宮守の神域   作:銀一色

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北海道編です。
今回変にネタに走った感が否めない・・・


第104話 北海道編 ③ 遭遇と報告

 

 

 

 

 

 

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視点:小瀬川白望

東三局 親:小瀬川白望

 

「ロン」

 

 

 

小瀬川:和了形

{一二三四五五五五六七八九赤5}

 

 

 

「満貫……12,000は12,900」

 

 

 

北海道での武者修行、その記念すべき(?)第1戦は東三局の私の親番の三本場で上家が飛んで終了した。振り込んで飛んだ上家のおじさんは右手で頭を抑えて、笑いながら私に言った。

 

「いやあ、お嬢ちゃん強いねえ……参ったなこりゃあ……」

 

中学生に飛ばされたのはこのおじさんにとっても屈辱ではあるだろうが、ここはノーレートの雀荘で、他の皆も和気藹々と打っているのもあってかそんなに殺伐、ギスギスとはしていなく、おじさんから見れば自分を飛ばしたガキに対しても比較的優しく接してくれた。まあそんなに殺気立たれてもこっちからしてみればただただダルいだけなのだが。

それにしても、この空気は私はどっちかというと物足りない。確かに和気藹々と打つのも悪くはないのだが、そんなことのために私はこの北海道に来たわけではない。あくまでも、修行という名目できているのだから、このゆるゆるの空気はいかんせんぬるま湯過ぎではないだろうか。

 

(あと適当に一半荘したらレートあるとこ探そうかな……)

 

故に、私はこのノーレートの雀荘をあと適当に一半荘したら切り上げようと思っていたところだ。まあ賭け麻雀とはいえ、そんな十万百万みたいな大金を賭ける雀荘が昼間からやっているとも考えにくいし、そもそも今の御時世そんな大勝負ができるところを探すことすら難しいので、結局点五や点ピン程度の賭けしかできないだろう。だが、現状よりはまあ賭けたものがあるから少しはヒリヒリした麻雀ができるであろう。それを信じるしかない。

とにかく、この雀荘はあと一半荘。それでおしまいだと思っていると、雀荘の入り口のドラが開く音がした。私はドアの方を見ると、そこにはちょうど私と同年代らしき女の子二人組がやってきた。一人は私より少し背が低めの赤髪の子。よく見てみると瞳の中に逆三角形の模様みたいなものがあるのが確認できたが、遠くから見ていたから不確定だ。そしてもう一方の子は私よりも身長が高くて、こっちはいたって普通の黒髪の子。そんな二人組を見ていると、さっき同卓していた人たちのうち二人が立ち上がった。おそらく、抜けるんだろう。まあこれでちょうど二人欠けの卓ができた。この雀荘で人数が欠けている卓はここしかないから、自動的にあの二人はこっちの卓に来ることになるだろう。

 

「お、ちょうど二人足りない卓があるじゃん。よし揺杏、早く座ろう」

 

「やっぱやるんだ……」

 

 

揺杏と呼ばれた黒髪の子が赤髪の子に連れられて私のいる卓に座る。今の言動からして、揺杏って子はこの赤髪の子に振り回されているんだろうなあ……多分下級生に連れ回されている上級生といったところか……という勝手な想像をする。まあ、私が揺杏って子に言えるのは御愁傷様ってことだけだ。もし揺杏って子が私だったら絶対ダルくて嫌だけど。

 

「こんにちは……」

 

まあそんなことは置いといて、私はその二人組に挨拶を交わす。おそらく同級生なのだろうが、一応の礼儀というものだ。もしかしたら年齢が上ってこともあるからね……

 

「こんにちは。えっと……私は獅子原爽で、こっちは岩館揺杏。因みにこれでも私が中学一年生で、揺杏が小学六年生。よろしくな」

 

私の挨拶に対して獅子原さんは挨拶を返し、自己紹介を始める。背の高い岩館さんの方が年上かと思っていたけど、意外にも獅子原さんの方が年上だったのか。……っていうか、岩館さん私より背が高いのに小学六年生なのか。私は中学一年生の女子にしては結構背が高い方だと思っていたけど、やっぱり日本って広いんだなあと改めて思った。

話を変えて、礼儀として私も自己紹介をした。

 

「私は小瀬川白望で、歳は十三。獅子原さんと同じ中学一年生……よろしく」

 

「ああ、よろしく」

 

そう言って私と獅子原さんは握手を交わす。それを横で見ていた岩館さんとも握手をしようと手を差し伸べると、岩館さんは少し困ったようにしてこう言った。

 

「私爽とチカセンしか歳上と接したことないから……敬語とか使った方がいいの……ですか?」

 

岩館さんのいかにも使い慣れていないようなぶきっちょな敬語だったので、私は少し笑ってから岩館さんにこう言った。

 

「別にタメ口でもいいよ。私もそう変に改まられるとダルいし……」

 

そう言われた岩館さんは、笑顔で「ありがとう」と私に言ってから、卓へと座った。

 

(・・・少し面白くなりそう)

 

さっきまで和やかな雰囲気が形成されていたが、卓を囲んだ以上そんな事は関係ない。勝負という土俵の上なら仲の良い親友、全く知らない他人、さっき知り合った人、そんなものは全くもって無関係、同列であるのだ。そこに上もなければ下もない。私が今やるべき事は私の持てる全てを持って皆にぶち当たる。この一心だけだ。こんなにやる気になったのはこの北海道に来て初めてだ。全国大会以来の同年代の人と知り合えたからか、いつにも増して少し気分が高揚していたのである。

