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視点:小瀬川白望
(行っちゃった……)
急に走り出した照を呆然と見送りながら、私は何か照に変なことしたかな?とさっきのやりとりを思い返していた。しかし、結局思い当たる節もなく、私はリアカーを目の前にある家に入れようとした。
(あれ……そういえば照ってここが何処だか分からないはずだったような……)
だが、そうしようとした時一抹の不安が私の中で浮かび上がる。照は私を見つけて「どうしてここに」と言っていた。ということは、彼女はここが何処だか分からないという事だ。それが指し示すものは、照はさっきのさっきまで迷子ということだ。それなのにも関わらず、照は脇目も振らず走り去って行ったが……ちゃんと無事に駅に帰れるであろうか。そういう不安が頭の中を駆け巡るが、もう照が何処に行ったのかすら分からないので、無事に駅に行けますように、と祈ってからリアカーを家の敷地内へ入れた。
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視点:小瀬川白望
「よっこらせ……」
家に帰ってきた私がまず行ったのは、リアカーに積んである大量のチョコレートを家の中に入れることである。大量にあるので当然ながら冷蔵庫に収まるはずが無く、食べ切るにしても流石に一日で食べれるものでもないので、こういうこともあろうかと私は保冷剤を敷き詰めた箱を何個か用意していたのである。無論永久に保管できるわけではないので、私は今日よりチョコレートを沢山食べなくてはならない。
【凄い量だな……】
あの赤木さんでさえも思わず驚いてしまうほどの量、いや驚くというか若干呆れているのかもしれないが、凄まじい量だというのは間違いない。
甘いものばっかりで辛いなあ……とは思わない。いや、思わなくなってしまったといった方が正しいか。もう毎年の事であるので、正直慣れてしまった。
「まあ……毎年こんな感じだし……」
そうしてどんどん箱にチョコレートを詰めていく。因みにお返しは、違うクラスからの知らない人からも渡されるので、基本的に仲が良い人にしか返さないつもりだ。もし仮に渡された分全部返すとなれば、手作りにしろ売っているものにしろ、膨大な費用が必要になってしまうからだ。貰うだけというのは些か罪悪感を感じるが、致し方ないことだろう。
なんてことを自分に言い聞かせながらチョコレートを箱に入れて保管していると、突然携帯が鳴りだした。
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15:56
From:姉帯豊音
件名:こんにちはだよー
突然だけど今から私と会ってくれるかなー?
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メールを開いてみると、それは豊音からのメールであった。思わず「いいともー!」みたいに返しそうになりそうな聞き方だが、ひとまずそれは置いといて、今から会える……か。まあ別に特別やらなくてはならないこともないし、というかどちらかというと暇な方であったので、私は取りあえず「いいよ、私が豊音の家まで行こうか?」とメールを送った。そうして携帯電話を置いて、防寒着や手袋、マフラーなどを取り出して外に出掛ける準備をする。そしてそれらをいつでも着れるように近くに置いていると、ちょうど携帯電話が鳴りだした。メールを確認すると、豊音から「いいのー?」というメールが送られてきていた。対する私は「うん、今から行くね。多分一時間くらいかかると思う」と返信し、防寒着を装着して家から出た。
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視点:小瀬川白望
(はあ……そういえば忘れてたなあ)
そうして私が豊音の家を目指すこと30分。私はバスに乗ってそこから豊音の村がある山にたどり着いた。
いやしかし、まだ豊音の村に着いたわけではない。むしろこれからである。確か、最初に行った時は山を通るだけでも20分かかったんだっけか。
そして何を忘れていたのかというと、その山を通るということがどれほど大変かということを何故か忘れていたのである。
