宮守の神域   作:銀一色

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なんと連続投稿。時間があったので書きました。
今日の夜頃にまた投稿されると思うので、安心してください。
あとアンケートやってます。


第127話 大阪編 ⑬ 一時の気持ち

 

 

 

 

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視点:愛宕絹恵

 

 

「ホンマにすまんかった!」

 

 

お風呂から上がってきて、パジャマ姿に着替えて出てきたウチとシロさんをリビングで出迎えたのは、そんな事を言って土下座しているお姉ちゃんだった。リビングのイスに座っているオカンは、お酒を飲みながら笑いながらこちらをジロジロ見てくる。

 

「はあ……ほんと大変やったでホンマ……」

 

そうウチが言うと、オカンがチョイチョイ、といった感じで手を振る。酒に酔って変なテンションになっているオカンを呆れた目で見る。まだお風呂にも入っていないのに、そんなに飲んで大丈夫なのか。っていうかオトンは止めれんかったのかといった疑問を抱えるが、そんなオカンは「絹恵ー♪」と、歳を考えてくれやと言いたくなるほどわざと可愛くしたような声でウチを呼ぶ。ため息をついてから仕方なく、ウチがオカンの所に向かうと、

 

「白望さんと風呂入れて、ホンマは嬉しかったんやろ?」

 

とウチの耳元で囁く。その言葉を聞いたウチのただでさえ湯上りで熱い顔が、更に熱くなったのを感じた。成る程、お姉ちゃんのあの妙にすまないといった謝罪から鑑みて、きっとあのドッキリはオカンが計画したものだろう。面白いと思ってやっているのかは分からないが、全くもって変なところで気を回そうとするオカンだ。・・・まあ、嬉しかったのは否定はしないが。対するシロさんは「何があったんだろう」と今にでも言葉に発したいような表情をしてこちらを見ていた。ウチはそんな赤面した顔を隠し、「な、なんでもあらへんよ!?」とシロさんに向かって言う。シロさんは依然として不思議そうにウチのことを見ていたが、ウチがお姉ちゃんに騙されて持たされた下着を片付けにウチとお姉ちゃんの部屋の一旦行き、すぐに戻ってきた。

 

「まあ……いいからはよ風呂入りや。お姉ちゃん」

 

そして未だに謝る姿勢を保っているお姉ちゃんに向かってそう言う。お姉ちゃんはそれを聞くと、「許してくれるんか!?」と顔を上げる。まあ、元凶はオカンだし、お姉ちゃんに当たっても意味がないだろう。

 

「絹恵……」

 

そうしてお姉ちゃんがお風呂に入った後、シロさんはウチに向かってオカンを指差しながらこう言った。

 

「雅枝さんってお酒入るとあんなになるんだね……」

 

確かに、お酒が入ってるオカンといつものオカンはまるで別人。あの千里山の監督する人とは到底思えない。というか客人が泊まるというのに何でオカンは酒飲んでいるのだか……

 

「ほんま情けないで……」

 

ウチは苦笑いをしながら、シロさんの問いに答える。するとオカンがウチらが話している事が聞こえたのか、「なんやなんや〜?」と言ってウチらが座っているソファーの近くまで来る。

まったくオカンはいつになったら酒癖が治るのか……そう思いながらオカンの話を黙って聞く事にした。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

そしてあれからお姉ちゃんが風呂から戻ってきて、酔っ払ったオカンを強引に風呂に入れさせ、ウチらは寝る事にした。ウチらは部屋へと戻ったが、そこで問題が生じた。そう、ウチらは普段寝るときにはベッドを使っている。二段ベッドの、何処にでもありそうな普通のベッドだ。だが、今回はそれではいけない。シロさんがいるのだから、当然二段ベッドでは足りない。かといって誰かが床で寝るというわけにもいかない。どうしようかと三人で打開策を見つけようとするが、どれも根本的な解決策でなかったり、現実的に不可能な案しか出てこなかった。となれば、辿り着く結論はたった一つ。

 

「誰かが……二人で寝るって事やな」

 

そう。誰かが二人で一緒に寝るという事だ。というより、この案しか考えられないだろう。これで案は出た。だが、肝心要の誰が二人で一緒に寝るとするかがまだ残っている。どうしようかと思ったが、お姉ちゃんが信じられない一言を言い放った。

 

「せやな……じゃあシロちゃん、絹と一緒に寝てくれんか?」

 

「はあ!?ちょ、何勝手に言うとるんや!?」

 

 

思わず大きな声が出てしまう。だが、それもそうだろう。シロさんと一緒に寝るなど、確かに嬉しい。いや、それどころか最高のご褒美だ。だが、それには途轍もない恥ずかしさが伴う。裸の付き合いをした以上今更何を言うのだと思うかもしれないが、それでもウチにとってじゃ重要なことだった。

 

「私は別にいいけど……」

 

