宮守の神域   作:銀一色

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大阪編です。
アンケートですが、今は豊音と照が同率トップですね。このまま照と豊音に決まるんでしょうか。


第134話 大阪編 ⑳ 倍賭け

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視点:小瀬川白望

 

 

私が親であり尚且つオーラスの南四局。差し馬を握っている対面の男との点差はおよそ18,000で、ノミ手でも私が和了れば私の勝ちである。

 

小瀬川白望:配牌

{一六九②②赤⑤777東西北発中}

 

 

この局の配牌は字牌が多く、手が重い五向聴で打点も望めない。まあこの状況では打点に意味はないのだが、立ち上がりの配牌はあまり良いとは言えない配牌だった。始まりの南一局からほぼ完璧な立ち回りをしていた私の配牌とは思えないほど不調ぶりが伺える。後ろにいる三人も私の配牌を見て少し身構える。まあ完璧な立ち回り、とは銘打ったが実際さっきの南三局は結果的には私の策が実ったものであったが、和了れなかったのもまた事実。配牌が悪くなるのも不思議な話ではないといえよう。

しかし、私にはある予感がしていた。この配牌が持つ可能性。強大な流れの鼓動がこの配牌から聞こえてきたのだ。

 

そうして、私は手牌の一番左にある{一}を掴んですぐさま捨てた。後ろの怜達は字牌などから切らないことに疑問に思っているようだが、私が何故こうしたのかはすぐに分かること。

 

小瀬川白望:手牌

{六九②②赤⑤777東西北発中}

ツモ{西}

 

二巡目、私がツモってきたのは{西}。これで{西}が対子となる。しかしそんな手牌を見ても怜達の顔は晴れない。この状況でのオタ風対子は使い物にならないとでも思っているのだろうけど、実は違う。

 

(むしろこの西は予兆……爆弾の導火線……)

 

そうして今度は{六}を捨てる。その直後、上家が{西}を河へと捨てた。私はさきほど対子となった{西}を晒す。その瞬間後ろの怜達が私を止めようとしたが、私はそれを構わず発声する。

 

「ポン……」

 

小瀬川白望:手牌

{九②②赤⑤777東北発中} {西西横西}

 

打{九}

 

 

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視点:江口セーラ

 

 

(いったい何を考えてるんや……)

 

一見無駄にも見えるオタ風の{西}を鳴いたシロの後ろ姿を見つめながら、オレは思考を巡らせる。勝っているこの状況で重要なのはスピード。なのに何故スピードを殺し手を狭めるオタ風を泣くのかが理解できなかった。

しかし、次巡

 

小瀬川白望:手牌

{②②赤⑤777東北発中} {西西横西}

ツモ{東}

打{赤⑤}

 

今度は{東}をツモってくる。これでまたもや字牌が対子となった。いや、でもこれは結果論。決して{西}を鳴いたから{東}をツモれたというわけではない。そう自分に言い聞かせるものの、その次巡にまたもや

 

小瀬川白望:手牌

{②②777東東北発中} {西西横西}

ツモ{中}

 

(なんちゅうところをツモってくるんや……!?)

 

字牌引き。{中}がこれで対子となる。なんということだ……配牌はあんなにもパッとしない悪印象の配牌が今や一向聴。全てあの意味の分からない{西}鳴きからだった。

流石に二連続となれば信じざるを得ない。そう、あの鳴きこそ予兆。この字牌引きを招いた要因はあの一見無意味な行為。シロはそれを場の流れを読んでやったのだろうが、普通そんなことを読みきったとしても実行に移せる人間などいない。それが自分の腕を賭けていて、まだ勝ちが確定していないこの状況なら尚更のことだ。

 

(これが……小瀬川白望……)

 

オレは驚愕する。シロはオレの全てを上回っていた。たった四局だけではあったが、それを知るにはあまりにも十分すぎた。感度の違い、とでも言うのだろうか。彼女とオレの間には途轍もなく大きい壁が存在していた。無論、彼女が相当強いというのは自分も予め怜と竜華から何度も聞いてきた。あいつらが嘘を言っているとは思っていなかったし、なによりあいつらがそう言うのだから余程強いのだろうと思っていた。だが、そんな中オレは内心その強いと呼ばれている彼女にも勝てるのではないか、と思っていた。実際、彼女と会った時は色々な意味でのアクシデントはあったものの、正直な話まだ自分の方が強いのではないかと思っていた。だが、今はどうだろうか。強いとか勝てるそういうのどころか、まともに闘えるイメージすら湧かない。あんな事をなんの躊躇もなくできるなんて、自分には絶対できない。確かに自分の打ち方というのは高火力で相手を捻じ伏せるというスタイルだ。しかし彼女はそんな力強い打ち方もできれば、繊細で華やかな打ち方もできる。しかも、いずれも数段彼女の方が格上だ。

