宮守の神域   作:銀一色

117 / 473
北海道編です。


第105話 北海道編 ④ カムイ

 

 

 

 

 

-------------------------------

視点:獅子原 爽

東一局 親:岩館揺杏 ドラ{七}

 

小瀬川 25,000

おじさん 25000

獅子原 25,000

岩館 25,000

 

 

今日もいつも揺杏と打つ時のような麻雀だと思っていた。いつものように私が揺杏から点棒を際限なく取り続け、対局が終わってちょっと不機嫌な揺杏にアイスを奢ってやる流れだと思っていた。

そう、最初から自分が叩き潰す側だと思うほど私は強い方だと思っていたし、実際揺杏からも思われていた。それなりに自分の力にも自信があったし、自分が"使役しているモノ"もある。大会とかには出る気は無かったが、仮に出たとしても、なかなか良いところまで行くんじゃないかと思っていた。

だが、今目の前にいるこの真っ白な髪の女の子はどうだ。そんな自信に満ちた私が思わず竦んでしまうほどの圧力をかけてくるではないか。さっきまでちょっと大人しめな印象だった小瀬川は、私と揺杏が席に座った途端にその印象からは考えられないほどの重圧、圧力を発してきたのだ。

 

(こりゃあ……ちょっとヤバいかもな)

 

その重圧に相対した私は、この目の前にいる少女が確実に自分よりも強く、恐ろしい存在であると悟る。自分も十分人外のような能力を持っているが、彼女はそれ以上だ。特別禍々しいものではない、ただ単なる威圧。だが、だからこそそれが恐ろしかった。威圧の度合いが桁違いすぎる。一体どういった生き方をしてくればこんな威圧を発せられるのか、そもそもこの少女は本当に自分と同い年なのか、そういった疑心が頭の中を駆け巡る。

そしてふと横を見てみると、揺杏が何事もなかったかのようにいつもの感じで打っているのが見えた。何故だ。いくら揺杏が楽観的な人間とはいえ、あの強烈な重圧を前に平然といられるのは異常だ。

 

(私の気のせいか……?いや、揺杏は感じなかっただけか……)

 

そういった疑問を感じていると、目の前の元凶がツモった牌を卓において、手牌をゆっくりと倒した。

 

 

 

「ツモ……」

 

 

小瀬川:和了形

{二二二三②③④④赤⑤⑥234}

ツモ{四}

 

 

「跳満……3,000-6,000」

 

 

これが僅か五巡目の話である。早い。早過ぎる。たった五巡で跳満手を和了ってきた。思わず惚れ惚れしてしまうほど綺麗なタンピン三色。だが私は、その手牌を見ても全く惚れ惚れしないどころか、酷く恐怖した。彼女の感情が全く読み取れない。まるで何も感じてないような無表情。いや、彼女はもともと無表情な感じなのだが、そんな程度の話ではないのだ。氷よりも冷たい声、言い方は悪いが人を殺すような目つき。彼女のどれをとってもノーレート雀荘で和気藹々と打つ時の風貌ではない。まるで何かを賭けているかのような気迫。その風貌に、私は圧倒されてしまった。

 

「はっやァ」

 

揺杏が笑いながら小瀬川の手牌を見てそう呟く。どうやら揺杏はまだ気付いていないようだ。この小瀬川という存在の異常に。

 

(・・・不本意だけど……使うしかない、か)

 

そこで私は、別に使う気は無かった自分の"能力"を使うことにした。私が小さい頃から何かある度に私の身を守ったり、助けてくれた"何か"。私は"カムイ"と"雲"、と称している。アイヌ民族に伝わる神様と"五色の雲"が由来だ。小さい頃はそれらにただ呆然と守られていただけだったが、今ではもうほぼ全てのカムイと雲を使役できるようになっている。そんな便利なものを何故『不本意に使う』と表現したというと、これは私が異端であることの象徴であるからだ。小さい頃からそれらに付きまとわれていた私は、面で向かって言われたことはないが、多分クラスの人たちに気味悪がられたであろう。そりゃあそうだ。なんせ私に何かが起こると正体不明の何かが私を守るのだ。気味悪がられるのも仕方がない。その証拠に私の知り合い、友達と言える人は揺杏とチカしかいなかった。今でも中学ではクラスや同学年に特別親しい人はいないし、嫌われていたわけではなかったが、私に進んで声をかけようとする人は殆どいなかった。だからこそ、私はこのカムイと雲が嫌いであった。私を異常たらしめる象徴。だが、今はそうも言ってられない。言ってしまえばこれはただのお遊びだ。そう、そのはずであったが、私にはとてもお遊びで済むようなものとは感じられなかった。

 

(ホヤウ……!)

