宮守の神域   作:銀一色

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大阪編です。
アンケートは明日まで!照が豊音を追い越しました。


第135話 大阪編 ㉑ 割り箸

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視点:江口セーラ

 

「ちょ、待ちいや!」

 

雀荘を出て行ったシロを走って追いかける。雀荘の出入り口からシロまではそんなに遠くなかったので、ものの数秒でシロの元へ辿り着いた。

そしてオレに続くようにして怜と竜華がやってくる。対するシロは、相変わらず無表情のままこっちを振り返った。しかし、オレたちを見る目つきはいつもの目つきではない。冷徹で、まるで狂気に取り憑かれたかのような目つきをしていた。

 

(・・・っ)

 

思わず、彼女から目を逸らしてしまう。澱んでいるその目が、いつにも増して恐怖を与えてくる。だがしかし、すぐに彼女の目つきは狂気を孕む目つきから正常……とでも言えばいいのだろうか。それともあの狂気の目つきが彼女にとっての正常なのか。それは定かでは無いが、ともかく直ぐに狂気は雲散霧消した。今やその瞳は純粋に透き通っている。

いや……狂気が抜けたにしろ抜けてないにしろ、彼女の瞳は純粋であることに変わりは無いのかもしれない。ただ狂っているか狂っていないかだけで、あの両方ともがありのままの自分なのだろう。

 

「・・・セーラ?」

 

シロがオレに向かって話しかける。いきなり目を逸らして黙りこくってしまったため、シロも対応に困ったのだろう。後ろでは怜と竜華が不思議そうに自分のことを見ているのが分かった。

 

「なんでもあらへん。さ、次行こか」

 

そう言って彼女の事を見る。いつまでも無表情だった彼女の表情が少し笑ったように見えた。内心少しドキッとしてしまうが、そんな感情に浸っている自分の事を怜がバッサリと切るかの如く話し始めた。タイミングが良いのやら悪いのやら……いや、これも怜の優しさなのだろう。オレの俗に言う乙女な感情が似合わないのは自分が良く知っている。

 

「じゃあ……次はウチの家やな。行くで、みんな」

 

そう言って怜は私たちを先導するかの如く歩き出し、自分たちは怜についていくようにして歩き始めた。

 

 

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視点:小瀬川白望

 

 

雀荘でのひと勝負が終わった後、怜の提案で私たちは怜の家に行くことになった。・・・そういえば、そもそも雀荘には四人で打とうということで行ったはずなのに、結局私だけの勝負一回きりで終わってしまったのだが、あれだけでよかったのだろうか。まああの雀荘の雰囲気は怜達にはまだ早すぎたか。早すぎたとかそういうのよりもそもそも触れることの無い世界といった方が良いだろうか。

 

「ここがウチのマンションやで」

 

そう言って大きなマンションの入り口……エントランスまで来たところで怜がそう言った。私はマンションというものはあまり見慣れなく、家と言えば一軒家のイメージしかないので結構新鮮味があった。私たちはエレベーターで怜の家の階層まで行き、あるドアの前まで来ると、怜は鍵を取り出して上にも下にも鍵穴がある二重の鍵を開ける。

 

「我が家へようこそや」

 

 

そうして、彼女はそのドアを開ける。中を見ると流石に一軒家よりは狭いものの、それでも住むには十分すぎるくらいの広さであった。俗に言う高級マンションというものであろうか、中はマンションとは思えないほどとても綺麗で広かった。

 

「お邪魔します……」

 

私はそう言って玄関で靴を脱いで、中へと上がる。そうして怜にある部屋へと案内された。怜は「ちょっと準備してくるわ」と行ってリビングに行き、私とセーラと竜華はその部屋の中で待機することとなった。

 

「お待たせやでー」

 

そう言って怜が扉を開ける。何を準備するのかと思ったら彼女の手には割り箸が握られていた。

ますます何をやるのか分からなくなったが、直ぐに怜が口を開いた。

 

