宮守の神域   作:銀一色

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南三局です。
長かった南三局もこれで終わり……!


第94話 決勝戦 ㊷ 鬼博打

 

 

 

 

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南三局 親:愛宕洋榎 ドラ{二}

 

小瀬川 18,300

照 57,200

辻垣内 1,500

洋榎 23,000

 

 

宮永照:手牌

{二赤五七①①②②赤⑤⑥⑦白中中}

 

小瀬川:手牌

{455中} {⑧⑧⑧横⑧} {東横東東} {九九横九}

 

 

打{4}

 

 

 

 

再飛翔……!小瀬川、対々和ドラドラが確定した満貫手を聴牌する権利、{4}を拒否して再び飛び上がる……!目指すは跳満。宮永照を討ち取り、次局の南四局、オーラスに繋げるための跳満直撃……!それを目指して小瀬川は尚も飛び続ける。一度地の底の底、闇に叩き落とされた小瀬川だが、今やその小瀬川は天、それすらを超えて宇宙へと飛び立ったのだ。

 

 

宮永照:手牌

{二赤五七①①②②赤⑤⑥⑦白中中}

ツモ{五}

 

そのことを知る由もない宮永照は、さっきの{⑧}による加槓は苦し紛れ、苦肉の策だと思っている。そう考えるのも当然であり、小瀬川は{⑧}を鳴いたときに、加槓時に新ドラとなった{5}を切っている。その状態で小瀬川が{5}を持っているということは、聴牌であったのにそれを崩してまで{⑧}を鳴いたということだ。通常宮永照に情報を開示してまでやるようなことではない。意味のないことだ。

故に、何も問題はない。{中}の暗刻落としは今の宮永照にとって最善の手。これ以上ない安全策であった。

だからこそ、切る。何の躊躇も無く。

 

宮永照

打{中}

 

 

 

これで小瀬川の猶予はあと一回のツモのみ。今度は加槓による連続ツモなども存在しない。正真正銘のラストチャンス、最後のツモと言っても過言ではない。小瀬川は特別何かをするわけでもない。お祈りするわけでも、気持ちを高ぶらせるわけでもない。ただ静かに賭けるのみであった。己が運命に身を委ね、ただ羽を動かすだけである。

 

 

 

(・・・)

 

 

 

人事は尽くした。後は天命を引き寄せるまで。待つなどでは遅すぎる、自分から引き寄せてくるくらいの気持ちで臨むまでだ。

 

 

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特別観戦室

 

 

宮永照が二回目の{中}切りをした直後、未だにわけが分からない塞と胡桃は赤木から説明を受けることにした。

だが、彼女たちにはどうしても不可解なことがあったのだ。ここでもし小瀬川が最後の{5}をツモってきたとしても、結局は対々和ドラ3。満貫にまでしか届かない。{5}は既に一枚切ってしまっているし、加槓による新ドラも望めない。完全に手詰まりである。

 

(・・・あっ)

 

と、そこまで考えてから塞と胡桃は気付いた。自分の致命的な見落としに。そう、小瀬川に残されている{5}はただの{5}ではない。赤ドラ。本来真ん中しか赤く塗られていない五索だが、一枚、一枚だけ全て赤く塗られているのだ。

しかもそれは新ドラが{5}の今、{赤5}は一枚でドラ二つ分の力を得る強力な牌、魔法の牌であるのだ。

そしてそれをツモってくることができれば、見事小瀬川は対々和ドラ4。跳満が確定することとなる。その事態に塞と胡桃は漸く気付いたのだ。

そして小瀬川のあの聴牌を崩して{⑧}をわざわざ鳴いたのも、宮永照にドラの{5}を持っていないと思わせるため。もしあそこで普通に大明槓をすれば、当然宮永照は不審がる。こうして{中}も切られることも無く終わっていたであろう。だが、ポンなら別……!ポンならば{5}が捨て牌に置ける……!宮永照が決断をする前に、先手を打てるのだ。

 

(分かってたんだ……当然、シロは……ドラが五索になるって……赤ドラがまだ山に残っているって……)

 

捨て身、狂い博打。誰がこんな常軌を逸した麻雀をできるだろうか。対々和ドラ4、この跳満を成就させるために、見送り!見送り!!見送り……!!!聴牌を二度見送ったのだ。{⑧}の鳴きの時も……!{4}が対子となった時も…………!拾わない。聴牌を拾わない……!土壇場、ギリギリの状況でも……この……血の滲む地獄待ち……!対々和ドラ4というこの奇跡を手にする為……!小瀬川白望一世一代の最後の鬼博打……!!!

細い細い空の道を突き進み、小瀬川……宇宙へ……!!!!

 

(ツモれば……出る……!!宮永さんの最後の中が……!宮永さんからしてみれば安牌同然……!だから……ツモって……!!!)

 

 

 

【最後の博打……この南三局の集大成……】

 

もう説明をしなくてもいいと二人の表情を見て察した赤木は、小さく呟いた。思わず塞と胡桃が息を飲む。声すら出ないほどの緊張感で満たされた特別観戦室。

 

そしてとうとう運命の小瀬川のツモ番、最後の博打……!