 

 

 

(さあ……行くよ)

 

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視点:神の視点

 

 

少し時間は遡って、小瀬川が獅子原と岩館に会う前の半荘、東三局三本場で他家を飛ばした直後の事である。その瞬間を小瀬川の遠くから見ていたある人物。

 

 

(やはり強い……)

 

 

そう、辻垣内の側近が小瀬川の身の安全を見守るという名目で小瀬川が誰かを誑し込むのを随時報告するために、予め配備していた配下の黒服である。しかし、現在の彼の格好を見ると黒服とは言えないだろう。それは当然の事で、彼はいかにも一般客に紛れているからだ。黒服の状態で行けば小瀬川にバレてしまうため、これは至極当然である。

そんな彼は小瀬川がこの雀荘に入っていくのを確認するとすぐさま後をついて行き、小瀬川の視界から外れている席に座って、紅茶を嗜んでいるのを装って小瀬川の動向を見ていた。そして彼は黒服の中でもベテランなのか、完全に一般人に溶け込んでいる。

だが、実はこの時彼は内心ヒヤヒヤしながら小瀬川のことを見ていた。

 

(今はまだ大丈夫だが……いつ事が起こるか分からない……)

 

そう、彼は小瀬川の誑し属性なるものを重々理解していた。だからこそ彼は北海道に派遣されていたのであるのだが。そして理解しているからこそ、その恐ろしさが分かるのだ。何気ない一言でどんどんとハートを撃ち抜く様はまさに百発百中のスナイパー。

だが、今の所は大丈夫……そう彼は思っていた。が……駄目……!そういう油断、隙が駄目……!

彼が油断したその直後、来店してくる人が2名。黒服はドアの方を見ると、そこにはいかにも小瀬川と同年代そうな少女二人組が立っていた。

 

(ぐっ……!き、来た……!ターゲット(ハーレム候補)……!)

 

黒服は思わず立ち上がりそうになるのをこらえて、テーブルにおいてある紅茶を強引に口へと運ぶ。そう。まだ慌てるような状況ではない。が、しかし

 

(あ、ああ〜……!?)

 

立ち上がる……!小瀬川とさっきまで卓を囲んでいた人が……二名……!そして立ち上がった人は、精算を済ませ、帰宅……!圧倒的最悪なタイミング……!!しかも、欠けた卓は小瀬川の卓のみというこの状況……!

となれば当然、招かれる……!あの二人組は小瀬川の卓へと入る……!

 

(何故……何故こうなる……!?)

 

黒服は紅茶を置き、頭を抱える。そして最悪な条件が重なった今の状況に悪態を吐く。

 

(磁場……!まるで磁場……!小瀬川様がいかずとも……引き寄せられてしまう……!集めるんじゃない……集まっているんだ……!まるで、元いた居場所の川に帰る鮭の如く……!)

 

(が……違う……!違うんだ……!母川はそこじゃない……お前らが母川回帰する川じゃない……!圧倒的川違い……!)

 

そして黒服は携帯を取り出し、急いで辻垣内にメールで報告した。

 

 

 

〜〜〜

 

「・・・ハァ」

 

 

そして場所が変わって東京。辻垣内宅では、先ほど配下の黒服から届いたメールを読んだショックから立ち直れずにいる。いや、ショックから立ち直れずにいるといってもただ部屋の隅っこで体育座りをしているだけなのだが。

 

「まあ……分かってたけども……シロの誑し性は今に始まった事じゃないのは知ってるけど……」

 

指で地面を突きながら、独り言を呟く。病んでいる、というかどちらかというといじけている方が正しい表現であろう。

 

「・・・お嬢」

 

「なんだ……」

 

そんな辻垣内の元に側近の黒服がやってくる。何かを持っていたようで、黒服はそれを辻垣内の部屋内にあるテーブルへ置いて辻垣内にこう言った。

 

「コーヒーと洋菓子をお持ちしました。一口頂いてみては如何でしょうか?」

 

「分かった……」

 

そう言って辻垣内はテーブルに置かれたものをみる。それはコーヒーとチーズケーキであった。辻垣内はそれを口へと運ぶと、目を丸くしてこう言った。

 

「美味……しい……!」

 

「ありがたき幸せです」

 

黒服が深々とお辞儀する。そして辻垣内は頭を下げる黒服に向かってこう言った。

 

「これ……お前が作ったのか……?」

 

それに対して黒服は首を縦に振り、辻垣内にこう進言した。

 

「良かったらお教えしましょうか?お嬢」

 

「ほ、本当か!?」

 

「工程もそんなに難解なものではないので……お嬢ならすぐにマスターするかと。・・・次小瀬川様に会われる時の手土産としてみては如何でございましょうか?」

 

そうして、辻垣内のお料理修行が密かに始まるのだが、これはまた別のお話。

 

 

 

 

 

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東一局 親:岩館揺杏 ドラ{七}

 

小瀬川 25,000

おじさん 25000

獅子原 25,000

岩館 25,000

 

 




次回から少し麻雀します。
お料理修行が始まった智葉は無事、シロに手作りチーズケーキをご馳走できるのか……!?

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