宮守の神域   作:銀一色

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北海道編です。
年明けてからやけに忙しいなあと思ったら普通に去年と変わらないいつも通りのスケジュールで驚きました。未だに正月の感覚が残っているのですね……


第107話 北海道編 ⑥ 私がやらなきゃ誰がやる

 

 

 

 

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視点:獅子原 爽

東二局一本場 親:小瀬川白望 ドラ{西}

 

小瀬川 41,800

おじさん 17,200

獅子原 22,000

岩館 19,000

 

 

獅子原爽:手牌

{1333赤5679東東東西西}

 

 

勝負のこの二巡、私の手はまだ一向聴。そして親の小瀬川からのリーチがかかっている。それに対して私は最速でも二巡しないと和了ることができないし、小瀬川の事ならたった一回でもツモ番が回ってくればツモる確率は果てしなく高いだろう。だが、逆に言えばそこで小瀬川がツモ和了る事が出来なければ、私にもまだチャンスはある。聴牌して一発目で和了牌を引くか、もしくは聴牌して{西}をツモって暗槓をして嶺上開花でツモ和了ればそれで私は小瀬川の親を蹴る事ができ、小瀬川に親被りを払わせる事ができる。

 

(さあ……こい)

 

揺杏が打牌したのを見て、誰も発声しないのを確認してから山に向かって手を伸ばす。何の牌が来るのかなどとうの昔から分かっているが、それでも緊張はする。もしかしたら配牌時に既に{西}を二枚潰されている可能性も無いことではない。確実という言葉ほど信用できる言葉はない。何せ常に何パーセントかの確率が存在しているのだから、確実という言葉は本来しないのだ。

 

獅子原爽:手牌

{1333赤5679東東東西西}

ツモ{西}

 

だが、そんな緊張も杞憂だったらしく、私がツモってきたのは{西}。これで{1もしくは9}切りで聴牌に至る。{1}切りならば{9}単騎待ち、{9}切りならば{12}の変則待ちとなる。どちらをとっても{1か9}で高め三暗刻がつく。

無論、私は待ちが一本多い{9}切りを選ぶ。というより、よほどの事がなければこの場面は{9}切りであろう。理由として、低めの{2}をツモってきたとしてもツモ役牌2混一色ドラ4の倍満であり、例え高めの{19}をツモってきたとしてもツモ役牌2混一色三暗刻ドラ4の三倍満と、両方には打点にこそ差はあるものの、どちらにせよ最低でも倍満以上である事には変わりがないからだ。であるから当然{9}切りの{12}待ち。これは絶対だ。だが、それ以上に私を悩ませる選択が目の前にある。その問題とは、リーチといくかリーチといかないかである。リーチといけば当然追っかけリーチという形となり、小瀬川と撃ち合い必死の勝負となるだろう。だが、リーチをかければ裏ドラ次第で{2}ツモでも三倍満以上を狙うことだって可能であり、一応リターンは得られる。しかしそれでも、

 

(牌は曲げない……!)

 

 

打{9}

 

 

 

私はリーチをかけなかった。いや、よくよく考えてみれば当然の判断だ。確かにリーチをかけることでリターンも得られることには得られるのだが、リスクとリターンが一致していないのだ。そもそも、小瀬川と一切の策なしで真正面から運だけの勝負で殴り合って勝てるわけがないだろう。それこそ私は確実に負けてしまう。そんな最初から負けが決まっている勝負に何かを賭ける価値はないだろう。

 

(・・・この一巡が勝負だ)

 

そう、この一巡……正確に言えばこの巡での小瀬川のツモが勝負どころだ。多分揺杏の鳴きは起こらないだろうし、やはり次の小瀬川のツモが小瀬川の和了牌でない事を祈るしかない。私がどうこうして変わる事ではないが、今の私にはその一点に賭けるしか残されていない。

 

(頼む……!)

