正月の間休載はしていましたが、書き溜めしていたわけではありませんので、いつも通りのボリュームです。あしからず。
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南三局 親:愛宕洋榎 ドラ{二5}
小瀬川 18,300
照 57,200
辻垣内 1,500
洋榎 23,000
小瀬川:和了形
{55赤5中} {⑧⑧⑧横⑧} {東横東東} {九九横九}
宮永照
打{中}
跳満。跳満……!小瀬川の鬼博打、再飛翔……己の持てる全ての力を賭けた小瀬川白望の最大にして最難関の博打が、とうとう実りを掴んだ……!小瀬川の全てを出し切ったその有終の美、対々和ドラ4の跳満直撃……!地の底から這い上がって空を超え、宇宙にて宮永照を討った……!
(・・・馬鹿げている……わざわざ跳満を宮永に当てるためだけに、聴牌を崩してその後聴牌を一度見送ったというのか……)
辻垣内は絶句して小瀬川の手牌を見る。有り得ない。どんな可能性を考慮したら、そんな手牌で和了れるのかが辻垣内には全くもって分からなかった。このとき辻垣内は、多分己の一生を費やしてもこの局で小瀬川が何を感じ、何を考えていたのかなど理解できないであろうという事を悟った。人間と人外の壁、どんなに進化しようとも人間が決して越えることのできない壁を、この局で辻垣内は改めて思い知らされた。今まで辻垣内は、自分との小瀬川の間にはひと回りやふた回りどころか、圧倒的な差が存在していると思っていた。が、そんな程度の度合いではなかった。
辻垣内と小瀬川では全く領域……次元が違っていたのだ。追いつくとか、周回遅れとか、そんなものじゃなかった。ステージ……レベルが明らかに違うのだ。どれだけ近づこうとも、追いつくことのできない差だったのだ。いや、最早それは差ですらない。何故なら辻垣内の先には、小瀬川の背中は無いのだから。
(・・・流石だ。完敗だよ……)
それに気付かされた辻垣内は、素直に負けを認めた。辻垣内がこの後どれだけ足掻こうとも次局のオーラス、小瀬川が満貫ツモ若しくは7,700を宮永照から直撃させるだろう。それで、終わり。この永遠のように感じた決勝戦がそれによって幕を閉じるのだ。自分が介入できるものではない。まだ小瀬川が和了ると決まったわけではないが、少なくとも辻垣内が優勝してこの決勝戦が終わることはない。今の点差を考えてみればそれは言わずとも分かるであろう。
しかし、だからと言って逃げたりはしない。今までこの決勝戦を共に闘ってきた戦友たちへ敬意を表して、この死闘の結末を最後まで見届ける。それが、今辻垣内智葉にできる最大のことであった。
(・・・ダメやな。シロちゃんの和了をいちいち考えてたら埒あかん。……とにかくこれでウチと宮永との点差は23,200。跳満直撃でひっくり返る……キツイな)
愛宕洋榎は最初こそ小瀬川の和了についてどうしてそんな最終形に辿り着けたのか考察をしていたものの、直ぐに無駄だと悟り、冷静に現状を再確認する。普段は持ち前の明るさで他者からは阿呆とよく言われている愛宕洋榎だが、ここぞというところで冷静に物事を判断できるあたり、彼女もまた天才と呼ばれる部類なのだろう。
だが、そんな天才にもどうしようもない事はある。オーラスでトップとは23,200点差あり、これを逆転するには宮永照から跳満を直撃させるか、それ以外となると三倍満以上の和了が必要となってくる。それが至難の技。ラス親ではない愛宕洋榎にとって次のオーラスがラストチャンス。迂闊に裏ドラ期待の和了もできない。逆に三倍満を作ろうとしても、まず三倍満の手を張ることが難しく、それをラス親の小瀬川が察せば、軽い手で和了って一本場……といった事も有りうる。愛宕洋榎が圧倒的不利の状況なのだ。いくら天才と呼ばれていても。
(こんな状況でも、シロちゃんならなんとかするんやろな……)
そう、天才がどうにもできない状況だとしても、それを上回る者、鬼才ならどうにかできてしまう。いや、もしかしたら小瀬川は鬼才以上の存在なのかもしれない。本来鬼才とは、『人間とは思えないほどの才能、又はそれを持つ者』と定義されているが、小瀬川は『人間とは思えないほど』などではない。本当に
