宮守の神域   作:銀一色

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パウチカムイ回です。
危うくR-18になりかけたぜ……安易にアッチ系に足を踏み入れた感が半端ないけどそれはもうどうでもいいでしょう(白目)
話が急展開すぎるけどその辺は気にしない気にしない。


第111話 北海道編 ⑩ パウチカムイ

 

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視点:神の視点

 

 

 

「うっ……!」

 

 

 

獅子原爽が小瀬川白望の元へ走り、そして小瀬川白望を引き止めた場面と同時刻、一般人の変装をして小瀬川白望を監視している黒服は二人から少し遠いところから、いかにもタバコを吸いながら道を練り歩く一般市民に紛れながら小瀬川白望のことを見ていた。当然、昔から張り込みには何故か欠かせないアイテムとなっている牛乳(パック)とあんパンを所持しながら。

だが、このとき彼は張り込んでいる人間らしからぬほど焦っていた。何故なら折角小瀬川白望が珍しく同年代の女子を誑し込むことなく雀荘を後にしたのにも関わらず、今目の前には辛い現実が展開しているからだ。彼女が何事もなく雀荘を出た時、彼自身辻垣内智葉と小瀬川白望が結ばれることを望んでいる黒服は安堵の息を吐いた。そして彼女が雀荘から出た十数秒後に彼も出て、あとは小瀬川がホテルに帰るだけ。そう思いながら小瀬川の後をつけていたまさにその直後の事だった。その雀荘で小瀬川が出会ったはずの赤髪の女子が小瀬川の事を走って追いかけてきたではないか。大丈夫、これで今日は終わったと思った矢先に急展開。彼が焦るのも無理もないことだ。

 

 

(クソっ……なんてこと……!)

 

黒服は折角さっきまで打っていたメールの内容を全部消去する。あのまま何事もなく小瀬川がホテルに戻っていれば、辻垣内智葉のもとに吉報を送れたはずなのに。そういった悪態を心の中で吐き、二人の様子を観察する。

 

(何故いつも……こんな……)

 

そして黒服はメールの中身を消去しながら、空いている片手で牛乳パックの中身をストローで飲み干し、そのままパックを握り潰した。

 

 

 

 

 

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視点:獅子原爽

 

 

「小瀬川……!」

 

 

「ん……」

 

 

私が彼女の名前を叫ぶと、彼女は間髪いれずに私の方を向く。別人でした、みたいなアホらしい事もなく、紛れもない小瀬川白望だ。だがしかし、この時私はとても焦っていた。確かに私は彼女を引き止めた。引き止めたまではいい。問題はここからだ。具体的に言えば、私は引き止めた後の事を全く考えていなかったのだ。揺杏に促されて追いかけたまでは良かったが、あの時の私はただ小瀬川白望の事を引き止める事だけしか考えていなかったのだ。完全に盲点だった。

そして彼女が振り返ってからの今も懸命に何を話そう、どうやって切り出そうと考えているが、まとまった答えが一向に出てくる気配はない。そうこうしているうちに二人の間には沈黙が訪れていた。その証拠に、彼女はさっきから不思議そうに私の方を見つめている。今となってはその目線すら私にとっては彼女の魅力となっているので、うまく目線を合わせる事もできないので、余計に妙な空間が形成されてしまった。

そして彼女はそんな空間が堪え難かったのか、私に気を遣ったのか、私の右手をそっと掴んだ。それだけでも私の心が波打っているのに、彼女は御構い無しといった感じで私に向かってこう言った。

 

「・・・近くに私の泊まるホテルがあるんだけど、なんだったら獅子原さんも泊まってく?ここで立ち話もダルいから……さ」

 

 

「・・・は?」

 

一瞬、私の脳内の思考が停止する。いや、一瞬なんかではない。小瀬川の言葉によってもう頭の中がグチャグチャになり、まともな思考ができないでいる。

 

(え?ホテル?小瀬川と一緒に……ホテル?)

