宮守の神域   作:銀一色

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大阪編です。
打って変わって今回はほのぼの回。
アンケートもやってます。


第124話 大阪編 ⑩ 掃除と食事

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視点:小瀬川白望

 

 

 

「はあ……夕飯の支度せんとな……ほら、いくで」

 

 

対局が終わった後、疲弊しきっていた愛宕雅枝さんが立ち上がり、息を切らしながらもふらふらとリビングの方に歩き始めた。一方お父さんの方も疲れ切っているのか、立ち上がる時にかなり時間をかけながら立ち上がった。

 

「シロちゃん……」

 

リビングの方に歩いて行く二人を見届けていた私は、洋榎が私の名前を呼んだので洋榎の方を向いた。しかし私を呼んだ洋榎は、ぐったりと卓に突っ伏していた。どうしたものか、と洋榎の近くまで行って肩を揺さぶってみると、顔だけを私の方に向けてこう言った。

 

「疲れて立ち上がれんや……シロちゃん、ウチのこと起こしてくれんか?」

 

「・・・ダルいけど、いいよ」

 

仕方ないけど、私は洋榎の申し出を受け入れた。私は洋榎の腕を引っ張って強引に立ち上がらせようとする。普通に軽かったので、すぐに引っ張りあげることができた。立ち上がった瞬間こそ倒れそうなほど体の重心がグラついていたが、すぐに重心を整えた。

 

「ありがとな。シロちゃん……」

 

「別に……大丈夫」

 

洋榎とそういった会話をした後、後ろにいた絹恵が私の腕を掴んで私と洋榎に向かってこう言った。

 

「夕飯できるまで時間あるし、部屋いくで。シロさん、お姉ちゃん」

 

私と洋榎は頷き、絹恵と洋榎について行った。

 

 

 

〜〜〜

 

 

「ここがウチとお姉ちゃんの部屋やで」

 

洋榎と絹恵に、二人の部屋のドアの目の前まで連れてこられた私に、絹恵が私に見せびらかすようにドアを開けようと手をかける。

 

(あれ……そういえば部屋散らかってるんじゃなかったっけ)

 

だが、そんな絹恵を見てふとそう思った。確かこの家に来る途中、絹恵は『部屋の掃除をしておけばよかった』と呟いていたはずだ。私もついさっきまで忘れていたことだったが、そこのところはどうなのだろうか。この家に来てからすぐに対局を始めたので、絹恵が部屋に行ったということはあり得ない。確かに、対局中にそっと部屋に行くことも可能であるが、対局中ずっと絹恵は私の後ろにいた。私がちゃんと確認していたので、それは間違いない。

 

(となると……俗に言うアレか)

 

そこで私はある結論にたどり着く。それは『掃除やってないわー』と言っておいて実際に部屋を見たら綺麗に掃除されているアレだ。できないアピールをしておいてからの本当はちゃんとやっているという言わば予防線である。そうなれば今の絹恵の言動も矛盾はない……

 

 

「あ……」

 

 

そうして勢いよく絹恵がドアを開ける。そこには本や学校の教科書類、プリントなど色々な私物が散乱していた。よく見ると部屋の中には机が二つあり、その片方だけが散らかっている。私が何か言う前に、ドアを開けたときの数倍のスピードでドアが閉まった。

 

「いや……あの、えっとな……?」

 

絹恵が顔を赤くしながら必死に弁明を始める。しかし全く言葉に成り立っておらず、三人の間に奇妙な空気が流れる。私はふと洋榎の方を見ると、「あちゃー」といった感じで手に顔を当てている。

 

(まあそんなわけないよね……)

 

まあ、さっきあれだけ色々な可能性を考えてはいたものの、ある程度予想通りだった。ドアを開ける直前の絹恵の顔を見ればわかる。まるで何事もなかったかのようにして開けるあの様は、明らかに予防線を張っているような計算された表情ではなかった。

 

「・・・せや!シ、シロちゃん!ト……トイレ行かへんで大丈夫か!?」

 

すると洋榎はとっさに絹恵に対しての助け舟を出す。私も、それに気付かないほど馬鹿ではない。無論その意図を汲み取り、私はお小水に行くことにした。

 

 

 

〜〜〜

 

 

「いや、ホンマ情けないですわ……」

 

