まずは愛宕家から。
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視点:小瀬川白望
「そういうわけで、明日からそっちに行くから……」
『おう、分かったで。シロちゃん』
夏休みが終わり、長い長い学校の新学期の始まり……と思いきや、時間の流れというのは不思議なもので、ついこの前新学期が始まったと思いきやもう今学期が終了、明日からは冬休みということになった。
そして今回、私が智葉に頼んで修行場に設定した土地は関西。近畿地方となった。今回は夏休みほど長くはない長期休みではないので、一回行って帰ってくるというわけではなく、一気に近畿地方を回るつもりだ。大阪には二日かけ、それ以外の県には一日づつかける予定だ。因みにそれらを回っている途中に愛宕姉妹と怜アンド竜華、小走さんのところへ訪問するつもりでもある。今はちょうど洋榎に電話をかけてその旨を伝えていたのだ。
『あ、そうそう。シロちゃん』
「なに?」
『明日な……午後から絹の試合があんねん。ウチはサッカーとかようわからんけど、アイツ、今から既に気合入っとるんよ。・・・そこでや、シロちゃん。シロちゃんも試合に来て、絹のこと応援してくれるか?』
「あー……」
そういえば、小学生の頃確か絹恵のサッカーの試合を見に行くとか約束していたなあ……結局日程が合わなくてその話はあえなくボツとなっちゃったんだっけ。誰が悪いとかではないのだけれども、絹恵には悪いことをしたなあ……
別にそんなスケジュールが明確に決まってるわけでもないし、小学生の頃の約束を果たすという意味でも、私はそれを承諾した。
「いいよ」
『ホンマか!?じゃあ、大阪に着いたら電話してくれや!駅からそう遠くないところでやるみたいやし』
「分かった……楽しみにしてるって、絹恵によろしく」
『任せとけや。じゃあ、また明日なー』
「また明日……」
そう言って電話を切り、そのあとは怜、竜華、小走さんの三人にも電話をかけて、近日そっちの方へ行くということを伝えた。
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視点:愛宕洋榎
「また明日なー」
『また明日……』
プツン、という音が携帯から発せられる。そうして携帯をパタンと閉じたウチは、深く息を吐いて携帯を机に置く。
その瞬間、部屋のドアがガチャ、と音を立てた。びっくりしてドアの方を見ると、お風呂から上がってきてパジャマ姿の絹がそこにはいた。
「お風呂上がったで」
そう言って開けたドアをパタンと閉める。そして絹は私の方を見て、
「さっきまで話し声してたけど……電話で誰かと話してたん?」
絹がそう言った瞬間少しほど私は噎せたが、すぐに冷静を取り戻して絹の質問に答える。
「え、いやー……ちょっと少し、な」
苦し紛れの答えだったが、意外にも絹はそれを信じてくれたようで、「ふーん」と言って納得した。そして鼻歌を歌う絹に、私は質問した。
「なあ、絹」
「なに?お姉ちゃん」
「明日の試合、楽しみか?」
ウチが言った直後こそ突然の質問に首を傾げたが、すぐにニコッと笑ってこう答えた。
「楽しみやで」
それを聞いたウチは「そうか……頑張れや。絹」と絹に対して言った。シロちゃんには確かに「絹恵によろしく」とは言っていたが、今ここで言わなくてもいいだろう。いわゆるサプライズというものだ。絹がシロちゃんに抱えている気持ちはウチがよう知っている。だからこそそれを今伝えてしまったら、絹は明日いつものようにのびのびとプレーできないだろう。そういったウチなりの気遣い、というものである。
(それにサプライズの方が面白そうやしな……)
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翌日
大阪
視点:小瀬川白望
「あれ……なんだここまで来てたんだ」
「やっぱ相変わらずの厚着やな……岩手ちゃうんやで?」
その翌日、新幹線に乗ってやってきた私を洋榎が出迎えてくれた。確か昨日は大阪に着き次第連絡をよこせとのことだったが、あっち側が既に来ていた。
「東北民でも寒いものは寒い……」
「なんやそれ、そんなん大阪の人間なのにたこ焼き食えないと言ってるもんやろ」