 

私は藁にもすがるような気持ちで小瀬川がツモっていく様を見つめる。相変わらず彼女の表情は無表情なのかすら分からない謎の表情で、私の不安や焦燥などどうでもいいと言った風に淀みのないスムーズな右手の動きでツモるべき牌をその右手の指で掴む。そしてその右手を小瀬川自身の方へ持っていき、ツモった牌を見るよりも先に盲牌を行う。たったそれだけの数秒間であったが、しかしその数秒だけでも場は途轍もない緊張感に包まれていた。私と揺杏はもちろん、おっさんだけではなく私らの卓の周りにいる人たちも息を飲んだ。

そして小瀬川が深く息を吐いて、その牌を河へと放った。一瞬だけ時が止まったが、すぐに現場の整理が追いついた。小瀬川がツモった牌を河に置いたということは、それはつまり小瀬川がツモらなかったということ。そう、なんと私の99.99%当たらないと思っていた無謀な賭けは、物の見事に実ってしまったのだ。

 

 

獅子原爽:手牌

{1333赤567東東東西西西}

ツモ{西}

 

 

そしてその直後に私がツモってきた牌は{西}。このツモでは私が和了ることはできなかった。だが、だからといってまた小瀬川のツモに回ってしまうという事には決してならない。何故なら、この手にはまだチャンスがある。そう、このツモによって私の手牌にある{西}は計四枚。そう、まだ暗槓による嶺上ツモがまだ残っている。ここで私が{西}を暗槓すれば、小瀬川にツモを回さずにツモ和了ることができる。

そして私は手牌に四枚ある{西}を晒そうと{西}に手をかけ……

 

(・・・え?)

 

そう、手をかけようとしたまさにその時、私の手を止めるある事に気づく。

それは小瀬川の捨て牌。その捨て牌には、明らかな異常があったのだ。

 

小瀬川:捨て牌

{⑧赤五横六7}

 

そう、まだその捨て牌には一度揺杏の鳴きによってツモ巡を飛ばされたため四枚しか置かれていないが、それのどれもが中張牌という明らかな異常。どう見ても小瀬川の手はまともな手牌ではないことがうか

がえる。偶然、とも思えない。そして捨て牌が中張牌で染まっている場合の典型的な手牌は

 

(国士無双……!)

 

 

そう、国士無双。それも国士無双であれば待ちは私が四枚持っている{西}という事になる。しかも、仮に小瀬川が国士無双{西}待ちだとすれば、さっきのムダヅモも証明できる。私がチセコロカムイを使用しているため、小瀬川に{西}が行くことはないからだ。そうなればさっきのツモも小瀬川の和了牌ではないということは当然のことなのである。そう考えれば、この{西}、軽々に槓などできない。国士無双の特例で、暗槓であっても槍槓が認められるからだ。私が{西}を四枚晒した時に、もし小瀬川の待ちが{西}であればその瞬間親の役満48,300。その直撃である。

思わず{西}に触れる指が震える。この{西}をどうにかしないと私は和了ることはできないし、どうにかしようとすれば親の役満の直撃というリスクを背負わなければいけない。確かにあの捨て牌だけで判断するのは難しい。だが、小瀬川は……この小瀬川に限っては違う……!ありえないこと、不可能なこと……それらを可能としてしまってもなんら不思議でもないのが小瀬川白望という雀士だ。何度も言うが私は小瀬川白望という人間についてはよく知らない。だが、小瀬川白望という雀士は卓についてすぐに理解した。いや、理解せざるを得なかった。自分との圧倒的差を含めた、小瀬川白望という恐ろしさを。

だが、こうは考えられないだろうか?私はこの瞬間、小瀬川の待ちを全て握り潰した事にもなる。これでこの局私は和了ることはできなくなったが、その代わり小瀬川も和了るということは不可能となった。思えば先ほどのリーチ拒否はまさに好判断であっただろう。もしあそこでリーチをかけていれば{西}を打つか暗槓するかしか残されていなかったからだ。そう考えればあのリーチ拒否は値千金の判断、ファインプレーだ。

だけど……

 

(・・・そんなんじゃダメだ)

 

そう、ここで私がやらねば誰がやるのだ。確かにこの局は小瀬川は和了れないだろうが、確実に揺杏やオッサンが和了れるとも考えにくい。もしこれで流局となれば、また小瀬川の親が継続してしまう。それでは意味がない。そう、私がやらねばいけないのだ。私がリスクを背負ってでも前に進まなければ、死ぬとわかっていたとしてもこの賭けをやらねば、この地獄は終わらないのだ。

 

(私がやらなきゃ……誰がやるんだ!?)

 

 

 

私は進んだ。小瀬川白望の進撃を止めるため、小瀬川白望に勝つために{西}を思いっきり倒して、大きな声で宣言する。

 

「カン!!」

 

 

 

 




次回も北海道編!
シロの手牌は本当に国士無双西待ちなのか!?

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