宮守の神域   作:銀一色

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北海道編です。
週末が一番きついってどういうことなんですかね……
今回自分のその場の流れで書いたんで、読みにくかったらすみません。


第110話 北海道編 ⑨ 涙

 

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視点:獅子原爽

 

「ありがとうございました……」

 

 

さっきまで鬼、鬼畜のような形相で麻雀を打っていた……いや、どちらかというと麻雀を打つというより半分私を潰そうとしていた小瀬川、もとい"悪魔"とは打って変わって、最初に話した時のような穏やか、というよりは大人しい感じの"人間"としてお辞儀をする。先ほど発せられたような威圧も、人を恐れさせ、そして震わせるような冷たい目線もなく、ただ一人の少女として彼女はゆっくりとお辞儀をした。まるで小瀬川白望という器から邪気が抜けたように、彼女のオーラは冷たく恐ろしいものから暖かく優しいオーラへと変わっていった。

いや、その表現は少し語弊があるかもしれない。多分、今の暖かい小瀬川白望も、麻雀を打つ時の冷たい小瀬川白望も、そのどちらもが小瀬川白望なのだろう。自分で何を言っているか分からなくなってきたが、多分それであっているはずだ。そう、例えるならコインの表と裏。全く正反対の小瀬川白望であっても、それはコインの表と裏というだけで、それのどちらもがコイン……小瀬川白望であるという事実は覆る事はない。

麻雀を打っていた時は小瀬川が恐ろしくて恐ろしくてただ怖がっていた彼女の事を見ていただけだったが、今彼女を見るとまるでさっき彼女が恐ろしいと言ってきたのが嘘だと思えるほど、『怖い』という印象は跡形もなく雲散霧消し、寧ろかっこいいというような好印象でいっぱいだ。それに見れば見るほど、どんどんかっこいいという印象が高まっていく。

 

(・・・え?かっこいい……?)

 

だが、そこまでして私は今の自分の感情に疑問を感じた。かっこいい……だと?私が、小瀬川のことをかっこいい……?しかも、ただのかっこいいとかそういう感情ではない。もっと特別なあったかいもの……いや、いやいやそんな馬鹿な。そう思って必死に自分の感情を否定する。あり得るわけがないだろう。よりにもよって、ついさっき初めて会ったしかも同い年の同姓に、だ。

・・・しかし、今までこんな感情を抱いた事などない。あるわけがない。逆になかったからこそ今の感情に自分は戸惑っているのだ。こんなの初めてだ。揺杏やチカに対してただ普通にかっこいいと思った事は何度かあったが、こんな突発的に、しかも変な感じがするかっこいいという感情は初めてだ。さっきまであんなに悪魔の権化みたいな感じで恐れていたはずなのに、恐ろしい強大なものと自分との差を痛感させられた最大の敵だと思っていたはずなのに、こういった感情が湧き出てくるのは何故なのだろう。

 

(いや、しかし……)

 

だけれども、さっきから小瀬川を見れば見るほど彼女の事をかっこいいと思うえるようになってくる。もふもふとした白い、どっちかというと銀色に近いような髪の色。黒目がちな瞳、中学一年生に対しては大き目な胸、高い身長、深く腰を下ろして背もたれによりかかり、肘掛に肘をかける座り方、顔に手を当てる仕草、どれをどう見ても彼女の事を見るだけでかっこいいと思えるようになってくる。そして彼女を見れば見るほど私の体温が高くなり、顔が紅潮していくのが自分でも分かる。そんな私に揺杏は「爽、顔赤いけど大丈夫か?」と声をかけるがもはやそれどころじゃない。とりあえず私は「あ、ああ、大丈夫」と答えたが、全然大丈夫なわけがない。頭の中は小瀬川白望の事でいっぱいだ。揺杏に答えた時もちゃんと揺杏の方を見て答えたが、目線はしっかりと小瀬川の方を見ていた。別に意識して見ているわけではない。ただ自然と目線が小瀬川の方を向いているのだ。

 

(あー……調子狂うな……)

 

そんなわけのわからない状態の私に向かって悪態を吐く。ああそうだ。もういっその事認めてやろう。私もそこまで勘付かないほど馬鹿じゃない。ああそうさ、恋に落ちてしまった。私は、獅子原爽は小瀬川白望に完全に恋をした。

