宮守の神域   作:銀一色

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半分脳味噌縛りで書きました。
まあ文章力は御察しの通りです。


第119話 大阪編 ⑤ 引っ掛け

 

 

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視点:小瀬川白望

 

 

絹恵の試合が終わり、私は愛宕家の車に乗せられて洋榎と絹恵の家……つまり愛宕家に向かった。そう、今日の大阪での修行場は愛宕家である。雀荘にしようかとも思ったが、そもそも雀荘に行っても洋榎と同じくらいの人間なんてそうそういないし、何より洋榎のお母さんは有名な千里山の監督だ。得られるものも少なくはないはず。面白い人が来るか保証のない雀荘に行って時間を潰すよりかは、愛宕家のお世話になった方がいいであろう。

因みに、今晩は愛宕家に泊まることになっている。無論私が大阪に来ることすら知らなかった絹恵は知らなかったが、それ以外の人は既に知っている。

 

(また智葉に急なお願いしちゃったなあ……)

 

そんな事を考えながら、ふと智葉の事を思い出す。私が愛宕家に泊まると決まったのは昨日の夜に私が洋榎に電話をかけた後、洋榎がまた電話をかけ直して、その時初めて決まったのだ。当然、既にホテルは手配してもらっているのだが、智葉に無理を言ってキャンセルしてもらったのだ。智葉も最初こそ嫌そうだったが、洋榎も一緒に頼んでいるという事を明かすと、渋々それを了承してくれた。何処か行くたびに迷惑をかけている智葉には本当に申し訳ないと思っている。

 

「ちゃんと部屋掃除しとけば良かったでホンマ……」

 

すると隣にいる絹恵が頭を抱えながらそう呟いた。声に出していることに気付いていないのか、その後も色々な事を呟いていた。

 

「常日頃から掃除しとけば良かったのになあ」

 

洋榎と絹恵のお母さんが笑いながら絹恵に向かって言う。そこでやっと自分の独り言が漏れていることに気付き、顔を赤くしながら「言ってくれればちゃんとやっていたわ!」とお母さんに向かって言った。

 

 

「シロちゃん、着いたで」

 

そんなやり取りを車内で聞いていると、車が駐車場らしき場所で停車した。洋榎がそう言って、車のドアを開ける。そうして私が車から降りて、家の方を見る。智葉ほどの大きさではないにしろ、私の家よりは圧倒的に大きかった。

 

「じゃあ白望さん、中に入りや」

 

洋榎と絹恵のお母さんにそう促され、私は愛宕家の中に入った。やはり見慣れないものが多く、キョロキョロとあたりを見回す。すると洋榎が奥の方に行って、「こっちや!シロちゃん」と手を振る。私は洋榎の方まで行き、洋榎が扉を開ける。その部屋の中には、全自動の麻雀卓が置かれてあった。

 

「よし……オカン!麻雀やるで!」

 

洋榎は自身のお母さんに向かってそう言う。お母さんもやれやれといった感じで、それでもその目に闘志を抱きながらも椅子に座る。

 

「絹もやるか?」

 

洋榎が絹恵に向かってそう言うが、絹恵は「シロさんのこと見てるわ」といって私の肩に手を回して断った。すると洋榎は「じゃあ……オトン、座りや!」といってお父さんの腕を掴んだ。

 

「え、夕飯の支度せんといかんのやろ……?」

 

お父さんがそう言うが、お母さんは

 

「プロレス……」

 

と呟くと、お父さんの顔が引きつった。本当にプロレスって何をやっているんだろうか。あの様子を見るに、まともなことはやっていないだろう。

 

「すまんな。白望さん。オトンあんまり上手くなくてな……」

 

お母さんがそう言う。ああ成る程そう言うことか。いつも洋榎やお母さんに点棒を毟り取られているのだろう。

まあ、そんな事は別に構わない。持てる全力を尽くして目先の勝負に勝つだけだ。遊びだろうがなんだろうが関係ない。

 

(さあ……やろうか)

 

 

 

 

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視点:愛宕絹恵

 

 

(シロさんの麻雀……久々に見るわ……)

 

 