 

 

 

 

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小瀬川が山へと手をかける。その動作に淀みは感じられない。自然体。この常軌を逸した鬼博打の真っ最中なのにも関わらず、小瀬川は自然体であった。水のように静かに牌をツモってくる。盲牌はしない。自分の目でしっかりとその牌を確認する。

実りは、掴めたのか。会場で間近で見ていた者も、中継をテレビから見ていた者も、全員が注目するこのツモ番。

 

そして小瀬川はツモ牌を手牌に静かに置く。

 

 

 

小瀬川:手牌

{455中} {⑧⑧⑧横⑧} {東横東東} {九九横九}

ツモ{赤5}

 

 

 

 

{赤5}……!!その事実に驚き、観客席で立ち上がるほどの人がいたほどであった。

実った……!実りを掴んだ……!小瀬川の最大の博打……成就……!!鬼博打成就……!!!

誰にも辿り着けないであろう最終形、それを小瀬川は完成させた。小瀬川だけ、小瀬川だからこそ辿り着いた。この地獄待ち。対々和ドラ4{中}地獄待ち……!

小瀬川は空を割り、天をも割って宇宙へと辿り着いた……!羽がもげようとも、燃え尽きようとも構わない。そんな小瀬川の狂気が、羽に力を与えた……!運命を変えた……!天命を掴み取った……!!

 

(・・・)

 

小瀬川はツモってきた{赤5}を静かに見つめて、何の感情も出さずに{4}を切った。

そしてツモ番は宮永照へ……宮永照のツモ番へ……!!

 

 

宮永照:手牌

{二赤五五七①①②②赤⑤⑥⑦白中}

ツモ{白}

 

ツモってきた牌は{白}。宮永照にとってこの{白}は{中}を切ってからの逃げ切る為の安全牌……!当然、宮永照が今切るのは{中}。{中}……!

宮永照はゆっくり{白}を手牌に入れ、手牌の右端にある{中}に手をかけようと……いや、指が{中}に触れていたまさにその瞬間。

 

 

(・・・?)

 

 

疑問。宮永照の心に、沸々と湧き上がる疑問。果たしてこれを切っても良いのだろうかという疑問。だが、宮永照はそれを必死に否定する。おかしい。これを切る以上、跳満という事にはならないはずだ。唯一跳満と成り得る赤ドラ含みの新ドラの{5}暗刻も捨て牌に{5}がある限り有り得ない……

 

 

(有り……得……ない?)

 

昇華。宮永照の疑問が気付きに昇華する。この{5}。ただ単に切られただけの{5}ではない。そうだ、跳満を目指していた小瀬川がよもや自分から満貫手に落としに行くなど有り得ない。そんな弱い雀士ではない。

宮永照は咄嗟に{中}に乗せていた指を離し、再び思考する。確実だ……

 

(確実に跳満を張っている……!)

 

確実に{5}が暗刻になっている。しかも、{赤5}つき。跳満、宮永照が最も恐れていた跳満を張っている。この土壇場で、それに気がつくことができた。

だが、ここからが問題だ。宮永照はこの巡、何を切ればいい?ということだ。

宮永照は一度良く手牌を一枚ずつ見た。

 

{二赤五五七①①②②赤⑤⑥⑦白白中}

 

この手牌から、何が小瀬川に当たって、何なら回避できそうか必死に考える。

十中八九親の愛宕洋榎に当たるであろう筒子の{①①②②赤⑤⑥⑦}は切れない。ドラである{二と赤五}も当然切れるわけがない。となると、宮永照にどうにか切れそうなのは{七、白、中}の三牌のみ。しかもそのうちの{七}は生牌で、{白}は対子となっているが、まだ場には一枚も出ていないため小瀬川は言わずもがな、愛宕洋榎にだって当たる可能性は高い。

となると……もう{中}しか……{中}しかない……!

 

(切ってもいいのかな……?そう考えれば、まだこっちの筒子の方が……どっちかっていえば安全……なのかも……?)

 

宮永照は思考を巡らせる。ありとあらゆる可能性を必死に考え、どれが当たらないかを必死に判断しようとする。

だが、いつまで考えても結論は出ないまま、時間だけが無情に過ぎ去っていく。

分からない……何を切ればいいのか、そんな事で宮永照がこれほど迷ったのは初めてだ。

 

 

(何を……切れば……)

 

右手を左右に動かしながら、迷う。答えの出ない迷宮に、小瀬川白望という迷宮に迷い込んでしまっている。

 

 

(やっぱり……この牌しか……)

 

そして決心……いや、決心とは言い難いものだったが、宮永照は切る牌を決めたのだ。覚悟には欠けているものの、それは決心と言っても過言ではないはずだ。宮永照は震える手で、その牌を掴み、河へと置く。

 

 

そう、確かに宮永照は決心をした。・・・が、僅かに覚悟に欠けている。目覚めていない。意識……精神……感性……だからこそそれは切られた。だからこそ宮永照は振り込んだ。

 

 

 

宮永照

打{中}

 

 

 

それは終わりか、はたまた始まりか。宮永照の振り込みか、小瀬川の直撃か。失策と捉えるか、成就と捉えるか。

そんなものはどうでもいい。どう捉えようとも、この南三局の決着はついたのだから。

 

 

 

 

「・・・長かった……」

 

小瀬川は宮永照が切った牌を確認すると、両手の掌を前に向ける。

 

「ロン……!」

 

小瀬川:和了形

{55赤5中} {⑧⑧⑧横⑧} {東横東東} {九九横九}

 

 

「対々和ドラ……4!跳満……!」

 

 

 

 




次回からはとうとうオーラスへ!
そして明日からの三日間は「宮守の神域」は正月休載です。
予定が予想以上に早く片付けば、書くことができそうですが、多分無理でしょう。
ということで次回は1月4日!

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