南三局もそろそろ佳境……!
第91話 決勝戦 ㊴
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南三局 親:愛宕洋榎 ドラ{二}
小瀬川 18,300
照 57,200
辻垣内 1,500
洋榎 23,000
愛宕洋榎:手牌
{裏裏裏裏} {⑨⑨横⑨} {南南横南} {⑤赤⑤横⑤}
小瀬川:手牌
{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {九九横九}
宮永照:手牌
{二七九①②②赤⑤⑥9白中中中}
辻垣内:手牌
{裏裏裏裏裏裏裏裏裏裏} {横888}
七巡目に小瀬川の切った牌によって愛宕洋榎が三回連続で鳴き、親の愛宕洋榎にも振り込むことができないため、萬子と字牌に引き続き筒子が危険牌となり、宮永照の頼みの綱は索子だけとなってしまった。
それなのにも関わらず、宮永照の手牌には索子は{9}の一枚のみ。流局まで宮永照が索子を引き続ければ一応回避は可能だが、そんなことはそうそう起こるわけもない。小瀬川との点差は38,900。配牌で役満を張れなかったとはいえ、{中}の暗刻があり、速攻の体制はできていた。そんな絶大な点差と好配牌で南三局を迎え、本来小瀬川たちを追い詰める側であった宮永照が一転、宮永照が小瀬川に追い詰められている。眼前……!あれだけ避ける避けると言ってきた小瀬川の刃が、すぐそこに……!小瀬川から遠ざかるあまり、宮永照が逃げた先には行き止まり、地雷原。どう足掻いてもそこから先に逃げることはできない。そう、宮永照は追い込まれてしまったのだ。意図的……!全て意図的……!当然、小瀬川は追いかけてくる。追い詰めた獲物を狩るが如く、慎重に、しかし確実に宮永照の元へと迫っているのだ。もう目と鼻の先にまで……!
しかし、宮永照にも刃はあるにはある。{中}暗刻、配牌時に手にした{中}暗刻という刃がある。ならば相討ち覚悟で突撃する手も、ない事にはない。だが、致命傷。宮永照はここまで手を進めてきてはいない。全て避けるために手を崩し続けてきたのだ。いくら{中}暗刻があろうとも、小瀬川と闘える刀があろうとも、鞘……その刀を鞘に入れてしまっては不可能……!宮永照が刀を鞘から抜き取る前に、小瀬川が間を詰めてあっと言う前に小瀬川に叩っ斬られてしまうであろう。鍔迫り合いにすら持っていくことのできない、絶体絶命の状況。故に踏み入れるしかない……!地雷原に向かって……!
宮永照:手牌
{二七九①②②赤⑤⑥9白中中中}
ツモ{①}
(・・・!!)
そして宮永照のツモは{①}。愛宕洋榎に当たる確率が高い、危険な{①}。当然、これは切れない。切れるはずがない。手牌にある最後の索子である{9}を切る。これで手牌の索子は尽きてしまった。ここから宮永照は地雷原を走りきらなくてはいけないデスゲームに足を踏み入れることとなる。
宮永照は思考を巡らせる。愛宕洋榎の待ちと、小瀬川の待ち。何が通りそうで、何が通らないか。それを懸命に考える。
そんな宮永照に情報を与えるが如く、辻垣内の切った牌を小瀬川が鳴く。
「ポン」
小瀬川:手牌
{裏裏裏裏裏裏裏裏} {東横東東} {九九横九}
打{1}
小瀬川がオタ風の{東}を鳴く。そして打{1}。だが、この時点では宮永照にとっての情報とはならない。だが、この次の宮永照のツモる牌と合わさることで、初めて宮永照の情報となりうるのだ……!
宮永照:手牌
{二七九①①②②赤⑤⑥白中中中}
ツモ{赤五}
{赤五}……!宮永照、ここで{赤五}を引く。赤ドラである{赤⑤}は二枚あるが、{赤五}と{赤5}は場に一枚限り……!つまり、小瀬川の手に{赤五}は無いということ。宮永照が絶対に避けなくてはいけないのは小瀬川に対して跳満以上の振り込み。言ってしまえばこの一点だけである。裏を返せば、最悪満貫以下なら振り込んでもいいのだ。その理由はオーラスでの小瀬川の勝利条件の違いにある。もし、宮永照が小瀬川に跳満を振り込めば、点差は12,000のいってこいで24,000点詰まることとなる。つまり、38,900の点差は14,900となってしまい、オーラス親の小瀬川は満貫ツモで逆転が確定してしまうのだ。だが、満貫なら8,000のいってこい。16,000しか点差は縮まらず、点差は22,900……!小瀬川は満貫直撃か、跳満ツモでないと逆転は不可能。この満貫ツモと跳満ツモ。この差が大きい……!満貫ツモならインスタント満貫で逆転が可能であり、極論手作りを考慮せずともいい可能性は高い。だが、跳満ツモとなったらそこから更に打点を上げなくてはならない。つまり二の矢、三の矢が必要となってくる。そうなれば宮永照が逃げ切る可能性はグッと高くなる。
つまり、極論満貫を振ればいいのだ。満貫さえ振ってしまえば、オーラスで厳しくなるのは小瀬川。無理に不確定な地雷原を走るよりも、刃を持つ小瀬川の方に向かって走る。多少の傷はいい。それで窮地を脱することができるのなら、安いもの……!無論、宮永照にとって一番良いのは小瀬川にも愛宕洋榎にも振り込まないこと。しかし、今それを完全に果たすことは不可能。不可能である。何を切ってもどちらかに当たってしまう可能性は極々僅かではあるが、何%かはある……!となれば、宮永照が行くべき場所は、第二の策。
(・・・満貫……!)
