宮守の神域   作:銀一色

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大阪編です。
相手が親友の母でも容赦のないシロ……流石です。


第120話 大阪編 ⑥ 情報戦

 

 

 

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視点:神の視点

 

 

 

愛宕雅枝:手牌

{二三四六七八③⑥⑦⑧4赤56}

 

 

 

(止めたか……三筒を……)

 

 

愛宕雅枝は半ば驚いたようにして小瀬川白望の事を見る。小瀬川白望が自分のリーチより前に聴牌していたのはある程度分かっていた。そんな彼女がここに来て牌を入れ替えるということは、恐らくではあるが{③}をツモってきたのだろう。他の牌だという可能性もあるが、長年の勘がそう告げていたのだ。そしてそれを止めて聴牌を崩した……確かに、自分が仕掛けたスジ引っ掛けの{③}単騎待ちは言わば小手調べ。そう思ってしかけたものだった。が、本当に的確にこちらの思惑を洞察することができるとは思ってもみなかった。愛宕雅枝は小瀬川白望が決勝戦に具体的にどう闘ったのかは見ていない。娘である愛宕洋榎と愛宕絹恵から口頭で聞いた情報しか持ち合わせていない。試しに『小瀬川白望』でネットで検索をかけてみたが、何かの規制がかかっているのか、色々な検索エンジンを使用したが、一件も小瀬川白望についてのページは見られなかった。今度は『麻雀 全国大会』で検索したが、明らかに決勝戦や準決勝の一部……というより小瀬川白望の事だけがうまく隠されていた。

故に、半信半疑であったのだ。この小瀬川白望が本当に化け物なのかということに。洋榎も絹恵も、少しばかり誇張に話しているのではないかとまでは疑わなかったが、いっときのツキなのではないかと思ったことは少しだけあるにはある。

だが、愛宕雅枝は今ので完全に理解した。……正確には小瀬川白望が卓に座ったときに彼女は理解していた。まあ何はともあれ、あの一打で愛宕雅枝の気づきは確信に変わった。

 

(・・・予想以上やな)

 

間違いない。愛宕雅枝は額に少しばかり汗を垂らしながら確信する。今目の前にいる小瀬川白望は、洋榎や絹恵が愛宕雅枝に言っていたように、いやそれ以上に化け物だということを。

オーラ、牌に対する嗅覚、それを実行できる精神力……麻雀をやる上で必要な全ての要素が完璧に洗練されている。愛宕雅枝はこれまで三十数年間生きてきた。彼女は自分が強い部類だと自負していたし、自分が敵わないと思った強者の存在も何人も見てきた。だが、彼女にとって、この小瀬川白望という雀士は全く未知の体験であった。実力如何の斯うのとかそういうものではなく、純度が違う。小瀬川白望がよく研がれている綺麗な剣先だとすれば、愛宕雅枝は刃こぼれのある剣先といったところか。そう表現したが、それはあくまでも小瀬川白望と比較した時の話であって、実際は愛宕雅枝は相当の強者だ。それは彼女自身が良く知っているし、またそれを小瀬川白望と対峙したことのある愛宕洋榎を始めとした他者もそれを認めている。ただ単純に、小瀬川白望が愛宕雅枝を上回っている。その一言に尽きる話であった。

 

 

 

〜〜〜

二巡後

小瀬川白望:手牌

{一二三四五六七八九③778}

ツモ{②}

 

 

小瀬川白望が{③}をツモってから二巡が経ち、前巡のツモでは{7}を重ね、この巡では{②}をツモってきた。当然、小瀬川白望は{8}を切って聴牌。{①④}の両面待ちだ。

ここはリーチに行くか、と小瀬川白望の事を後ろから見ていた絹恵はそんなことを考えていたが、小瀬川白望はここはリーチにいかず、黙聴で聴牌した。これでこの局に聴牌しているのは愛宕雅枝と小瀬川白望の二人。愛宕父はまだ聴牌には程遠く、愛宕洋榎は愛宕雅枝のリーチ後、早々に見に回った。無理に行かなくてもいいと思ったのか、それとも愛宕雅枝のリーチに小瀬川白望はどう対処するのか見て見たいと思ったのかは定かではないが、この東一局は愛宕雅枝と小瀬川白望の一騎討ち、そういった雰囲気が漂っていたかのように見えた。

 

(ここでオカンより早くツモれるかが勝負やな……)

 

事実、愛宕絹恵もそう思っていた。この局は小瀬川白望か愛宕雅枝のどっちが早く和了れるかが肝心なところだと。しかし、実際は少しばかり違う。

両側に座っている愛宕父と愛宕洋榎はどう考えているかは分からないが、少なくとも愛宕雅枝と小瀬川白望はそうは考えていなかった。これはいかにして相手を探れるかの、いわば情報戦。この東一局では彼女らは点棒よりも重要なものを取り合っていた。それがまさに相手の情報。この勝負、どちらが多く情報を得られるかで後の勝負が決まってくると言っても過言ではない。

 

 

 

〜〜〜

 

 

(来た……!)

 

 

四巡後

小瀬川白望:手牌

{一二三四五六七八九②③77}

ツモ{①}

 

 

そうして黙聴をとった小瀬川白望は四巡後に自身の和了牌である{①}を山から掴み取ってくる。これでツモ一通平和の四飜。一先ずは和了れることができた……と愛宕絹恵は思ったが、これはあくまでも情報戦である。ここで和了ってしまえば相手に情報を渡すこととなってしまう。故に、ここはツモ切り。完全に和了る気は無い。

 

 

(そういった意味でも……愛宕雅枝さんのリーチは愚行……)

 

そう、この局、小瀬川白望は和了る気はない。そうなれば必然的に愛宕雅枝が和了る、もしくは流局時に愛宕雅枝が晒すという二択になる。小瀬川白望はリーチをかけてはないが故に流局時に晒すことはしなくてもいいが、愛宕雅枝はリーチをかけてしまっているため、チョンボの8,000点を支払うことくらいしか手牌を晒すという小瀬川白望に情報を与えることから免れることはできない。

故に小瀬川白望は愚行と評したのだ。リーチをかけてわざとノーテンと言い張る事は一種の戦略ではある。事実、かの赤木しげるも同じようなことをしていた。だが、これはリーチをかける必要はまったくもってない。何故なら小瀬川白望は既に愛宕雅枝が{③}待ちで聴牌しているという事を完全に看破しているからだ。小瀬川白望は別にこの局もう愛宕雅枝の手牌を見ることにあまり意味はない。強いて言うならどういった道筋で聴牌に至った事を知るという利点。それらが無くとも収穫はこの局あったと言えるだろう。それがその収穫にプラスαを与えることとなってしまう。だからこそあのリーチは愚行なのだ。

 

 

〜〜〜

 

 

「「「ノーテン」」」

 

 

そうして東一局が終了する。愛宕洋榎と愛宕父は勿論の事、小瀬川白望も手牌を伏せる。だが、リーチをかけていた愛宕雅枝は手牌を晒す他なかった。

 

「・・・聴牌」

 

そういって手牌を晒す。それを見て小瀬川白望は少し笑う。完全に手の内を晒してしまった愛宕雅枝と、一方全く情報を与えなかった小瀬川白望。二人の命運が大方決まってしまった東一局となった。

 

 

 

 




少し字数が足りなかったかな?
因みに、2/1からバレンタインの番外編に関するアンケートを取りたいと思ってます。忙しかったら番外編自体しないと思いますが。

・・・リクエストが全然やれなくて申し訳ないです。

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