・・・はあ。自分で言ってて呆れてくる。きっと数時間前の私に言ったら笑われるであろう。信じられない話だ。『初めて会った同年代の女の子と一緒に打ったら叩きのめされて精神狂わせられかけた挙句恋に落ちる』……なんていったい誰が信じるであろう。そこらへんにいる三流作家でもこんな馬鹿げた話よりもマシな話を作るだろう。

だが、実際恋をしてしまったのも事実だ。それは認めざるを得ない。

 

 

「じゃあ、私はこれで……」

 

 

だが、その一言によって私の思考はシャットアウトされる。彼女はそれを言った後、椅子に手をかけて立ち上がろうとしていたのだ。それが指し示す事は、彼女が帰ってしまうという事。ついさっき恋をしたという事を自覚したというのに、その当の本人がもう帰ってしまう。だがそうだというのに私の体は動かなかった。私はただ呆然と小瀬川が立ち上がって場代を払い、雀荘の出入り口に手をかけるのを黙って見ていた。何もできなかった。この時何故私が動けなかったのかは分からない。いや、それが何故なのかは本当は分かっている。その理由は、自分と小瀬川とでは完全に住む世界が違うという事だ。私がどれだけ彼女を愛そうとも、彼女には届かない。そう思ってしまったのだ。問題は、何故私がそう思ってしまったのかという事だ。あれだけ彼女を愛している、そう思っていたのに、いざ彼女が帰ろうとなると、急にそういった気持ちが私を引き止めた。

私には、何もする事ができない。初恋というものは苦いものとよく言うが、強ち間違いではないのかもしれない。そもそも初恋と呼べるものなのかは微妙だが、まあ初恋なんてそれくらいで十分だ。それに、もう会う事はないだろう。連絡手段もなければ、彼女が一体どこからきたのかもわからない。もし数年後奇跡的に会えたとしても、私が彼女を覚えていたとしても、まず彼女は私の事を覚えてなどいないだろう。私は彼女の事を好きだと思っていたが、彼女からしてみれば私はただ北海道でたまたま会った同年代の雀士としか思っていないだろう。別に私が特別彼女にまともに闘えたわけでもない。ただ一方的にやられただけでは、彼女の記憶には残らないだろう。

だから、これで終わり。そう決めたはずだった。そう自分の中で決心したはずだった。なのに何故だろう。

 

(なんで……涙が……)

 

どうして私の瞼には熱いものが溜まっているのだろう。もう会わないし、それを分かった上で私はいいと決めたのだ。どうせこの気持ちを彼女に伝えたとしても、彼女がそれを受け止めるわけがない。そう悟ったはずではないのか。なのになんで私は、未練がましく泣いているんだ。なんで悲しいと思っていないのに、涙だけが私の頬を伝うのだ。

そして気づけば、彼女は既に雀荘を出て行った後だった。牌が河に置かれる音だけが無情に雀荘内を満たし、私は何もできないまま座る事しかできなかった。

 

「はぁー……」

 

だが、そんな私の肩をポンポンと叩く者がいた。そう、揺杏であった。揺杏の方を見ると、揺杏はため息をついて、わざと目線をそらしながら、私に聞こえるようにして独り言のようにこういった。

 

「場代……私が払っとくから。行ってこいよ。あいつのところ」

 

そう言われてからは一瞬の出来事だった。私はその言葉が引き金となったのか、それまで考えていた事の全てを忘れて、涙を拭って猛ダッシュで雀荘の出入り口を開けた。

そして雀荘を出てからはカムイを使って彼女の事を捜索した。あまりここからは離れていないようだ。それを知った私は勢いよくカムイが特定した場所に向かって走り出した。走って走って、死ぬ気で走った。

そしてあの白色に近いような銀色に近いような曖昧な色合いのしたもふもふした髪の毛の中学生らしき女の子を呼び止めた。

 

「小瀬川……!」

 

 

 

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(はあ……あいつも正直じゃないなあ。全く、あの小瀬川も罪深いオンナだよ……全く)

 

 

 

 

 

〜〜〜

 

 

「なっ……なんていう展開……!引き込まれた……!奴も……小瀬川白望というブラックホールに……!!キ〜〜!!どうしていっつも奴には女が群がるんじゃ……?あんな紛い物の奴の、どこに惹かれるんじゃ!?」

 

「ど、どうか致しましたか……」

 

「かっ!黙れ閻魔っ!塵芥風情が!」

 

だが、そう言いつつも小瀬川の事をしっかり見ている鷲巣様であった。

 

 

 

 




次回はお待ちかね(?)パウチカムイ先輩の出番です。
そのためのR-15。(R-18にはなら)ないです。

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