 

ダメだ。思考停止状態の私が今ホテルと聞いて想像するのはもうアッチ系のホテルしかない。小瀬川はそういうつもりではないのは確実なのだが、思考停止状態の私にはそうとしか捉える事しかできなかった。そのおかげでさっきから顔が熱い。きっと小瀬川から見た私の顔は私の髪と同じように真っ赤になっているだろう。

 

「・・・こないの?」

 

そんな私に向かって小瀬川が聞いてくる。その質問によってようやく我を取り戻した私は、まともな思考をして小瀬川に言おうとしたが、我を取り戻したところでうまく言葉にできるわけがない。思考の余裕ができたところで、私にできることは狼狽えることくらいだった。

 

「え、いや……」

 

「あー……部屋の事なら多分何とかなるよ。服も浴衣があるし……」

 

「え……そうなのか?」

 

「うん。獅子原さんも私に用があってきたんでしょ?だから、さ」

 

そう言って小瀬川は私の腕を掴んだ手を離して、もともと彼女が行こうとしていた方向に足を向けて、私に向かって改めて手を差し伸べる。ダメだ。普通ならこんな突拍子に言われても絶対断るはずなのに、何故か断れない。むしろ、彼女について行きたいと思っている自分がいる。

 

「・・・うん」

 

私はただ頷き、差し伸べられた右手を握った。

そして私は小瀬川の右手をぎゅっと握りながら、彼女について行った。そこで初めてやっと真に思考が回復した時、最初に私が思ったことは、

 

(これって他の人から見たら恋人同士みたいに見えるんじゃないか……///)

 

ということだった。折角思考が回復した私は再度顔を赤く染め、またもや思考が停止したのであった。

 

 

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視点:小瀬川白望

 

 

(あー……勝手にホテルに連れて行こうとしちゃったけど、本当に大丈夫かな……?)

 

私が彼女と手をつなぎながらホテルに向かって歩き出してから少し経ち、さきほどやった自分の行為について思い返してみた。確かに獅子原さんは何な私に対して言いたいことがあるのだろう。そしてそれがなかなか言えないというのも当たっているはずだ。だが、だからと言ってホテルに連れ込む必要性も無かったのではないか、と今更ながら疑問に思う。そもそも、彼女を連れ込んできて本当に良かったのか?私は獅子原さんをここら辺に住んでいる人前提で誘ったが、もし私と同じ旅行に来た人ならそれは確実にアウトだ。というか、親御さんの許可なしに連れ込むのも普通に考えてアウトであろう。このままでは獅子原さんが誘拐されたみたいな誤解をされかねない。いや、さっきの私の誘いもモロに誘拐犯みたいな強引さではあったが……

 

「獅子原さん」

 

「ひゃい!?な、何だ……?」

 

「親の許可とかとった方が良いんじゃない……?勝手に連れてきて悪いけど……」

 

「お、おう。そうだな……」

 

獅子原さんはそう言って彼女の携帯を取り出し、親に電話をかけ始めた。

 

(そういえば……智葉にちゃんと許可とらないとなぁ……)

 

そう思って私も携帯を取り出して、智葉に電話をかけようとする。今まで獅子原さんの心配ばかりしていたが、そもそも獅子原さんも一緒に泊めると私が勝手に言いだしてしまったので、そういった許可は全くとっていない。故に智葉に連絡を取ることにした。そういった人数変更とかすぐにできるかのは分からないが、智葉ならどうにかしてくれるだろう。そう思って私は携帯を耳に当てる。そしてその数秒後、智葉が電話に出てきた。

 

『もしもし……』

 

だが、その智葉の声には明らかに不機嫌そうな感情が乗っかっていた。どうしたものかと思ったが、獅子原さんを待たせるわけには行かないなと思った私は要件を伝えようとする。

 

「もしもし、智葉。突然だけど部『もう済ませてある!!シロのバカー!』……」

 

だが、要件を伝え終わる前に智葉が怒った声で私に怒鳴り、そのまま一方的に電話を切られた。電話越しとはいえいきなり大声を出された私は思わず耳を電話から離した。そうしてからもう一度耳に当てたが、『ツー……ツー……』という音しか聞こえなかった。

 

(・・・後で謝っておこう)

 

智葉がなんであんなに怒っているのかは分からなかったが、とにかく今の感じからしてやつあたりというわけではなさそうだ。完全に私に非があるらしい。ので私は後で智葉に謝っておこうと決めた。

そして獅子原さんも電話が既に終わったのか、気がつけば獅子原さんは顔を赤く染めて私の袖を掴んでいた。その仕草に少し心がドキッっとするが、すぐに「行こうか……?」と言い、少し強引に誤魔化した。

 

 

 

 

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ホテル内

 

「へえ……カムイっていうんだ」

 

そしてホテルに行き、予約していた室内に入る私と獅子原さん。智葉のおかげで獅子原さんも泊まることができており、無事に入ることができた。そして部屋に入る前にホテル内の夕食を食べてから部屋に入った。そして、獅子原さんから私に言いたいことを聞いてみると、どうやら私と友達になりかったらしい。無論私はそれを承諾して、そのあとは私と獅子原さん二人きりでお話をしていた。今は対局時に変な感じを覚えたものの正体について話していた。獅子原さん曰くそれは「カムイ」らしい。アイヌの神様的存在らしくて、それなりに効力もあるらしい。しかも色々種類がいて、その場その場の状況に応じて使い分けたりすることができるらしい。麻雀に使えそうもないカムイもいるらしいのだが、獅子原さんはそれを使って自分の身を守ろうしたり、人助けに使っていたりするらしいので、結構便利なものらしい。