 

(所詮は……井の中の蛙ってヤツやな)

 

改めて自分の弱さというものを体感させられる。これが大海というものなのか。いや、彼女が特別強いだけなのかもしれないが、それでもオレにとって彼女の存在は強烈すぎた。もし、どうだろうか?今は彼女を後ろから見ているだけだが、いざ自分が彼女のような雀士と相対した時、自分は果たしてまとも闘えることができるだろうか?はっきり言って、無理だ。今のままでは勝てるどころか勝負にすらならない。しかし、それはあくまでも今のままでは、だ。自分の力は今のままでは終わっていない。まだ、伸び代は幾らでもある。

高く高く聳える山。いつかは乗り越えなければいけない山。その山の存在を知れただけでも、大きな成長といえよう。

 

「ツモ……」

 

小瀬川白望:和了形

{②②777東東中中中} {西西横西}

ツモ{東}

 

 

そんな事を考えている内に、シロは既に聴牌していてツモり和了って勝負を終了せしめた。兎にも角にもこれで終わり。心臓に悪い腕を賭けた麻雀もこれで終わりだ。隣にいるおじさんは喜び、シロに駆け寄る。ヤクザっぽい男の人たちは完全に脱力していて、目は虚ろである。まあ、あんな麻雀されたらそんな感じになるのも仕方のない事なのだが。かくいうオレも、怜と竜華と抱き合いながらシロの勝利を喜ぶ。

 

「じゃあこの金は貰っていくよ。お嬢さん、ありがとうね」

 

そういっておじさんは金の入った紙袋に手をかけようとする。一瞬報酬とかは貰えないのか、と思ったが、あんな大金貰っても困るだけか。

 

「・・・足りない」

 

だが、そんな私たちの思考を打った切るような発言が放たれる。その音源は言うまでもなくシロから。

 

「た、足りない?何がや、シロさん……?」

 

竜華がシロに向かってそう言う。そうだ。これ以上に何が足りないというのだ。もう勝負は終わったはずだろう。

 

「まだ終わってない。今の勝ち分1000万とおじさんが持っている1000万、合わせて2000万のサシ勝負をもう一半荘……」

 

「も、もう一半荘?」

 

バカな。何を言っているのだ。今の勝ち分を上乗せしてさらに勝負をしようというのか。

その言葉に、ヤクザの男も驚いたような声でシロに向かって言う。

 

「おいおい……もうこっちは金がねえんだ。もう勝負は終わ……」

 

だが、そんな声を遮ってシロは椅子から立ち上がり、ヤクザの頭を掴む。

 

「賭けるんだよ……あなたも腕を一本……でも安心して。当然、私も腕を賭けるからさ……」

 

 

「ヒッ……」

 

 

 

狂っている。さっきまで自分はシロの事をただただ麻雀が恐ろしいほど強いだけであると思っていたが、そもそもの感覚が違う。自分の命をも投げ捨てても構わないという狂った感覚。もはやそれは人間ではない。狂人……いや、それすらも超越した狂った何か。

思わずゾッとしてしまう。ヤクザの肩を持つわけではないが、そんな事をして何になるというのだ。それこそ、それで負けたらただの無駄死にでは……

 

「無駄でいい……そのくらいでいいんだよ。セーラ」

 

そんな自分の心の内を読んだのか、振り返らずにシロはそういった。

すると、そんなシロの恐ろしさにあてられたのか、ヤクザたちは腰を抜かしながら雀荘を飛び出していった。つまり、倍賭けしてもう一半荘という事は無くなったのだ。その事実に安堵する。99.9%勝つであろうという麻雀でも、万が一という場合もある。

 

「・・・」

 

だが、そんなシロの表情はただただ無表情のままだった。何も感じていなかった。

何故何も感じていないのか、ここは嬉しく思うべきではないのか。

 

 

「・・・行こうか。みんな」

 

彼女はそう言って、雀荘を出た。自分ら三人はそんな彼女を呆然と見ながら、彼女の後に続くようにして雀荘を後にした。

 

 

 




今回雑ですねー!
今日は激しい頭痛の中書いたので、少しくらい大目に見てください。

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