宮守の神域   作:銀一色

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北海道編です。
二度目の温泉回。


第112話 北海道編 ⑪ 偶然の遭遇

 

 

 

 

 

 

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視点:小瀬川白望

ホテル内

 

 

(んっ……)

 

 

 

夢の世界から解放され、現実の世界へと戻ってきた私は重い瞼を開け、大きい欠伸をする。そうして立ち上がろうと体を動かそうとしたが、目の前に見慣れない赤い髪の毛があった。何事かと思ってその髪の毛を目線で辿っていくと、そこには獅子原さんがいた。よく見ると、獅子原さんは私に乗っかられていた。どうやら獅子原さんの体の上で寝てしまっていたようだ。驚いた私はすぐさま獅子原さんの体から離れる。

 

(一体何が……?)

 

普通に考えてベッドではなく床で寝て、しかも獅子原さんを倒してその上で寝るなんて有り得ない話だ。当然だ、睡眠に関してはうるさい私が床で、獅子原さんの上でなんて相当なことがなければ有り得ないし、そもそも常識的に考えて人の上で寝るなんてどう考えてもおかしい。となれば、昨日何かがあったはずである。そう考えた私は必死に記憶を辿ろうとするが、一向に思い出せそうな気配がしない。昨日、獅子原さんをホテルに泊めようとして、それで何故か智葉が怒って……それでもなんとか獅子原さんと一緒に泊まることになって、夕食を済ませたはずだ。そして部屋で二人で話したことまでは覚えている。確かカムイのことについても話したはずだ。そこまではやけに鮮明に覚えている。が、肝心要のそこからが全く思い出せない。それまでは決して変なことはなかったので、何かあったとすればそこからなはずなのだが、記憶の片隅にも残っていなかった。

 

(・・・ていうか汗でベットベト……お風呂入ってなかったんだっけ……?)

 

まあこのことに関しては後で獅子原さんに聞くことにしよう。解決は全くもってしていないが、とりあえずこの事を解決した気になった私が次にまず思ったことは、身体中が汗で濡れていたということだ。これも昨日何かがあったのだろう。二人で密着して寝たとはいえ、それを差し引いても異常な量の汗で塗れているのだ。私の着ている衣服は昨日から変わっていないし、多分お風呂に入る前に寝てしまったのだろう。

そういって現在時刻を確認するため携帯電話を開いて見ると、携帯は3:24を示していた。3時過ぎ、しかしそれは午後の3時ではない。朝の3時であった。試しに窓から外を確認すると、そこには一面真っ黒な空が広がっていた。ということはまだチェックアウトまではたっぷり時間がある。というか朝食の時間までもまだまだある。これからまた寝直す気分でもないし、このホテルには温泉が備わっているらしいので、浴衣に着替えて温泉に入ることにした。これは北海道に来る前から智葉から教えてもらったものだが、このホテルの温泉はかなり早い時間から開いているらしい。多分今の時間帯でも空いている……はずだ。

温泉が開いている事を信じて、私は服を脱いで浴衣を着る。もちろん獅子原さんを起こさないようにそっと。最初は獅子原さんも起こして誘おうともしたが、朝の3時から起こされる方も迷惑であろうと思ったため、起こさないことにした。

そして浴衣を着終わると、そっと部屋の廊下へと続くドアを開けて、温泉の元へと向かった。

 

 

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視点:小瀬川白望

温泉内

 

 

 

(温泉なんて怜と一緒に行った以来だったなあ……)

 

 

結局、この朝の3時でも温泉は開いていて、私は脱衣所へと向かった。思い返すと私が最後に温泉に入ったのは小学生の頃、全国大会の時に怜と一緒に入ったとき以来の事であった。因みに、ここにもサウナがあるらしいのだが、当然ながら入る気など毛頭ない。前に怜と入ったときに地獄を見たため、もう二度味わおうとは到底思えなかった。まあ、サウナを愛して止まない人も居ると思うはずなので、根っから否定する気はないが、とにかく私は入る気はない。

 

(そういえば、大阪のみんなは今頃何してるんだろう……)

 

そんな事を思い出していると、ふと怜だけでなく、竜華や愛宕姉妹のことが急に気になった。いや、最近も彼女らとメールをやり取りしているので、本当に疎遠になったわけではないが、実際に会って話したのは小学生の頃以来の事だ。この夏休み中は不可能だとしても、冬休みの時は大阪含む近畿地方を私の修業先にしようかな……とか思った瞬間であった。

