宮守の神域   作:銀一色

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大阪編です。
只今アンケートを実施しております。詳しくは活動報告にて。



第122話 大阪編 ⑧ 入門

 

 

 

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視点:神の視点

 

 

(やられてしもうたな……)

 

そう心の中で呟きながら、愛宕雅枝は小瀬川白望の方を睨みつけるように見据える。その瞳には明確な敵対の意志、もっと言ってしまえば殺意がこもっていた。素人ならそんな目で睨みつけられたら心が震え上がって牌すらまともに持てなくなるであろう。それほど彼女が発するプレッシャーは途轍もないものであった。現に横に座っている愛宕洋榎と愛宕父、小瀬川白望の後ろにいる愛宕絹恵は額に嫌な汗を垂らしていた。だが、そんな人を怯え上がらせるほどの威圧を目の当たりにしても、小瀬川白望は平常心を保っていた。

もしかして、この威圧が彼女にブラックホールの如く吸い込まれて行ってしまっているのではないか、とまで愛宕雅枝が思ってしまうほど、小瀬川白望は全く気にもしない様子で椅子に座っていた。ある意味、小瀬川白望はブラックホールのようなものをその内に有しているが、それと今の威圧による平然とした様子は全くもって関係ない。

何か特殊なことをするまでもなく、愛宕雅枝の威圧、プレッシャーは小瀬川白望の心を揺らすものではなかったのだ。愛宕雅枝は知る由もないが、小瀬川白望は赤木しげると常に打ってきているので、威圧やプレッシャー如きではビクともしなくなっているのだ。それは仕方のない事だろう。

 

そうして東三局が始まり、配牌を次々と開いていく。そうして開いている途中、愛宕洋榎は未だ平然を保っている小瀬川白望の事をチラリと見ながら、心の中で思案する。

 

(やっぱしこの勝負、シロちゃんはオカンを徹底的に潰しにいくんやろうな……)

 

そう、この勝負が始まってからの東一局と東二局、場は完全に小瀬川白望vs愛宕雅枝という構図が出来上がっていた。この状況では愛宕洋榎は俗に言う人数合わせとなってしまっている。だが、彼女自身この勝負を見ていたいという気持ちもあるのだが、それを彼女の負けず嫌いな気持ちがそれを上回った。

 

(この卓には誰がおると思うてるんや……愛宕洋榎がおるんやで!)

 

 

 

〜〜〜

 

 

そうして愛宕洋榎が意気込んだこの東三局、愛宕洋榎の配牌は他三人と比べても段違いの良かった。彼女の負けず嫌いな素直な心を、麻雀の流れを司る神様が気に入ったのであろうか。この局、愛宕雅枝も小瀬川白望も、共に五向聴の配牌からとは到底思えないほどの驚くべきスピードで手を進めていたのだが、それに追いつかれる事なく愛宕洋榎が勝ち取った。

 

 

「ツモ!!」

 

 

 

愛宕洋榎:和了形

{二二二五六七⑧⑧⑧33東東東}

 

 

「ツモ三暗刻東……満貫やな」

 

 

千里山の監督と人外化物二人を差し置いての満貫ツモ。だがそんな二人はどちらかというと愛宕洋榎に良い評価を付けていた。そこに悔しさや、怒りなどは一切見られない。ただ単純に、愛宕洋榎の事を凄いと評価していた。

 

 

(ほお……やるやん洋榎)

 

(流石洋榎……面白いね)

 

 

この満貫ツモ、点数だけ見れば然程大きくはないものだ。これが評価されている理由は、愛宕雅枝と小瀬川白望を振り切ってツモったという事だ。決して二人は手加減などしていない。本気で潰し合いをしている。そんな最中、偶然ではあるものの流れを掴み取って二人を出し抜いてツモ和了るということはほぼほぼ不可能に近い。それを愛宕洋榎はやってのけたのだ。そう考えれば、この満貫ツモはただの満貫ツモと一緒くたにしてはいけない。難易度的に言えば役満をツモるレベルといったところか。

しかし、だからと言ってこれで愛宕洋榎が今後有利になるとは言い切れない。確かに、超重要な和了りを果たした愛宕洋榎の流れは良くなるかもしれない。これが相手が通常の人間だったら愛宕洋榎の圧勝だろう。まあそもそも、通常の人間相手だったらそんな事をしなくとも圧勝だろうが。