洋榎が分かりづらい例えで私に説明する。いや、いくら大阪の人だからといって、粉物が嫌いな人くらい何人かはいそうな気もするけど……まあ、屁理屈を言っているのは元は私の方だ。ここはつっこまないことみしよう。
「お、白望さん……やな?」
そして洋榎の後ろから声が聞こえてくる。洋榎の後ろにいたのは私よりも少し大きい身長で、私と同じような、白なのか銀色なのか曖昧な髪の色をしていて、服越しからでも分かるほどの豊満な胸をお持ちである、独特なオーラを放つ女の人だった。
「どうも……」
私は軽くお辞儀をすると、洋榎が私に向かってこう言う。
「紹介するで、ウチと絹のオカンや」
「初めまして、やな」
「初めまして……」
そういったやりとりを洋榎のお母さんとすると、急に洋榎のお母さんは私の腕を掴んで洋榎に聞こえぬよう小声で私にこう言った。
「去年の決勝戦、洋榎から色々聞かせてもらったで」
「それはどうも……」
「それで、中学は大会に出る気はないってこともな」
「はあ……」
「そこでや、高校はこっち来て麻雀打たんか?千里山っていう名門なんやけど……」
なるほど、俗に言うスカウトということか。確かに悪い話でもない。だが、生憎ながら私にはそれよりも先にやるべきことが存在している。そもそもここに来たのもそれを果たすための過程に過ぎないのだ。当然、私はそれを却下する。
「すみませんが、私には目標があるので……」
一瞬、しつこく勧誘されるかなとかも思ったが、それは杞憂だったらしく、洋榎のお母さんは「そういうことやったら仕方ないな」と言って早々に諦めてくれた。どうやら、この話を私が断ると踏んでの勧誘だったようだ。
「ま、それが達成できたらいつでもウチに教えてくれな。これ、ウチのメールアドレスや。こっちに来たくなったらいつでも言うとええで」
そう言って私にメモを握らせる。年上の、ましてや大人のメールアドレスなど、私のお母さんとお父さん以来の事だ。いつも同級生とかなので、そういう意味では新鮮さがある。
そう言って洋榎と一緒に絹恵の試合の会場に行こうとしたが、最後に一つ、私が気になった事を洋榎のお母さんに聞いてみようとしたが、流石に失礼かなと思っていうのをやめた。いやしかし、これを気にするなというのも無理があるだろう。
(なんで洋榎のお母さんと絹恵は胸大きいのに洋榎だけあんなんなんだろう……)
別にそういう気があるわけではないが、ふと気になってしまったのだ。仕方ないであろう。それにしても姉妹でこんなに差がでるものなのか……と思いつつ洋榎の胸を見る。去年見た時と殆ど変わってなさそうに見える。絹恵は去年の時点で大きかったのに……
「ん?なんやシロちゃん。なんかあったか?」
するとそんな私の視線に気づいたのか、洋榎が私に聞いてくる。私は洋榎の肩をポンと叩き、こう言った。
「洋榎。頑張ってね……」
洋榎は意味がわからないと言った風に首を傾げていたが、
「お、おう。せやな」
と言った。多分、伝わってはいないだろうが、別にそこはどうでもいいだろう。
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視点:愛宕絹恵
(試合30分前……)
サッカーのコートに引いてある白線の外側で立ち止まり、少し瞑想する。相手チームは格上、無論、ウチが試合中にどれだけ点を取らせないようにしても、PK戦にまでもつれ込んだら話は別。某サッカーマンガの天才ゴールキーパーでさえペナルティエリア内のシュートは確実には止めることはできないと言われている。故に、PK戦となるとキックの精度が高い相手が勝つであろう。
だが、ウチは仲間の事を信じている。小学生最後のこの大会、負けるわけにはいかない。
(シロさん……)
そして私はシロさんの事を思い浮かべる。いつもこうだ。何か大きな物事の前には、必ずシロさんの事を思い浮かべ、モチベーションを上げている。
そうして隣に手に握ってあったキャプテンマークをつけて、コート内でアップを始めようと、足を踏み入れた。
サッカー小説かな?(すっとぼけ)
私はサッカーに疎いわけでも、詳しいわけでもありません。なのであんまりサッカー描写はない予定です……サッカーファンの皆様、すみません。