宮守の神域   作:銀一色

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夏休み編です。


第102話 北海道編 ① 出発前夜

 

 

 

 

 

 

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七月

 

 

【・・・明日から夏休みが始まるが、一体何処から行くつもりなんだ?】

 

今学期最後の中学校の登校日から帰ってきた私が荷物を整理していると、不意に赤木さんが私に聞いてきた。そう、明日からとうとう夏休みなのだ。中学最初の学期ともあって最初こそ色々バタバタしたが、何とか一学期目を終了することができた。そこで、全国大会以来から計画していた武者修行なるものを明日から始めようと思っていたのだ。無論その事は予め両親に伝えており、言った当初は反対されたが、旅費は智葉の家が負担してくれる事になっている事を伝えると仕方ないといった感じで了承してくれた。・・・私の両親は全国大会以来智葉の両親とメールアドレスを交換するほどの仲に、いわゆるママ友みたいな関係になっている。故に智葉の家が負担してくれると知ったら了承してくれたのだ。私の親と智葉の親、完全に生きている世界が違いそうなものだが、よく電話で談笑しているところを見ると、智葉の親も意外と友好的な人なんだなあ、と今まで物騒としか思ってなかった智葉の家柄を改めさせられた。

まあ話を戻して、赤木さんからの質問に私は答える。

 

「北海道……」

 

北海道。日本の最北端の都道府県であり、日本一面積が広い都道府県。47都道府県中唯一の「道」であり、都道府県魅力度ランキングでは圧巻の一位。また、冷帯に属しており、降雪量も多いことから『試される大地』とも言われている、北海道。そこが今回私の行く修行場所だ。だが、今の季節は夏。せっかくの『試される大地』なのに何も試そうとしないのは私の性格の問題である。基本ダルがりの私がわざわざ冬の北海道に行くわけがないだろう。私から言わせてみれば何故寒い時期に最も寒いところへ行くのかが理解できない。

 

 

【フフ……鷲尾仁を思い出すな……】

 

それを聞いた赤木さんが微笑して呟いた。鷲尾仁さん……赤木さん曰く赤木さんと同じチームとして麻雀を打ったこともあるらしい『北の二強』の一人……だったっけ。まあ今はもうこの世にはいないんだけど。

 

【それで、俺はお前についっていった方が良いのか?】

 

そして赤木さんは続けざまに私に聞いてくる。当然、私はその質問に対して

 

「うん……」

 

と答えた。当然だ。目標の赤木さんを越えるために、その場ではなくとも二人きりになれる時に色々とアドバイスや赤木さんの心得や人生観を聞きたいので、ついていってもらった方が良いだろう。流石に一人きりで北海道に行くには少し寂しいし心細い。二人(?)ならいくらかその寂しさも紛れるだろう。

ちなみに、北海道への旅は一泊二日の予定だ。当然、夏休みの中でたったそれだけではない。北海道から帰ってきたら少し日を置いて東北六県を回ろうとも考えている。そしてお盆休みには東京に行って一応赤木さんの墓に行って墓参りをする予定もあり、結構予定が詰まっている夏休みだ。話を戻して、既にホテルの手配は智葉を介して済んでいる。最初は未成年だけで大丈夫かなとは思ったが、どうやら保護者の同意書があれば大丈夫らしく、しかも智葉曰くそこのホテルも辻垣内の息がかかっているホテルらしく、そのホテルの一番良い部屋に泊まれるらしい。新幹線の座席も東北新幹線と北海道新幹線、両方手配済みだ。故に、本当に残すところは荷物の準備をするだけなのだ。荷物の準備が終われば後は寝て起きて駅に行って新幹線に乗れば後はもう北海道入り、本州から脱出できるという話だ。

・・・今更だが智葉の家は私一人のためにそんな事をして資金的な意味で大丈夫なのだろうか……まあ、マスコミを買収できるくらいの金を持っているのなら私一人の旅費などちっぽけなものなんだろう。私が心配するほど大きい額ではないどころか、あの人たちにとっては財布からパッと100円玉出すくらいの感覚なんだろう。……恐ろしいな、金持ちってのは。

そう考えながら荷物の準備をしていたが、気がつけば既に終わっていた。まあ、荷物といっても麻雀牌と着替え、財布くらいしか持っていくものがないのですぐに終わるのは至極当然の事なのだが。

 

「終わったー……」

 

そう言って腕を伸ばし、そのままベッドに横たわろうとしたその瞬間、冬の時期にこたつが置いてあった場所に置かれている小さいテーブルの上にある携帯が音と共に振動する。今の音はメールの着信音だ。何事かと思って携帯を開くと、どうやらメールを送ってきたのは智葉のようだ。ついさっき寝ようとしたからか、猛烈な眠気によって目をショボショボさせながら、智葉から送られてきたメールを開く。

