宮守の神域   作:銀一色

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バドミントン回です。怜-toki-のバドミントンシーンを見て書きたくなりました。


第130話 大阪編 ⑯ バドミントン

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視点:小瀬川白望

 

 

「ほな、行くで。イケメンさん」

 

 

怜がそう言って私の腕を掴み、歩き出そうとする。急に引っ張られたので体勢を崩しかけるが、なんとか持ちこたえて歩き始めようとした怜に向かって質問する。

 

「怜、これからどうするの……?」

 

なぜ私がこの質問をしたかというと、全く聞かされていなかったからだ。具体的にどういうことかというと、私はこの後に何をするかは全然知らされていない。怜に電話した時も、「ウチに任しときや」といって何も伝えられていない。伝えられたことといえば、それこそここに集合することと、集合する時間くらいしかない。この後の予定は全く知らなかった。

すると怜は歩き始めようとしている足を止め、私の方に振り返るとにっこりと微笑んで私にこう言った。

 

「ひ・み・つ・や!」

 

予想外の回答に肩透かしをくらったような表情をする。秘密……怜が言ったからとかそういうことに限らず、こういう状況での秘密という単語はそこはかとない嫌な香りを醸し出している。だが、そう感じたとしても私にはどうすることもできないので仕方なく怜の言う通りにして、怜の手を握りながら怜について行った。

 

 

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視点:小瀬川白望

 

 

「・・・ここや」

 

 

そうして怜について行くこと十数分。とある地点で怜がその足を止める。怜が止まった地点は公園の近くであった。周りを見渡すが、至って普通の公園だ。一体ここで何をする気だ……と思ったが、それは竜華が持っている物を見てなんとなく察した。やったことが無いので分からないが、竜華が持っているのはラケット入れだ。そして公園という比較的広くもなく狭くもないスペースでできるラケット競技といえば、バドミントンであろう。

 

「バドミントン……?」

 

私は一応怜に向かって聞いてみるが、案の定怜は首を縦にふる。それにしてもなんでバドミントン……と思ったが、その疑問は次の怜の言葉によって解決した。

 

「竜華と二回目やったっけ……この公園で遊んだ時な、バドミントンやったんよ」

 

へえ、そんな過去があったのか。私が怜と竜華と出会ったのは既に怜と竜華が親友同士であった。それ故に怜と竜華はどのように出会ったのかなどは全然知らない。まあたまにそう言った思い出話とかは聞かされるが、詳しくは聞いた事がなかったなあ。

 

「まあそん時はウチが下手すぎて、マトモにラリーすらできなかったけど……だからこそリベンジや!」

 

怜は自信満々に胸を張ってそういう。まあ別に私はバドミントンをする事自体は反対では無い。問題なのはこのバドミントンをお遊び感覚でやるのか、それとも本気、マジでやるのかという事だ。私はバドミントンをやった事が無いから実際には分からないが、バドミントンという競技は本気でやれば相当疲れるらしい。無論それは遠慮したいところだ。怜のあの口振りからしてきっとお遊び感覚の方なのだとは思うのだろうが、竜華とセーラさんは分からない。きっと初めて怜とやった時は竜華が誘ったのだろう。という事は、竜華は少なくとも下手の部類では無いという事だ。セーラさんは見た感じでもう体育会系な感じがしているし、このバドミントン……ただのバドミントンでは済まなそうな感じがする。

まあ、そもそも私に本気でやれるほどのバドミントンのセンスがあるかすら分からない。いざとなれば怜と二人でやって、本気でやりそうな竜華とセーラさんで戦ってもらう事にしよう。

 

「にしても……ここにくると2年前の事を思い出すなあ」

 

そんな計画を立てている私をよそに、怜はしみじみとした感じで空を仰ぐ。そして怜はこう続けた。

 

「あのジャングルジムっぽいのでな、竜華が『約束して』ってウチに言うんや」

 

