージの子が高鴨穏乃。どっちも小学五年生。それでこの子が松実玄。玄は六年生。」

 

新子さんが代表してそう言う。松実さんの目線は相変わらず私の胸を見ていたが、それはもう気にしないでおこう。高鴨さんはなんでジャージしか着ていないんだろうという疑問はあるが、いちいち気にもしてられないだろう。私も使っていたタオルを首にかけて、新子さん達に自己紹介をした。

 

「小瀬川白望……中学一年生。よろしく」

 

中学生というワードが珍しかったのか新子さん達は「おおー」と言って私の方を見る。私としては早く着替えたいなあとか思っていたが、急がせるのも申し訳ないだろう。すると新子さんが気を遣ってくれたのか、私の方を見てこう言った。

 

「小瀬川さん、着替えとか持ってますか?」

 

私は「ある……」と言うと、新子さんは私の手を握って「じゃあ他の教室で着替えますか」と言って、新子さんと共に教室を出た。その途中松実さんが「じゃあ私も……」と言ったが、新子さんは「シズ、玄を止めといて」と言い、高鴨さんに止めさせた。可哀想だなとも思ったが、まあ自業自得だろう。そうして隣の教室に入ると、「ここで着替えて下さいね」と言って戻っていった。

そして新子さんが出て行ったのを確認して、私は濡れた服を脱いで着替え始めた。

 

 

 

 




前置き長すぎィ!
次回も阿知賀編です。さて誰がシロにオトされるのか……

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