だが、山を目の前にして私はようやく思い出した。山を登った時の苦しい思い出、それらの記憶が全て蘇ってきた。
しかし、ここで引き返すわけにもいかない。当然だ。私が行くと決めたのだから、最後まで押し通さなければ行けないだろう。そういうことで、私は山へと足を踏み入れた。
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視点:小瀬川白望
「シロー!」
「あ、豊音……」
私が山へ足を踏み入れてから約15分とちょっと、もう少しで村に着きそうといったところで、豊音と遭遇した。おそらく迎えにきてくれたのだろう。そんなに気を遣わなくても大丈夫なんだけどなあ……
「それで、何の用なの?」
まあそんなことはどうでもいい。とりあえず私は豊音に何の用があるのかということを聞いた。「今から会えるか」と聞いてきたのだ。何かしらはあったのだろう。
すると豊音は私の問いかけに対し、
「うーん……それについては私の家の中でいいかなー?」
と答えた。まあ別にここで聞いても豊音の家の中で聞いても変わりはない。というかいくら防寒着を着たといっても寒いものは寒いので、どちらかというと豊音の家に入りたいという気持ちが強い。
そういうことでも私の返答はイエス。私は豊音と一緒に豊音の家へと向かった。
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豊音家
視点:小瀬川白望
「お邪魔します……」
そう言って私は玄関へと入る。まあ当然のことながら、最初に豊音の家に行った時と内装は変わってない。多少差異はあるものの、変わってないと言っても十分すぎるくらいの細かい部分だ。
というか、私がそもそも豊音の家に来たのなんていつぶりだろうか。最初に会った後に何回かは行ったことがあるが、それこそ片手で数えれるくらいの数しか行ったことがない。メールや電話はそれなりの回数やりとりしていたが、実際会って話したり何かするのは結構久しぶりの事であった。
「どうぞー」
豊音はそう言って私を居間へと案内する。私は言われるがままに居間へと入り、置いてある椅子に座る。私がこの家に来るときに必ず座る場所だ。数回しか来たことがないが、この椅子は私の定位置となっていた。まあそれは私が初めて来たときに座ったのがこの椅子で、それが理由で今までここに座ってきただけなのだが。
「シロ、ちょっと待っててね!」
そんなことを思い出していると、豊音が居間から出て何処かに行ってしまった。例の話のことかな、とか色々なことを考えながら窓に映る景色を眺めていると、ガチャ、という音が居間と廊下を繋ぐドアから聞こえてきた。どうやら何処かに行っていた豊音が戻ってきたのだろう。そうして私が豊音の方を向くと、眼前に包装紙に包まれた箱型の物体があった。
「こ、これ!受け取ってちょうだい!」
いきなりのことに驚いている私に、豊音がそう言う。
「これってバレンタインの……」
「そ、そうだよー?だ、ダメだったかなー?」
なるほど、用件というのはバレンタインデーのチョコレートのことだったか。私はその包装紙に包まれた箱を両手で掴み、豊音に向かってこう言った。
「ありがとう、豊音」
するとそれを聞いた豊音の顔がパアッと明るくなり、「こちらこそありがとうだよー!」と笑顔で私に言う。
そして折角渡されたので、私はこの場で食べることにした。
「食べていい?」
「も、もちろんだよー」
豊音の了承を得てから、私は包装紙を外し、箱からチョコレートを取り出した。そうして私はそのチョコレートを頂く。
美味しい。それがまず最初に出てきたことだった。照の時は甘いホワイトチョコで、豊音のはほんのりと苦いビターチョコレート。どちらもとても美味しいものだった。
そうして気がつけば、私はそのチョコレートを食べ切ってしまっていた。私は豊音に向かって
「豊音のチョコレート、美味しかったよ」
と言った。すると豊音は、私に抱きついて「ありがとうだよー」と言った。
「お返し、待っててね」
「期待してるよー」
その後も豊音と他愛のない会話を続けていたら、気がつけばもうすでに夜になっていた。私は携帯電話で家に連絡を取り、この日は豊音と夜を過ごすことになった。
次回は本編……
リア充は地獄の業火に焼かれるべき、はっきりわかんだね。