逆転されないこと……!仮に振っても、オーラスで逆転するのが難しい満貫以内の振り込み……!
故に……!
宮永照
打{九}
{九}……!{九}切り…………!!
(満貫……8,000……!仮に倒しても……8,000ならオーラスでの有利は揺るぎない……!)
そう。宮永照が切ったこの{九}。これが当たり牌であったとしても、どんなに高くとも満貫止まり……!小瀬川に{九}の明刻があるが故に単騎待ちはありえない。単騎待ちではないのなら、両面待ちしか有り得ない……!{九}を待てる搭子は{七八}のみ。そして{赤五}が宮永照には見えているのだから、
{二二二赤五五七八}のような手牌は有り得ない。故に、どんなに高くとも混一色ドラ3、乃至は混一色役牌ドラドラの五飜どまり……!跳満には至らない……!
最悪のケース、混一色ドラ4や混一色対々和ドラドラなどの跳満は、この{九}を打つ限り起こることはないのだ……!無論、この{九}は四枚目であるから、厄介な大明槓も可能性はゼロ。
(・・・倒せ……!倒せ……!!倒しても8,000……8,000なら大丈夫……!)
宮永照は睨むように小瀬川を見る。対する小瀬川は、宮永照が切った{九}を見たあと、宮永照の方へと視線を上げて、小さく微笑んだ。そして口をゆっくり開いた。
「・・・通しだ」
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実況室
「・・・宮永選手が九萬を打ちました。大沼プロ。この判断はどうでしょうか?」
アナウンサーが大沼プロに向かって問う。今画面の向こうで行われているとても小学生とは思えないような超高度なレベルの闘牌に、アナウンサーはついていけていなかった。
大沼も顎に伸ばした髭を右手で弄りながら、淡々と自分の考えを話す。
「・・・宮永選手の九萬打ち。よくよく考えればこれは極めて当然の打牌だ……」
「というと?」
「あー……例え九萬であたっても、宮永選手には赤五萬が見えているから、どんなに高くても満貫止まり、と踏んだのだろう……満貫直撃なら点差は22,900。オーラスで小瀬川選手が逆転できる条件は満貫直撃もしくは跳満ツモ……これを狙っての九萬打ちなのだろう……」
アナウンサーは鳩に豆鉄砲を喰らったような表情をして、大沼に尋ねる。
「本当ですか……?宮永選手はこれを狙ってやったと言うんですか……?」
「ああ。100%だな」
それを聞いてアナウンサーは絶句する。麻雀に100%という言葉は存在しない。どんなにやっても、確率は99.99999……と、100になることはない競技だ。その競技のプロである大沼が、宮永照の考えの予想と、運要素ではないが、麻雀の事に関して100%という数字を使うという事自体が異常なのだ。
「ということは、宮永選手は満貫を振り込む覚悟で、尚且つオーラス、小瀬川選手の逆転条件が満貫直撃、跳満ツモ以上ならば宮永選手は逃げ切れる。そう考えているのですか?」
アナウンサーはまたも大沼に尋ねる。そりゃあそうだ。満貫を振り込む前提で牌を切るなど考えられない。しかもオーラスで、満貫直撃、跳満ツモ以上の条件なら宮永照が確実に逃げ切れるという保障はない。それなのに、宮永照はやってのけたのだ。小瀬川の手には当たらず、見当外れではあったが、その覚悟をするという事自体が恐ろしいのだ。
対する大沼は、ゆっくりと首を縦に振る。アナウンサーはこの時心でこう思ったそう。
(・・・本当に小学生なのかな……この四人)
次回も南三局。
後1、2話くらいで南三局が終わるはずです!
それよりも小林立先生のブログ更新があったと思ったらまさかのシロとエイスリンが同居という事実……やっぱりシロエイじゃないか!
・・・この小説内でそんな事が起これば一体どうなってしまうのか……これは戦争不可避