そう、今愛宕洋榎の目の前に立ちはだかるのは自身の母親である愛宕雅枝と、過去に打って完全敗北した小瀬川白望だ。そんな一時の流れでどうにかできるほど甘くはない。いやむしろ、ここから愛宕洋榎は厳しくなるかもしれない。今の和了りによって、愛宕雅枝と小瀬川白望は愛宕洋榎の事を意識しだした。そうなれば必然的に愛宕洋榎は愛宕雅枝と小瀬川白望の間に割って入るような形になり、二人から標的にされる可能性もますます高くなってくるだろう。

 

 

「ロンや。少し甘かったとちゃうんか?」

 

 

愛宕雅枝:和了形

{赤⑤赤⑤12345679南南南}

 

 

 

愛宕洋榎

打{8}

 

 

 

「一通ドラドラ……8,000やな」

 

その証拠に、次局の東四局は愛宕雅枝に狙い撃ちされてしまった。赤ドラの{⑤}を対子としている、なかなか見られない形のドラドラであったが、振り込んでしまった以上愛宕洋榎の責任である。

 

(確かに……ウチはオカンやシロちゃんに比べたら、まだまだ木偶や……)

 

愛宕雅枝に点棒を渡しながら、頭の中で冷静になる。そうして、一つの考えを導き出す。

己の限界を作るな。敵が格上であろうと、人外であろうと関係ない。自分の位置関係を再確認しろ。その上で目標を作れ。

 

 

(せやけど、木偶にも決意があるってとこ、見せなアカンな)

 

 

 

〜〜〜

 

 

(お姉ちゃんの目つき……似とるわ)

 

決意を抱いた愛宕洋榎を小瀬川白望の後ろから見ていた愛宕絹恵は、ふと愛宕洋榎の目つきがどこか愛宕雅枝や、小瀬川白望のような目つきに似てきた事に気づく。

そう、この時愛宕洋榎の抱いた決意は、並大抵のものではなかった。言うなれば、不屈の決意。文字だけ見ればそう凄くは見えないだろうが、彼女の決意は、それこそ劣りはするものの赤木しげるや小瀬川白望、愛宕雅枝のような所謂常人とは一線を画す決意であった。かつて辻垣内智葉が全国大会決勝戦で小瀬川白望との格差を目の当たりにしても諦めなかったソレと全くもって同じなのだ。

俗に言う、人外へのの入門。だがしかし、そこから自身の母である愛宕雅枝との距離は遠い。そして小瀬川白望や赤木しげるまでの距離はもっともっと遠く、月とスッポン、雲泥の差であるが、同じステージに彼女は意識せず片足を突っ込んだのである。恐らく常人が一生を費やしても叶う事のない土俵に、いや、理解することすら不可能な土俵に立てたのだ。

 

(洋榎も……こっち側(人外)に来たんだね……)

 

そんな愛宕洋榎の心情の変化を小瀬川白望も察知する。まだまだ自分や赤木しげるには足元にも及ばないいわば入門編に入った直後であったが、同胞が増えた事に対して強く彼女は嬉しく思った。

 

(まあでも……勝つのは私だけどね)

 

 

そうして、和気藹々と始まったはずの娯楽麻雀から完全な戦場と化したこの勝負も、遂に南入。半分を切った。そして南入最初の親番は小瀬川白望。他三人としては死んでも止めなくてはいけないこの親番、まず小瀬川白望が先手を取った……かに思われた。

 

 

愛宕雅枝

打{⑨}

 

 

「カン」

 

「ロン」

 

 

 

 

愛宕洋榎:和了形

{二二六七八②③③④④⑤⑦⑧}

 

 

「平和のみ、1,000点や」

 

 

 

小瀬川白望が大明槓による嶺上開花を狙っていたが、愛宕洋榎によってそれは妨害される。因みにこの時の嶺上牌は小瀬川白望の和了牌であり、愛宕洋榎がロンしなかったら小瀬川白望が確実に和了っていた。そう考えれば、愛宕洋榎の和了りはファインプレーと言わざるを得ない。

 

 

(成る程……流石に一筋縄じゃあ行かないってことか……)

 

(そう簡単にやらせはせんで、シロちゃん)

 

(次の親番で逆転……やな)

 

 

三人の思惑が交錯しながら、勝負は南二局に突入する。

 

 

 




次回で麻雀は終わり!
あとは数話愛宕回をやって、次は怜&竜華!

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