「ちょ!?怜!?」

 

そこまで怜が言ったところで、竜華が制止に入る。よく見ると顔が真っ赤になっていた。一体どんな恥ずかしい事を言ったのだろうか。そんな事を勝手に予想した。一方の怜は竜華の制止も御構い無しに続けようとする。

 

「あと、初めて竜華がウチの下校中ストーカー紛いの事をした時はホンマ驚いたで?」

 

「わー!わー!」

 

「怜、そこらへんで勘弁しといてやれや……」

 

色々と昔の事を暴露し始める怜を、ようやくセーラさんの制止によって止める事ができた。一方色々な事を赤裸々に語られた竜華は、未だに顔を真っ赤にしている。まあ、その2年前に何があったのかは分からないが、色々と大変だったのだろう。そんな事を考えていると、怜が「バドミントン、やるで」と言って竜華が持ってきたバドミントンのラケットと羽を持っていかにもバドミントンできますといったポーズをとる。そしてようやく落ち着いた竜華が、私にラケットを渡してこう言った。

 

「ま、まあ……まずシロさんがどれくらいできるかやな」

 

そう言われ、私はバドミントンのラケットを受け取る。軽くもないし、かといってそんなに重くもない微妙な質量のラケットを握り、少し軽めに素振りをする。そうして使い心地を確かめたあと、私は怜と一直線上になるように位置取りをする。そして怜に向かってコクリと頷くと、怜も頷き返して、羽を上げる。最初は上に向かって飛んだ羽だったが、すぐに勢いを落として羽は自由落下する。そうして、怜のサーブが羽に炸裂……するはずだった。

 

「あっ……」

 

だがしかし、怜のラケットは羽には当たらずに空を切った。そして怜のラケットが当たらなかった羽は当然、地面に落ちる。これが漫画ならば、スカッという効果音が付与されそうなほど凄い空振りっぷりだった。

 

「ちょ、ちょいタンマや!もう一回、もう一回やらせてや!」

 

すると空振りした怜自身もこんなはずではないといった感じで驚いて、もうワンチャンスを要求する。まあ別に断る理由もないので、もう一度怜にサーブをやらせてみた。

怜は深く深呼吸をして、羽を振り上げる。そうして落下して丁度良い位置に羽が来そうだというところで、怜はラケットを振る。パコーン、というバドミントン特有の音が響き、羽は上へと飛び上がる。だが当たりどころが悪かったのか、その羽はふらふらとしていて、いささか勢いが足りなかった。私は少しほど左に動いて位置を調節し、ちょうど私の頭上に来たところでラケットを振り下ろす。当然、羽は怜のところに向かって行く。が、怜はその瞬間ラケットをまるで自分を守る盾のようにして構えたので、当然ラケットに辛うじて当たった羽はあらぬ方向へと飛んでいく。その羽の進行方向にはセーラさんが立っていたため、遠くへ飛んでいくということは起こらず、セーラさんは片手でその羽をキャッチした。そして怜はさっきの盾の構えをした時、急に体勢を変えてしまったため尻餅をついていた。私は怜の近くまで行き、尻餅をついている怜に向かって「大丈夫?」と声をかけて右手を差し出す。だが、怜はそれどころではないといった表情をしていた。

 

「そんな……あのダルがりさんのイケメンさんが、ウチの必殺サーブを返したやと……?」

 

正直な話、あのサーブにはあんまり必殺サーブ感は出ていなかった。結構タイミングをとる余裕もあったし、難なく返すことができた。そして怜がこんなに驚いているのは、きっと私なら怜と同じくらいセンスがなく、下手同士二人で和気藹々と出来ると思っていたのだろう。実際、私も自分でそんなスポーツ系の才能はないと思っていたし、思われても仕方ないと思っていた。だが、現実は非情である。意外にも、私は上手かった。少なくとも、怜よりは確実に。そしてそんな私と怜のもとへ竜華とセーラさんがやってきて、怜に向かってこう言った。