(でもまだ終わったわけやない。やったろやないか……シロちゃん)
(・・・そんな)
その一方で、小瀬川白望に跳満を振った宮永照は心の中で崩れ落ちていた。まさかそんな事が起こるはずがない。まさかこの{中}を切って跳満に当たるわけがない。そう信じて切った{中}が当たり、しかも跳満。完全に小瀬川にやられてしまったという自責の念と、勝ち目が殆ど無くなってしまったことに対しての悔しさが宮永照の心の中を埋め尽くす。
あれだけ避けていた、危険視していた跳満直撃が起こってしまった。流石にここから最悪の条件で小瀬川を相手にするなど、宮永照にはできるはずもない。何故なら次局のオーラス、小瀬川は満貫……いや、四飜。四飜でいい。七対子以外であれば四飜をツモ和了れば逆転が可能なのだ。
ドラ暗刻も、三色も、混一色もいらない。リーチメンタンピンドラ1。これで十分なのだ。ドラや赤ドラを一つ、たった一つでもいいから手牌に入れ、あとはリーチをかけるだけでいい。ツモならそれで終わり。出和了でもそれを和了っても一本場に突入する事ができ、誰がどう見ようと小瀬川の圧倒的優位な状況なのだ。
その状況に、宮永照が諦めかけそうになってしまう。無理もない。百人にこの状況で小瀬川相手に逃げ切れといったお題を出せば、逃げ切りに成功する人は当然ゼロだとして、実行するどころか、やる前から逃げ出してしまう人の方が多いであろう。ましてや、あれだけ小瀬川の恐ろしさを身をもって体感してきた宮永照なら尚更だ。
だが、その刹那。宮永照が諦めかけたその刹那。
『嶺上開花?何それ?』
(・・・ッ!?)
突如思い出す、とある記憶。自分の妹の得意役を妹に初めて教えた時の、あの記憶。今は別居中で、離縁関係である妹だが、記憶の中の妹は幼気な顔で興味津々に話を聞いていた。
(・・・そうだったね。『森林限界を超えた高い山の上でさえ、可憐な花が咲く事もある』か……)
嘗て宮永照が妹に教えた言葉。それを今度は自分に言い聞かせる番だ。どんな悪条件、どんな不利だとしても、まだ勝つ可能性は僅かながらある。そんな高い山の上で咲く花になる時が宮永照に来た。
(・・・咲、力を貸して)
宮永照は心の中で自身の妹に助けを求める。力を貸してほしいと頼みかける。
確かに、今は離縁状態かもしれない。今は互いに遠いところで生活しているかもしれない。だが、二人の気持ちは一緒だった。どんな事があろうとも、それこそ、別居するほどの訳があろうとも、姉妹の絆は確かなものであった。
その瞬間、宮永照の祈りが通じたのか南三局の時小瀬川の闇によって粉々にされたはずの歯車、『加算麻雀』を象徴する歯車が、どんどん元の形へと再生していく。次々と破片が集まり歯車を再構築させ、その歯車は再び動き始めようとしていた。
まだ修復が完全にできていないのか、役満は張れそうにない。だが、それでも十分。十分すぎる。効力が無かったとしても、その歯車は、姉妹の絆によって再生した歯車は宮永照の心の中に炎を再び燃やした。
もう、逃げない。諦めない。そんな闘志を燃やして宮永照は南四局、オーラスへと臨む。
(・・・空気が変わった……)
宮永照の歯車が再生すると同時、小瀬川はその異変を感じた。明確に分かったわけではないが、宮永照の何かが決定的に変わったということは分かった。それと同時に小瀬川は次の南四局、そう容易く勝たせてくれないようだという事も察した。だがそれでも尚、小瀬川は笑っていた。無邪気に、嬉しそうに。
(・・・そうこなくちゃ)
泣いても笑っても後一局。一本場などハナからやる気などなし。このオーラス南四局0本場、ここで決める。そういった決意を持って、小瀬川はサイコロを振る。
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南四局 親:小瀬川白望 ドラ{西}
小瀬川 30,300
照 45,200
辻垣内 1,500
洋榎 23,000
3日やらないだけでこんなに変わるものなのですね……
全然構想が思いつかず、結局オーラスは次回という事になってしまいました。
・・・そしてリクエストの未消化もあと二件あるという事実。
2017年はこれまで以上に頑張らないといけないですね(白目)