 

 

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21:33

From 辻垣内 智葉

件名:明日から

 

明日から北海道で頑張ってこいよ。強くなって戻ってこい。

 

 

 

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中を確認すると、そこにはいかにも智葉らしい応援メッセージが送られてきた。明日だけでなく、この夏休みだけでも既に北海道と東北六県を日を置きながら回るという無茶な計画を叶えてくれた智葉に最大限の感謝を込めて、返信のメールを打つ。返信し終わると私は携帯をテーブルに置いて、そのままベッドに入り、目を閉じるとすぐに夢の世界へと誘われた。

 

 

 

 

 

 

 

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視点:辻垣内 智葉

 

 

 

 

 

 

ピピッ、という音が私の握っていた携帯電話から発せられる。それと同時に携帯が振動したので、思わず私は持っていた携帯を落としそうになる。

 

(来た……)

 

いや、自分からメールを送ったのでメールが返ってくるのはごく当然の話なのだが、いかんせん私の意中の人はダルがりさんだ。メールを見ても返信が面倒だからスルーされることも可能性としてはなきにしもあらず、だ。だが、こうして帰ってきたので私はひとまず安心した。

 

 

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21:34

From シロ

Re:明日から

 

わかった。頑張ってくる。

今日はもう寝るね。おやすみ。

いっつもありがとう。

 

 

 

 

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(あ、ああありあり、ありがとう……?)

 

メールを開いて中を確認した私は絶句した。まさかあのシロに、あのクールでカッコいいシロに、ありがとう。ありがとうと言われた。今までシロと色々会話してきたが、シロにありがとうと言われたのは初めてだ。いくらメールとはいえ、いざありがとうと言われると嬉しさと恥ずかしさが込み上げてくる。

 

(ありがとう……か。もし"あの時"のシロの表情で言ってたと思うと……)

 

そして頭の中で思い浮かべるのは決勝戦が終わって特別観戦室に戻る途中で話した時のあの満面の笑顔のシロ。あの表情でありがとうと脳内再生をする。容易だ。私は容易に脳内再生ができた。そして脳内再生をすると同時に私の顔が真っ赤になるのが自分でも分かった。そうやってベッドの上で悶えながらも、数分経って落ち着きを取り戻した。

 

(・・・本当はシロと一緒について行きたいのは山々なんだが……)

 

そう、私としてはシロと一緒に北海道に行きたいのは山々だ。そしてそれをシロに伝えれば、多分シロは快く受け入れてくれるだろう。シロは優しいから、いきなり言ったとしても承諾してくれるはずだ。だが、シロが北海道に行く目的は観光ではない。修行、武者修行なのだ。赤木しげるさんを越えるために行っているのだ。それなのに私が付いて行ってしまっては、シロは別に大丈夫だと思っても邪魔になってしまう可能性が高い。故に、ここは我慢。自分の身勝手な考えで、シロの邪魔になってはいけない。

だが、それでも気になる事はある。私がシロについて行きたい第二の理由、それはシロの誑しである。シロの事だ。北海道でもきっとシロの優しさやカッコよさに惹かれて恋に落ちる輩も出てくるだろう。いわゆる恋敵というやつだ。私はその恋敵を増やさないように、シロについて行きたいと思っていたのだ。

しかし、自分はもう行かないと決めている。だとすればどうするべきか。私が思考を巡らせていると、ある事を思いついた。そうだ。身軽に北海道に行けて、シロの邪魔にならないように、バレずにシロを監視できる奴らが何人もいるじゃないか。そう思って私が自分の部屋の扉を開け、自分の側近の黒服を一人呼んだ。

 

「どう致しましたか、お嬢」

 

「お前、明日から二日間空いているか?少し頼み事があるんだが」

 

と黒服に言うと、黒服は「そう言うと思いまして」と言って

 

「実は一人既に他の黒服を北海道に送っております。そして白望様に何かがあれば随時報告が入る手筈となっております」

 

と、私が言うまでもなく既に黒服達は準備を行っていたのだ。私は「フフッ」と笑い、

 

「流石だ。わざわざ言うまでも無かったな」

 

と言った。黒服は軽くお辞儀をしてこう言う。

 

「感謝の極みでございます」

 

「じゃあ、私はもう寝る。毎日ご苦労様」

 

そう言って私は自分の部屋へと戻り、ベッドに横たわってすぐに寝た。

 

 

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北海道以外にも東北六県に行く予定とありましたが、実際に描写するのは北海道のみです。東北の皆様すみません(?)

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