「ファッションショー、しようやあ!」

 

「ファッション……ショー?」

 

そう言う私に対して、怜はロッカーやチェストを開けて中を私たちに見せる。そこには多種多様な服がいっぱい存在していた。何故彼女がこんなにも服を持っているのかは分からないが、成る程たしかにこの量ならファッションショーは可能だ。

 

「じゃあその割り箸……」

 

そう竜華が怜が握っている割り箸を指差しながら言う。怜はいかにもその通りだというような感じで胸を張りながらこう言う。

 

「この中に一本だけ当たりがあるんや。んでそれを引いてしもた人は廊下に出て、引かなかった人がその人の服を考える。そうして決まったら今度は引かなかった3人が廊下に出て、引いた人は中に入って着替えるっていうやつや」

 

成る程……ようはファッションショーというよりはコーディネート大会というのが近いだろう。別に私はそれに反対したりはしない。無論竜華も反対はしないであろう。問題はセーラだ。

 

「ちょ、ちょい!?おかしいやろそれっ!」

 

彼女の服装は俗に言うボーイッシュみたいな感じで、それこそ怜が持っているような服は絶対に着ないであろう人だ。というか、逆か。セーラが着そうな服を怜持っていないだけといった方が正しいであろうか。

まあそれなら反対するのは仕方ない。いくら当たりを引かなければ良いとはいっても、当たる確率は簡単に考えても4分の1。25%である。それを何回も避けるというのは至難の技だろう。一回目は25%だとしても、二回目は43.75%。ほぼほぼ半分の確率だ。それが三回目四回目となれば当たらない方が確率が低くなってくるのである。

色々とセーラにもセーラなりのプライドがあるだろう。かくいう私も今の状況とは全く関係の無い話だが、曲げられないものというものはある。それはさっきの雀荘のことでもそうだ。私はあの時負ければ本気で腕一本無くなっても良いと思っていた。それは私が赤木さんから受け継いだ博徒の性、博徒のプライドというものだ。自分が賭けたものが例えそれこそ自分の命だろうと、曲げるつもりは無い。生き死にの博打というものは、本来そういうものであろう。そもそもそんな覚悟に欠けた人間は自分の腕や命など賭けることはできないだろうが。

 

「ちょい、セーラ。こっち来いや」

 

だが、そんなセーラに向かって怜が手招きする。セーラはしぶしぶ怜の方に向かった。そうして怜がセーラに耳打ちする。何を話しているのかまでは分からなかったが、怜が耳打ちし終わる時には、すでにセーラの顔は真っ赤になっていた。

 

「ええやろ?セーラ」

 

そういって耳打ちをやめた怜がセーラに向かってそういう。対するセーラは、顔を赤くしながら、「せ、せやな……」といって小さく頷いた。一体何を言ったのかは気になるが、まあそれは気にしないでおこう。そうしてセーラは元いた場所に座り、息を呑んで置かれてある割り箸を睨むようにして見る。

 

「じゃあ、一回目行くでー!」

 

そういって怜は割り箸の先を隠すようにして持ち、手でジャラジャラと掻き混ぜる。これでどれが当たりの割り箸かは完全に分からなくなった。

最初は私が引く割り箸を決め、そのあとはセーラ、竜華、最後に怜といった風に決める順番を回していく。しかしまだ割り箸は引いていない。全員が決めた後に一斉に引くというルールだ。まあ、途中で当たりが分かってしまっては興醒めであろうという配慮からだろう。

 

「せーのっ!」

 

そう怜が掛け声をあげて、一斉に割り箸を怜の手から引いていく。私は引いて直ぐに割り箸の先端部分を確認した。当たりの割り箸は先端部分が赤色で塗られていて、見れば一発で分かる。

そうして先端部分を見てみたら、私の割り箸の先は赤く塗られていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回はシロの服決め!
怜がセーラに言ったことはまあなんとなく予想はつくはずです。

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