宮守の神域   作:銀一色

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麻雀回です。
アンケートもよろしくお願いします。


第132話 大阪編 ⑱ 脅し?

 

 

 

 

 

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視点:小瀬川白望

 

 

「ほ……本当かい!?お嬢ちゃん!?」

 

カモられていたおじさんがそう言って立ち上がり、私の肩を掴む。最初は驚いていたが、私の「必ず勝つ」という言葉によって目の色が変わった。いくら「必ず」と言ったとはいえ、こんな中学生のしかも女の子に賭け事の代打ちをさせようとよく思ったものだ。多分、そういうことすら考慮できないほど切羽詰っていたのだろう。藁にもすがる思い……とはちょっと違うかな。

 

「オイオイ……ガキが首出していい麻雀じゃねえんだ。分かってんのか?」

 

すると、カモられていたおじさんの対面に座るガラの悪い男の人が私に向かってそう言った。チンピラ、とは違うな。ヤクザの人なのだろうが、智葉のとこの黒服やお偉いさんを見てきた私からしてみれば、ただの男の人に過ぎなかった。所詮はイカサマ麻雀。オーラがまるで感じられないし、サマなしならセーラが打っても余裕で勝てそうなほどだ。

そんなことを考えていたら、男の人は紙袋を取り出して卓の隣にあるテーブルに置く。中には大量の札束が入っていて、それだけ大勝負をしていたのだろうと思う。

 

「1000万……これが今賭けてる金額だ。どうだ?お前に被害がないからそう言えるんだろうが、そこにいる兄ちゃんは命賭けてるようなもんなんだよ」

 

そう言って私のことを脅そうとする。しかし、私は少し笑ってみせた。男の人をはじめとしたこの場にいる全員が私のことを不思議そうに見ている。私は人差し指を立て、男の人に見せるように前に突き出す。

 

「一本」

 

私はそう言った。しかし、男の人は理解できていないようだった。わざわざ説明するのもダルいなあ……そう思いながら私は口を開く。

 

「腕一本……私がもし負けたら腕一本あげるよ」

 

そう言うと、後ろにいる怜たちやカモられていたおじさんがぎょっとして私の方を見る。しかしここで意外だったのが、目の前にいる男の人も驚いていたということだ。赤木さんの頃は腕やら指やらよく賭けてたとか言うけど、今はそういう「オトシマエ」とかは無いものなのかな。

 

「ちょ、シロさん!?何言ってはるんですか!」

 

竜華がそう言って私の腕を掴む。別に腕一本といったのはあくまで自分の覚悟とやらをお三方に示しただけの道具なのだが。まあ万が一負けたら腕一本切り落とすけど、別に負ける気などさらさら無い。

 

 

「い、いいんだな?それで」

 

男の人が少し声を震わせながら、私に向かってそう言う。すごんではいるものの、声が震えているせいで全く脅しにもなりやしない。虚仮威し以前の問題だ。

 

「当然……」

 

そう言ってカモられていたおじさんを椅子から立たせようと目線で促す。おじさんはなすがままに立ち上がり、私が椅子に座るのをただただ見ていた。無論、あまりの衝撃の大きさに怜たちは私を止めることができない。いやむしろ止めようとしたけど何も言葉が出なかったという方が正しいだろうか。まあ止めようとしたところで私が下りるわけも無いのだが。

そうして椅子に座り、点棒を確認する。25,000点開始で現在の点棒が4,000とちょっと。こんな点数じゃ切羽詰まるのも仕方ないものか。

 

「今は何局目?」

 

おじさんの方を見て私はそう質問する。おじさんは一瞬驚いていたが、すぐに私の質問に答えてくれた。

 

「な、南一局に入るところ。お嬢ちゃんはラス親……」

 

なんだ。まだあと四局も残ってるし、そして親番まで残っているとは。そしてトップはやはり対面の男で、点差は3万とちょっと。一応サシ勝負という事にはなっているが、まあ実質三対一な事には変わらないだろう。

 

 

(始めようか……)

 

 

 

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小瀬川白望:配牌

{一一一四四五②②⑧⑨268}

 

 

(暗刻に対子が二つ……ねえ)

 

まず初めの南一局。相手が通しを使っている事は既に承知している。が、それを指摘したとしても証拠を出さなくては意味がない。当然、通しの証拠なんてありはしない。サマの方は確実に見抜けるが、まあ相手が使ってくる事はないだろう。ただでさえ腕一本賭けるといった者相手にリスクを負ってサマをする意味はない。となれば、相手が取りそうな戦法は通しを使って鳴かせたり差し込んだりして、局を流すという在り来たりな戦法。