そしてそこからはカムイの種類や、それぞれの特性を獅子原さんから教えてもらった。中には私にとって脅威となりそうなものもあり、それを聞くたびまた獅子原さんと打ちたいという思いが強くなっていった。

 

「他にはまだあるの……?」

 

「えっ……いや……あの……」

 

しかし、突然獅子原さんは何かを言い躊躇い、それと同時に顔を赤く染めた。何事かと思って獅子原さんに聞いてみると

 

「そのカムイは……人の体に影響を与えるカムイなんだけど……小瀬川に使ったら一体どうなるか……」

 

なんだ。そういうことだったのか。別に命に別状がないなら私的には問題ない。いやむしろ、獅子原さんに対しては申し訳がないが、仮に命に影響を与えるカムイであったとしても、そういう無謀な挑戦をしてみたいという気持ちはある。文字通り命を賭けるということができるいいチャンスかもしれないとも思った。まあただでさえ自分の闇によって一度死にかけているし、多分大丈夫だろう。

そういうわけもあって、私は両腕を広げ、獅子原さんに向かってこう言った。

 

「いいよ……大丈夫だから……」

 

 

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視点:獅子原爽

 

 

「いいよ……大丈夫だから……」

 

 

彼女がそう言って両腕を広げる。いや、いやいやちょっと待て。私が今君になんのカムイを使うか分からないのか。

私が今使おうとしているカムイは、そう……パウチカムイ。俗にいう淫欲を司るカムイだ。カムイを操れる私が自分に使ってみても大変なことになったのに常人に軽々と使っていいカムイではない。

この時私はそんなものを彼女に向かって使うなんて……という罪悪感と、小瀬川の乱れた姿を見てみたいという感情が入り混じっている。

だが、そんな私に拍車をかけるように彼女はこう言った。

 

「大丈夫。好きにして……」

 

その言葉が引き金となった。好きにして。ということはつまり私がこのパウチカムイを使って彼女を淫欲の言いなりにしてもいいという解釈をしてもいいわけだ。彼女の何気ない一言が、私の揺れている矢印を完全に傾けた。

 

(ええい、どうにでもなれっ!)

 

そうやって私はカムイを……パウチカムイを出現させ、それを小瀬川の元に向かって放った。しかし、私の最小限の理性がそうさせたのか、彼女の指先だけを狙ってパウチカムイを放った。そうすれば、残念だが幾らかはマシになるだろう。

 

(パウチカムイ……!)

 

 

そうやってパウチカムイは彼女の指先だけを取り囲む、そしてその瞬間

 

「んッ……!///」

 

と声を漏らし、ビビクンと言わんばかりに少しばかり痙攣した。すぐさま私はパウチカムイを引っ込めたが、彼女はどうやら腰が抜けたようで、へなへなと床に倒れ込む。

 

「だ、大丈夫か……?」

 

そう言って彼女に聞くが、彼女は息を切らしながら、ぼんやりと私の方を見ている。私は床に膝をついて彼女の肩に手を置いて落ち着かせようとしたその瞬間、私の目線が天井を向いた。

 

「なっ……!?///」

 

どうやら、私は彼女に思いっきり抱きつかれたらしい。目線を真横に向けると眼前には小瀬川の横顔があった。彼女に抱きつかれた拍子に覆いかぶされた形となってしまったらしい。

そして彼女はそのままの体勢で私に向かってこういう。

 

「大丈夫……でも、ちょっと疲れたから……このまま寝かせて……」

 

そう言い終わると、彼女の寝息がすぐさま聞こえてきた。どうやら本当にこのまま寝てしまったらしい。だが、私からしてみれば寝れるような状態ではない。

 

(・・・こんな状況で寝れるわけないだろ……バカ……///)

 

だが、私も疲れていたのか、あれだけ言っておきながらこの日私が寝たのは彼女が寝て5分後のことであった。

 

 

 

 




これがR-18だったら爽は普通にパウチカムイを使ってそのままベッドインでしたね。危なかった……いやこれも結構アウト寄りなんですけどね。
でももしR-18となると爽が攻め、シロが受けとなりますね((
まあ次回かその次の話で北海道編は終わりですね。

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