 

「まあ……怜はやっぱりウチと特訓やな。セーラ、シロさんと打っててや」

 

「お、おう……せやな」

 

竜華がそう言って少し心を折られた怜をベンチへ連れて行った。そして残った私とセーラさんは、言葉をかわすよりも前に二手に分かれた。そうしてラケットを構え、臨戦態勢へと入る。やはりセーラさんはこういうのが得意らしく、目の前にいるだけで相当上手いということがわかる。さっきはあまり本気ではやりたくないといったが、前言撤回。やはり勝負となれば負けたくないのが勝負としての性だ。やるからには本気で勝ちに行く。

 

「・・・オラァッ!」

 

そうして、セーラさんが大きな声とともにサーブを放つ。怜には失礼だが、怜の時とは比べ物にならないほどスピードが速い。私はすんでのところで羽にラケットを当て、セーラさんへと返す。やはりさっき言った通り、私にはなかなかバドミントンのセンスというものがったようだ。間一髪とはいえ、セーラの馬鹿みたいに速い打球を返すことができる。

 

「セーラさんはさ……っ」

 

そしてラリーを続けている最中、私はふとセーラさんに話しかける。セーラさんも打球を返すと同時に、言葉のラリーも返してきた。

 

「なん……やっ!」

 

セーラさんから恐ろしいほど速い打球が返ってくる。だが、私はこれも間一髪のところで間に合う。何故バドミントンのセンスがあるとはいえ、初心者の私がセーラさんと互角にできているのにはちょっとした理由がある。その理由は、私がセーラさんの打球の方向がある程度分かるからだ。セーラさんの目線の方向を見れば、ある程度どこにくるかの方向は分かる。あとはそれが間に合うかどうかだ。まさか麻雀のために鍛えた観察眼が、こんなところで役に立つとは。

 

「こういうスポーツとか、得意なのっ」

 

するとセーラさんからは「まあ一応な!」という打球が返ってくる。そろそろ体力に限界がきそうだ。私が日常的に運動をしないツケが回ってきていた。

 

「あと……」

 

そう言ってセーラさんは、今度は少し緩めの打球が返ってくる。私は思わず前のめりになりながらも返す。が、これこそがセーラさんの狙いだった。

 

「セーラや!名前で呼び!」

 

セーラさん……いや、セーラは思いっきりラケットを振る。今までとは異常なほど豪快な打球音が響き、勢いよく羽は私の横を通り過ぎていった。

 

 

 

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視点:園城寺怜

 

 

「すごいな……二人とも」

 

長い闘いから帰還し、ベンチで休んでいたウチと竜華はイケメンさんとセーラのラリーを眺める。イケメンさんは私が思っていたのよりも軽く100倍くらいは上手かった。ホンマにあれで初心者か……?

 

(運動できなさそうだからここでウチのアピールチャンスと思ったんやけどなあ……)

 

そう、ウチがわざわざバドミントンをするのにはある理由があった。イケメンさんは運動が出来なさそうだと思っていたので、イケメンさんが四苦八苦しているところにウチの鮮やかな姿を見せつけ、イケメンさんにアピールするという算段だった。だが、この作戦には二つの問題点があった。一つ目はさっきも言った通り、イケメンさんが予想の100倍上手かったこと。二つ目はウチがあまりにも弱すぎたことだ。

 

(このまま終われへん……)

 

ダメだ。このままではウチがただの運動音痴ということで終わってしまう。これはいけない。ウチは竜華の膝枕から起き上がり、竜華が4本持ってきたラケット内の一本を掴み、竜華にこう言った。

 

「よし、竜華!バドミントンやるで!」

 

 

 

 

 

 




次回も怜&竜華&セーラ回。
因みに、竜華が怜-toki-の1話などで怜に言ったことは竜華の中で若干黒歴史化しています。深い意味はないので、あまり考えないで下さい。

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