ウチは卓に座るシロさんの背中を見ていた。シロさんの闘牌を最後に見たのは去年にあった全国大会の決勝戦。それ以来シロさんの麻雀……というかシロさんと会うこと自体がなかった。たまにメールをやり取りしてはいたが、実際に会うのは実に1年振りだ。1年振りに見たシロさんの背中は、決勝戦で見たときの感じよりもひと回りもふた回りも大きく感じた。いや、実際に大きくなっているわけではないのだが、どことなく力強く感じられた。

そう言ってシロさんの表情を見る。やはりあの時よりも目つきが数段鋭くなっており、真剣な表情をしていた。いつも見るあのダルそうな顔をとはまるで別人のようであった。

 

(まあ、そのギャップがカッコええんやけどな……)

 

 

〜〜〜

 

 

「リーチや」

 

愛宕雅枝

打{⑥}

 

 

東一局の七巡目、オカンがリーチをかける。相変わらずの速度であり、これが千里山という強豪の監督をする者の力というものなのだろう。だが、オカンがリーチをかけるよりも前に既にシロさんは張っていたのだ。

 

(オカンの待ちは……)

 

オカンのリーチを受けてウチは椅子から立ち上がってオカンの手牌をチラリと覗く。

 

愛宕雅枝:手牌

{二三四六七八③⑥⑦⑧4赤56}

 

 

オカンの捨て牌はリーチ牌の{⑥}のスジ引っ掛けの{③}単騎待ち。{⑥}を持っておけば平和がつくのにも関わらず、オカンは迷わず{⑥}を切った。多分、最初からシロさんに対して仕掛けに行ったのだろう。それも、小手調べ程度といったところ。

このオカンの一打によって勝負の質が変わった。

 

 

小瀬川白望:手牌

{一二三四五六七八九3378}

ツモ{③}

 

オカンのリーチの同巡、シロさんがツモってきたのは{③}。これは切ってしまうかもな……と思ったが、シロさんは迷わずに{③}を手中に収め、{3}を切った。

 

(・・・シロさんには何が見えてるんや……?)

 

ウチには分からなかった。あそこで何故{③}を止めることができて、聴牌をあっさり崩せるのかが理解できなかった。ウチがあの立場だったら、確実に振り込んでいただろう。シロさんには牌が助けて見えるのではないかと思ってしまうほど、淀みのない動きであった。迷うそぶりもなく平然と切る様は、カッコいいというよりも、恐ろしいと感じた。

 

 

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視点:小瀬川白望

 

 

(絹恵は不思議そうに見てるけど……まあ、()()()()の待ちは絹恵の表情を見るまでもない……)

 

後ろで私の事を疑問そうに見ている絹恵を放っておきながら、私は次のツモ番を待つ。雅枝さんの手牌は十中八九……確実に{③}が待ちに入っているだろう。あの表情を見ればだいたいそういうのは分かる。大概そういう引っ掛けをする……嘘をついている人間はどうしても手牌を見てしまうのだ。そういう古典的なスジ引っ掛けは赤木さん相手に嫌という程見てきた。いや、赤木さんの場合はそう言った素振りなどまったくなく、普通の時と変わらない感じでリーチを打つ分、こっちの方がまだ分かりやすい。赤木さん相手だと判別するのは本当に難しく、結局50%という無謀な賭けをする羽目になる。まあ、そういった50%の運任せにしようと誘導させるのが赤木さんの狙いであり、私はそれにまんまとハマってしまっているのだが。

 

 

(まあ……麻雀部の、しかも強豪校の監督がやるとは思ってもなかったけどね……)

 

だが、雅枝さんが予想していなかったのは事実だ。競技という名目での麻雀ではそんな事は特異的な能力を持っている人間以外は滅多にしない。直撃がどうしても必要というのなら話は別だが、これは東一局だ。こんな序盤からそんな引っ掛けをする意味はないだろう。生徒を指導する立場の監督ならば尚更だ。

しかし、洋榎とはまた違ったどちらかというと博打より……全然純度は違うものの、私や赤木さんよりの麻雀。やはりこの愛宕家は面白い。これだけでもこの大阪に来た意味はあっただろう。

 

(まあ……負ける気はないけどね)

 

 

 

 




今回の麻雀は北海道の時よりも短いし薄い(内容が)です。
最近R-18に手を出そうとしているけど中々書き始めることができないチキン。

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