 

とりあえず私は他家の能力を封殺するホヤウカムイを出した。まだ小瀬川の全貌が見えない以上、下手に動くのは危ない。故に守りの姿勢にはいって様子を伺うことにして、東二局、小瀬川の親に備える事にした。

だが、それをものともせず、東二局の三巡目

 

「ロン……」

 

 

小瀬川:和了形

{一一一三四五3335東東東}

 

 

おじさん

打{4}

 

 

「4,800……」

 

「うわっ」

 

(なに……?)

 

それでも小瀬川が和了ってくる。この局、小瀬川は私の使ったホヤウカムイによって能力は一切使えないはずだ。それでも尚この局和了ってきて、しかもそのスピードがさっきより落ちていないどころか加速しているということは、

 

(素でこれなのか……!?)

 

つまりはそういうことだ。恐ろしい、まさか能力なしでこれとは予想だにしていなかった。そして揺杏もこの小瀬川の異常さに気が付いたらしく、目つきが本気の目つきになる。・・・本気とは言っても私にはまだまだ届かないのだが。

 

(となると……次は何を使えば……)

 

が、揺杏が異常さに気づいてくれたのは大きい。あんまり使いたくはないが、いざとなれば協力体制にもっていけることも可能だ。そして私が次なんのカムイと雲を使おうと考えていたまさにその直後、

 

 

 

 

(な……!?)

 

 

 

 

 

私が使役している雲が一瞬のうちに吹き飛ばされた。何か対策を講じるよりも先に、跡形もなく、だ。

おそらく完全に消し飛ばされたわけではないだろう。姿が消えた今でも、雲の感覚はまだ残っている。ただ単に雲が使えない状態になっただけだ。

 

(それにカムイもひとつ減ってる……)

 

そう、それと同時にカムイもひとついなくなっていた。だがやはり完全に消し飛ばされたわけではなさそうだ。そんなことよりも、問題な事がある。

 

(ホヤウカムイを上回ってきた……!)

 

ホヤウカムイの支配を上回ってきたことだ。いかなるものであっても私には指一本干渉できないはずの支配力を持っているはずなのに、雲全部とカムイを封じたモノはそれをものともしなかったのだ。そして、この変な現象を起こした張本人は言うまでもなく、

 

(・・・おっそろしいなあ)

 

 

 

「・・・」

 

 

小瀬川白望だ。小瀬川の背中の辺りから変な黒いのが飛び出しているのが感覚で察知できた。多分アレが私の雲とカムイを吹っ飛ばしたのだろう。そしてこれは推測だが、この黒いのはおそらく小瀬川が意識して使えるものではないということだ。もし意識して使えるとしたら、東二局が始まってすぐホヤウカムイを吹き飛ばせばいいだけなのだから。多分私のホヤウカムイが変に刺激したせいで、小瀬川の黒いのが目を覚ました……といったところか。だからこれ以上ホヤウカムイを使っても意味はないだろう。私はホヤウカムイをすぐさま引っ込める。ただいたずらに他のカムイを減らすだけだ。

 

(何にせよ……残ったカムイを全部駆使しても勝てる確率は10回やって1回も勝てないレベルだろうな……)

 

揺杏と適当に打とうと思って雀荘に入ってみれば思わぬ遭遇。しかも多分生涯見ることのない脅威を持つモンスター。だが、それを目の当たりにしても、私の中に潜むこのワクワクはとどまることを知らなかった。もっと小瀬川の麻雀を見たい。もっと小瀬川について知りたい。そんな探究心が私を駆り出す。

 

(いくぞ……!)

 

 

 

-------------------------------

視点:小瀬川白望

 

 

(何ださっきのは……変な感覚がしたと思ったらすぐに消えた……)

 

 

東二局より、突如私は何者かに変な感覚に襲われた。別に体や流れには何の支障もなかったのでどうでもいいことだったが、それでも違和感は感じたので有り難い。

それにしても、やっぱりさっきのは一体何だったんだろうか。全くもって見当がつかない。それが何かは分からないけど、その出所を私はおおよそ目星はついていた。

 

(獅子原さん……)

 

そう、獅子原爽さんだ。っていうか、逆に獅子原さん以外ありえないだろう。岩館さんはついさっき私が和了ってから私に警戒し出したし、おじさんに至ってはまあありえないだろう。故の獅子原さん。まあ少なくとも、これだけで終わるわけはないであろう。また次の新たな異能の力が私に立ち向かってくるであろう。ここら辺で終えようと思っていた私にとっては思わぬ収穫となりそうだ。

 

(もっと私をダルくさせないような面白いのを見せてよ……獅子原さん、岩館さん……)

 

 

私は笑みを浮かべながら、二人を見つめる。まあ私が言うまでもなく、この半荘、面白いことになりそうだ。

 




次回は東三局から。
パウチカムイ……どうしましょうね(白目)
まあR-18にはなりません。これだけは言えます。そもそも私にR-18の小説なんて書けるわけがない。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。