「シ、シロさん?」

 

だが、そんなパニック状態のウチを差し置いて、シロさんが賛成の意を示す。いや、嬉しいけど。一緒に寝てくれるのを受け入れてくれて非常に嬉しいのだけど。だが……いや、もういい。今更何を言っても意味がないだろう。シロさんを床で寝かせるわけにもいかないし、ウチはそんなお姉ちゃんの無茶振りを受け入れる。

 

「・・・ええよ。シロさん、一緒に寝よか」

 

ウチはそう言って二段ベッドの下の方のベッドに横たわる。そしてあらかじめ開けておいたスペースにシロさんが入ってくる。シロさんの顔が思ったよりも近い。思わず目線をそらしてしまうほど、ウチとシロさんの距離は近かった。お風呂の時とはまた状況が違い、心臓がバクバクと震えるのが分かった。

 

「おー……お似合いやな」

 

諸悪の根源であるお姉ちゃんはウチとシロさんの格好を見てそういう。自分で言いだしたくせによういうものだ。ウチは少しお姉ちゃんに向かってドスをきかせてこう呟く。

 

「それ以上言うとしばくでホンマ……」

 

それを聞いたお姉ちゃんは「ほーん?そうかそうか……」とあんまりこたえてなかったらしく、少し機嫌をよくしながら二段ベッドの上のベッドに駆け上がり、「おやすみやでー」と言って電気を消す。そうして一瞬の内に真っ暗な世界となった部屋で、ウチは既に瞼を閉じているシロさんに向かって小さくこう言った。

 

「おやすみやで……シロさん」

 

すると、シロさんの手がウチに伸びてきて、ちょうどウチが抱き枕のようにシロさんに抱き締められる。いきなりの事でびっくりしたウチに向かって、シロさんはウチにこう囁く。

 

「おやすみ。絹恵……」

 

そう言って、寝息を立て始める。どうやら今度は本当に寝たらしい。未だシロさんに抱き締められ、身動きができない状態だったが、ウチはそれに多大なる幸福感を得た。そうしてウチもシロさんの事を抱き締め返し、二人とも抱き合いながら夢の世界へと誘われた。

 

 

 

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視点:小瀬川白望

 

 

「行ってらっしゃい……っていうべきなんかな。まあ、元気にやりや」

 

そうして翌日、愛宕家で朝食を頂いた私は、そろそろこの家から出るべく、室内で干されていた昨日の洋服を畳み、パジャマから着替えたりなどして荷物を纏めた後、靴を履いて玄関の扉の目の前まで行き、愛宕家と最後の会話を交わしていた。

 

「頑張ってきます……」

 

昨日のお酒に酔っていた雅枝さんは何処へやら。いつもの感じに戻った雅枝さんに向かって私は返す。そして横にいる愛宕父は、にこやかな笑顔で手を振る。

 

「頑張れや、シロちゃん」

 

そして洋榎は、親指をグッと立てて、私に向かって突き出す。私も親指をグッと……というほど勢いよくではなく、スローな感じで立て、

 

「頑張るよ。洋榎」

 

と言った。そして最後は絹恵。絹恵は少しもじもじしながらも、「シロさん……ちょっとええか?」と言う。私は何の疑問も持たず、絹恵の方に寄った。

そしてその瞬間、絹恵が私の頬に口付けをした。

 

 

 

「えっ……あの……」

 

突然の事に困惑する。愛宕家側も予想してなかったことらしく、絹恵を除く三人は驚いたようにして絹恵の事を見る。そしてその絹恵は、顔を真っ赤にしながらも、私に向かって

 

「が、頑張ってや……!」

 

と言い、顔を両手で隠す。未だに状況がよく飲み込めてない私は、とりあえず玄関の扉に手をかけ、扉を開ける。何が起こったのかは分からないが、とにかく愛宕一家に「お邪魔しました……」と言って玄関の扉を閉める。

 

(絹恵が……私にキス……?)

 

そして外に出て私は、自分の頬を手で撫でるようにして触る。ようやくさっき何が起こったのか理解した私は、さっきの絹恵のように顔を赤くしながら歩を進める事にした。

 

 

 

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視点:愛宕絹恵

 

 

「はあ……死にたい……」

 

シロさんが言ってから数分が経ち、今更自分がやった事の間抜けさに気づいたウチは部屋の中で蹲っていた。自分でもさっきなんでシロさんにあんな事をしたのか分からない。

 

「まあ、ええんちゃうの?シロちゃんも嫌がってたわけやないし……」

 

お姉ちゃんはそう言ってウチの事を慰めてくれた。あの時は別に嫌がってたわけではないけど……ただ呆然としていただけで……

まあ、やってしまったものは仕方ない。全く、今回のシロさんの訪問では、一時の気持ちで迂闊な行動をとってはいけないという事を思い知らされた。

 




次回は怜と竜華編……かも!
断定はしません。

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