そうして私がお小水から帰ってくると、さっきまで酷い有様だった部屋がまるで嘘だったかのように整頓されていた。失礼な話だが、私が驚いたのは洋榎がしっかりと部屋の掃除、整理整頓がなされているということだ。麻雀の河だってあまり綺麗とはいえないし、彼女の性格上掃除とかそういうのは無縁だと思っていたので、そういう意味でもあの絹恵がああいう状態になっている事が意外だった。まあ、私もたまに部屋の掃除をサボって部屋がごちゃごちゃしている時が多々あるので、人に言える立場ではないのだが。

 

 

「だから言ってるやろ?日頃から掃除しておき!って」

 

洋榎がハハハと笑いながら絹恵に向かって言う。彼女は絹恵に向かって言ってるつもりだが、その矢は私の方にも突き刺さっている。……なんか洋榎には言われたくはないな、と思ったが、これに関してはどう足掻いても洋榎の方が正論だろう。ちゃんと掃除しなきゃな……と心に密かに決めた私は、私に言い聞かせるようにして絹恵に向かって言う。

 

「大丈夫……私は気にしてないよ」

 

「ホ、ホンマですか?」

 

一気に絹恵の目がキラリと輝くが、すぐに洋榎にバッサリと一刀両断されてしまう。

 

「んなわけないやろっ!」

 

おおこれが本場のツッコミというやつか、と心の中で思う。そんな何気ないやり取りをしていると、エプロン姿の愛宕雅枝さんがドアをノックして開ける。

 

 

「ほら、お前たち。夕飯が出来上がったで」

 

そう言われて私たちは立ち上がり、リビングの方に行く洋榎と絹恵についていく。

そしてリビングについた私がまず目にしたのはテーブルの真ん中に鎮座している大量の唐揚げだった。他にも色々な料理がテーブルの上に乗っかっている。

 

「豪華……」

 

それを見た私が思わずそう呟いた。すると愛宕雅枝さんは自慢気に「奮発したからなあ」と言う。

そして私が隣にいる洋榎と絹恵の方を見ると、二人は瞳をキラつかせながらテーブルの方を見ていた。

 

「さあ、手洗って夕飯にするで」

 

そう言って私たちは手を洗った後、テーブルを囲むようにして座り、両手を合わせて「いただきます」と合唱してから夕飯を食べた。

まず、私の箸が向かったのはテーブルの中央にデカデカと存在する唐揚げ。それを箸で掴み、自分の口の前まで持ってきて フー と息をかけて冷ました後、唐揚げを口へと運ぶ。

 

(……ッ!)

 

その瞬間サクッ、という音が口の中で響き渡る。そして間髪入れずに肉汁が口の中を満たす。噛めば噛むほど口の中で唐揚げが私を幸福で満たす。

そしてよく噛んだ後、ゴクン、と喉を通す。何も言葉が出ない私を見て、洋榎が私に向かってこう言う。

 

「美味いやろ?シロちゃん」

 

色々と言いたい気持ちはあるのだが、唐揚げのあまりの美味しさで何も言葉が出てこない。そしてやっと私から発せられた言葉はただ一言、

 

「美味しい……」

 

この一言に尽きる。私はこの人生、唐揚げを食したことは幾らでもある。だが、この唐揚げは今まで食べた唐揚げの何倍も美味しい。そう思えるほど美味しかった。

 

「お、オカン。いつもより美味いやん!」

 

横で食べている絹恵も、満面の笑みで愛宕雅枝さんに向かって言う。

 

「まあ、白望さんが来ると知って昨日から漬けておいたからなあ。そう言ってくれて嬉しいで」

 

その後も、山と言えるほどあった唐揚げの山が綺麗さっぱり無くなるまで唐揚げを堪能した。

 

「ご馳走様でした」

 

そう言って両手を合わせる。愛宕雅枝さんはいかにも母親らしい態度で、

 

「お粗末様……やな」

 

と言った。私は十分な満足感と幸福感を感じながら、洋榎と絹恵と一緒に部屋に戻った。




まさかの飯テロ……?回。
絹恵ちゃんって咲日和でもどこか抜けている部分ありますよね。天然というのでしょうか。洋榎ネキは意外なところでしっかりしているイメージ。勝手な想像ではありますが。

因みにアンケートの締め切りは2/13日までです。(露骨な宣伝)

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