宮守の神域   作:銀一色

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怜&竜華編は次回になります。
今回は皆さんご存知のあの方の回。


第128話 大阪編 ⑭ ブレスレット

 

 

 

 

 

 

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視点:小瀬川白望

 

 

 

愛宕家から出て、今度は怜と竜華との待ち合わせ場所に向かって歩いていた私は、さっき愛宕家を出る時に絹恵にやられた事を思い出す。この十三年間生きてきた中で、他人にあんな自然な感じでキスをされた事なんてない。そういった意味でも、絹恵にやられたキスは私をひどく困惑させた。

あの時、何故絹恵があんな事をしたのか。今の私の頭の中はその事でいっぱいだった。よく、外国人は額とかにキスするのが習慣であるとは聞いた事があるが、さっきの絹恵のキスはそんな習慣のような感じではなかった。キスをした直後の絹恵の顔は真っ赤になっていたし、絹恵の行為には若干の躊躇いと恥じらいがあったからだ。

 

(絹恵の唇……柔らかかったなあ……)

 

絹恵にキスをされた側の頬を手で触れ、ふとそんな事を思い出す。された時こそ状況が飲み込めずただただ困惑していただけだが、あの時の絹恵の唇の感触は確かに柔らかかった。

 

 

「あっ、あぶないでー!?」

 

「・・・えっ」

 

 

そんな事を自分の行く先、つまり前方を確認しないで考えながら歩いていると、見ず知らずの人が前方から思いっきり走ってくるのが私との距離が残り数メートルしかない地点で気付いた。相手も前を見る余裕もないほど急いでいたのか、直前で気づいて勢いを殺そうとしていたものの、それでも途轍もない勢いでそのままぶつかってしまう。当然の事ながら、全く予想外の事だったので私がその走ってきた人を抱え止める事もできず、勢いのある相手側が私を押し倒すようにして二人とも地面に倒れてしまった。

 

「いててて……だ、大丈夫ですか!?」

 

そうして倒れてしまった直後、その走ってぶつかってきた人がすぐさま起き上がり、私に声をかける。咄嗟に地面に手をついた事と、リュックを背負っていたお陰で、頭から地面に倒れるなんて事は起こらなかった。強いて言うならリュックで唯一守れなかったお尻が、尻餅をついてお少し痛いということだけ。続いて私も直ぐに立ち上がり、服をほろってそのぶつかってきた人に言葉を返す。

 

「大丈夫……怪我とかはしてないし。それに、私も前を見てなかったから……」

 

そう言って私は頭を下げる。そうだ。これは誰が悪いというわけではない。事故なのだ。もっと言うなら、前を確認せず歩いていた私にも非があるし、前を確認せず思いっきり走っていた彼女にも非がある。特別犯人がいるわけではないのだ。

 

「そ、そうか。そうなら良かったで……ほな、ウチ行くとこあるから、またな」

 

すると、彼女は頭を下げてそう言い、私が歩いてきた反対方向に向かって走り出そうとする。だが、その瞬間彼女の顔が苦痛に歪んだ。

 

「いっつ……」

 

そういって彼女はその場に屈み、右足の方に視線をやる。それが何を意味しているのか、私は直ぐに察した。私は彼女と同じ高さまで屈むと、「失礼……」と言って屈んでいる彼女の足と首元に手をやり、そのまま抱え上げた。

 

「ちょ……!?何するんですか!?」

 

いきなりの事に彼女は困惑と驚きを露わにしていたが、気にせず私は近くにあるベンチの下まで俗に言う「お姫様抱っこ」の状態で抱えて行く。彼女の体は予想以上に軽く、リュックを背負っている状態でも問題なく抱える事ができた。

 

(ん……?)

 

だが、そうして抱えている最中、私は少しほどの違和感を彼女の腕から手にかけての部分で感じた。私は抱える角度を変えて彼女の腕を見ると、彼女の腕には金色のブレスレットがつけられていた。もう反対の手にもブレスレットが二つ付けられており、そのブレスレットが何故か印象深かった。

そうしてベンチまで着いた私は、ベンチに座らせるようにしてブレスレットの子を下ろした。そうして座らせたあと、ブレスレットの子のズボンを膝まで捲ると、案の定地面に擦れたような傷跡が膝に残っていた。私とぶつかったと時にできた傷だろう。確かに私は後頭部や背中は守れていたが、彼女には守るような動作をしていなかった。上半身は私の体によって地面と接触しなくてすんだが、下半身……特に膝部分は守れていなかったようだ。出血も少ししているようで、彼女の膝は赤く血塗られていた。その傷を確認した私は、リュックを地面に下ろし、リュックの中から絆創膏を取り出した。別に持ってこなくてもいいかなと思っていたが、意外なところで役に立った。私は絆創膏を一枚だけ取り、彼女の膝部分に貼った。

 

「まだ消毒もしていない応急処置だけど、気分的でもいくらかはマシになった……と思う。ごめんね。怪我させちゃって」

 

私はそう言って再度頭を下げて、絆創膏の箱をリュックに入れて、それを背負う。そうして私は怜と竜華の集合場所に行こうとしたが、そのブレスレットの子に手を掴まれた。一体どうしたものかと、彼女に言いかけた瞬間、彼女が先に口を開いた。

 

「・・・名前、教えてくれや」

 

その彼女の問いに、拒否する理由もなければまだ集合時間まで時間もある。私は迷うことなく返答する。

 

「・・・小瀬川。小瀬川白望」

 

それを聞いた彼女は、「小瀬川白望……ね」と言い、彼女の持っていたバッグからペンとメモ用紙を取り出し、スラスラと何かを書いて、私に手渡した。私はそれを見ると、「末原恭子」と書かれていて、その下にはメールアドレスのようなものが書かれていた。

 

「ウチの名前とメールアドレスや。ほな、またな」

 

そう言って、ブレスレットの子……いや、末原恭子さんは立ち上がって走り去っていった。私はそれを見送ってから、怜と竜華との集合場所へと歩き出した。

 

 

 

 

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視点:末原恭子

 

 

 

(小瀬川白望さん……か)

 

ウチは小瀬川白望さんと別れたあと、再びある場所へ向かって走りながら小瀬川白望さんの事を振り返ってきた。たった少しの間ではあったが、いつまで経っても小瀬川白望さんのことが頭から離れなかった。あの人にそんな気は無いとは思うが、それでもお姫様抱っこをされた時は心臓がバクバクしていたのを鮮明に思い出せる。人にお姫様抱っこを始めてやられたからドキドキしているからではなく、多分あの人だったからこそウチはドキドキしていたのだろう。抱えられていた時の彼女の顔はまさにイケメンといった感じで、そんな彼女の顔を見ていたらどこか胸が締め付けられていた。

 

(・・・メール、くれるやろか)

 

そう思って携帯電話が入っているカバンに視線を移す。確かにウチは小瀬川白望さんにメールアドレスを渡したが、ウチは相手側のメールアドレスは貰っていない。つまり、一回は相手側からメールをくれなければ、ウチには通信手段が無いのだ。別に、どうでもええ人だったらそんな事は心配しないだろう。ウチが心配している理由は、さっきと同じで、多分あの人がカッコええとウチが思ったからであろう。

 

(・・・カッコよかったなあ)




次回こそ怜&竜華編!
因みに末原さんとシロの関係で、彼女らが麻雀を打つ事は無いです。インターハイで打つ時までお預けです。
インターハイでまさかの再会を果たす末原さんとシロ……みたいな構想です。多分そうなります。

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