そんな事を考えていながら脱衣所の扉を開け、大浴場が目の前に展開される。流石に3時から入る人はいなかったらしく、大浴場はガランとしていた。

温泉に早く浸かりたいという気持ちもあるが、まず先に汗による不快感を払拭するべく、私は体を洗う事を優先させた。

 

 

 

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視点:獅子原爽

 

 

「ふぁ〜あ。あれ……?」

 

 

目がさめると、まず気づいたのは昨日寝るときに私の上に乗っかった小瀬川がいなくなっていたということだ。携帯電話を取り出して時刻を見てみると現在時刻は3:30。しかも朝の3時半だ。きっと自動販売機とかにいって飲み物を買っているのかな、と朝っぱらの働かない頭を使って考える。改めてベッドに横たわって寝ようと思ったが、完全に目が覚めてしまっているようで、一向に眠れない。仕方ないので私は何処かに行った小瀬川を探すことにした。

 

(・・・っていうかめっちゃ濡れてるな……パウチカムイの影響じゃないはずだけど……)

 

だが、その前に私の体は汗で濡れていたことに気づく。着替えようと思っても、そういえば着替え持ってきてないということを思い出し、部屋から浴衣を取り出してそれを着ることにした。そして着替え終わった私は、脱いだ服をとりあえずハンガーにかけ、鍵を持ってから部屋を出た。

 

 

 

〜〜〜

 

 

 

(ん?こんな時間でも温泉開いてんだ……)

 

 

そしてホテル内を捜索することおよそ5分程度が経過し、私はホテル内の温泉が開いていることに気づく。まだ6時には程遠いのに、温泉が開いているなんて珍しい。折角なので、と思った私は迷わず温泉の元へと向かった。

 

 

〜〜〜

 

 

(あれ、こんな時間でも先客いるんだ……)

 

 

脱衣所について、浴衣を脱ごうと思った私は、既にカゴに入れられていた浴衣を発見した。自分が言えた義理じゃないが、こんな朝早く……というかそもそも朝と言えるかどうか微妙なこの3時という時間に入るなんて相当な人だな、と率直に思った。これが所謂温泉通というやつなのか、何はともあれこんな早くからご苦労様である。

そして私も浴衣を脱ぎ終えると、脱衣所の扉を思いっきり開けた。結構、というよりかなり良いホテルということを昨日の夕食時に思い知った通り、大浴場もかなり広い。奥の方を見れば屋外へと続くドアがあり、どうやら露天風呂もあるようだ。私も露天風呂を堪能しようと考えていたが、ここで私よりも先に温泉に入っているはずの先客の姿が見えないことに気づいた。大浴場の中には先客がいなかった事を考えると、どうやら先客は露天風呂の方に行っているらしい。

まあ私は人が居ても気にしない性格の人間なので別に露天風呂に人が居たとしても、私にとってはどうでもいいのだが。

 

(〜♪)

 

露天風呂に入る前に、私はシャワーで体に付着した汗を洗い流す。流石といったところか、シャンプーやリンスなども高級そうなのを使っている。……こんなところに一人で泊まれる小瀬川はいったい何者なんだろうという疑問が頭の中に浮かんだが、まあそれは考えても仕方がないだろう。

 

(さて……露天風呂に入ろうとするか)

 

そして体を洗い終えた私は、露天風呂に続くドアをガラリと開けて、屋外へと出る。いくら夏とはいえまだ日も昇っていない時間帯に真っ裸で、しかも体を洗ってから直ぐ外に出たため、それが冷えて結構肌寒く感じた。私は急いで露天風呂へ向かうと、そこには人影がいた。どうやら例の先客らしい。だが、その瞬間私の思考が停止する。あの後ろ姿、いや、後ろ姿といっても温泉に浸かっているせいで上半身しか見えなかったが、私には見覚えがある。

あの白色なのか銀色なのか曖昧な色で、もふもふしたあの髪を私は知っている。

そしてその先客も私の存在に気づいたのか、振り返って私の方を見て、私に向かってこう言った。

 

「あ……おはよう。獅子原さん」

 

「こ……小瀬川っ!?」

 

 




次回で北海道編は終わる……はずです。
もしかしたらもうちょっと使うかもしれませんが。
今回話に出た通り、北海道の次は大阪編です。
多分その次は奈良編になるでしょう。

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