だが、通しを使ったとしても絶対ではない。意思の疎通が出来なければ確実性に欠けるし、何より通しを使っても追いつけないほどの速さで攻められたらそこまでだ。あの三人が具体的にどんな通しを使っていうのかはまだ確証が持てない。だからこそ、この局は速攻で流して相手の通しの全貌を暴いていくとしよう。

 

 

打{⑦}

 

 

二巡目、上家から{⑦}が放たれる。私は{⑧⑨}を晒して宣言し、これで一副露目。これこそが私の速攻の序章。三人を叩き潰す「お祭り」の始まりとなった。

 

打{②}

 

五巡目に今度は対面が{②}を打つ。当然のことながら私は{②}を二枚晒して代わりに{8}を河へと叩きつける。そしてその次巡、私がツモってきたのは{一}。もともと{一}は暗刻であった。それがこれで{一}が四枚揃い、槓材となる。

 

 

「カン……」

 

小瀬川白望:手牌

{四四五8} {裏一一裏} {②横②②} {横⑦⑧⑨}

 

 

私は暗槓を宣言し、新ドラ表示牌を捲った。そこに現れたのは萬子の九、{九}であった。つまり新ドラは{一}。

 

 

(ふふ……)

 

新ドラ表示牌を確認し、今度は座っているお三方の表情を見た。いずれも暗槓即ドラ4ということに驚きを隠せていない。だが、これで私が読みやすくなった。そういった表情も混じっていた。しかし、それも全て私の罠。私のこの手、通常ならば役牌抱えという線しか残っていない。つまり、役牌以外は完全にではないものの安全のなったといえよう。故に緩んでしまう。確実ではないというのに、安心しきってしまう。これが狙いなのだ。そもそも、私の今の暗槓はむしろこっちの方が重要であった。相手の意識の誘導が本命で、新ドラはいわゆるオマケ程度にしか過ぎなかった。

そうして嶺上牌をツモってくる。ツモってきた牌は{四}。これで対子であった{四}が暗刻に昇級し、聴牌に至る。役なしのドラ4で和了る事は無理だが、それはあくまでもこのままであったらという話。この手にはまだ可能性……道が残されている。

 

(だから安心しなよ……みんな)

 

そういって少し後ろの方をチラリと見る。後ろには怜、竜華、セーラが私のことを心配そうな目で見つめている。だが、心配はいらない。この手、まだ終わってない。

 

 

打{四}

 

 

十二巡目、ついに対面の男が{四}を切った。私の手は十中八九役牌手。そう踏んで勝負に出てきた。だが、生憎ながらその聴牌が実る事はない。

 

「カン」

 

小瀬川白望:手牌

{五} {四四横四四} {裏一一裏} {②横②②} {横⑦⑧⑨}

 

 

 

対面が切った{四}を大明槓。私が宣言したとき、対面の男はようやく悟ったのか驚愕する。だけど、まだ終わってはない。驚愕するのはまだ早い。

 

「カン……」

 

小瀬川白望:手牌

{五} {四四横四四} {裏一一裏} {②②横②②} {横⑦⑧⑨}

 

 

{②}の加槓。私はさっきの嶺上ツモで{②}をツモってきたのだ。無論私はそれを加槓し、これで三槓子が成就する。対面の男の顔がさらに青くなるのが見えたが、もう遅い。

 

「ツモ」

 

小瀬川白望:和了形

{五} {四四横四四} {裏一一裏} {②②横②②} {横⑦⑧⑨}

ツモ{赤五}

 

 

 

「嶺上開花三槓子ドラ5。倍満の責任払い……」

 

 

私は盲牌もせず嶺上牌を卓に叩きつける。赤ドラがのって役なしドラ4が一気に倍満手に進化した。後ろからは怜達の歓声が聞こえてくる。16,000の実質直撃となり、点差がこの局で一気に縮まった。対面の男はわざと私に聞こえるように舌打ちをするが、無論なにも怖くなどない。むしろそろそろ危ないと思った方がいいのではないか。点差も縮まってしまったし、お三方の情報は私に見られてしまっている。彼らの捨て牌を見れば、彼らがこの局でなにを考えていたかなど丸分かりだ。

しかし、まだまだ勝負は始まったばかり。油断はしない。全力をもって叩き潰す。

 




次回かその次で麻雀回は終わりです。

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